新しい生活様式はもはや日常へと移行しそれに伴い企業の舵取りも大きく変化している。ビジネスの拡大を見据えつつも、サステナブルな社会に向けた経営戦略も必須だ。FASHIONSNAPは経営展望を聞く「トップに聞く 2022」を今年も敢行。今年から加わるビューティは、若い世代が関心を寄せる「サステナビリティ」がテーマ。第9回は、SDGsの中でも環境問題に並び注目が集まる「ジェンダー平等の実現」に積極的に取り組むポーラの及川美紀代表取締役社長。大手化粧品企業初の女性社長であり、「ダイバーシティをいかに実践するかが私のライフワーク」と語る及川社長に、その現在地と未来に繋げる取り組みについて聞いた。
■及川美紀(ポーラ 代表取締役社長)
1991年にポーラ化粧品本舗(現株式会社ポーラ)入社。美容教育、営業推進業務、2009年より同社で商品企画部長を経て、2012年に執行役員、2014年に取締役に就任した。教育、マーケティング、商品企画、営業など化粧品事業のバリューチェーンをすべて経験し、2020年1月より現職。
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環境問題とダイバーシティは地続き、女性視点が重要
ーポーラでは2029年の創業100周年に向けた新サスティナビリティ方針の中で、環境負荷の削減などのほか、「ジェンダー平等の実現」にも力を入れています。
まずお話ししたいのは目まぐるしく変化する時代背景についてです。これまでは冷戦やテロといった国家間の争いが世界の危機として認識も教育もされてきましたが、時代を経て、環境破壊による気候変動や自然災害が地球の危機であり生命存続の危機へと変化しました。学校でもサステナビリティ教育がなされていますから、社会全体でSDGsへの関心が高まるのは当然で、企業としても対策を練らなければなりません。
弊社もサスティナビリティ推進室を設け、さまざまに取り組んでいます。私自身、サステナビリティについて企業の役職者の方々を含め多くの方と議論して思うのは、年代によって関心とコミットにギャップがあるということ。若年層は身近な危機として環境問題を捉えていますが、高度経済成長や大量消費・大量生産の時代を生き抜いてきた世代になると、どうしても自分ごとの課題よりもESG投資の視点が大きくなってしまう。
ーそのこととジェンダーは関係あるのでしょうか?
そうですね。こうした経験も経て、想像力や未来志向の面で女性の思考力は重要だと考えています。子どもに近い存在の母親は子どもがどれだけ学校でサステナビリティに触れているか知っています。また、まだまだ家事や育児は女性の負担が圧倒的で、ジェンダー平等などのSDGsの視点は女性の方が圧倒的に高い。ただ最近では産休・育休を取得する20〜30代の父親も増えており、その世代は比較的理解していると感じますが。こういったことから、企業が管理職や役員の女性比率を高めるのはサステナビリティの推進にも繋がると思っています。ですから、環境問題とダイバーシティは地続きの話なんです。
ー女性管理職の必要性について、及川社長ならではの視点でとても興味深いです。実際のポーラの女性管理職の比率はどうでしょうか?
統計を始めた2015年時点で女性管理職は29%強となっています。直近は管理職が30%、役員が40%です。管理職の比率が横ばいであることは課題だと感じています。
ー化粧品といった商材のため、比較的女性管理職が多い業界ではありますが、大手企業としては30%は高い数値ではないでしょうか?
当社は歴代の女性社員らが結果を残し、そのバトンを繋いできてくれたお陰だと思います。そして、その女性たちの可能性を無視しなかった男性社員らの存在も大きいです。みなさん知らないかもしれませんが、創業当時は販売員、ビューティーディレクターは男性だけでした。1937年にセールスマン募集の応募を見たひとりの女性が、「女性ではダメですか?」と扉を叩き、「やってみたら」と言った採用側の男性がいたんです。そこから女性が増えていったのですが、彼女たちの能力をポジティブに見極める柔軟な男性もいたからこそ、自然と女性管理職比率もこの数字になっていったんだと思います。
ー男性の意識も大きそうです。
そうですね。ダイバーシティとは同質性の打破でもあると思っています。男性と女性を同じ物差しで測るのではなく、得意技の個性をしっかり見るようにする。私が平社員だった頃、当時の社長が「女性には壁を壊す力がある、だから男性は壊れた壁を片付けるために、ほうきとちりとりを持って付いていけばいい」と。女性の現状を壊して新たなアイデアを生み出す力と男性の構築力があってこそ、力のある組織にできるのだと言いました。それぞれの得意技を見極めなければ、ダイバーシティ・インクルーシブな社会は到底実現できません。だからこそ、当社ではまず男女比の不均衡を正そうと進めています。
アンコンシャス・バイアスを可視化 ”思いやり”による昇進機会の消失にも対処
ー新サスティナビリティ方針の中では、「女性管理職比率を総合職従業員の男女比率と同等にする」と掲げていますね。
先ほども言いましたが、女性の管理職比率が近年30%前後で横ばいなのが課題です。なぜなら現状、採用の時点では男女半々であり、ならば管理職比率も50%が自然の摂理なはずだからです。現状、総合職の男女比は半々で、このバランスが整ったことで「女性だからポジションを与える」のではなく「〇〇さんだから任せたい」というふうに、自然と個人の力を評価するようになってきます。総合職でそうなのですから、管理職についても平等にすることによって、ダイバーシティ社会の実現につながると思います。
ー課題の解決策として、単純に女性管理職比率を上げると「むしろ女性に下駄を履かせているのでは」という声が上がりませんか?
パーセンテージで話すとそういう風に見えるかもしれません。例えば、当社で役職候補のリストを男性上司が作成した時に、リスト内の女性が著しく少ないことがあります。理由を聞くと、「女性も優秀な人はいるけど出産を控えているから」というように、結婚、出産、育児などを理由にリスト漏れしているケースがあります。思いやりにも見えますが、これは昇進機会における「アンコンシャス・バイアス」(無意識の偏見)なんです。
ーそこにはどのように対応しますか?
当社では人事部が全部署のリストに目を通して、不均衡を確認します。役職候補になると、試験を受ける1年前にアセスメントを受けるのですぐさま課長・部長になるわけではないんです。人事が介入して作成者にヒアリングすると、やはり”思いやり”によってアセスメントから除外されている人がいる。リストにすら入れないというところにアンコンシャス・バイアスが働いている。その”思いやり”は会社の制度やチームでいくらでもサポートできるから、まずはリスト作成でバイアスをかけるのを止めましょうと、地道に声をかけていっているところです。さらに言うと、チーム風土の恩恵を受けるのは女性だけではないんです。例えば、突然病気になった男性、または配偶者や家族が病気になった男性が、仕事を任せないといけないことがあるかもしれない。そうなった時に、本人の能力に関係がない要素によって可能性に蓋をしないような評価風土を作るということなんです。
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