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ディズニーとチームラボ #チームラボプラネッツはアートとエンタメを越境する

Image by: FASHIONSNAP

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ディズニーとチームラボ #チームラボプラネッツはアートとエンタメを越境する

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 2022年の現在、日本で最も大規模な現代アーティストを5組挙げよ、と言われればチームラボの名前を欠かすわけにはいかない。様々なサービスを展開する制作会社でありながら、2014年からはニューヨークの国際的なメガギャラリー、ペース・ギャラリー(Pace Gallery)にも所属する彼らは、2018年7月7日から断続的に#チームラボプラネッツという「空間」を有している。その#チームラボプラネッツ公式サイトの表記「超巨大な4つの作品空間と2つの庭園からなる『水に入るミュージアムと花と一体化する庭園』」という書き回しは、まるで空間の中に作品やミュージアムや庭園があるのだと宣言しているようだ。そして現代アートにおいて、空間の表現こそが20世紀以降の歴史を形作ってきたことは一つ、間違いがない。

 この作品やミュージアムや庭園さえも飲み込む「空間」を発表するのは現代においてどのような意味があるのだろうか。本稿では#チームラボプラネッツ空間における作品とディズニーランドというテーマパークにおける個別のアトラクション、特にエンターテインメントショー「ファンタズミック!」の比較を行いながら、ディズニーランドにおけるウォルト・ディズニーの位置にあるチームラボの作者性が、いかに空間全体に機能しているかについて考えてみたい。これはとりもなおさず、チームラボのアーティスト性についての再確認となる。すなわち結論を先取りすれば、チームラボがアーティストでないならば、#チームラボプラネッツは空間として成立せず、一方で #チームラボプラネッツによって同グループはアーティストとして召喚され続ける構造にある。本稿ではロングランという形で、その現象を参照する。

 まず現代アーティスト、チームラボとしての側面から#チームラボプラネッツを考えてみよう。この空間には既に一般的な現代アート好きの観客と呼べる人数よりもはるかに多くの人々が来場している。その根拠と言えるのは、本来1年ほどの会期となる予定だった同展が幅広い客層から人気となり、現在は2023年末までの会期延長が決定していることだろう。これは現代アートの会期としては異例のロングランと言える。一方、現代アートとして、この空間に対する言及が行われた形跡は限りなく少ない。会期がはじまって丸4年経つ今現在、#チームラボプラネッツの名前で検索エンジンを起動すると出現するのはトリップアドバイザー、アソビュー、イコーヨなどの「お出かけメディア」であり、楽天トラベルエクスペリエンスという「観光体験」を購入できるサイトでチケット販売も行われている。

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 また一般的に現代アートにおいて書かれがちな「批評」や「レビュー」ではなく「評判」というワードがサジェストされることも興味深い。これは一般的に持たれている「現代アートは敷居が高い」というイメージを完全に覆していると言えるだろう。また、それに伴って現代アートにおける意味の問題から空間を自由にしているとも言える。現代アートにおいて最も面倒なのは意味である。一般的に「意味がないものを意味があるかのように説明すること」は批判の対象となる。そして#チームラボプラネッツは普段、現代アートをあまり鑑賞しない人と美術館に行く時につきまとう「空間の意味」に対して納得させる解を用意していると言える。

 では「空間の意味」に対して納得している人々は、どのようにしてこの空間を鑑賞しているのだろう。次にエンターテインメント空間としての#チームラボプラネッツについて考えてみたい。エンターテインメントを擁する空間の古典的な存在にテーマパークがある。その筆頭であるディズニーランドは、もちろん「作品やミュージアムや庭園を擁する空間」である。そして、その中で筆者は1992年に始まったエンターテインメントショー「ファンタズミック!」との比較を考えてみたい。

 1955年、アメリカ合衆国のカリフォルニア州アナハイムにオープンしたディズニーランドは1985年には大規模なリニューアルが行われ、マイケル・ジャクソン主演の3D映画「キャプテンEO」や現在の4DXシアターを先取りするような「スター・ツアーズ」などのアトラクションがオープン。その後はじまったファンタズミック!は1992年から2022年の現在に至るまで少しずつアップデートを重ねて継続的に上演されており、世界的にも稀有なロングランと言える。

