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【今月の必聴アーティスト】サンダーキャット編 「北斗の拳」と「ドラゴンボール」を愛する超絶技巧派ベーシスト

Image by: So Mitsuya

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【今月の必聴アーティスト】サンダーキャット編 「北斗の拳」と「ドラゴンボール」を愛する超絶技巧派ベーシスト

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 機材や環境の発達により、1日で数百~数千曲がリリースされる昨今の音楽産業。歓迎すべきことではあるものの、その膨大すぎる量がゆえ自ら触手を伸ばすことを躊躇い、真に評価を受けるべきアーティストとの邂逅が消失し、気付けば過去のお気に入りばかりをリピート再生している......という状況に心当たりがある方に向け、月に1回“ファッションシーンとの親和性も高い”アップカミングなアーティストを紹介する連載【今月の必聴アーティスト】。(文:Internet BoyFriends)

■今月の必聴アーティスト:連載ページ

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 早耳な音楽フリークの方々にとっては既に知られた存在が登場するだろうが、復習も兼ねてファッション的新情報を得られるという心持ちで読み進めていただければ幸いだ。第11回は、超絶技巧派ベーシストでありながらスウィーティーな歌声の持ち主で、漫画とアニメをはじめとする日本カルチャーが大好きなジャパノファイル(親日家)、サンダーキャット(Thundercat)についてお届け。

音楽一家に生まれ、16歳で人気バンドの一員に

 サンダーキャットことステファン・ブルーナー(Stephen Bruner)は、1984年10月19日に“全米屈指の犯罪都市”と知られるカリフォルニア州コンプトンで誕生した。父親がドラマーのロナルド・ブルーナー・シニア(Ronald Bruner Sr.)、母親がフルート奏者でパーカッショニストのパム(Pam)、そして兄がグラミー賞の受賞経験もある世界的なジャズ・ドラマーのロナルド・ブルーナー(Ronald Bruner)という音楽一家に生まれたこともあり、記憶に無い頃からベースに触れて育ったそうだ。その甲斐あって早くから才能を開花させ、16歳にして兄も所属していた人気ハードコアバンドのスイサイダル・テンデンシーズ (Suicidal Tendencies)に加入。さらに、バンド活動と並行してネオ・ソウル歌手のエリカ・バドゥ(Erykah Badu)やラッパーのスヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)のバックミュージシャンとしても活動するなど、充実した10代を過ごしていた。

 この時、幼い頃に好きだったアメリカのTVアニメ「サンダーキャッツ(ThunderCats)」のTシャツを頻繁に着用していたため、エリカ・バドゥをはじめとする周りの人々に「あのサンダーキャッツのTシャツを着たやつ」と呼ばれていたそうで、これがのちに“サンダーキャット”と名乗るようになった由来だという。また、2020年には念願叶って本家「サンダーキャッツ」と正式にコラボ。悪役グルーン・ザ・デストロイヤーへのオマージュソングを制作している(現在非公開)。

“ただのバックミュージシャン”からサンダーキャットに転身

 サンダーキャットがベーシストとして才能を開花させたことは、音楽一家という万全の環境のほかに、通っていた公立高校ロック・ハイスクールの音楽教師であるレジー・アンドリューズ(Reggie Andrews)の存在が大きい。アンドリューズは、のちにサンダーキャットと「ブレインフィーダー(Brainfeeder)」でレーベルメイトとなるジャズ・サックス奏者のカマシ・ワシントン(Kamasi Washington)をはじめ、USジャズシーンで活躍する名だたるプロミュージシャンたちの恩師であり、彼がさまざまなミュージシャンにサンダーキャットを紹介したことで、横のつながりが爆発的に広がっていったのだ。ちなみに、カマシ・ワシントンとはサンダーキャットが3歳の頃からの幼馴染で、なおかつ父親同士がバンド仲間だったそう。

 こうしてアンドリューズを介して出会った人物の1人である人気音楽プロデューサーのフライング・ロータス(Flying Lotus)から、「君は1人のアーティストとして活動すべきだ」とアドバイスを受けたことでソロ活動を視野に入れ始めた矢先に、とある事件が発生した。某フェスで、スイサイダル・テンデンシーズとエリカ・バドゥが連続して出演する無理なタイムスケジュールを組まれてしまったのだ。しかし、周囲の人間は誰も気に留めなかったといい、これにサンダーキャットは違和感を覚え、“ただのバックミュージシャン”からサンダーキャットに転身することを決めたのである。

 2011年、初のソロアルバム「The Golden Age of Apocalypse」をリリースすると、フライング・ロータスが全面プロデュースしたことをはじめ、エリカ・バドゥやカマシ・ワシントンらも参加したことで話題となり、見事ダンス/エレクトロニック・アルバムチャートで1位を獲得。2年後の2013年には2ndアルバム「Apocalypse」をリリースし、こちらも早耳のファンを中心に人気を獲得したが、ブレイクの決定打とはいかなかった。ところが、2015年に転機が訪れる––それがケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)の3rdアルバム「To Pimp a Butterfly」への参加だ。

 2010年代の最重要作と称される「To Pimp a Butterfly」は、惜しくもグラミー賞で最優秀アルバム賞を逃すも、サンダーキャットがベーシストやプロデューサーとして参加したいくつかの楽曲のうち、「These Walls」が最優秀ラップ/サング・コラボレーション賞を受賞。これを機に、サンダーキャットの名が広まっていったのである。

