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デザイナーの多くが「クリエイティブディレクター」と名乗る理由は?

DIORのマリア・グラツィア・キウリはアーティスティックディレクターという肩書き(2020年2月、ショーのフィナーレにて)

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DIORのマリア・グラツィア・キウリはアーティスティックディレクターという肩書き(2020年2月、ショーのフィナーレにて)

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デザイナーの多くが「クリエイティブディレクター」と名乗る理由は?

DIORのマリア・グラツィア・キウリはアーティスティックディレクターという肩書き(2020年2月、ショーのフィナーレにて)

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 ファッションブランドでデザインを考え出すキーパーソンは一般に「デザイナー」と呼ばれます。しかし、近年は「クリエイティブディレクター」と名乗っているケースも珍しくありません。例えば、「グッチ(GUCCI)」でアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)氏はクリエイティブディレクターでした。一方、2018年から2021年まで「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」を手掛けた故・ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)氏の肩書きはメンズの「アーティスティックディレクター」となっていました。デザイナーとの違いはどこにあって、それぞれの肩書きはどのように意味が異なるのでしょう。(文・ファッションジャーナリスト 宮田理江)

 元々は「ファッションデザイナー」が基本の呼び名でした。1980年代までは文字通り、「ファッションアイテムをデザインする人」であり、主に期待されていた仕事は「デザイン」。90年代までにクリエイティブディレクターという呼び名そのものは登場していましたが、意味合いとしては旧来のデザイナーと大きな違いはなかったようです。

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 この肩書きに特別な重みを与えたのは、94年に「グッチ」のクリエイティブディレクターに就いたトム・フォード(Tom Ford)氏です。フォード氏は当時、厳しい状況に合った「グッチ」を立て直した手腕で知られています。この再建劇を成功させるにあたって、フォード氏はマーケティングや広告を含む、全般的なブランド事業を一手に引き受けました。

 それまでの職人的デザイナーは、主にアトリエで働き、業務の守備範囲は商品そのものとショー演出程度に限られていました。もちろん、自らの名前を冠したオーナーデザイナーは経営全般にタッチしていましたが、重心はあくまでもクリエイション。「ブランドの運営」と「デザインの現場」には、いくらか距離感がありました。とりわけ、外部から雇われたデザイナーは権限がデザイン現場に限られがちでした。

 しかし、フォード氏はブランドのイメージ戦略までをひっくるめて見直す権限を認められ、「グッチ」のラグジュアリー路線を主導。デザイン面ではそれまでよりもぐっと大人っぽく、適度にセクシーな女性像を打ち出しました。ブランドイメージを損なっていたライセンス事業を打ち切り、ラグジュアリー志向に舵を切って「グッチ」を現在の道に導きました。

イタリアの展示室に置かれたグッチのアイテムを着用したマネキン

イタリア・フィレンツェにあるミュージアム「グッチ ミュゼオ」のクリエーションに特化した展示室。

 この成功以降、有能なデザイナーに同様の働きを期待する流れが強まり、クリエイティブディレクターという肩書きが広まっていきました。現在の主要ブランドを見ても、「ジバンシィ(GIVENCHY)」「プラダ(PRADA)」「ロエベ(LOEWE)」など、多くのブランドで、クリエイティブディレクターの呼称が選ばれています。

 一方、アーティスティックディレクターと名乗っているのは、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)氏や、「ディオール(DIOR)」のマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)氏、「シャネル(CHANEL)のヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)氏など。「シャネル」では前任者の故・カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)氏もアーティスティックディレクターという肩書きでした。

 クリエイティブディレクターとアーティスティックディレクターのどちらを選ぶかは、本人の意向やブランド側の事情などで判断が分かれるようです。例えば、「ジバンシィ」では現在デザインチームを率いているマシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)はクリエイティブディレクターの表記が使われていますが、前任者のクレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)氏はアーティスティックディレクターと名乗っていました。クリエイティブディレクターという呼び方が当たり前になる中、同じイメージでくくられたくないという意識が働いたのかもしれません。

青いドレスを着用して水を張ったランウェイを歩くモデル

デムナ・ヴァザリアが手掛ける「バレンシアガ」がパリで行った20年ウィンターコレクション。水没しているランウェイをモデルが歩いた。

シャネルのスーツを着用して雪の降った街並みを再現したランウェイを歩くモデル

シャネルがパリのグラン・パレで発表した2019-20年秋冬コレクション。85歳で逝去したカール・ラガーフェルドが手掛けた最後のコレクションとなった。

 本人側の傾向を読み解くと、職人気質のデザイナーはアーティスティックディレクターを好むようにも見えます。例を挙げれば、「ランバン(LANVIN)」の復活を支えたアルベール・エルバス(Alber Elbaz)氏と、ユニクロと組んで「ユニクロ ユー(Uniqlo U)」を手がけているクリストフ・ルメール(Christophe Lemaire)氏の肩書きはいずれもアーティスティックディレクターです。フォード氏がそうだったように、クリエイティブディレクターにはビジネス面、とりわけマーケティングでの貢献が期待されます。クリエーションに集中したいタイプのデザイナーにとっては、あえてアーティスティックディレクターと名乗ることによって、自分の望む立ち位置を示す意味合いがあるようにも感じられます。

 クリエイティブディレクター以上に経営全般を取り仕切るイメージの肩書きとして「チーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)」があります。17年間にわたって「バーバリー(BURBERRY)」を支えたクリストファー・ベイリー(Christopher Bailey)氏の役職として、広く知られるようになりました。他にも「マイケル・コース コレクション(Michael Kors Collection)」のマイケル・コース(Michael Kors)氏が名乗っています。

クリストフ・ルメールが手掛ける「ユニクロ ユー」の展示会の様子

「ユニクロ ユー」は、「ラコステ」や「エルメス」といったブランドのアーティスティックディレクターを歴任してきたクリストフ・ルメールが手掛けている

 時代の変化を映すかのように、呼び名が変わってきたファッションデザイナーの肩書きですが、「クリエイティブディレクター全盛時代」がずっと続くわけでもなさそうです。ファッションとの向き合い方が様変わりする中、従来型のビジネス手法やトレンド提案では通用しない状況を迎えつつあります。デザイナーの役割が変われば、それにふさわしく、呼称も変わる可能性があるでしょう。

 「グッチ」の復活を実現したフォード氏のような次の成功者が現れれば、別の呼び名が出現することもありそうです。例えばファッションと消費者運動、意識変革などを組み合わせたオピニオンリーダーが登場したら、きっとクリエイティブディレクターの枠には収まらないはず。ビジネスのありようを書き換える取り組みも広がっている中、ファッションの今後を考えるうえでも「次の肩書きと役割」の出現に注目していきたいところです。

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