 チームラボによる#チームラボプラネッツと、ファンタズミック!。この二つのロングランには共に「高度な技術とされるものが使われている」という共通性がある。そして私たちは現在、幸運なことに初演である1992年のファンタズミック!と、ロングランの間、少しずつアップデートを重ねた2022年版のファンタズミック!をYouTubでで鑑賞することができる。この1992年版と2022年版を比較すると、この30年の間、私たちの生活を取り囲む光が、どう「古びた」のかがよくわかる。例えば、プロジェクターの光量(ルーメン)と画質(解像度)は著しく上昇し、1993年に実用的なブレークスルーが起こった青色LEDは、2022年版では当たり前のように使われている。2009年から新しい信号化(おそらく2006年に米国国家規格協会に採択されたDMX信号の採用)が施されたシステムで初演の時より繊細に音楽と同期した花火を打ち上げ、プロジェクションマッピングというコンセプトが平面の映像を立体に展開する演出技術を、どう底上げしたかもよくわかる。そもそも撮影するカメラの進歩も凄まじい。

 話を戻そう。#チームラボプラネッツの「空間の意味」に納得している人々は、どのようにこの空間を鑑賞しているのだろう。より具体的にいえば1992年から2022年の30年間に及ぶ「ファンタズミック!」そのロングランからわかるように、光は技術をアップデートしなければ、見た目として古びることを免れない。 #チームラボプラネッツ において「古びない要素」とは一体、何だろう。

 ディズニーのファンタズミック!において30年間、古びた光とは別に変わることがなかったのは、その物語である。物語は「ミッキーの夢の中」という設定からスタートし、ディズニーキャラクターが総出演した後、巨大なドラゴンのオーディオアニマトロニクス※と対決することになったミッキーが魔法の杖を一振り、大団円を迎える。

※オーディオアニマトロニクス:ウォルトディズニーカンパニーの登録商標で音楽やセリフと連動して生きているような動きを見せる人形

 ファンタズミック!の物語の中でミッキーのイマジネーション(夢)はヴィランズに支配され、悪夢の世界へと変貌を遂げてしまう。そして中盤の終わり、ミッキーはラスボスとなるドラゴンに魔法の花火を繰り出すその直前、象徴的なシーンがある。巨大なドラゴンを目の前にして、色々な出来事を走馬灯のように体験したミッキーが意を決したように「This is “my” dream!」と叫ぶのだ。そうしてドラゴンに向けられたミッキーの杖からは花火が発射され、再びイマジネーションの力で自分の夢の世界を取り戻す。この「This is “my” dream!」というセリフからは二つの意味(≒ステートメント)を受け取ることができる。

 一つは今まさに上演されている夢の物語を終わらせるために「これは私の夢です」と宣言するステートメント。そしてもう一つ、この物語世界の作者であるウォルト・ディズニーがディズニーランドという空間を「これは私の夢です」と宣言するステートメントである。この二つのステートメントは、観客にとって鑑賞している対象を宙吊りにする効果を持つ。すなわち、ディズニーランドという巨大な空間を作り上げた、ウォルトを鑑賞しているのか、それとも目の前のショーケースのメインキャラクターであるミッキーを鑑賞しているのか、その2つの存在が同時に訪れるのである。

 この鑑賞の二重性は、あるコンテンツが現在進行形で鑑賞されると同時に観客に別な時系列を想起させる効果をもっている。すなわち、公演初期から度重なる基幹技術のアップデートがありつつも、ファンタズミック!というショーケースそれ自体が変わらずリニューアル可能なのは、この「現在」にアップデートをもたらすディズニーランドという空間とミッキーというキャラクター、そしてセリフの形を借りたステートメントを行っているからに他ならない。それではこのような時系列の操作が、ロングランとなっている#チームラボプラネッツの空間に、どのように作用しているのかを検討してみよう。

