ヤーマン 山﨑貴三代社長
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FASHIONSNAPの新春恒例企画、経営展望を聞く「トップに聞く 2023」。本年は、アフターコロナにシフトする中で各企業に求められる「イノベーション」をテーマに送る。
第19回は、今年創業45周年を迎えるヤーマンの代表取締役社長 山﨑貴三代氏。中国市場の好調や「おうち美容」ブームでコロナ禍でも躍進を遂げた同社は、すでに先を見据えた戦略を推進している。緻密な研究や精巧な技術力を背景に、ヤーマンが目指す「ゲームチェンジャー」へのビジョンを聞いた。
■山﨑貴三代(ヤーマン代表取締役社長)
大学卒業後、ヤーマンに入社。マーケティング部門や海外部門を経て、1999年より現職。業務用美容機器から家庭用美容機器へと転換を図り、独自の技術力で市場を切り拓いてきた。常に新たな市場を創造していくことを志し、「美顔器のヤーマン」として、RF美顔器「フォトプラス」シリーズ、ウェアラブルEMS美顔器「メディリフト」シリーズなど数々のヒット商品を世に送り出し続けている。
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コロナ禍の「おうち美容」ブームを経て今必要なこと
ー2022年を振り返って、一言でどんな年だったでしょうか。
昨年は中期経営計画(2021年4月期〜2023年4月期)で掲げていたさまざまな取り組みの種を蒔いた年でした。美容機器メーカーとして「日本発のグローバルブランド・カンパニー」となるべく、研究開発の強化や企業ブランディング、体験型事業、融合型ビジネスの展開など事業拡大の足がかりとなるような種を撒いたところです。今後は具体的な結果を分析し、取捨選択が必要になるでしょう。
少し大きな話をしますと、私たちは美容業界でゲームチェンジャーになるという信念を持っています。利用者は増えているものの、美容機器は未だに人々の「習慣」にはなっていません。美容習慣を変えるという挑戦こそが私たちの存在意義ではないかと。
ーゲームチェンジャー、美容習慣を変えるとは?
ブースター美容液、化粧水、美容液、乳液、下地…といった現在では当たり前に使う順番があり習慣化されていますが、ブースター美容液や美容液などは昔はなかった習慣です。このように美容機器がどこかのタイミングで組み込まれて美容習慣化される。それを作っていきたい、そう思っています。
大きな枠組みでは美容業界の一員ですが、化粧品メーカーとは商習慣が全く異なりますから既定路線というのもがありません。トライアンドエラーを繰り返しながら私たちなりの方法でどうアプローチできるか検討しながら前進している最中です。
■2023年4月期第2四半期
売上高:265億6800万円(前年同期比27.1%増)
営業利益:53億6700万円(同36.7%増)
経常利益:67億9900万円(同65.4%増)
親会社株主に帰属する四半期純利益:45億4200万円(同62.4%増)
上期過去最高の増収増益
中期経営計画での目標値(2021年4月期〜2023年4月期)
・売上高500億円
・営業利益率20%以上
ー美容機器はコロナ禍の“おうち美容”の広がりから、大きく市場が成長した印象です。
当社の製品で言うと、スチーマーやムダ毛ケア用の美容機器が急激に伸びましたし、美容機器に興味を持つお客さまが増えたことは事実ですが、あくまでも変則的な出来事ですから、一時的に売上が伸びたことを喜んでいても仕方がありません。ただ、アフターコロナに向かう中で、「お客さまとより深い接点を創出できるか」を考える良い機会になりました。
ーお客さまとの接点はどう構築している?
まずは2020年にオープンした「フェイス・リフト・ジム(FACE LIFT GYM)」で、昨年は小田急百貨店新宿店(新宿西口ハルク)や神戸阪急にも出店し、阪急うめだ本店、博多阪急でポップアップを行うなど拡大しています。
■フェイス・リフト・ジム店舗
青山店
キラリトギンザ店
メイクアップキッチンルミネ新宿2店
小田急百貨店新宿店
神戸阪急店
なんばスカイオ店
フェイス・リフト・ジムのイメージ
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ーフェイス・リフト・ジムではどのようなことを行っていますか?
