1999年、美容皮膚科の先駆けとして東京・表参道に開院したタカミクリニック。そこに寄り添う形で誕生したスキンケアブランド「タカミ(TAKAMI)」は、美しい肌づくりの核心である「角質美容®」のエキスパートとして確固たる地位を築いてきた。肌の代謝に着目した代表製品「タカミ スキンピール」は、2005年の発売から処方を一切変えることなく、コロナ禍も乗り越え順調に売り上げを伸ばしている。“生涯 美肌のかかりつけ”をフィロソフィーに掲げ、トレンドに左右されず徹底した顧客目線でブランドを守り抜いてきたタカミは、2021年に日本ロレアルの傘下に入り、今秋には製品ラインナップの一部をリニューアルするなど大きな転換期を迎えている。タカミというブランドが大切にしてきたこと、変わらないために変えたこと、そしてブランドが見据える未来について、タカミ ブランドを先導してきた日本ロレアル社長付 特別顧問の岡村雄嗣氏とロレアル リュクス事業本部 タカミ事業部 事業部長の天谷美乃里氏に聞いた。
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■岡村雄嗣:日本ロレアル社長付 特別顧問(写真左)
大学卒業後、コンサルティング企業で経験を重ね、2005年タカミクリニックグループの経営に参画、2006年タカミ取締役就任、2007年代表取締役就任。2022年から日本ロレアルで現職。
■天谷美乃里:ロレアル リュクス事業本部 タカミ事業部 事業部長(同右)
大手都市銀行、シュワルツコフ・ヘンケルを経て、2006年日本ロレアルに入社。「ヘレナルビンスタイン(HELENA RUBINSTEIN)」のマーケティングを担当後、「キールズ(Kiehl’s)」事業部長、日本ロレアルチーフリテールオフィサーを歴任し、2023年から現職。
目次
美容皮膚科「タカミクリニック」からスタート
―「タカミ」というブランドが大切にしていること、進化のための展望などを聞かせてください。
岡村雄嗣 日本ロレアル社長付 特別顧問(以下、岡村):1999年に、タカミは表参道にある美容皮膚科クリニック「タカミクリニック」から始まりました。今でもライセンサーとして契約をしているクリニックの創始者で院長の高見洋医師のクリニックなのですが、当時は美容皮膚科はほとんどなかったんですよ。
―美容皮膚科が乱立している今では信じられませんね。
岡村:当時は肌悩みがあれば皮膚科に行くしか選択肢がなく、保険診療でニキビやアトピーを治療するようなことが中心の世界。美容外科は当時からありましたが、美容皮膚科というカテゴリーがまだ珍しい時代だった。それが1990年後半あたりから表参道界隈にちらほらできはじめたんです。
―その1つが、タカミクリニックだったのですね。
岡村:はい。肌をきれいにするために、1万、2万円払うということは、ものすごくハードルが高かった時代で、きれいになるためにエステには通っても美容皮膚科に肌をメンテナンスにいくということは一般的ではないと思われていました。ただ美容皮膚科は保険診療ではないため、薬の処方をよりパーソナライズできるというメリットがあり、そこにより美しくなる可能性を見出したことがタカミというスキンケアブランドが生まれるきっかけとなりました。
全てを正直に話し、患者と向き合う
―どうやって患者の方々に美容皮膚科の必要性を浸透させていったのでしょうか?
岡村:当時、多くのクリニックが美容医療ならではの高い効果を打ち出す発信が中心だったと思いますが、われわれは患者さまとどう向き合っていくかを考えました。今ある肌トラブルを鎮めるためには治療が必要ですが、日々のライフスタイルや意識、スキンケアが変わらない限り肌トラブルを繰り返すということをタカミクリニックから学びました。だから私たちは、「クリニックに来たからと言って1回で肌が良くなる“夢の特効薬”はないこと。トラブルが起こりづらい美しい肌を手に入れるためには継続した通院が必要であること」「そして、自宅での毎日のスキンケア習慣も見直してもらうこと」ーー。患者さまにすべてを正直に話す方針に転換したのです。このような方針にするのはとても勇気のいることでした。
薬は症状に合わせた治療効果を求めて医師が処方するもの。化粧品は化粧品にしかできない役割がある。正しい化粧品の役割を世の中に伝えることが使命だと感じました。そんな想いから、タカミのプロダクトはできています。
―そうしたことで、変化はありましたか?
