三井不動産 ホテル・リゾート本部運営企画グループ主事 宮本諒子
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三井ガーデンホテルズがリブランディングを進めている。ブランドロゴをはじめ、タグライン、制服、アメニティ、備品デザインなどを一新。ビジネスだけでなく、レジャーやリトリート、リフレッシュ、長期滞在などホテルの利用シチュエーションが多様化する中で、三井ガーデンホテルズはどのように変わるのか。リブランディングの責任者である、三井不動産のホテル・リゾート本部運営企画グループ主事の宮本諒子氏に話を聞いた。
なぜリブランディングするのか、三井ガーデンホテルズの歴史
—三井ガーデンホテルズは現在国内32施設、台湾1施設の計33施設のホテルを運営しています。まずはこれまでの沿革を教えてください。
1号店は1984年に開業した大阪淀屋橋(2022年12月21日に営業終了)です。当時は一般的なビジネスユースのホテルとして展開していましたが、2005年に銀座プレミアがオープンした頃から、企業の中で役職を持つような層の方が出張で利用できる“アッパーミドルクラスの宿泊主体型ホテル”といった立ち位置を目指しました。出張なのでラグジュアリーホテルまでは必要ないという層に向けて、客室のデザイン、機能性や朝食にこだわって運営してきました。
—現在はレジャー需要にも対応するホテルを展開していますが、転機は?
2014年に開業した三井ガーデンホテル京都新町 別邸と三井ガーデンホテル大阪プレミアがターニングポイントです。三井不動産全体で「すまいとくらしのベストパートナー」を目指しており、ホテル事業の中で「ベストパートナー」として不足している部分を考えたときにレジャー空間でもあるホテルに行き着きました。それまではビジネスユースの取り込みを意識し、出張時の宿泊費用上限を意識した価格帯での展開を行っていましたが、京都新町 別邸と大阪プレミアからは2名利用を前提とした価格設定を行い、レジャー需要の取り組みを狙いました。大浴場の女性用更衣室に化粧台を設置したパウダースペースを設けたり、京町家の建て替え事業である京都新町 別邸は入口に暖簾を設けていたりと、それぞれの土地や地域の特色を活かしたホテル作りをより意識するようになりました。
—近年、三井ガーデンホテルズは開業軒数が増えていますね。
2017年頃から、宿泊主体型施設の運営ノウハウが蓄積されたことや、ホテル業界全体のトレンドでもあった東京2020オリンピック・パラリンピックによるインバウンド客の増加見込みもあり、展開を拡大しました。2019年から2020年にかけて11施設を開業しました。
—メインの客層は?
土地ごとにイチから商品企画を練り上げ一つとして同じホテルは作らない、というスタンスを取っています。立地的にビジネス層が多いホテルもあれば、大型テーマパークの近くに立地する三井ガーデンホテルプラナ東京ベイのようにファミリー層を意識したホテルもあります。ただ、認知度調査を行うと、アッパーミドルクラスの宿泊主体型ホテルとして展開していた時期の名残から50〜60代の男性の認知度が一番高く、20〜30代や女性の認知はまだまだ得られていないというのが実情です。
—20〜30代や女性の認知度向上も兼ねて、今回リブランディングに至ったんですか?
そうですね。実は、2005年以降ビジネスをメインターゲットとしているホテルはないのです。新しく開業したホテルだけでなく、既存物件も順次リノベーションをしていて、シングルだった部屋をレジャーでも使っていただけるよう複数人向けに仕様を変更するなどの対応をしています。ただ、どうしても当初のイメージが抜けきれていないので、リブランディングしてロゴやアピアランスを変えることを決めました。
「サステナブル」と「多様化」がキーワード、今ホテルに求められるモノ
—リブランディングをこのタイミングで実施した理由は?
コロナによる影響でお客様がホテルへ求めるモノが確実に変わったことが大きな要因です。遠方へ行った際の宿としての役割だけでなく、家から近場での宿泊や、外出をせずにホテルステイ自体を楽しみたいといったニーズが増加しました。他にも推し活や、ワーケーション需要といった新しい目的も生まれました。三井ガーデンホテルズとしては、2014年頃から各地の特色を活かしたホテル作りを強化していたのですが、我々が目指している方向性と、ホテルステイ自体を楽しみたいというお客様が求めるニーズが一致していると考え、状況が落ち着いてきた今を選びました。
—部屋にアメニティを置かずに必要な分だけ客室に持っていくアメニティバーを導入するホテルも多く、近年はサステナブルの観点からもホテルのあり方が変わっているように感じます。
「プラスチックにかかる資源循環の促進などに関する法律」が2022年の4月から施行されたこともあって、ホテル業界のサステナビリティへの意識はより高まっています。アメニティバー導入のような取り組みのほか、カーボンオフセットや一部資金を寄付するといった動きをしている企業もあります。
—三井ガーデンホテルズはどんな取り組みを?
