ジブリ作品との出会い
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ーお二人にとって印象に残っているジブリ作品はありますか?
吉本:「となりのトトロ」です。生まれがアメリカで、8歳までカリフォリニアの山奥に住んでいたので、日本に関する情報に触れる機会がほとんど無くて。そういった環境の中で初めて出会った日本のアニメだったので印象深い作品です。
佐藤:私は「風の谷のナウシカ」ですね。幼少期から妖怪や怪獣のような空想上の謎の生きものが大好きで。人によっては気持ちが悪いと感じて敬遠するような、摩訶不思議な生き物たちに魅力を感じるんです。
吉本:虫が好き、嫌いの感覚に近いですよね。
佐藤:そうそう、まさにそうだよね。虫って大嫌いな人もいるけど、好きな人にとってはこれ以上のものはないっていう。小さい頃は朝早く起きて昆虫採集ばかりしていましたよ。捕まえたクワガタを持って空を飛ばして遊んだり。今思えば、完全にジブリの世界ですね(笑)。
ー自然との距離が近かったんですね。
佐藤:東京生まれなんですが当時の練馬区はけっこう田舎で、虫は沢山いましたね。カブトムシやクワガタは裏の森で取れたし、川にはおたまじゃくしがいてね。恐らく東京でそういった幼少期の体験ができた最後の世代かもしれません。今思えばすごく貴重な経験だったなと。幼少期の原体験が、ジブリ作品の世界観を身体的に面白いと感じさせてくれるのかもしれません。
ー自身のクリエイションにおいて、ジブリ作品から影響を受けたことはありますか?
吉本:「風の谷のナウシカ」をはじめとするジブリ作品でも描かれていますが、人間と自然がどう共生していくかという部分は、今回の展示でも服をつくる時でも常に考えていることで。それが一番興味があることですね。服作りにおいて自然のモチーフに目を向けているのは、幼少期の環境に加えて、ジブリ作品との出会いが少なからず影響していると思います。
佐藤:直接的に影響を受けているわけでは無いですが、思考の部分で通ずる部分はあると思っています。私はサーフィンが大好きなんですが、サーフィンは板一枚で波のリズムに合わせるスポーツ。人間の力では波を押し返すことはできないので、あくまでも自然に合わせていくしかないんですよね。自然という圧倒的な存在を前にした人々の振る舞いは、ジブリ作品の世界観で感じる自然界の力や尊さみたいなものに重なってくるように思います。
ージブリ作品が多くの人に愛される理由はなんだと思いますか?
佐藤:スタジオジブリが作るものってすごく夢があって楽しいんですよね。一方で人間社会の弱さや、自然環境とどのように付き合っていくべきかといった、深い意味での問いかけも作品に落とし込まれている。浅く楽しむこともできるし、奥行きがものすごくあるからいくらでも深く鑑賞することもできるんですよね。子どもから大人まで皆が入れる世界観に仕上げているところが類を見ないのかなと。
吉本:そうですね、子どもの頃見たナウシカと、大人になってから見るナウシカでは解釈が全く違いますよね。振り幅といいますか、切り口の多さもジブリ作品の魅力だと思います。
佐藤:本当に良いモノには深みがありますよね。長く愛される歌なんかもそうですが、子どもの頃触れた情報が大人になって価値観が変わってから触れると全く違う捉え方になる。幼少期にただ楽しく歌っていた曲を、大人になってふと口ずさんでみたら「あっ、これってそういうことを言っていたんだ」と発見があったり。本当に良いモノは、時間とともにどんどん関係性が深まっていくように感じます。
アニミズム思想とクリエイションの関係性
ー今回のテーマの一つは「アニミズム」ですが、デザインにおいて意識することはありますか?
吉本:言葉として常に意識しているわけではないですが、カリフォルニアの山奥で過ごした幼少期はものすごく自然と距離が近くて。どちらかというと人間より自然のパワーが強い場所だったので、山の一部として自分たちがいるという感覚が常にあったんです。それで改めてアニミズムという概念を学んだ時に、自分のクリエイションに通ずる部分だと気付きがありました。
佐藤:それってやっぱりビルに囲まれた東京で生まれ育つのとは感覚が全然違うなと思う。いい環境で生まれ育ったよね。
吉本:電気や水道、ガスも通っていないような環境だったので(笑)。
佐藤:そういった背景が今の天地さんのモノづくりに繋がっているんだね。その話はもっと聞きたいけど、聞きたいことがあり過ぎるので別の機会にしないと(笑)。
ーアニミズム思想は日本古来からある考え方の一つですが、グラフィックデザインとの関係性において通じる部分はありますか?
佐藤:天地さんと同じで常にアニミズムを意識的に考えてるわけではないですが、常に自分の中にあるとは思っています。直接アニミズムとは関係がないかもしれませんが、精霊や霊が宿るといったアニミズム的な考えを自分の仕事と照らし合わせて考えてみると、自分の場合はものづくりをする時に「気」を入れることを意識していて。ただものが売れればいいという作り方ではなくて、そのものを通してなにか届けるべきメッセージを込めるというか。
ーメッセージを込めるというと?
佐藤:言葉を変えると「生命を吹き込む」という表現が近いですね。大量生産品だからできないではなくて、むしろ大量生産品でそれができれば多くの人たちにメッセージが届くと思うんです。だから、デザインにおいて「生命を吹き込む」という行為は一つの役割として大切なことだと思っていて。そこまで到達できているかは分からないですが、常に突き詰めようとはしています。ただ売れればいいものをつくるのと、メッセージを入れ込んだものを作るのは全く違うことなんです。これね、なかなかデザイン教育の現場で伝えられないんですよ。そんなこと言われてもよく分からないってなってしまって(笑)。
吉本:難しい課題ですね。
佐藤:じゃあ、どうしたらいいんだって言われてもなかなか最適な方法があるわけでもなくて。でも、物体や自然界のものに対して精霊や霊魂が宿るといったアニミズム的思想と、作品に「生命が吹き込まれる」ということはどこか通じる部分がある気がします。
ー最後に、ネコバスアトリエを通じて、来場者にどのようなメッセージを伝えたいですか?
佐藤:これから大人になっていく子どもたちにとって、やはり想像力を育むのはすごく大切なことだと思います。画一化された現代の教育現場において想像力を育む機会が減っている中、自由な発想で思いがけない者同士を繋げてみたり、実際に絵に描いてみたりして欲しい。想像することは自由なんです。「これってなに?」「ここでなにが起きてるの?」っていう好奇心が想像力の源になる。今は電子メディアで様々な情報が勝手に簡単に手に入ってしまう時代ですが、それはすごく表層的な情報でしかないので、日常の「当たり前」に対して好奇心を持って目を向ければ、面白いものがいっぱい潜んでいるということに気付いて欲しい。そうした好奇心のスイッチが入るきっかけに、この展示がなれたら嬉しいですね。
(聞き手:長岡 史織)
■ジブリの大博覧会〜ジブリパーク、開園まであと1年。〜
会期:2021年7月17日(土)~9月23日(木・祝)
会場:愛知県美術館
住所:愛知県名古屋市東区東桜1-13-2
時間:10:00~18:00(金曜は20:00まで)
観覧料:一般 1900円/高校生、大学生 1500円/小学生、中学生 1000円(いずれも税込/障がい者は各券種の半額)
※休館日は8月16日(月)、 9月6日(月)、 21日(火)
※日時指定予約制
※入館は閉館30分前まで
特設サイト
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