岡村:ドクターからていねいにカウンセリングをして治療に入り説明を続けたことで、通院の必要性も理解してもらえましたし、また毎日のケアに必要な化粧品の役割についても分かってもらえたと思います。それによりリピーターも増えましたね。また美容ライターさんや美容系メディアにも同様にしっかりお伝えしていったことで、信頼関係が築け発信につながったように思います。
―タカミ スキンピールをはじめ、オリジナルプロダクトにはロングセラー品が多い印象ですが、誕生当時から人気だったのですか?
岡村:私が入社した当時は、2回目か3回目のドクターズコスメブームで、タカミのファーストプロダクトもその頃誕生したのですが、私の目には「お客さまファースト」には見えなくて違和感がありました。そこで全ての製品を、ブランドのフィロソフィーに沿う形にリニューアルするよう、舵を切りました。
―リニューアル後の反応は?
岡村:フィロソフィーに沿う製品展開にし、それを根気強く伝えていったことで、お客の方々がすごく頼りにしてくれるようになったことが分かりました。そうなるとスタッフももこのフィロソフィーを伝える商品を発信したい、また患者さまに還元したい…と良いスパイラルが生まれました。
フィロソフィーが固まったのが2008~2009年頃。その頃から肌のメンテナンスの仕方や肌への触れ方を変えると、健やかで悩みのない肌になれるということに気づいてもらうために、“生涯 美肌のかかりつけ”、“お肌に対して誠実であること”というフィロソフィーや、正しいスキンケア習慣を伝えていくことを我々のミッションとして掲げるようになりました。タカミの横顔のアイコンも、“美しい横顔で前を向いてほしい”という思いを込めています。
―もう少し「売れている」理由を教えてください。
岡村:私の中で大切にしている「三方よし」という考え方があります。これは近江商人が提唱した考え方で、「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」という、今で言うウィンウィンウィンの関係です。近江商人に伝承されている「商売の十教訓」の中に「無理に売るな、客の好むものを売るな、客のためになるものを売れ」という一訓があります。「お客さまのために」と本気で考えて、なんとなく欲しかった、というような痒いところに手が届いてる感じを狙ってずっとやってきました。
―徹底した患者目線のモノづくりをして来たからこそ「三方よし」を実現できたのですね。
岡村:いえ、顧客視点ではなく顧客“起点”です。お客さまの立場に立って考える。より顧客軸だということですね。タカミはそういう精神でマーケットを伸ばして来ました。ただフィロソフィーを掲げていてもお金がなかったら誰もついてきてくれません。お金を稼ぐということは、それによってより良いものを生み出していけるということ。だから最初から、経営者として正しく稼ぐことに徹しました。正しく利益を取って正しく還元していければ、世の中にとっての「三方よし」になります。
―ですが、タカミ スキンピールは7500円から4800円(税抜)に値下げしてます。
岡村:はい。利益は少なくなりますが、多くの人に使ってもらわなければ意味がないですし、その分長く毎日使い続けてもらいたいという思いもあったので。当初は反対されましたが、結果、右肩上がりで売り上げは拡大しました。
「ロレアル」は唯一聞いたことのある企業だった
―好調だったのに、なぜロレアルとタッグを組んだのでしょうか。
岡村:実はこういうお声掛けは他にも何社かいただいていたんです。「ロレアル」は何となく聞いたことのある名前でした。
―世界1位ですからね(笑)。
岡村:でも世界1位の大企業だとは全く知らなかったんです(笑)。元々ベンチマークもしていませんし、美容業界誌もさほど読まないですし。それに全く会社を売るつもりはなく断ろうと思っていたぐらい。
―そうだったんですね。
岡村:というのも、スキンケアブランド タカミは日本では「通販コスメ」とカテゴライズされていますよね。我々は通販コスメだとは思っていないんですけど。クリニックで患者さまのお悩みと向き合う中で生まれたブランドなので実店舗でやりたいという思いがずっとあり、百貨店での展開も考え営業していましたが、なかなか実現していませんでした。
―すべてがスムーズではなかったんですね。
岡村:ただその思いをバネに頑張った甲斐があって、その4年後には百貨店からイベントへの出店の声が掛かかるようになったんです。それで初めて百貨店のイベントスペースで著名な方を呼んでインスタライブをやるぞというときにコロナが…。
―2020年ですね…。
岡村:いろんな情報が錯綜する中で、百貨店側もスタッフも混乱していたし、「外出しちゃいけない」という空気感が漂っている、かなり残念な状況だったのですが、ガイドラインに従って、しっかりと密を避けて粛々と、でも粘り強くやっていたら、お客さまがたくさん来てくださいました。本当にびっくりしました。こんなにも百貨店のお客さまがタカミを求めてくれていたことを知って本当にありがたくて。
―今では百貨店で通販コスメや新進気鋭のコスメブランドがポップアップイベントを実施していますが、タカミが突破口だったのかもしれませんね。
岡村:そうかもしれません。そもそも、日本で「流通革命を起こしたい」という思いでやって来たので、それが一歩前進できたのは嬉しかったです。
―流通革命とは?