アメニティバーでアメニティを集約しているのと、今後予約の際にアメニティの持参を推奨してまいります。また、ヘアブラシなどの素材も元々環境に悪いものを使っているわけではないのですが、さらに環境に配慮したものにするために検討を重ねています。三井ガーデンホテルズは1万室規模ですから、例えば歯ブラシなら毎日数万個を用意しなければなりません。使用感やコスト面、安定供給といったさまざまな課題をクリアする製品が見つかり次第、順次切り替えていく予定です。
「Stay in the Garden」、日常の延長線上にある上質なときめきと煌めきを
—リブランディングではタグラインが「Stay in the Garden」に設定されました。どういった思いを込めているんですか?
改めて三井ガーデンホテルズとは何かと立ち返った時、目指すべき方向は庭園(ガーデン)で過ごすひと時のように、気負わず、日常の延長線上に上質なときめきと煌めきを感じられるホテル作りをしていくこと、という結論に至りました。ただ、単純に緑に囲まれれば良いというわけではありません。ディベロッパーである三井不動産の開発理念に則り、それぞれの土地の歴史をしっかりと踏まえて各地の特色を活かした上質な空間こそがガーデンだと考えています。例えば六本木のガーデンは何かというと、緑ではなく都会的なキラッとした街並みだと考え、最上階のレストランは六本木の素晴らしい夜景が望める内装デザインに仕上げました。豊洲は元々造船所があった場所なので、「航海」をテーマに設定していて、1階や地下1階のエレベーターホールを海底のような世界観にし、エレベーターが上昇することで航海が始まり、暗めに調整したエレベーターホールを抜け、扉が開くと東京湾が一望できる空間がロビーに広がります。
—リブランディングに合わせて「リファ(ReFa)」のシャワーヘッドとドライヤーを導入しました。
滞在価値を高めることが狙いです。家電類は日常の延長線上で上質さを感じやすいものだと思っています。また、強化したいターゲットである若年層や女性からの支持を得られると考えました。シャワーヘッドの購入を検討している人が、試用も兼ねて宿泊施設に三井ガーデンホテルズを選んでいただくこともあるかもしれません。美顔器となると出張で利用するビジネスマンには必要ないことが多いと思いますが、シャワーヘッドとドライヤーは健康や美への関心が高くなくても使用するので、男女問わず多くのお客様に喜ばれ、新しいターゲットの獲得へ繋がるものとしてリファのシャワーヘッドとドライヤーに変更しました。
—既存のホテルのリブランドを経て、2023年5月には横浜みなとみらいプレミアが開業しますね。どういったホテルに仕上げる予定でしょうか?
現在みなとみらいはロープウェイやコンサートホールなど様々な施設の開業が続き、エリアとしても注目しています。三井ガーデンホテル横浜みなとみらいプレミアでは「Yokohama SKY CRUISING」 をコンセプトに、20階にあるロビーをクルーザーのデッキに見立て、船が持つ柔らかい曲線をデザインに取り入れました。開放的な眺望を楽しむことのできるスカイプールやジェットバスでは、横浜の都心部にいながらリゾート気分を味わえます。客室は広々としていて、女子旅等複数人でも宿泊できるトリプル客室、プロジェクター付きのシアタールーム、連泊滞在に嬉しい電子レンジ・洗濯機付きの客室など、豊富なラインナップをご用意しています。
横浜みなとみらいプレミアのパース画像
Image by: 三井ガーデンホテルズ
—2024年秋には築地にも開業予定ですが、築地の特色は?
築地は、冷蔵庫や電子レンジだけでなく、洗濯機を全室に設置し、インバウンドを含めた中長期滞在のお客様にも満足していただけるホテルを目指します。 東銀座駅まで徒歩3分であり、ビジネスとレジャーの両面において利便性が高く、周辺では旧築地市場の開発も始まるなど今後さらに発展していくエリアだと考えております。
築地に開業予定のパース画像
Image by: 三井ガーデンホテルズ
—最後に今回のリブランディングでの目標は?
価格で比較されて選ばれるのではなく、三井ガーデンホテルズに泊まりたいと指名されることが目標です。そのためにも、20〜30代の認知度と、理解度を高めていきたい。これまでの課題は、ホテルごとの特色が違うということで全体の三井ガーデンホテルズ像が描きにくかったことだと思うのです。今回のリブランディングを通して、「Stay in the Garden」というブランドとしての共通言語を設けることで、内外ともに三井ガーデンホテルズの理解向上を目指すとともに、それぞれのホテルでの「Garden」を追求し、サービスに変換していく道標になれば。そうすることで、ときめきと煌めきを提供できるホテルブランドへと、さらに成長していきたいと考えています。
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