美容機器を活用した顔専門のトレーニングジムというコンセプトで、ヤーマン製品を使って頭皮や表情筋にアプローチするメニューを提供しています。すでに製品を購入されている方には効果的な使い方をマンツーマンでお伝えし自宅で続けられるようにサポートしますし、購入を検討されている方に気軽に体験していただく場として展開しています。
ここ3年の間で美容機器に興味を持って下さった方が急激に増えましたが、それは潜在的に「気になっている」方がそれだけいたということです。しかし価格や使い方、効果への疑問など、さまざまな要因で購入につながっていなかった…。また購入しても継続して使い続けられなかった方も多く、その理由を聞いてみると「使い方が合っているか分からない」というご意見もありました。美容機器は未だ習慣化されていないのは、使い方が難しいと思われていることにあるのではないでしょうか。フェイス・リフト・ジムでは購入前後のどちらのお客さまにも対応し、専門のトレーナーがトレーニングさせていただきます。まさにスポーツジムのように、通ってほしいと考えています。
ー立ち上げからの反響はいかがでしょうか?
一番の発見はリピーターの多さです。男性のお客さまも予想以上にいらっしゃいます。当初は、効果を実感していただき購入後の習慣化のサポートとしてスタートしましたが、まさにスポーツジムのように継続的に通っていただくようなプログラムも検討の余地があると思っています。
新規市場参入は「美顔器との接点創出」
ーそのほか手応えを感じたことはありますか?
新規市場の開拓にも力を入れており、昨年は美顔器のテクノロジーであるRF(ラジオ波)を搭載した男性向けの温剃り電気シェーバー「ホットシェイブ(HOT SHAVE)」を発売し、男性へのアプローチを強めました。美顔器を使用する男性も増えてはいるのですが、習慣という意味では女性よりもさらにありません。ですからそこを急拡大するよりも、日常的に使用するツール、つまりは電気シェーバーでヤーマンらしい機能を搭載して発信すれば勝負できると考えました。販路の拡大など、男性に向けてもっと訴求していく必要はありますが、可能性を感じています。
ー新規市場の開拓では、ドライヤー市場にも参入しています。
2021年に毎日使うドライヤーに美顔器機能を搭載した「リフトドライヤー」を発売しました。昨年9月には、髪をいたわりながらスタイリングできる「スムースアイロンフォトイオン」を発売し、ヘアケア製品のラインアップを拡充しています。
ドライヤーもシェーバーもただ単に新規市場に参入することが目的ではなく、当社の技術力を活かして製品ラインを横に広げたことで、美顔器に接する習慣を作るベースになると考えています。ホットシェイブで肌がなめらかになるのを実感していただければ美顔器そのものに興味がわくかもしれませんし、ドライヤーで効果を感じた方が「ヤーマンの美顔器は良いかもしれない」と購入を検討していただけるのではないでしょうか。婉曲的なやり方に見えるかもしれませんが、長期の成長のために必要な布石ですね。
リフトドライヤー
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技術と美に訴えかける発信が必要不可欠
ーコロナの収束の兆しが見えてきましたが、その中で顧客を増やすための施策はありますか?
いくつかすべきことがあると思っています。まずは製品を支える技術力は日々進化しなければなりません。例えば化粧品の場合はブランド力や世界観で惹きつけられる部分があると思いますが、美容機器の場合はまず価格に対する効果実感が購入時の鍵になります。使ってみて良ければ継続していただけるというのは、今までの経験で分かっていますから、技術への投資は引き続き行っていきます。
その上で、技術力やブランドをどう伝えていくのかが重要になります。昨年は認知拡大のための広告宣伝である程度の効果は得られましたが、やはり実際に使って理解していただいた上で購入してもらうのが一番だという結論に至りました。美顔器は化粧品同様に広告表現上のルールがある中で、商品の良さを伝える方法を模索しなければいけないと思います。
ー具体的に何を発信すべきでしょうか?
単純にスペックだけを紹介してもあまり意味がないのではと思っています。美顔器は家電製品にカテゴライズされることもありますが、根本は美の習慣のためのものですから化粧品に近い。そういう意味で感性に訴えかけることも不可欠です。また、5万円や10万円の美顔器は、スキンケア化粧品よりも高いと感じる方がいると思いますが、長期的に見れば高価なスキンケア化粧品を使うよりもコストパフォーマンスが良いはずです。そういったことを発信していかなければいけないとも思いますし、そうなると化粧品以上の効果実感と、毎日使いたくなる「美の習慣」を促すアピールが必要ですよね。ここはトライアンドエラーで蓄積していくしかないと思っています。
ー昨年本社内に開設した「表情筋研究所」も発信に活かしていくのでしょうか?