岡村:チャネルによるポジショニングを超えていく。チャネルに関わらず、百貨店、バラエティショップ、通販で購入する人、すべてが我々のお客さま、という考え方です。ただ、流通革命を起こすには資金が必要です。まずは通販を国内外、特に中国展開に力を入れビジネスを拡大し、そこから流通革命を起こしたいと描いていたんです。中国でタカミは、日本の百貨店ブランドと肩を並べて販売されることが多かった。中国の方がタカミのブランドポジションをラグジュアリーと評価してくれていたと思います。
―中国での売り上げも好調ですね。
岡村:中国は日本と同等の売上規模になっていたのですが、そのため正直限界でもあったんです。そんな時にロレアルから今回のオファーを受けたんです。
その時、私が思ったのが、「肌悩みから解放されて笑顔になる人をもっと増やしたい。そのためには流通を変えなければ思いは届かない」ということでした。であれば、大きな会社の力を借りることで実現できるかもしれない。ロレアルとタッグを組むことで打破できるのではないかと思ったのです。
流通革命を起こす、日本の“美しいブランド”
―ではロレアルはなぜ、数ある日本の化粧品ブランドの中でタカミを選んだのでしょうか。
天谷美乃里 ロレアル リュクス事業本部 タカミ事業部 事業部長(以下、天谷):まさに流通革命ですよね。ディスラプション(既存を破壊するような革新性)の必要性というものをすごく考え、「芽」があるモノや新たな美の種を見つけに行くということをタカミはずっとやってきているんです。その美とは、表面的な見た目だけでなく、中身、ストーリー、モノづくりの姿勢、フィロソフィー全てにおいて満たしている。
我々ロレアルは、世界で3番目の市場である「日本にある美」を世界に届けたいという思いがありました。さまざまなブランドを模索している中でそれを体現しているのが「タカミ」でした。フランス本社でタカミのブランドについてプレゼンした際には、「本当に美しいブランドだね」とポジティブなフィードバックをいただきました。ブルーのボトルに込められた思いはきちんと世界に伝わる、そう確信しました。
―海外の方から見ても「美しい」と思っていただけるのは嬉しいですね。
天谷:タカミはロレアルがこれまでやってきたビジネスとはまた異なる視点でお客さまを見ている。お客さまのために「守るべき姿勢」もすばらしい。ビジネスモデルとブランドが持っているすべての要素に美しさを感じて惚れ込んでしまったんです。ただ単に変えない、のではなくフィロソフィーを変えないために、進化していく、そういう姿勢です。
岡村:日本では「地味だから、もっと華やかにしないとラグジュアリーにならない」と散々言われたこともありましたけど(笑)。世界のロレアルにこのように評価されたのは嬉しかったです。日本の誇りのようなものを感じました。
―ロレアルのラグジュアリー事業部での展開というのも驚きました。さっそく流通革命を起こしましたね。
岡村:「ラグジュアリー事業部に入れてください」と言いました(笑)。そうでなければ流通革命を起こせないし、自分たちでやるのと変わりませんから。本音を言うと、当時このままだったら本当にやりたいことは成し遂げられないかもという気持ちが半分…。経営者として少し限界を感じ始めているなら、ロレアルと一緒にフィロソフィーを貫き、流通革命を起こした方が良いのではないかという思いがありました。
ロレアルに入り蓋を開けてみたら、やっぱり小さな企業とは“進め方”でも大きな違いがあって、大変なことは当然ありましたが、タカミがずっと大事にしてきた「お客さまのためになることをする」という姿勢や価値観をきちんと受け入れてくれ、ブランドの強みがより一層強固になったと思っています。
―昨今は「ラグジュアリー」の定義も多様化していますし、世界を見据えたイメージ戦略としても期待が持てますね。
岡村:「ニューラグジュアリー」という価値観が注目を集めていますよね。「本当に自分たちに寄り添ってくれているのか」「本当に自分たちのことを真剣に考えてくれてるのか」「社会から見てこのブランドは正しいことをしているのか」というのを消費者が見極め価値を決める時代。だから、私たちタカミはまさに「ニューラグジュアリー」の自負があります。
―大きな分岐点を迎え、今年は製品のリニューアルもありました。
天谷:“角質美容”を誇るスター製品のタカミ スキンピールは成分・処方ともにこれ以上のモノはなく変更していませんが、容器を環境に配慮した仕様に変更しました。“タカミを使うこと”を誇りに思ってもらいたいという思いから、サステナブルへの挑戦を形にしています。またタカミ スキンピール以外の製品についても、適切な使用量や製品の残量を分かりやすくしたり、フィット感や性能を高めたりと、より使いやすくしたり効果感を高めるための改良を行なっています。
タッグを組んで「日本の通販モデル」を世界へ
―今後の展望は?
