Mura Masa
イギリス海峡に浮かぶガーンジー島出身のプロデューサー、ムラ・マサ(Mura Masa)ことアレックス・クロッサン(Alex Crossan)。2017年に当時21歳で発表したデビューアルバム「Mura Masa」で一躍その名を世界に轟かせた彼が、2020年の2ndアルバム「R.Y.C」以来2年ぶりとなる3rdアルバム「demon time」を9月16日にリリースする。
リリースに先立ち、「フジロック・フェスティバル(FUJI ROCK FESTIVAL)」でのパフォーマンスのため来日したムラ・マサにインタビューを実施。日本メディアでの露出が久しぶりということで、アルバム「demon time」についてだけでなく改めて根本的なバイオグラフィやコロナ禍の影響、お気に入りのレストランなど、パーソナルな一面にも迫った。(文:Riku Ogawa)
なおムラ・マサといえば、エレクトロ、ポップ、ロック、パンク、R&B、ヒップホップなど多様なジャンルのエッセンスが含有する豊かな音楽性で聴衆を魅了してきたが、それはガーンジー島という孤島で生まれ育った環境が大きく起因している。このためインタビューを読み進めるにあたり、ガーンジー島に関する知見を少しでも広げた方が彼と作品への理解が深まるはずなので、少し余談を。
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グレートブリテン島の南方に浮かぶガーンジー島は、1000年ほど前よりイギリス王室属領なのだが、もともとはユーラシア大陸と陸続きであったほどフランスに近い場所で(約50km)、なおかつ亡命者や移民も数多く受け入れてきた歴史から多言語・多文化が入り混じる島だ。ちなみに、小説家ヴィクトル・ユーゴー(Victor Hugo)は19世紀にガーンジー島へ亡命した1人で、この地で小説「レ・ミゼラブル」を書き上げている。さらに日本とも縁が深く、明治維新の際に同島出身者が英国使節団の1人として来日し日本文化に魅せられた結果、日本人大工・庭師を連れて島内に神社や屋敷を建設。庭木の剪定方法には盆栽の仕方を伝授し、未だに盆栽を趣味とする島民も少なくないという。少し余談が長くなってしまったが、以上のような背景があることを頭の片隅に置いたうえでページをスクロールしていただければ幸いだ。
―まずは初歩的な質問から。音楽との出会いやアーティストを志した経緯を教えてください。
両親が音楽好きだったから楽器に囲まれるように育ち、8歳で初めてのギターを手にして、10代前半の頃はパンクやメタルなどいろいろなジャンルのバンドを組んでいたね。ムラ・マサとして今のような楽曲を制作・プロデュースするようになったのは、パソコンをゲットした16歳の時からかな。
―楽器からパソコンに制作手段を変更した理由は?
バンドとは違い、1人で自由にボーカルやドラム、シンセサイザーなど全てをコントロールできることが面白いと思ったんだ。
―楽曲ごとに多様なジャンルの要素を感じるのですが、これまで影響を受けてきたアーティストをあえて5組だけ挙げるとすれば?
多すぎるから難しいけど、ボン・イヴェール(Bon Iver)とジェイムス・ブレイク(James Blake)と......。ちょっと待って、自分の「スポティファイ(Spotify)」の履歴を確認してみる......。あとは、スリップノット(Slipknot)、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(My Bloody Valentine)、ブリアル(Burial)かな。ごめんね、エイフェックス・ツイン(Aphex Twin)も追加で。
―日本では、よく"人生で最初に買ったCD"の話題で盛り上がるのですが覚えていますか?
ゴリラズ(Gorillaz)の2ndアルバム「Demon Days」だね。何回も何回も聴いたのを覚えているし、デーモン・アルバーン(Damon Albarn、ゴリラズの中心人物)と楽曲を制作できたのは夢のようだったよ。
―当時17歳の2013年からインターネット上で楽曲を発表していますが、何歳頃にアーティストを生業にできると確信しましたか?