世界に名を轟かせた3rdアルバム「Drunk」

 「These Walls」で一躍時のベーシストとなったサンダーキャットだったが、世界に名を轟かせたのは間違いなく自身の作品、3rdアルバム「Drunk」の力だろう。同作には、盟友カマシ・ワシントンや恩師フライング・ロータスだけでなく、ケンドリック・ラマーやファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)、ウィズ・カリファ(Wiz Khalifa)らUSラップシーンの先導者、さらにはケニー・ロギンス(Kenny Loggins)やマイケル・マクドナルド(Michael McDonald)といったロックシーンの大御所も参加。ベーシストとしての超絶技巧なテクニックにとどまらず、異能なソングライティング力や高い歌唱力、多彩なサウンドも発揮。各音楽メディアで高い評価を獲得し、人気アーティストの地位を確固たるものにした。

 なお、「Drunk」を出世作とした要因のひとつに、その珍妙なアートワークもある。当初、「Drunk」のアートワークはフライング・ロータスの自宅のバスルームで撮影予定だったが、ふくよかな体型(後述)のサンダーキャットがバスタブに入ることができないまさかのハプニングで断念。急遽、場所をプールに移して撮影に挑んだところ、カメラの設定が完璧ではなかったため、サンダーキャットは水の中で息を止めた状態で待つ羽目に。「Drunk」のアートワークをよく見ると、サンダーキャットの鼻の近くに気泡が浮いているのはこのためだ。

 また、収録曲「Them Changes」はアーティストの間で人気が高く、アリアナ・グランデ(Ariana Grande)は「ここ1年半の間で1番気に入っている(2018年当時)」と絶賛し、「BBCラジオ」の企画でカヴァーを披露。トム・ミッシュ(Tom Misch)も、ギターとループマシーンを駆使した独自のギタープレイで楽曲を再解釈するYouTube企画「クアランティーン セッションズ(Quarantine Sessions)」で取り上げている。

親友マック・ミラーとの関係

 そして、「Drunk」から3年が経った2020年に4thアルバム「It Is What It Is」をリリースするのだが、この作品にはラッパーのマック・ミラー(Mac Miller)が深く関係している。2人は、サンダーキャットの「Hi」やマック・ミラーの「What’s the Use?」で共演するなど長年のコラボレーターで、2018年にマック・ミラーがアメリカの公共ラジオ「NPR」の人気企画「タイニー デスク コンサート(Tiny Desk Concert)」に出演した際には、欧州ツアー中だったサンダーキャットが「What’s the Use?」を演奏するためだけに渡米するなど、公私共に仲が良い親友同士だった。

 しかし、2018年にマック・ミラーがオーバードーズのため26歳で急逝。これはサンダーキャットに深い悲しみを与えたそうで、4thアルバム「It Is What It Is」のアートワークで彼が暗がりの中で俯いているのは、マック・ミラーへの追悼の意味を込めているからだという。加えて、収録曲「Fair Chance」ではマック・ミラーについて歌っているほか、同じく親友だったタイ・ダラー・サイン(Ty Dolla $ign)と共に「タイニー デスク コンサート」の会場でトリビュート・パフォーマンスとして「Cinderella」を披露している。また、マック・ミラーの死を機に断酒してビーガン食に切り替え、健康的な体を目指してボクシングを始めたところ、それまでの愛らしいふくよかな体型から50kg以上も痩せたそうだ。

日本の漫画とアニメが大好きなジャパノファイル

 最後に、サンダーキャットのジャパノファイル(親日家)な一面をお伝えしたい。というのも、彼は幼い頃から日本のアニメを見て育ったそうで、右腕だけで“1番好きなアニメ”だという「北斗の拳」の主人公ケンシロウの巨大なポートレート、「ポケモン」のゼニガメ、「スーパーマリオ」の甲羅、「カウボーイビバップ」好きにはおなじみの「SEE YOU SPACE COWBOY」という文字をタトゥーとして彫っている。

 さらに、首の左側に四星球のタトゥーを刻んでいるほどの「ドラゴンボール」好きで(右側にはガンダム)、4thアルバム「It Is What It Is」には愛を込めた「Dragonball Durag」という楽曲が収録されている。

 「俺には『ドラゴンボール』のタトゥーがある。『ドラゴンボール』は全てをつかさどる。『ドラゴンボールは人生だ』という格言もあるんだ」by サンダーキャット Dragonball Duragのプレスリリースから引用

 また、3rdアルバム「Drunk」に収録されている「Tokyo」では日本にまつわる様々な思い出を歌い、東京観光を楽しむMVを公開しているほか、2013年に死去した任天堂の前社長・山内溥氏へ捧げる楽曲「Bowzer’s Ballad」を制作するなど、日本への愛はとどまるところを知らない。

 そんなサンダーキャットは、8月に開催される「サマーソニック 2023(SUMMER SONIC 2023)」への出演が決定している。おそらくなんらかのアニメTシャツやグッズを身に付けてステージに立つほか、気合いが入ったアニメモチーフのマーチャンダイズを展開するはずなので、本稿を機に気になった方は足を運んでみてはいかがだろうか。

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東京とロンドンを拠点に活動するエディターやライター、スタイリスト、フォトグラファー、グラフィックデザイナーが所属。

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