FASHIONSNAPの新春恒例企画「トップに聞く 2024」。2本目は、「ジェラート ピケ(gelato pique)」「スナイデル(SNIDEL)」「セルフォード(CELFORD)」などのブランドを展開するマッシュホールディングスの近藤広幸社長。「2027年までの上場」を目標に掲げる同社は、2023年8月期もグループ連結で増収増益を記録した。「過去10年で最も成長したアパレル企業の一つ」と言われる企業のトップが描く未来予想図は?
■近藤広幸
1975年生まれ。バンタンデザイン研究所卒業後、建築デザイナーを経て、1998年にCGグラフィックの制作を手掛けるスタジオ・マッシュを設立。1999年に株式会社マッシュスタイルラボに社名変更。2005年からファッション事業に参入し、「スナイデル」などの展開を開始。2012年にマッシュホールディングスを設立。ビューティ、フード、直近では不動産、ライセンスなど幅広い事業を展開している。
目次
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これまでの種蒔きが実を結んだ2023年
ー2023年はどんな一年でしたか?
色々なことを「整えた」一年でした。コロナ禍を人海戦術でなんとか乗り切ることができましたが、社員にかなり負担がかかってしまった。これまでの働き方にきちんと戻していくことも急務でしたし、国内事業の立て直しに追われて海外事業が少し手薄になってしまった側面もあったので、海外をこれから伸ばしていくための準備も進めました。
―足元の商況について教えてください。
2023年8月期通期はグループ連結の売上高でいくと、前期比111%増。国内、海外ともに増収増益です。「ジェラート ピケ(gelato pique)」が同6%増、「スナイデル(SNIDEL)」が同3%増、「ミラ オーウェン(Mila Owen)」が同22%増など、主力ブランドが全て前年を大きく上回りました。
ー多くの企業でイノベーションは必須課題ですが、2023年のイノベーションについて教えてください。
イノベーションに関しては本格的に進めたのが2021、2022年で、今年はその結果として世界で唯一の「セサミストリート(Sesame Street)」オフィシャルストア「セサミストリートマーケット(SESAME STREET MARKET)」のオープンや新ブランド「ミュシャ(MUCHA)」のデビューなどが続きました。もちろん既存ブランドの強化も並行して進めていますが、今年はメンズ事業とライセンス事業の成長、新ブランドの構築が大きく寄与して、好調に繋がったのかなと思います。
ーこれまで蒔いてきた種が芽を出して、成果として表れてきた。
そうですね。ほかにも海外事業で最も店舗数が多い中国では、コロナ禍の影響で成長が止まり、3年にわたって停滞していたことが大きな課題だったため、現地の社長を採用して中国に駐在させ、意思決定のスピードを上げるという改革を2023年で完了させました。
「ブランドを骨太に育てる」コラボレーションの意義とは
ー展開ブランドで今期一番売上額が大きかったのは?
ジェラート ピケですね。
ー今年も多くのトピックがありましたね。ジェラート ピケ好調の要因は?
コラボレーション、カテゴリーブランド、既存のレギュラー商品といった3本の軸でバランスよく売上を獲得できたことかなと思います。特にカテゴリーブランドでは、「ジェラート ピケ スリープ(gelato pique Sleep)」が前期比15%増、「ジェラート ピケ キャット&ドッグ(GELATO PIQUE CAT&DOG)」に至っては同695%の大幅増(2022年8月スタートのため1ヶ月間の売上比)と大きく売上を伸ばしました。
また、ジェラート ピケは2022年8月期のコラボ実績が非常に好調で60億円を超える売上があったんですが、2023年8月期でも果敢に様々なブランド・コンテンツとのコラボに挑戦し、前期と比べて遜色ない売上を達成できたことも大きかったと思います。
ー9月に発売した「ポケモンスリープ(Pokémon Sleep)」とのコラボアイテムは大きな注目を集めました。
ポケモンコラボは大成功と言って良いでしょうね。ただ、コラボで毎回大きな売上を達成しなければ、と数字にとらわれることはないようにしたい。2023年8月期ではジェラート ピケ全体で売上高300億円を超えましたし、今後は内容をブラッシュアップして更に良くしていくフェーズに入っていくのかなと思います。
ーファッション業界全体を見てもコラボは活発に行われています。一方で「コラボ万歳」といった現状に異を唱える声もありますが、近藤社長のコラボに対する考えを聞かせてください。
あまり難しくは考えていないんですが、お客様に「このブランドは精力的に活動しているよ」というお便りを届けるためには非常に有効だと思います。売上や顧客を増やす目的だけでコラボを連発していたら賛否両論はあるかもしれないですけど、コラボには協業先の良いところを吸収し学ばせてもらったり、新たな気づきを得られるといったメリットもありますから。自分のブランドが骨太に成長する一助になるなら、コラボというだけで一概に悪とは言えないと思います。一度きりのコラボではなく継続的に実施し、互いに学び合うことでブランドが強くなっていく、というのが私の考えです。
2年以内に売上高100億円へ、メンズ事業飛躍のカギは?
ー「将来的に事業単体で売上高100億円を目指す」と話していたメンズ事業について、現在の進捗を教えてください。
2022年8月期では売上高42億円でしたが、2023年8月期では72億円と、かなりのペースで売上を伸ばしています。ライセンス事業でバブアーを始めたのも非常に大きかったですね。バブアーを抜かして純粋な自社ブランドだけで見ても55億円と、業績は右肩上がりです。
ー目標としている売上高100億円の達成時期は?
