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伊藤万理華はなぜ作るのか? 初の書籍「LIKEA」の制作舞台裏と将来の夢

伊藤万理華

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伊藤万理華はなぜ作るのか? 初の書籍「LIKEA」の制作舞台裏と将来の夢

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 伊藤万理華、26歳。華奢な身体と頭の中には、見た目に反してファッションや音楽、漫画、映像、アートなど、多彩な”好きなもの”がジャンルレスに入り乱れ、ぎっしりと詰まっている。2017年に乃木坂46を卒業した後は展覧会「伊藤万理華の脳内博覧会」(2017年)、「HOMESICK」(2020年)を開催し、クリエイターとしても活躍。そんな伊藤が自身初の書籍「LIKEA」を12月20日に刊行し、書籍と連動して”展覧会三部作の最終章”とする「MARIKA ITOLIKEAEXHIBITIONLIKEA」を12月2日から渋谷PARCOで開催。”完全燃焼”したという書籍の制作舞台裏について聞くと、伊藤が”なぜ作るのか”が見えてきた。

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「私がいなくなった未来にも残る面白い本を作ってみたい」

前回取材をしてからちょうど一年ですね。

 お久しぶりです。「2021年ベストバイ」の記事は、友達も新しく会う人からも、たくさん「読んだよ」とコメントをいただきました。

どんな感想がありましたか?

 一番多かったのは「あんなに服オタクなんだ」というコメントでした。服は現在進行形で好きですし、今年は他のジャンルでも今年も好きなものが増えました。いつもこれ以上増えたら大変だなと思うんですけど、世の中に面白いものがまだまだたくさんあるので......。

今回は初の書籍ということですが、展示から形式を変えた理由は?

 2020年にパルコで2回目の展示(「HOMESICK」)が終わって、興奮が収まらないうちにパルコの方々と「次は何をしますか」と話していて、ふと「本ですかね」と言ったのがスタートです。今までの展示は、場所と期間、時間が限定されていて、「今ここでしか体験できない」特別なものという、足を運んだ人にしか分からない面白さがあり好きでした。でも本は極端な話、永遠に残るので。自分が本を作るとしたら、私がいなくなった未来にも残る面白い本を作ってみたいと思ったんです。

 そこから1年の間に同世代の面白い人たちにもたくさん出会い、自分たちから今しか生まれない熱量と衝動的な思いを形に残したかったので、2021年に企画書を作り具体的に動き始めました。

書籍に参加したクリエイターは、ベテランからアップカミングな方まで幅広いのが特徴です。皆さんとは元々知り合いですか?

 TEPPEIさん(スタイリスト)とはいつか一緒に何か作りたいと思っていました。根本さん(劇作家・演劇家 根本宗子)とはこれまで何度か作品でご一緒していますが、いつも体と記憶に残るような体験をさせてくださるので、今回の企画でも絶対お願いしたいと考えていました。皆さん私のオタク気質なところというか「好き」を突き詰めるところを理解してくださって、本を作り始めた当時は本当にワクワクしました。

完全燃焼した”ファッションシューティングドキュメンタリー”の撮影舞台裏

本を作り始めた「当時」だけワクワクしていた?

 もちろん、ずっとワクワクはしていて今も展示が始まるのが楽しみです(笑)。一番最初に動き出したファッションシューティングでの2日間が自分にとって衝撃が大きすぎて、単純にこの書籍を「ただの本にはできない」という気持ちになってきたんです。もっともっとこの本がずっと残るようなものにしなくてはいけない使命感みたいなものが強くなっていったというか。本を出したいと思い始めた時の感情を、極限まで突き詰めて作らないといけないなと。

撮影が相当刺激的だったんですね。

 TEPPEIさんのチームとシューティングできるだけで私としては楽しみで仕方がなかったです。でも本として残すなら限界突破して新しいものを生み出さないと意味がないなと。元々何かが生まれる過程が好きで「どうやって作るんだろう?」と疑問に思うことが多いので、今回のシューティングはスタイリングもヘアメイクも即興で作って、その様子を全部見せることにしました。

どうやって撮影したのでしょうか?

