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高田賢三と私の37年間 KENZO創設者の横顔 【第2回】

バカンスを過ごすことの多かったプーケットにて。右下は、「K.T」の頭文字でポーズをとる高田賢三と鈴木三月(筆者)

Image by: Yayoi Suzuki

バカンスを過ごすことの多かったプーケットにて。右下は、「K.T」の頭文字でポーズをとる高田賢三と鈴木三月(筆者)

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高田賢三と私の37年間 KENZO創設者の横顔 【第2回】

バカンスを過ごすことの多かったプーケットにて。右下は、「K.T」の頭文字でポーズをとる高田賢三と鈴木三月(筆者)

Image by: Yayoi Suzuki

2004年以降は、悲しいこともあった。手掛けていた「五感工房(GOKAN KOBO)」のブランド名を「TAKADA」に変更したのだが徐々に事業が傾き、思い出の詰まったバスティーユの一軒家を手放さなくてはならなくなったのだ。

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「五感工房」で発表したアイテム

Image by: KENZO TAKADA

競売にかけ、2009年に売却。その後は一時期、モナコに家を持った。日本から電話をしたら息が上がっていて「どうしましたか?」と心配すると、「モナコは坂が多すぎる」と笑う声。一気に微笑ましい気持ちになった。

「モナコでゆっくり絵を描こうと思う」と話していたのだが、やはり周りに友人がいないのは寂しいもの。数年でパリに戻り、6区のサンジェルマン・デ・プレに自宅を構えた。エッフェル塔の横に夕陽が沈む、素晴らしい眺望が決め手になったという。

アパルトマン6階の角部屋——日本では7階にあたる——で、家の中に螺旋階段があり、最上階に上がることができる。占いや風水が大好きな賢三さんは、その言葉を受け入れ、入り口付近に可動式の衝立を設置。絵画や骨董品の数々が飾られた廊下は、まるで美術館のよう。ジャン・コクトーやアンディ・ウォーホルの作品、自身で描いた絵画などもある。バカラとのコラボで製作したクリスタルのブッダ像や豪華な屏風、そしてヴェルサイユ宮殿のシャンデリアを製作した方が作られたシャンデリアが印象的で、美しい室内を照らしていた。

自宅を飾る花とシャンデリア(筆者提供)

シャンデリアの奥のクリスタル製ブッダ像は、高田賢三とバカラのコラボレーション(筆者提供)

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ジョルジュ・フランソワによる花々が部屋中に(筆者提供)

一世紀につくられたという中国の木彫りの馬や、友人からプレゼントされた象の椅子2脚は賢三さんのお気に入り。長年付き合いのあるフローリストのジョルジュ・フランソワ(Georges Francois)に、週一で季節のお花を飾ってもらっていたので、いつも良い香りが漂っていた。

高田賢三とバカラのコラボレーションによって制作された屏風の前で、鈴木三月と高田賢三(2019年、筆者提供)

自宅での打ち合わせ風景(2018年、筆者提供)

賢三さんがデザインや食事をする大きなリビングのテーブル。使いやすいキッチン。書斎やクローゼット、ゲストルーム。中でも一番好きな場所は寝室だ。仕事や旅から帰ってきた時に、一番最初にベッドに寝転がるとホッとするのだそう。

同じ建物の4階にはアトリエがあった。デザイン画や、絵を描いたり。感性が詰まったこのアパルトマンから、素晴らしい数々のデザインが生まれていった。

4階のアトリエは、まるでアートギャラリーのよう(筆者提供)

アトリエでデザイン画を描く高田賢三

夕方4時くらいになると「まだ早いかなぁ~」なんて言いつつ、早々に仕事を片付けたらお楽しみのアペロ。夕陽を眺めながらシャンパンを飲むのが至福の時だった。冷蔵庫にはシャンパンボトルがたくさん冷えていて、よく飲んでいた銘柄はラリエ ブラン・ド・ブラン グラン・クリュ。「一緒にどうですか?」といつもすすめてくれる。取材中でも、天気の良い日には「ちょっといいですか?」とカーテンを開けて、取材陣と一緒に「綺麗ですよね」と夕陽を見ていた。

ワインが残ったボトルは、蓋の代わりにフォークの柄の方を差して冷蔵庫へ。フランス人特有の風習なのだが、なんだか可愛らしい——飲み切ってしまう方が多いのだけど——。

つい数ヶ月前に聞いたことだが、コロナ禍であまり外に行けなかったので、パリの自宅で夕陽を見ながらローソクを灯して、色々な事をお祈りしていたそうだ。

アパルトマンの窓からの眺め。美しい夕陽とエッフェル塔が一望できた。(筆者提供)

