(左より)松井智則氏と齋藤精一氏
Image by: FASHIONSNAP
東京クリエイティブサロン(以下、TCS)は、地域や民間企業が連携して、ファッション、 アート、音楽、カルチャーを発信するプロジェクト。銀座・日本橋・丸の内・渋谷・原宿の5ヵ所で様々なプログラムを展開する。
今回は統合総括クリエイティブディレクターである齋藤精一氏(パノラマティクス主宰)とファッション統括ディレクターである松井智則氏(ワンオー代表取締役社長)が来年3月の開催に向け、東京を盛り上げる”秘策”について語り合った。
二人のキーパーソンが動き出した。齋藤氏は「六本木アートナイト」や「MEDIA AMBITION TOKYO」のメディアアートディレクターおよび大阪・関西万博のPLLクリエイターを務めており、市民を巻き込んだ都市イベントを成功させる手腕を持つ。松井氏はファッションから行政まで幅広いクライアントのブランディングやコンサルティングを担当。TCS期間内に開催される渋谷原宿ファッションフェスティバル(シブハラフェス)のプロデューサーも務めている。そんな二人から見た、今の東京とは?
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目次
■人の集まりも建築の一つ?
ー齋藤さんは多くの都市イベントに関わっておられますね。
齋藤精一氏(以下、齋藤):僕はもともと建築の出身で、コロンビア大学で学んでいたのがモルフォロジーという建築の形態学でした。その時の学科長が、パリのラ・ヴィレット公園を設計したベルナール・チュミという有名な建築家。彼が「人の動きから生まれるムーブメントは、建築に等しい」という考え方をしていたんです。要は、あまりハードウェアに依存するようなデザインではなく、人の集まりをデザインするというか。今、僕は行政のイベントや芸術祭を作ることもしていますけど、それは全てモルフォロジーから繋がっているんです。
ー都市の計画をする上で、どうやって街を分析しているんですか?
齋藤:最初はリサーチです。これまでの歴史と現在と、都市開発になると少し先の情報もあるじゃないですか。そういうデータも全部見ているんですけど、よくやっているのはフィールドワーク。つまり歩くことです。とはいえ今日、原宿には超久しぶりに来たんですけど、とんでもなく変わってますね(笑)。
松井智則氏(以下、松井):すごく変わりましたよ。キャットストリートとか歩いてみてください、テナントもだいぶ空いてるし。
齋藤:コロナの影響でだいぶ様相も変わちゃったんですよね。こういうのはたぶん店舗の稼働率を見ているだけじゃ分からない。「昔こうだったのに……」とか「ここ、古かったのにリノベーションされてる」というような情報は歩いて見て回らないと。
■「金太郎飴化」して、魅力を失った東京
ー松井さんは今の東京をどんなふうにご覧になっていますか?
松井:僕はもう20年住んでいるから飽きちゃっているだけかもしれないんですけど、今の東京に昔ほどのパワーは感じないんですよ。上京してきた時は、ファッションとかクリエイティブが東京の地場産業だと思っていました。でも今はパリもニューヨークも東京も、どこを切っても金太郎飴化していて……。
齋藤:僕も本当にそう思っています。
松井:先進国って建物も似ていますよね。だからさっきの建築の話とも繋がるんですが、大事なのは「誰が集まるか」ということ。「どういうエコシステムで、街のクリエイティブな人たちの中で新陳代謝が起こるか」を正常化していかないと、新しいものを生み出せないと思います。
齋藤:昔の東京って、ファッションの人たちはどういうところにいて、音楽の人はどういうところにいて、というのがけっこう分かりやすかったじゃないですか。今はどこもかしこも同じ施設を作って、街が同質化・均質化され、インテリア化しています。
松井:例えば大手セレクトショップに行きたいと思ったら丸の内にもあるし、渋谷にもある。街が均一化されてしまったら、やっぱりそういうカルチャーって各所から生まれづらいんですよね。業界の人からすると、丸の内で売っているものと渋谷で売っているものは、MD(商品開発や販売戦略)が違うというのはあるんですけど、一般の人は分からない。
ーTCSはそんな現状をどうやって変えていくのでしょうか?