表情筋研究所は、当社がこれまで美容機器開発の中で培ってきた表情筋研究をベースに、科学的に表情や表情筋を究明していくために立ち上げました。化粧品がアプローチするのは皮膚ですが、美顔器開発の根幹にある美容技術は表情筋を含む顔全体の印象にアプローチするものです。ですから製品を支えるテクノロジーと、最先端のサイエンスの双方の視点から、美しさへのアプローチついて解明を進めています。
表情筋研究所
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好調中国に加えアメリカ市場も強化
ー海外展開について教えてください。中国市場では年間最大のECショッピングイベント「W 11(ダブルイレブン)」で販売実績が5年連続”億元ブランド”(1億人民元突破)を達成するなど、人気を確立しています。
中国に進出した2015年当時は化粧品大手メーカーも軒並み進出したタイミングでした。特に中国では経済力のあるZ世代にとって、「エイジングケアはまずは化粧品で」という日本のような固定観念はありません。エイジングケアの選択肢に美顔器も入ることができたのが日本と大きく異なります。着実にブランド戦略を推進した結果、プレステージブランドとして認知していただけるようになりました。
ーここまでの人気を得るために行ったブランド戦略とは?
特に奇をてらったことをしたわけではなく、当社の強みである技術力と効果の発信に力を入れました。大学や研究機関とタッグを組み、美容技術や製品開発動向、皮膚科学や電子工学の専門家との臨床試験や研究結果を発表したのが信頼につながった理由の一つだと思います。またダブルイレブンや「618商戦」といった大型商戦の時期には、ライブコマースのような中国市場で重要なツールも活用しプロモーションしたことも奏功しました。
ー日本と人気商品の違いはありますか?
日本では多機能製品が人気ですが、中国ではよりエイジングケアの専門的な機能に特化したモデルが売れています。昨年のダブルイレブンでは、「ブルーム ファイブ(Bloom5)」(日本円で税込9万5700円)や、「フォトプラス プレステージ SP」(同16万5000円)といった高価格帯の製品が人気でした。
ー中国以外の地域への進出はいかがでしょうか?
グローバルブランドを目指すには、アメリカや中国といった大きな市場を軸に、トラベルリテールなどで存在感を発揮していく必要があると考えています。アメリカには現地法人があり、既に2018年に傘下に入った「MAKANAI(旧・まかないこすめ)」を展開しています。ハリウッド女優のグウィネス・パルトローが手がけるライフスタイルショップ「グープ(goop)」で取り扱われるなど徐々に広がっています。今年はようやく一部の美顔器製品の認証を得て、本格始動します。またホットシェイブをECでスタートさせたところで反響が楽しみですね。それほかの地域としては、人口増加が見込まれているベトナムなど東南アジアにも注目しています。
必ずしも自社ブランドでなくてもいいと考えており、現地のお客さまと親和性が高いブランドをM&Aによって手がけるのもひとつだと思います。
ー一方で、昨年はアメリカのオーラルケアブランドとの代理店契約締結し、日本展開をスタートさせています。
正規代理店契約を結んだアメリカのオーラルケアブランド「ウォーターピック(Waterpik)」は、水流で歯垢を洗い落とす口腔洗浄器で、われわれにはない技術ですが親和性が高く、昨今の口腔ケアのニーズの高まりもあり順調に売り上げを伸ばしています。
旗艦店開発でブランドを見える化
ー最後に、創業45周年を迎える今年の展望を教えてください。
45周年は節目ではありますが、50年への途中経過と捉えています。昨年実行したことを踏まえて、次にすべきことを実行に移す年にしていきます。
今年は旗艦店や直営店といった店舗開発に力を入れます。これまでお伝えした技術面やサイエンスの知見を発信することに加えて、ヤーマンがどんな世界観を持ったブランドか、さらにはどんな会社であるのかを伝えたい。視覚的、体験的にわかりやすくお伝えしていくには、一つの拠点が必要だと思っています。
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