 パルコ本社の会議室を貸し切ってフォトスポットを4つ作り、衣装ラックやヘアメイクのスペース、試着室、全て一つの部屋にまとめてそれぞれの過程をずっと撮影しました。だからほぼ48時間ずっと撮られている状態ですし、誰もこの後の展開が分からないからどの会話も創作の一部であるような、脳みそフル回転で走り抜けた感覚です。最中はアドレナリンのお陰なのか、自分も含めて想像以上のものがポンポン出てきたんですけど、反動で終わった後は放心状態で自然と涙が出るくらい燃え尽きました(笑)。だから、この企画は「ファッションシューティングドキュメンタリー」と呼んでいます。

ファッションシューティングドキュメンタリーの現場

ヘアカラーはオフィスのシンクで。「ちょっとムラが出来ちゃって。それもこの現場じゃないと生まれなかったと思います」

確かに、スタイリングが出来上がってく様子をリアルに感じられるのは新鮮ですね。

 即興で制作している最中の会話をずっと録音していて。何気ない日常的な会話から始まったのに、最終的にスタイリングのアイデアになっていることがあり、「今何が起きたの?」と、私自身が一番楽しんでいました。現場の即興感をできるだけ本でも感じてもらいたかったので、テキストも現場の言葉をできるだけそのまま載せました。

ファッションシューティングドキュメンタリーは40ルック150枚以上とかなりのボリュームです。

 最初は20ルックの予定だったのですが、撮り始めたら生き物みたいにあちこちでいろんなことが起こって「このスタイリングいいじゃん」とか「こうしちゃえ」とか、自然と派生していくことばかりでした。蓋を開けてみれば40ルックになっていました(笑)。数だけ見ると多いなとも思うのですが、ページをめくりながらあの時起こっていたことを体感してもらうためには全部が欠かせないルックです。

「デビュー作を絶対私の本に載せたい」 無名の漫画家 CO¥OTEとは?

参加クリエイターの中で、漫画家のCO¥OTEさんは検索しても全くヒットしなかったのですが...。

 気になりますよね(笑)。CO¥OTEさんはここ数年で出会ったお友達ですが、当時は漫画家さんのアシスタントをしていて、自分ではこんなのを描いてるんだと見せてもらった作品がめちゃくちゃ面白かったんです。いち読者として早くこの人の作品をちゃんと読みたい、デビュー作を絶対私の本に載せたいとお願いしました。

ストーリーも伊藤さんと一緒に考えたのでしょうか?

 制作に介入することはしていません。本人が考えていること、今だけの感覚、純度の高い衝動というか、それを自由に出してほしいと思ったので、とにかく今描きたいものを出して下さいとお願いしました。そしたらやっぱり面白くて最高でした!漫画が唐突に写真の合間に挟まっている構成もお気に入りです。いびつな感じというか、急に漫画家の作品が現れるのが良いアクセントになったと思います。実は漫画の最後の方に、よく見ると分かるちょっとしたネタがあるので是非読んで欲しいです。

今回の書籍は、これまでクリエイターと制作してきた伊藤さんのキュレーターの側面がより現れていると感じます。

 クリエイターやキュレーターだと意識したことはないんです。それよりも、好きなもの・面白いものを作る人たちと関わって何か生まれる現象が好きというか。いつも自分の「好き」からスタートしているのですが、理由を突き詰めていくとどうしたら面白いものを見せられるか分かってくる感覚もあります。

本の”裏テーマ”と将来の夢

書籍と連動した展覧会「MARIKA ITO LIKE A EXHIBITION LIKEA」は、「パルコでの展覧会の三部作最終章」とのことですが、元から三部作と決めていたのでしょうか。

 全然そんなことはなくて、むしろ毎回「これが最後でいい」と思えるくらいの気持ちで挑んでいるので、3回も開催させていただいたことが自分でも驚きです。ありがたいことに、毎回いろんなクリエイターさんが参加してくださって刺激的な分、関わる人が多いとどの人にも同じ熱量でぶつかっていくので終わった後は本当に燃え尽きちゃうんです(笑)。今回は書籍が10年の集大成として深くて濃い内容になったから、パルコさんでの展覧会も一区切りという形です。