齋藤:去年、TCSにお声がけいただいた時に「イベントをやることで、各エリアの役割分担がもう一度できるんじゃないか」と思ったんです。こんな東京全部を使ったイベントを民間団体で協力しあって実現するなんて本来あり得ないことですし、東京都も助成してくれているので、街の再定義はちゃんとしたいですね。でもそれってルールじゃなくて、そのエリアのノーム(規範)だと思っています。
松井:例えば渋谷だったらイノベーションブランドのデビューの場にしようとか、丸の内はインキュベーションにしようとか、今そういう割り振りを計画・実施しているところですね。今の時代感にあったBtoC(企業と消費者間の取引)のモデルで、ビジネスに貢献できる舞台を考えています。
齋藤:あと松井さんがよく言う「ニッパチ(全顧客の上位20%の顧客が売上げの80%を占める、2対8の法則)の2を今回はちゃんと狙っていこう」というところが僕はすごく大事かなと思っています。だから「たくさん来てください」というよりは、ちゃんと哲学が合う人に集まってもらうということが大事。僕が他でやっている芸術祭でも「モチベーションがない人は来ないでください」と思っているんです、濁ってしまうと思うので。
松井:ビジネスだけではなく、感性の2も大切にしたいです。消費するだけではなく何かを生み出すようなモチベーションや、何かトライしてみようという人たちが加わることで、足し算ではなく掛け算で物事が進化すると思いますし。
■これがラストチャンス、東京は沈みかけた船
TCSの開催エリアは丸の内、日本橋、銀座、渋谷、原宿。エリアイベントは三井不動産、三菱地所、全銀座会、東急が主催して行う。目指すのは「ミラノサローネ国際家具見本市」のようなデザインの祭典。ファッションを中心とした展示からスタートさせ、アートや建築、音楽や食文化に至るクリエイティブな活動へと成長させていくという。
ーTCSの舞台はどのような視点で選ばれたのでしょうか?
齋藤:まずTCSのコアエリアは、開催時期の3月に各エリアでアクションを起こしている人たちが賛同してくれたのがきっかけで決まりました。例えば渋谷は東急さんもあるし、Rakuten Fashion Week TOKYOも渋谷ファッションウィークもあります。何かアクションを起こすんだったら東急さんに話すと、渋谷をある程度は把握できるんですよ。
ー今後、開催場所が増える可能性も?
齋藤:増えていきます。今年も実際、その動きはあります。
松井:羽田空港は本決定ですね。
齋藤:TCSのエリアが広がると「クリエイティブにおいて多数者が関わると相乗効果と同時に相殺効果も生まれるのではないか」という議論も出てくると思いますけど、僕としては、塗れるものは一旦塗ってみる方がいいような気がしています。とにかく一度集まって、何ができるのかということをまず考えなきゃいけないと思うので。
松井:やっぱり広げ続けて、模索しなきゃいけないですね。
ーTCSでは2週間の期間、街全体がマーケットになることを目指しています。経済効果は?
齋藤:文化と経済の直接の相乗効果って、実はほとんどないんです。文化の経済効果なんてGDP(国内総生産)的に言うと、0コンマくらいのパーセンテージしかないんですが、それが周りまわって観光産業や文化の継承に繋がったりするんですよね。
松井:「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」さんも山形の地場産業を助けたりしていましたもんね。結果が出て初めて回顧的に理解できるわけですが。
齋藤:TCSでもエリアを広げて、どれだけの経済効果ができるのかを後々検証してみたいです。これだけ良いデザイナーがいるのに「別に東京でやっても話題にならないし」ということで、みんなまずは海外から発表していく。それってもう「沈没する船」のほか何物でもない状況だと思うんです。業界もリミットが迫ってる危機感があります。
松井:業界団体同士が手を組めばギリギリ回避できる瀬戸際です。なので同業種以外でも絶対に手を組むべき。そもそも共同体なわけですし、そこは話し合っていきたいですね。
齋藤:ファッションを専門外とする僕のような人間からすると、業界的におかしなことがすごくたくさんあって。「なんでこれとこれは別でやってるんですか? なんで時期を合わせないんですか?」とか。普段はみんなバラバラでいいと思うんですよ、ただ一年に一回くらいは合わせてもいいんじゃないのかな、と思っています。
松井:ちゃんとみんなの哲学が合えば、サクッと東京のスタイルが見つかって同じ方向を向けるような気がしますし。
齋藤:よく街作りで「(地域活性化に必要なのは)よそ者、若者、ばか者」と言うじゃないですか。それを特に「よそ者」の目で、東京内でも気づかせてあげるのがTCSの役割かな、と僕は思っています。
■戦争が始まった日に考えたこと
ーTCSで実現したいことは?