————

近年だとランチは「ル・シェルシュ・ミディ」や、「ホテル ルテシア」のレストラン、近くのスフレが美味しいお店などによく行っていた。パリではすっかり有名人で友人も多いので、どこへ行っても「Kenzo!」と声を掛けられる。

夜は、昔からよく通っていたビストロ「ル・ヴォルテール」や、和食の「あい田」、そして賢三さんの専属料理人だった中山豊光シェフの「Restaurant TOYO」など。TOYOには賢三さんが描いたシェフの肖像画が飾られている。

晩年は来日することが多くなり、日本にも家を持ちたいと話していたことを思い出す。東京や京都で下見も同行したが、願いが叶わずに残念でならない。——最終回の第3回につづく

2001年、和装の高田賢三(筆者提供)

(文・鈴木三月 / 編集・小湊千恵美)

高田賢三(Kenzo Takada)デザイナー

兵庫県生まれ。1960年第8回装苑賞受賞。1961年文化服装学院デザイン科卒業、 1965年に渡仏。1970年パリ、ギャラリー・ヴィヴィエンヌにブティック「ジャングル・ジャップ」オープン。初コレクションを発表。パリの伝統的なクチュールに対し、日本人としての感性を駆使した新しい発想のコレクションが評判を呼び、世界的な名声を得る。その後ブランドを「KENZO」とし、高い評価を受ける。
1984年仏政府より国家功労賞「シュヴァリエ・ド・ロルドル・デザール・エ・レトル」芸術文化勲章(シュヴァリエ位)受章。1998年仏政府より国家功労賞「コマンドゥール・ド・ロルドル・デザール・エ・レトル」芸術文化勲章最高位の(コマンドゥール位)受賞。1999年2月ニュ-ヨ-クで国連平和賞(タイム・ピース・アワード)の98年ファッション賞を受賞。10月パリコレクレションを最後にKENZOブランドを退く。同年、紫綬褒章を受章。
2004年開催アテネオリンピック日本選手団公式服装をデザイン。パリ市よりパリ市大金賞を受賞。その後、デザイナー活動および絵画を手掛け、絵画展をフランス、モロッコ、アルゼンチン、ウクライナ、ロシア、ドイツで開催。また、クリエイションにおける異業種とのコラボレート事業、世界の伝統文化を継承する為の活動などを精力的に展開。
2016年仏政府よりレジオンドヌール勲章「名誉軍団国家勲章」(シュヴァルエ位)を受勲。 同年、日本においてセブン&アイ・ホールディングスの社傘下のそごう・西武およびイトーヨーカドーのPBブランド「セット・プルミエ」を展開。
2017年12月「夢の回想録」出版。2018年、Edition du Cheneより「KENZO TAKADA」出版。2019年10月東京二期会主催/演出家 宮本亞門氏によるオペラ「蝶々夫人」の衣裳を手掛ける。日本を含む4ヶ国初の共同制作公演で、2020年4月ザクセン州立歌劇場(ドリスデン)、その後デンマーク王立歌劇場、そしてサンフランシスコ・オペラでの上演が決定していたが延期。
2020年1月ホーム&ライフスタイルの新ブランド「K三(ケースリー)」をパリから世界に向け発表。パリ・サンジェルマンにショールームをオープン。
2020年10月4日他界。

※高田賢三の「高」は、正式には「はしご高」

鈴木三月(Yayoi Suzuki)

東京都出身。パリソルボンヌ大学、Institute Catholique大学留学・卒業。(株)SBA (株)French Fashion Center/Fédération Française du Prêt-à-Porter féminin Japon入社。パリプレタポルテ・オートクチュール協会日本事務所入社。
SUNデザイン研究所・スタイリスト科入学。卒業後(株)エルカ入社。KENZOブランドのPR担当として働く。
1991年日本におけるattachée de presseの先駆けとして(株)パザパを設立。ヨーロッパのファッションブランドのPRを主に手掛けるとともにKENZO社の日本におけるPR担当および、高田賢三のパーソナルマネージメントを担当。
2000年から高田賢三のビジネスパートナーとしても活動開始。2006年コンサルティング会社(株)ビズを設立。2011年(株)パザパを、(株)セ・シュエットに社名変更(パザパは現在PR事業部として存続)。
現在、衣食住のPRおよびブランディングに関するアドバイザーやモード学校での講師を務める。2013年に調理師免許取得後、フードアドバイザー等の仕事をスタート。
人生をより美しく輝くものにするには、気持ちが前向きであることが大切だと考え、ひとりひとりが夢のある毎日を過ごして欲しいと考えている。
2020年10月、SHOP CHANNELにて自身のウィメンズのブランド「Minimalize+Plus」をスタート。

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