 #チームラボプラネッツにおいて、それぞれの空間にはポエティックでありながら説明的な命名が行われている。倒景の憑依する炎、人と共に踊る鯉によって描かれる水面のドローイング、呼応する小宇宙の苔庭…あるいは二つの英語タイトルThe Infinite Crystal UniverseとFloating in the Falling Universe of Flowersではどちらも”Universe”が出現する。この「説明」と「宇宙」がファンタズミック!における物語の位置を占めるとすれば、これは観客にどのような鑑賞体験を与えているのだろう。

Image by: チームラボ《空から噴き落ちる、地上に憑依する炎》©チームラボ

 唐突ではあるが20世紀に最も発達した産業の一つに「観光」がある。冒頭#チームラボプラネッツの名前で検索エンジンを起動すると出現するのはトリップアドバイザー、アソビュー、イコーヨなどの「お出かけメディア」だと述べた。これは現代においてアートもエンタテイメントも、あらゆる空間を扱う体験が観光という産業に飲み込まれつつあることと無関係ではない。では#チームラボプラネッツは、どのような観光を目的としているのだろうか。名前からも明らかなように彼らの観光の目的は「宇宙」である。

 筆者は先ほどファンタズミック!というショーケースがリニューアル可能なのは、このような時系列の操作をディズニーランドという空間とミッキーというキャラクター、そして召喚されるウォルトによる「私」というステートメントによって行っているからと述べた。それを#チームラボプラネッツに当てはめるとすれば、ここには宇宙という背景があり、チームラボというアーティストがいて、#チームラボプラネッツという空間があることになる。

 会場はWater Areaと呼ばれる水を使ったエリアとGarden Areaと呼ばれる石や草木を使ったエリアに分かれており順を追って鑑賞していく中で、自分が全体的に暗く調光された空間(Water Area)を抜け、やや明るすぎる程に調光された空間(Garden Area)へ移動したことがわかった。Water AreaとGarden Areaはどちらから鑑賞するかを観客に委ねられているが、多くの観客は自分と同じ経路で鑑賞しているようだった。

チームラボ《The Infinite Crystal Universe》©チームラボ

 観客が異なる空間を移動して、しかしいずれも似たような映像空間を体験することに飽きないのは、一つの旅として#チームラボプラネッツ全体が構成されているからに他ならない。観客は知らず知らずのうちに宇宙旅行をしたような気分になって、地球に帰還することになる。そしてこの旅は紛れもなくチームラボというアーティストによって仕組まれていることなのだ。

 一般的に、宇宙に向かうことは一つの夢とされてきた。宇宙旅行は高度な科学技術の結晶であり、また時に高額な資金を用意し、時にハイレベルな選抜に残った、選ばれた人間の権利だ。しかし#チームラボプラネッツは現代アーティストであるチームラボが、このハイコストな実際の宇宙旅行にかわり権利を必要としない宇宙旅行を用意した。この宇宙旅行という物語は、ファンタズミック!の「ミッキーの夢を旅する物語」と同じく、観客にとって観光体験として機能する。そしてウォルト・ディズニーの「あらゆる人を自分の創造性(イマジネーション)でもてなす」というディズニーランドの理念と同じくチームラボが創造する空間(チームラボプラネッツ)は本当の宇宙空間に代わって人々を宇宙旅行へ向かわせようとする。この観客に目の前の体験を通じて別な夢へと向かう体験が#チームラボプラネッツにおいて、どの程度、成功しているかは読者それぞれが確かめて欲しい。しかし2023年末までの会期延長を踏まえ、まだまだ多くの人がこのインスタレーションを訪れることになる。その時この空間が、これからの現代アートにどのような影響を与えるかについて、私たちは考える必要に迫られるに違いない。

アーティスト

齋藤恵汰

1987年東京生まれ。2008年ランドアート作品「渋家」を発表。NHK Eテレ「ニッポンのジレンマ『僕らの新TOKYO論』」など出演。2014年より演劇活動を開始、2015年「非劇」武蔵野文化財団・吉祥寺シアター、2022年「no plan in duty」板橋区・PARA。手売りで累計5000部を発行した批評雑誌「アーギュメンツ」には創刊で携わる。現在、空間演出ユニットhuezを擁する渋都市株式会社取締役(現職)、石川県金沢市にアーティストインレジデンスを運営する46000株式会社取締役(現職)。

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