松井:究極的には「クリエイティブで日本国民の美意識を上げて世界平和に繋げる」ですかね。
齋藤:今回、「世界平和っていうのは、北極星としては絶対あるよね」みたいな話はしていましたね。もしかしたらコピーにも大きく「PEACE」というのが入るかもしれない。
松井:やっぱり僕は、デザイナーが何か自分たちの思いを訴えたいと思って作るものには未来とかパワーがあると思っているんです。それが何十年、この仕事をやってきた理由でもあり、今回のTCSでもそれを世の中に伝えたいという気持ちが強いです。幸せなことに今の日本は平和で、ファッションやクリエイティブ産業を楽しめる状態です。そうあり続けるために、一般の人も業界の人も未来に向けて努力しなくちゃいけないと思うんです。
齋藤:僕、ティム・インゴルドという人類学者が大好きで。半年前くらいに彼にインタビューさせてもらったのが、ちょうどウクライナにロシアが攻め入った日だったんです。朝、起きてテレビをつけたら戦争が始まっていた、そんな日に「今、世界に何が必要か?」と尋ねたら「カンバセーション」って言われたんです。
松井:会話が途絶えると、全部マイナスの方向にいきますよね。ただ、会話ができるような起点が、視覚的に存在するといいなと思います。
齋藤:なるほど。例えば今日、松井さんの付けているワッペンを「この人になら話しかけても大丈夫」という目印にするとかね。
松井:これに書いたらいいんですもんね、「ファッションが好き」とか「戦争反対」とか。「あいつ俺と同じだ」っていう人が分かったら、まず何を話せばいいか分かりやすいですよね。そういう人を捕まえて話をすればいいんです(笑)。
■ダフトパンクが和解のきっかけに
齋藤:そういえば僕、軽い自動車事故を起こしたことがあったんです。急ブレーキでフライドポテトが落ちて「うわっ」と思ったら前の車にコツンと当たってしまって。そうしたら、お兄さんが車から降りてきたんです。本来ならすぐ謝らなきゃいけないんですが、彼がダフトパンクのTシャツを着ていて、「ダフトパンク好きなんですか?」って思わずそれを突っ込んだんですよね(笑)。
松井:それは(笑)。
齋藤:そうしたら「大好きです」って答えてくれて。僕が製作した「au 4G LTE」のCMで彼らの曲「ワン・モア・タイム」を使っていたのもあって「へえ!」、「じゃあ、とりあえずお互いダフトパンクが好きだってことで…...」みたいな。許してもらいました(笑)。
松井:めちゃくちゃいい話じゃないですか(笑)。
齋藤:今、そんなアイコンがなくなった気がしているんです。それがないとやっぱりカンバセーションは生まれないじゃないですか。そういうきっかけをTCSでも作りたいなと思います。
■やる気スイッチで消費側から生産側へ
ーファッションやデザインに携わりたい若者は、どういう意識で動くべきでしょうか?
齋藤:オードリー・タンもよく言っているんですけど、今は「コンピテンシー」の時代。コンピテンシーって能力という意味なんですけど、つまり「やる気スイッチを押すか否か」ということですね。もし何かに関わりたいんだったら能動的に一歩踏み出せばどうにでもなるんです。例えばイベントに呼ばれていなくても、自分の作品を纏って行っちゃうとか(笑)。
松井:そういう人たちが参加できる場は作りたいですね。
齋藤:いつか公募もやりたいです。今はメディアも多いし、TCSみたいな機会も多いから、すぐ関われると思うんですよ。
松井:シブハラフェスのテーマは「ファッションウィークが街へ飛び出した」なので「めっちゃおしゃれして、東京という街のランウェイを楽しんでください!」って言いたいんですけど、なんか齋藤さんの後に話すと安っぽいな(笑)。
齋藤:いや、でもそういうことですよね。やっぱりみんなに消費側だけじゃなくて生産側にも回ってほしいなと思います。でもおしゃれって言われても、僕にはオプションがないかも......。みんなはそういう服を持っているのかもしれないけど。
松井:「今日はシャツのボタンを2個外してみよう」とかそういうのでいいんじゃないですか? ちょっとワル系で。
齋藤:どうしたんですか?ってみんなに言われそう(笑)。でもそれくらいのチャレンジが今の日本に必要なのかもですね。
■東京クリエイティブサロン:公式サイト
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