藤原しおりと考えるサステナブルファッション、ユニクロのリサイクルダウンジャケットができるまで【前編】

 「ユニクロ(UNIQLO)」が本気でサステナブルファッションに取り組むと……?これまでも古着回収や瀬戸内オリーブ基金などの事業を通して人と環境に優しい服作りに取り組んできたユニクロ。今年9月、新たなサステナブルプロジェクト「リユニクロ(RE.UNIQLO)」を始動させました。不要になった自社の服を回収し、新たな価値を与えるという取り組みで、“服から服へのリサイクル”第1弾として着手したのが「リサイクルダウンジャケット」。昨年店舗で回収した62万着のユニクロのダウン商品から、中身のダウン・フェザーを取り出し、新たなダウンジャケットとして再び命を吹き込むという試みです。

 今回、普段からサステナブルファッションに関心があるというブルゾンちえみ改め藤原しおりさんとともに滋賀県大津市にある東レの瀬田工場に潜入。ユニクロのリサイクルダウンがどのように再生され新たな商品として生まれ変わるのか、その工程の一部をレポートします。

瀬田工場

藤原しおり
1990年、岡山県生まれ。2013年に上京後は、ワタナベエンターテインメントカレッジに所属し、ブルゾンちえみとしてデビュー。2016年、後輩の2人組お笑いコンビ「ブリリアン」とユニットを結成し、ブレイクを果たす。テレビのほか、舞台やドラマに進出し女優としても活躍。2020年3月末をもって、芸人を引退表明し、芸名を藤原しおり(本名・藤原史織)に改名。最近では環境をテーマにサステナブルなライフスタイルや取り組みを積極的に発信している。インスタグラムでは230万以上のフォロワーを抱える。来春からイタリア留学を予定。

 京都駅から電車で約20分ほどの場所に位置する瀬田工場。1938年創業の歴史ある工場にはテキスタイル・機能資材開発センターが併設されており、最先端の技術を駆使した繊維加工と商品開発が行われています。東レは2006年からユニクロの戦略的パートナーとして、これまでにヒートテックやエアリズム、そしてウルトラライトダウンといった看板商品の開発に携わってきました。そしてこの瀬田工場が今回の主役、リサイクルダウン製造の重要拠点となります。

 自身でも最近、アパレルコラボに携わることがあったという藤原さんはデニムの製造で知られる岡山県出身ということもあり、ものづくりの段階からサステナブルな素材や方法で取り組んでみたい、と思っていたのだそう。

 「サステナブルな服作りは自分でも興味のある分野だったので今日はすごく嬉しくてとても楽しみにしていました。工場の内部を見せてもらうことなんてそうそうないので目に焼き付けたいと思います!」と藤原さん。事前の説明を受け、安全のために帽子を被り、靴も履き替えていざ工場内へと向かいます。

 工場の一角には全国のユニクロ店舗から回収されたダウン商品が段ボールに詰められ集積されています。広大な敷地には現在約50万着分の保管スペースがあり、昨年9月から今年3月の約半年の間に回収されたダウン製品の総数はなんと約62万着にのぼります。担当者によると当初は数が集まるか不安だったとのことですが、そんな心配をよそに全国から大量のダウンが集まりました。ウルトラライトダウンをはじめとするユニクロのダウンジャケットがいかに世の中に流通し、多くの人々の生活に浸透しているかということを物語っています。

 「すでに大量のダウンがありますが、今後も回収は続けていくんですか?」と藤原さん。店舗でのダウン回収はクーポンなどを配布することでより認知を強化し、今後も継続して回収が進められるそう。日本だけでなく海外から届いたダウンジャケットも全て瀬田工場に集められ、将来的には保管方法を工夫し、物流や保管にかかるコストを削減していくといいます。

一つの段ボールの中には回収したダウン製品が入っており、将来的には倍となる100万着分の保管場所を確保できるように整備を進める予定。

 ここ瀬田工場では回収されたダウンジャケットの保管からダウンの抽出までの作業が行われています。検品、裁断、生地とダウンを分別する撹拌(かくはん)の工程を経て、洗浄・縫製のために海外へ輸送されるまでのステップを順にみていきましょう。

STEP1:検品

 段ボールに詰められたダウンジャケットはまず検品セクションへ運ばれます。ここでリサイクル不可の判別やポケットの中身の確認作業がスタッフの手によって行われます。1日に仕分けられる量は約3000~4000着。きちんと畳んで再び段ボールに戻されます。

STEP2:裁断

 異物などが混入していないことを金属探知機でも再度確認し、ダウン製品は一着ずつ丁寧に裁断機のベルトコンベアに並べられます。袖を広げてなるべく平らに置くことで、裁断の精度と効率が高まるそう。

 工場内に響き渡るガシャンガシャンという大きな音。一瞬にしてダウン製品が均等な切れ端サイズに切断されます。ファスナーの装飾や縫製・接着部分は平面ではないにも関わらず、断面を見ると見事にスパッと切断されているのが分かります。いかに羽毛を傷つけずに裁断するのかが重要だそう。端切れとなったダウンは空気中に羽毛が舞わないようにケースで囲われたベルトコンベアで撹拌機へと移動します。

裁断された生地の合間から見えるダウン。

STEP3:撹拌

最終的にダウンと生地が分別された状態。

 大きな攪拌槽の中ではダウン・フェザーが風に煽られて舞っている様子が見えます。特殊な風力と動力によってナイロン地から羽毛を剥がし、生地とダウン・フェザーが分別されるのですが、まさにこの技術こそが肝。この "剥がす"という工程が一番の難所かつ一番の機密事項でもあり、残念ながら写真および詳細は企業秘密ですが、風量や風の向きに秘密があるのだとか。