展覧会は書籍を展示に再構築したものですが、どうやって作り上げていったのでしょうか。

 空間設計に、クリエイティブチームCEKAIの福田哲丸さんに入っていただきました。本を読んでいただいて、私の考えやアイデアをお伝えしそれをどう立体物に落とし込むか考えていきました。本の巻頭企画であるファッションシューティングドキュメンタリーの写真を軸に展示していますが、ただ写真が並んでいるだけではつまらないので私の幼少期の動画を投影したり、本の最後にもある「プレイリスト 実家」で紹介している音楽を使ったり、生花アーティストのアレキサンダー・ジュリアンさんの作品など立体作品を織り交ぜながら本の内容を体感できるような空間を目指しました。根本さんには本に収録した脚本をラジオドラマに再編集していただいて。本の内容でありながらここでしかできない体験なので、ぜひご来場していただきたいです

展示にも再構築している本の企画「プレイリスト実家」では、実のお兄さんと対談しています。

 この企画は自分の中で本の裏テーマ「古い記憶の中で一番好きなものは?」の軸になるもので実は結構重要というか。私は好きで集めたものについて「そもそもなんで好きなんだっけ?」と考えるのが癖なのですが、大体が「昔からこういうの好きだったな」と軸が変わってないことが多いんです。それは実家でよく聞いていた音楽とか、母が着ていたブランドとか、お兄ちゃんから教えてもらった漫画とかが起源になっているんだろうなと。だから一番身近なお兄ちゃんと実家でどんな音楽聞いてたっけって話をしてみました。話してみると「ああそうだった」と思うこともたくさんあり、私自身も今の自分がどうやってできたのか立ち返ることができて思い出深い企画になりました。あと、単純に自分で企画した雑誌だからこそ一般人のお兄ちゃんも自由に出てもらえるなと思って(笑)。

伊藤さんの制作の根底にある「好き」のルーツを探れる企画だと思いました。

 そうかもしれません。いろんな人や物が好きな私自身のルーツって何だっけと深掘りするような企画なので。私自身、昔好きだったものを今反芻することもめちゃくちゃあるんですけど、感じ方が変化しているのも面白いところだなと。最初にこの本を未来にも残したいとお話ししましたが、先の未来でこの本を読んだ人の感想を聞いてみたいです。きっとずっと先のことですけど。

最近はデジタル社会で断片的にいろいろなものに触れるものの、それぞれのルーツまでは知らないことも多いと思いますが、この本はルーツを探る面白さのヒントになるような気がします。

 そうなったらめちゃくちゃ嬉しいです。私は好きなものが出来上がる過程や引用元を探っていくのが癖で、考えることが作るモチベーションでもあるんですけど、好きの理由を突き詰めていくことと制作ってセットになっているところもあって。「なんで好きなんだろう?」を限界まで考えると同時に、じゃあどうやって伝えたら面白くなるんだ?と疑問が自然に湧いてくる。今回も単純な伊藤万理華の本ではなくて、それ以上のものを作るには自分を曝け出して剥いでいくしかないと思ったんです。剥いで剥いで、最後に残った面白さの核に何があるのか私が知らないことには始まらない。楽なことではないですけど、そういう核を大切にすればするほど、生み出したものが自分にとってただの物ではなくなるというか。それこそ生きていく糧になっています。

気が早いですが、次に何か作るとしたら?

 10年分の思いを詰め込んだので、「LIKEA」をじっくり、いろんな人の手に届けたいなと思っています。

 次かどうかはわかりませんが、将来の夢としてギャラリーを作りたいと考えています。ギャラリーはアーティストの作品を披露する場でもあるし、作品を見に面白い人たちが集う場所でもあります。そういう意味では今回も「伊藤万理華のギャラリー本」のようなところもあるなと思いました。ジャンルとか立場とか関係なく共鳴した人たちが集まるギャラリーのような場所をいつか実現できたらと考えています。

■伊藤万理華「LIKEA(ライカ)」
発売日:2022年12月20日
価格:税込3300円
仕様:B4判変型/152頁
ブックデザイン:坂脇慶/飛鷹宏明

■MARIKA ITO LIKE A EXHIBITION LIKEA
会期:2022年12月2日(金)〜12月19日(月)
会場:渋谷PARCO 地下1階 GALLERY X BY PARCO
営業時間:11:00〜21:00※入場は閉場時間の30分前まで
入場料金:700円
空間設計:福田哲丸
設計施工:林武広
AD:畑ユリエ
美術演出:A.N.D. 西山藍、NAZE、アレキサンダージュリアン
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