左)同展キュレーター 藪前知子 右)展示風景より 石岡瑛子 1983年 Image by Robert Mapplethorpe ©Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.
Image by: FASHIONSNAP
ー石岡さんの肉声が聞こえ続ける会場演出も印象的でした。
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あれは亡くなる半年前に今回評伝を出された河尻亨一さんが行ったインタビューの音声です。既にがんで入院中だったんですが、病院を抜け出して「グラフィックデザインはサバイヴできるか」という内容のインタビューに答えています。石岡さんにしては珍しく若い方に向けて、過去を振り返りつつ話しているように聞こえます。
ー石岡さんの肉声を流そうと思ったのは何故ですか?
やはり、石岡さんの存在や態度を感じていただきたかったからですね。美術館は本来「視覚的な美術」を展示する場所なんですが、音は視覚には現すことができない「曖昧な領域」や「気配」を出すことができます。美術館というのは、過去の時間を再現するものだと思うんです。過去の産物である作品を、観賞者に流れている「現在の時間」にアクセスさせる。石岡さんの声を通して、「過去の時間と現在の時間が出会い、作品が作られていったプロセスの時間を体感していただければいいな」と考えました。
ー衣装はもちろんなのですが、手紙や、細かく赤入れがされたカンプ、原稿など、紙媒体が数多く展示されていることに驚きました。
石岡さんは、全部の資料を保管する人だったんです。例えば、打ち合わせの細かい資料も保有していたし、電話の通話も全部録音してあるんですよね。仕事上フリーランスで戦っていたので、記録を残すことが重要だった、という側面もあると思います。でも、保管されていたものを見ていると「誰かが後で、自分の展覧会をやってくれるのを想定していたのかな」と思う瞬間がありました。プロダクションのプロセスがデジタル化でどんどんなくなってしまう中で、電話記録も手紙も全部残っているというのは本当に貴重な記録だと思います。映画産業からみても、石岡さんは1つの文化生産者としての重要なアーカイヴを残されたな、と。
ーターセム・シン監督との初共作映画「ザ・セル」のアイデアデッサンには「plug」とメモが走り書きされていましたね。
「ザ・セル」は2000年公開の映画なので、あれは多分「新世紀エヴァンゲリオン」を観ていたんだと思います(笑)。あの64枚のドローイングは、頭の中にあるイメージをターセム監督にFAXで送ったもの。だから、ブラッシュアップされる前のものなんですよね。
ーメモ書きなどが残っている分、石岡さんの思考の足跡を辿れるのは面白かったです。
ありがとうございます。資料をじっくり読めば読むほど、「アウトプット、インプットに貪欲な方だったんだな」と思いますよね。ターセム監督に「あれしなさい、これしなさい」と指示出しをしている筆跡まで残っていますから。もう、"衣装デザイン"を超えているな、と(笑)。
ー展示空間は、彼女の最初の作品「えこの一代記」で幕を閉じます。
あの作品は石岡さんが高校を卒業する際に制作したものです。自分のこれまでの歩みを振り返りつつ未来への希望を描いた物語物語なんですが、ほとんど予言書なんですよ。"えこ"という女の子が表現者として「自分とは何か」「誰なのか」ということを問いかけながら、「これから自分に起こるであろう冒険」をワクワクしている。彼女が生涯をかけて目指していたものは「自分自身の可能性をどれだけ広げられるか」という事だったと思うんですよね。なので、「えこの一代記を1番最後に展示したい」というのはすんなりイメージできました。技術的な観点から見ても、流行のグラフィックデザインの様式をいち早く吸収していた早熟さが伺えますよね。ベン・シャーンやソウル・バスなどを連想させますが、例えば、同じような影響下で出てきた柳原良平さんの「アンクルトリス」は、この1年後に発表されるものなんですよね。
ー石岡さんの顔を見ることができるのは、最後の展示室に飾られている一枚の写真のみです。
声で強烈に気配を感じるので、最後に1枚だけ写真を展示しようと思いました。展示しているのは、ニューヨークの写真家ロバート・メイプルソープ(Robert Mapplethorpe)が撮影した写真なのですが、なぜか石岡さんはほとんど外に出したことがなかったんです。ベッドの下に大切に保管されていたらしく、ご本人にとって大事な写真であったことは間違いないと思うんですけどね。もしかしたらこの年に発表した彼女の作品集「Eiko by Eiko」に使用するために撮影したのかもしれません。でも、Eiko by Eikoで使用されたのは、写真家 操上和美さんが撮影した写真。ポケットに手を入れていて、とても強い女性に見えるんです。それに比べると、メイプルソープが撮影した写真は、優しいパーソナルなニュアンスがありますよね。もしかしたら彼女は、「今の自分にとって必要なのは、世の中に出ていくパブリックな強い女のイメージなのだ」と思ったのかもしれません。この展覧会では、石岡さんという一人の女性が、パブリックな作品の裏でどう戦ったのか、そのプロセスも含めて見せる展覧会。なので、「パーソナルな表情の彼女に最後に出会う」という構成にしました。すぐまた旅に出て行きそうないい表情ですよね。
ー来場者の層も幅広かったですね。
彼女に影響を受けた団塊の世代を中心的なターゲットにしつつ、これから何かを始めようとする若い人もたくさん来てくださっていることは本当に嬉しいです。やはり常に心がけているのは、これから何かを成し遂げたい人たちに向けて勇気付ける展覧会にしたいということ。若い人だけではなく、歳をとってなお革命的であり続けた彼女の仕事は、あらゆる年齢の人にとって希望でもあると思います。「ヘトヘトになったけど勇気をもらった」という、疲れと感動と衝撃をはらんだ感想をとても多くもらいます。「こんなにすごい人がいたんだ」という他人事ではなく、「とにかく自分に引き付けよう」と思っていただいたのは、自分が納得いくまで戦い抜いた人の人生が放つ、爽やかな感動のおかげだと思っています。
(聞き手:古堅明日香)
■石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか
会場:東京都現代美術館 企画展示室 1階/地下2階
会期:2020年11月14日(土)〜2021年2月14日(日)
休館日:月曜日(11月23日、2021年1月11日は開館)、11月24日(火)、12月28日(月)〜2021年1月1日(金)、1月12日(火)
時間:10:00〜18:00(入場は閉館の30分前まで)
料金:一般 1,800円、大学生・専門学校生・65歳以上 1,300円、中高生 700円、小学生以下無料
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