藤原さんも興味津々の様子で担当者に質問。

 ここまで高い分別の精度は従来手作業でしかできないとされてきました。ダウンジャケットは羽毛布団と比べダウン・フェザーの量が1着あたり約50gと少ないので労力がかかり、あまり効率的とは言えません。ですが東レはユニクロからのリクエストに応えるべく試行錯誤を繰り返しながら分別作業のオートメーション化に成功。まさに世界に一台だけの機械が開発されました。人が手で衣類の羽毛を取り出す場合の作業時間と比較すると50倍ほどの速さで大量の分別処理を行うことが可能になり、これによりリサイクルダウンの生産が実現したのです。担当者によると、現在月6万着のダウン商品を処理して羽毛を回収できる体制までになり、将来的には10万着を目指していくとのこと。

 直近で分別される様子を見た藤原さんは「この過程を経て実際に自分が今着ているダウンジャケットが完成したと思うと感慨深いですね。最先端の技術の裏には、生地からきれいにダウン・フェザーを取り除くためにどうすればいいか、地道に試行錯誤する開発者の方の細部に至るこだわりをひしひしと感じます」と実際の切れ端を手に取りながら話します。

STEP4:圧縮・輸送

 袋に詰められたダウン・フェザーはすでに素人目には新品と遜色のないほど綺麗な状態に見えますが、このあと海外の提携工場へ送られ、洗浄の工程へと進みます。ふわふわで軽いダウン・フェザーですが、袋に詰められた状態では約10kgほどの重さに。掃除機で空気を抜き、成形された状態でそのまま輸送されます。そうすることで圧縮によりダウン・フェザーが痛むことなく、再び開封すれば自然と元のふわふわの状態に戻るそう。

STEP5:洗浄ー縫製ー出荷

  成形されたダウンは検疫検査を通過して海外へと輸送。無事現地の工場に到着したダウンはこの後さらに細かな埃やわずかに残った生地片などが取り除かれ、洗浄・脱水・乾燥の工程へと進み、縫製工場へ送られ、商品に詰められるダウンとして生まれ変わります。そして縫製されたのち各地域の物流拠点へ出荷されます。

STEP6:リサイクルダウンジャケットとして店頭へ

 こうして長い工程を経て完成したダウンジャケットは商品として再び店頭に並びます。工場見学当日、実際にジャケットに身を包んで1日を過ごした藤原さんは「誰かの寒さを凌いできたであろうダウンジャケットが同じ商品として生まれ変わり、また誰かの元へ渡っていく。そう考えると新たな価値を持った一着に見えてきますよね」と話します。

 今回リサイクルダウンジャケットは「ユニクロ ユー(Uniqlo U )」から発売されます。ファッション業界からも支持率の高いユニクロ ユーですが、リサイクルダウンも他のアイテムと同じくパリのデザインセンターで手掛けられたもの。実はユニクロ ユーでも過去にダウンの展開がありましたが、ダウン商品のラインナップをやめて、合繊の中綿に切り替えていました。今回、デザインチームを率いるクリストフ・ルメール(Christophe Lemaire)がプロジェクトに賛同し、再びダウンジャケットが商品ラインナップとして戻ってきたのはファンにとって嬉しいニュースです。

11月2日に発売するリサイクルダウンジャケット 税別7,990円(全4色展開、写真はブラウン)

  ルメールならではの視点でデザインされたジャケットはユニセックスでアウターとしてもコートなど中に着るインナーダウンとしても使える便利な一着。玉ねぎ型のキルトステッチが施され、ナイロンは製造工程で発生したプレコンシューマー素材を46%使用、ジャケットの内側にはユニクロでは珍しく文字がプリントされています。100%リサイクルダウン・フェザーを使用していること、更に、着終わったらまたリサイクルできることが記されています。これはリサイクル商品であることの視認性を高めるとともに、プロジェクトに懸けるユニクロのステートメントでもあるそう。カラーはユニクロ ユーらしい秋冬コーデにもぴったりの落ち着いた4トーン。様々なストーリーが詰まった一着です。

藤原さんはダークオレンジのカラーをチョイス。中に着たパープルのニットとのコントラストを出しつつ秋冬のコーデに馴染みます。Styling:Hiroko Okuda

 工場見学を終え、藤原さんは「今日1日を通して、ユニクロと東レのような誰もが知っている企業が率先して本気でサステナブルに取り組んでいるところを実際に見たり話を聞けて勉強になりました。今回のユニクロの取り組みは、私のようなサステナブルな服を本当は選びたい、と思っている人から、興味は無いけど気づいたらリサイクルダウンを手にしてた、というような人にまで幅広い選択肢を提示するという意味でとても大事なアクションだと思うし、ユニクロだからこそできるアプローチですよね。企業が環境を破壊しているんだとばかり子どもの頃は思っていたので、逆に企業側が率先して環境問題に取り組もうとしている時代がやってきたんだと嬉しく思うと同時に感動しました」と率直な気持ちを語ってくれました。

 後編では工場見学を振り返り、藤原さんがリサイクルダウンジャケットを通じて考える自身のサステナブルファッションとの向き合い方について聞きます。

■Uniqlo U リサイクルダウンジャケット:公式サイト(11月2日発売)

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