音楽で食べていけていることは本当にラッキーだと思うし、これが当然だと思わないようにしているから、分からないが正解。でも、十分にお金を稼げるようになったのは、大学生の時だね。レーベルと契約を結ぶことができて、母親に「音楽で食べていけるようになったから、もう大学は行かなくていいや」って電話をしたら、「せめて卒業だけでも」って返されたけど、言うことを聞かずに中退してしまったよ。
―活動初期の頃はベッドルームで楽曲を制作していましたが、世界的アーティストになったことで制作環境に変化はありましたか?
未だにヘッドフォンは10代の時に買ったものをそのまま使っているし、全然変わっていないんだ(笑)。庭に他のアーティストと作業するためのスペースを作ってスピーカーを置いたりしたけど、自分の楽曲を作るときは変わらずベッドルームだよ。
―楽曲制作の面で、パンデミックはなんらかの影響をもたらしましたか?
パンデミック中は悲しんだり落ち込んでしまうようなことが多くて、そういったネガティブな感情を楽曲に落とし込むアイデアもあったけど、それよりもみんながパンデミックを乗り越えた後に楽しい時間が過ごせるような音楽を作りたいマインドに変化してね。それで、パンデミックに対するリアクションもインスピレーションにしつつ出来上がったのが3rdアルバム「demon time」なんだ。制作は1年半くらい前にスタートしたと思う(※イギリスは3度目のロックダウンの時期)。
―「demon time」に込めた意味を教えてください。
英語圏にはもともと"demon time"というスラングがあって、今は本来の意味から派生して"日中は出来ない悪いことを楽しめる時間"や"パーティーを楽しむ時間"、"何かに没頭する時間"って使い方をするようになったんだけど、今回は"音楽的に没頭する"という意味を込めてタイトルに採用したんだ。
―前作は制作過程でトーキング・ヘッズ(Talking Heads)やジョイ・ディヴィジョン(Joy Division)をよく聴いていたそうですが、今作では特定のアーティストや作品をリファレンスしましたか?
ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)が2000年代初期に手掛けていた楽曲をたくさん聴いていたね。彼のプロデュースの仕方は、僕にとって少し悪戯的な要素が感じられるから楽しいんだ。
―全曲でゲストを迎えているのは意図したものですか?また、前作よりもグローバルな感じが伝わってきます。
かなりオーガニックなもので、結果的に日本語やスペイン語など多言語のアーティストが参加してくれたね。頭のどこかにユニバーサルな作品にしたい気持ちがあって、世界中の全ての人たちに向けた作品にしたかったんだと思うよ。
―やはり日本人としてTohjiさんの参加は見逃せません。彼は前回の来日公演でもオープニングアクトを務めていましたが、出会いは?
もともとTohjiのファンで、お気に入りの日本人アーティストの1人だったからオープニングアクトは僕がオファーしたんだ。その後、何回か一緒にパフォーマンスもしているし、彼の楽曲「Oreo」のリミックスもしているよ。
―自身の楽曲に日本人アーティストを迎えるのは、Tohjiさんが初めてですよね?
そうだね!制作は全てリモートで行ったから、一緒にスタジオに入った時にハプニングが起きたとかおもしろいエピソードはないんだけど、イングランドで放送されている幼児向けTV番組「ポストマン・パット(Postman Pat)」がリリックに出てきてびっくりしたよ。
―今作はアートワークも特徴的ですよね。レコードには、"demon"が隠れている仕掛けが施されていますし。
あんまり考えすぎずに思い浮かんだイメージをそのまま採用するつもりでいたら、なぜかソニック・ザ・ヘッジホッグの走っている姿が頭に浮かんでね。丸みを帯びた感じと変なポーズは、僕なりにソニックを真似している(笑)。
―アートワークで「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」のブーツを履いていたりと、ここ数年でファッショナブルな印象が強くなりました。
実は、プライベートではアートワークのような格好をしているんだけど、表舞台に立つときは恥ずかしくなってしまい全然違うスタイルをしていたんだ。でも今回は「もういっか」って。着ている服は全部自前で、パンツは大好きな「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」だよ。
―「イッセイ ミヤケ」のブランド名が挙がりましたが、他に好きなブランドやデザイナーはいますか?