岡村:「通販コスメでしょ」と一方的にカテゴライズされた時代もありましたが、通販や訪問販売では何世代にもわたって、家族ぐるみでお客さまの肌と向き合ってるという強みがあります。このようなビジネスモデルは、これまで外資系では取り入れていなかったと思います。昔から日本でずっとやってきたことなのに、これが世界で評価されていないのはもったいない。通販が日本の中でどう評価されるか以前に、海外で評価されたらおそらく日本でももっと評価されるでしょう。顧客とのリレーションを長く、そして深くするものだとロレアルも共感してくれています。ロレアルとタッグを組むことで、今後は世界に日本の通販モデルを打ち出すことができるのではないでしょうか。
―ロレアルも「定期便」を取り入れたことで、コロナ禍でも順調に売り上げを伸ばすことができたと聞いています。
天谷:タカミには確固たるフィロソフィーとストーリーがあります。「お客さまのためになることをしていきたい」という思いを最大のミッションに掲げて続けてきたブランドですから、お客さまに選ばれ続けるのは当然のこと。そのスタンスをきちんと伝えることができれば、店舗がなくても世界中のお客さまとコミュニケーションを取ることができる。その発見は大きかったですし可能性を感じました。
岡村:単に定期便を作るだけではうまくいきません。「なぜやる必要があるのか」がないとダメなんです。我々のサブスクは定期便モデルをやりたいのではなくて、お客さまご自身が美肌の成功体験を得るように導いていくためのもの。店舗だと毎月足を運べなくても、毎月届くから頑張れる。加えてそこに励ましのメッセージを添えてです。なぜやらなきゃいけないのかというお手紙が入っていたら、また頑張ろうという気持ちになります。そういうコミュニケーションとストーリーテリングがあるから成立しています。毎月製品を送れば利益になるというようなことではありません。「タカミが考える正しいスキンケアを毎日ご自身でやり続けることで、美しい肌を手に入れて、最終的にはお客さまのためになる」ことを、“生涯美肌のかかりつけ”として、お客さまに寄り添いながら行っているだけなのです。
天谷:こういった考え、発想はロレアルの他ブランドにも相乗効果をもたらしてくれると思います。
―今後はロレアルの一員として、どのようにブランドを成長させていきたいですか?
天谷:日本は化粧品の技術において、世界中から注目されています。この美しいブランドを世界に広く展開していくというのを大きなゴールとして見据えています。「日本で1番売れている美容液」というインパクトのあるタカミ スキンピールをきっかけに、独自のスキンケアリチュアルやブランドのフィロソフィー、日本らしいきめ細やかさといった、目に見えない部分の魅力まで“パッケージ”で気に入ってもらえるよう広げていきたいです。
―海外展開も拡大し、グローバルブランドへのカギは?
天谷:肌との整合性を考えて、まずはアジアからの展開を考えています。中国は2022年から、台湾も2023年10月から始まっています。2024年は香港などアジア各地に今後広げていく予定です。究極的に言うと「タカミがあって良かったな」というお客さまをグローバルに増やしたいですね。
岡村:タカミのブランドは派手さや華やかさがない分、独自のビジネスモデルやブルーのボトルに凝縮された日本の心がカギとなると思います。純日本のブランドがグローバルにどう評価されるのか、壮大なチャレンジでもありますし楽しみでもあります。
(文:ライターSAKAI NAOMI、聞き手:福崎明子、平原麻菜実)
◾️タカミ:公式サイト
美容ライター
美容室勤務、美容ジャーナリスト齋藤薫氏のアシスタントを経て、美容ライターとして独立。25ansなどファッション誌のビューティ記事のライティングのほか、ヘルスケア関連の書籍や化粧品ブランドの広告コピーなども手掛ける。インスタグラムにて、毎日ひとつずつ推しコスメを紹介する「#一日一コスメ」を発信中。
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