2年以内には達成できると見ています。特に2022年に立ち上げた「アウール(AOURE)」の成長がめざましいですね。「マルペンサ(MALPENSA)」というヒット商品が誕生したことで、前年比345%増と大きく売上を伸ばしています。
ーメンズブランドを更に飛躍させるためのカギは?
近年はこれまでと比べても「良い物でないと売れないし、売りたくない」時代になってきていると考えていて。結局企画力を向上させて、お客様に良い物を届けることが一番の近道なんじゃないかと思います。
ー企画力といえば、アウールのマルペンサがジェットセッターをペルソナに設定して好調という話もありました。
企画力というのは、半分反省なんですよね。例えばマルペンサでは、足回りがしっかりとしたラグビー部の人が穿けないというご意見を受けて裾幅がワイドな物を出してみたり。こちらが良い物だと自信を持って売り出した商品でも、お客様から見ると改善点があるかもしれない。意見を真摯に受け止めて反省し、アップデートに活かすということが本当に大事です。そうすることでメンズブランドに限らず、まだまだ成長すると思いますね。
ー横ばいで推移していたビューティ事業の商況について聞かせてください。
売上高は166億円で、前期比6%増と増収でしたが、まだまだ胸を張れるほどではありません。とはいえ、2023年は準備の年だと考えていたので、成果が目に見えてくるのは2024年、2025年。この2年が勝負だと考えています。
ー4月にはマッシュビューティラボの新社長にジェラート ピケの元責任者 豊山ヤム(YAMU)陽子氏が就任しました。
結局企業は人ありきですから。トップが変わったことで、来年以降会社は変わっていくでしょうね。過去10年で最も成長したアパレル企業の一つと言われているマッシュスタイルラボの重役がトップの座に就くというのは、それだけで大きな意味を持つと思います。
ー去年のインタビューでは、ビューティ事業の業績について「大反省」と話していましたが、今年は?
全体的に反省を活かした取り組みはできていたと思います。例えば展示会で言えば、去年は季節や時代の変化に伴い移り変わるお客様の買い物モチベーションに対応する臨機応変さが足りなかったなと。その反省を踏まえて、2023年はアイテム構成や見せ方を再考しました。もちろんそれらが店頭に並ぶのは年末くらいなのでいきなり結果につながるわけではないですが、来年の業績が楽しみではありますね。
ービューティ事業の課題は?
お客様のライフスタイルを想像して、どうすれば喜んでいただけるかを真剣に考えることですね。我々の業態はいわゆるセレクトなので、良いと思う物を見つければ、短期間でお客様にハッピーを届けることが可能です。ネットで調べればヒットするような物を買い付けても仕方がないので、お客様のニーズを考察して、より価値のあるセレクトを追求したいと思います。
少子高齢化進むも...キッズ&ベビー事業が秘める可能性
ー2022年の時点で、3〜5年以内に上場とおっしゃっていました。
会社としては、2027年までの上場を目指して動いています。現時点であまりお伝えできることはありませんが、当初の計画に対して、順調に推移していますね。
ー米投資ファンドのベインキャピタルとタッグを組んで1年がたちました。
元々上場までという条件付きの超短期集中のパートナーシップなのですが、現状はメリットだらけです。数字の分析や、上場に向けてのおびただしい量の業務を手伝ってくれるのもそうですし、今のマッシュに足りない人材をベインキャピタルの人脈を駆使して探してくれるのも非常に助かっています。
ー全社としての課題は?
価格に対する企業努力の部分ですね。どの企業もそうですが、為替や原材料の高騰の影響で価格改定を余儀なくされています。とはいえ、品質の向上がなくただ値上げしてもお客様は納得してくれません。付加価値をつけ、価格と品質の折り合いをつけていくことが今後の課題です。
ー中長期のヴィジョンを教えてください。
あまり長いスパンで物事を考えることはしないのですが、3年後くらいまでの展望で言うと、メンズ事業・ライセンス事業・キッズ&ベビー事業の3つを売上高100億円規模まで成長させたい。特にキッズ&ベビー事業に関しては、2023年8月期時点で29億円なのでまだまだではあるのですが、メンズ事業のようにきちんと担当部署を設けて、2024年から本格的に展開を加速させる予定です。
ー少子高齢化の進行など、キッズ&ベビー事業を取り巻く環境は向かい風とも言えそうですが。
もちろんすごくやりやすい環境かと言えばそうではないですが、1000億円の売上を作ろうとしている訳ではなく、100億円なので。十分現実的な目標だと思っています。そして100億円規模まで成長できたら、海外にも出店できるかもしれない。出生率が依然として高いフィリピンやインドネシアでは重衣料は厳しいですが、キッズ&ベビーはカットソーなどの割合が高いカテゴリーなので勝負できると見ています。
ー最後に、2024年の展望は?
インタビューの冒頭でも少し触れましたが、海外事業が本格的に成長する一年になります。2023年8月期の海外売上高は109億円ですが、2024年の予算は25%増の136億円。まずは「在庫を確保する」「店舗の美化に努める」「優秀なスタッフを集める」といった当たり前のことを一生懸命やっていきます。また、広告もしっかり打ち出して日本に負けないコラボ売上を積み上げたい。改善できるところは徹底的に改善して、足早に海外売上高200億円を達成したいですね。
(聞き手:村田太一、福崎明子)
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