日本のブランドが本当に好きで、故・三宅一生と川久保玲は特にお気に入りだね。あとは、デムナ(デムナ・ヴァザリア Demna Gvasalia)が好きだから「バレンシアガ(BALENCIAGA)」と初期の「ヴェトモン(VETEMENTS)」。ボッテガ・ヴェネタはダニエル・リー(Daniel Lee)が手掛けていた時が好きで、今はちょっと気持ちが分からなくなっているかな。
―自身のファッションを一言で表すなら?
んー......こんな言葉があるか分からないけど、パンキー・ゴシックかな。
―忘れられないファッション体験はありますか?
ちょっと前に、プレイボーイ・カルティ(Playboi Carti)がバレンシアガの服を着ていた姿がヴァンパイアのようですごく印象に残っている。今回のアルバムに参加しているリル・ウージー・ヴァート(Lil Uzi Vert)の格好もゴシックな感じで好きだよ。
―では、これだけは捨てられないアイテムは?
8年くらい被り続けている「ナパピリ(NAPAPIJRI)」のキャップだね。友達の父親が1980年代に購入したものをもらったんだけど、僕よりも長生きだからボロボロだよ。どこにでも持っていくしステージでもよく被っているから、このキャップ姿の僕の写真がたくさんあるんだ(笑)。フジロックのパフォーマンス中にも被っていたよ。
―ファッションブランドとのコラボの予定はありますか?
最近だと、フジロックに合わせて「ブレイン デッド(BRAIN DEAD)」とのコラボTシャツが発売されたね。あと、今はまだ言えないコラボが1つあって、ブランド名は控えるけど「demon time」にちなんだ時計関連とだけ言っておくよ。
―少し話題を変えさせてください。アーティスト名がムラ・マサで、初期に「Shibuya」という楽曲を発表し、「What If I Go?」では日本語をサンプリングしたりと、日本は楽曲制作における着想源の1つだと思います。まだ来日したことがなかったときと、来日してからの日本の印象は変わりましたか?夢見ていた日本は、夢のままで良かったですか?
やっぱりヨーロッパでの日本はアニメの印象が強くて、思い描いていたアニメの世界とは全然違うこともあったけど、イメージはいい意味で変わったね。日本は地球上で最もお気に入りの場所と言っていいほど大好きな国だよ。
―日本でお気に入りのスポットはありますか?
ベタすぎてダサいのは分かっているんだけど、西麻布の和食レストラン「権八」には行ってしまうね(注:映画「Kill Bill」の撮影地)。あとは、新宿ゴールデン街と原宿のレコードショップ「ビッグ・ラブ・レコーズ(BIG LOVE RECORDS)」かな。
―それでは最後に、日本の旅行者におすすめしたいロンドンのスポットは?
ペッカム(ロンドン南東部の地区)にあるタイ料理屋「ベッギング・ボール(The Begging Bowl)」だね。僕もよく行く美味しいお店だから行ってみて!
■ムラ・マサ「デーモン・タイム」
価格:2860円(税込)
1 デーモン・タイム feat. ベイリー
2 ベイビー・ケイクス feat. リル・ウージー・ヴァート、シャイガール、ピンクパンサレス
3 スロモ feat. マイダス・ザ・ジャガバン、トウジ
4 トゥギャザー
5 アップ・オール・ウィーク feat. スロウタイ
6 プラダ (アイ・ライク・イット) feat. レイラ
7 ホラバック・ビッチ feat. シャイガール、チャンネル・トレス
8 ブレッシング・ミー feat. パ・サリュー、スキリベン
9トント feat. イザベラ・ラブストーリー
10 エ・モーション feat. エリカ・ド・カシエール
11ブラッシュ feat. レイラ
Mura Masa:公式サイト/Instagram/Twitter/YouTube
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