3年ぶりに開催された世界最大級の音楽フェス「コーチェラ・フェスティバル(Coachella Festival)」。2日目には、きゃりーぱみゅぱみゅがGOBIステージのトリを飾り、会場を大いに沸かせた。数少ない日本人アーティストとして出演したきゃりーぱみゅぱみゅは、YouTubeで行われたライブ配信では、世界中から多くのチャットコメントが寄せられるなど注目を集め、中でも話題をさらったライブ衣装は、「ミキオサカベ(MIKIO SAKABE)」のデザイナー坂部三樹郎が担当。星が付いたショッキングピンクの衣装にはどんな想いを込めたのか?ジャパンカルチャーの象徴として世界で評価されるきゃりーぱみゅぱみゅと、坂部三樹郎に話を聞いた。
衣装デザインの着想源は「ファンタジーの入口」
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ーお二人の出会いは?
きゃりー:高校生の頃から「ミキオサカベ」のファンで、いつか衣装でご一緒できたらと思っていました。今回コーチェラへの出演が決まった時に、すぐにミキオさんにお願いしたいと考え、オファーさせていただきました。
坂部:着用してもらっていることはSNSなどを通じて知っていましたが、ちゃんと仕事をするのは今回が初めてでしたね。
ーオファーはいつ頃?
きゃりー:コーチェラ開催の1ヶ月前です。というのも今回コーチェラが3年ぶりの開催で、やるかやらないかも本当ギリギリまでわからない状況で。出演者も突如発表され、そこから衣装制作に取り組んだので、本当に時間がない中で考えていただきました。
坂部:トラブルが起きたら終わりというくらい時間がなくて(笑)。でも、きゃりーさんは自分のイメージをしっかり持っていたので、スムーズに話が進んでやりやすかったです。
ーデザインの着想源は?
坂部:「ファンタジーの入口は睡眠」という話からです。現実世界から夢の世界に入る入口をちゃんと作ると、ファンタジーってすごく魅力的になると昔から思っていて、そこから星や夜といったイメージへ繋がっていきました。
ー実際に着用されてみていかがでしたか?
きゃりー:見た目にボリュームがすごくあったので、最初は重いのかなと思ったんですけど、そこはしっかりフィッティングで調整していただいて、当日も何の問題もなく踊ることができました。衣装の中ではやりたいことを詰め込みすぎて、ステージでは我慢しなきゃいけないということも正直あったりするのですが、この衣装はノンストレスで「グラウンズ(grounds)」の靴も踊りやすかったです。
あと、コロナの影響で衣装を早めに輸送できなくて、キャリーケースで運ぶ必要がありました。そのため、どうやって詰めるかとか、星がどういう風に分解できるかとか、そういったことも一緒に考えました。
坂部:大きくて持ち運びやすいっていう、2つの側面を両立させることが1番のミッションでしたね。試行錯誤の結果、とても持ち運びやすいデザインに仕上がりました。
きゃりー:でもトイレが超大変で(笑)。
坂部:そもそもトイレに入れたんですね(笑)。
きゃりー:ギリギリ(笑)。でも会場のお客さんや演者さんはセクシーな服装の方が多くて、ここまでポップだったり可愛らしいっていう衣装の方は誰もいなかったので、いい意味で目立たせてくれました。
今回時間もヘッドライナーの裏かぶりで不安もあったんですけど、音と光とこの衣装のおかげだと思うんですが、人がどんどん集まってきて。オーロラみたいにライトアップされてとても綺麗なステージになったんです。
坂部:ライトが強いからそれでどう衣装が見えるかというのは、打ち合わせでも話していて。光を意識した生地選びをしましたね。
ー素材はポリエステルですか?
坂部:はい。加工したポリエステルで、光が当たるとどういう素材かが分かりにくくなるんですが、そこもファンタジーみたいでいいなと。ただ、これ縫製が失敗できない繊細な素材で。アイロンをかけられないし、穴が空いたら終わりという(笑)。
ー2週目のステージはダンサーさんの体調不良により急遽1人でのパフォーマンスに。その時衣装に励まされたと。
きゃりー:本当に心細かったので、とても励まされました。ステージの背後にも配信用のカメラがあって、終わってから映像を見たんですが星の力強さやパワーを感じることができました。タイトな衣装だったらきっと寂しい印象になっていたと思うし、やっぱこのボリュームと輝きがあってこそ頑張れたステージでしたね。
年齢によって変わらない少女心を表現する「ミキオサカベ」
ーきゃりーさんはミキオサカベのデザインのどういったところが好きなんですか?
きゃりー:少女らしさもありながら、でも子どもすぎないちょうど良いバランスですね。
坂部:少女らしさのある服ってパッと見たら若い子しか着ないと思う人もいると思うんですけど、女の人っておばあちゃんになっても少女心があるんじゃないか。年齢によって変わらない少女心の面白さは、デザインにいつも入れるよう心がけているので、そこでバランスがとれているのかもしれません。
きゃりー:最初にミキオさんと打ち合わせしたときに「原宿や原宿ガールは若い」という印象をみんな持っているし、きゃりーぱみゅぱみゅは「ツインテールでペロペロキャンディを持ってる」みたいなイメージだと。でも自分たちが挑戦したいのは、29歳になった「今のきゃりーぱみゅぱみゅの衣装を作りたい」ということだったんです。あの絶妙なバランス感はミキオさんにしか出せないものだし、そこがすごく好きです。
坂部:きゃりーさんも大人になるステップの変化に面白さを感じているんじゃないですかね。Hanako.tokyoで書いているコラム(大人なLADYになるわよコラム)もそうですし。
国外から見るジャパニーズカルチャーの可能性
ー原宿カルチャーの盛り上がりも、コロナの影響もあり近年は落ち着きを見せています。その辺をどう捉えていますか?
きゃりー:やっぱり原宿の町を歩いててもずっと通っていたお店がなくなったりと、ショックを受けることが最近は多いです。私は原宿という街に出会ってファッションだったり、生き方を教えてもらったので、コーチェラで原宿に恩返しできたらいいなと思って「原宿いやほい」という曲を歌いました。
坂部:でもグローバルで見たら、原宿が下火だという見方はないと思うんですよね。日本のファッションの象徴といえばやっぱり原宿で、そこを日本人は自覚した方がいい。結局日本のドメスティックで人気を得ることと、グローバルで人気を得ることって全然違うと思っていて。きゃりーさんは、海外の人から日本の象徴として扱われる数少ないアーティストなので、素直にすごいなと思います。
ー坂部さんのクリエイションにも日本的な要素がよく見れらます。
坂部:そこはずっと興味があります。海外では存在しない未成熟さのバリエーションが日本には多く、あらゆるものがプロフェッショナリズムではなくアマチュアリズムの延長にあるものなんですよね。完璧さを求めてない「隙」が日本っぽさで、そこは世界にも通用する面白さだと考えています。例を挙げると、K-POPなんかはめちゃくちゃプロフェッショナルを追求していますけど、日本は本質的にはおそらくそっちじゃない。未成熟さにこそ魅力を感じるのが日本で、それで言うとまだまだこの国のカルチャーには面白いところがいっぱいあるんじゃないかと。
きゃりー:私もライブの構成とかミュージックビデオで、ただかわいいだけじゃなくて、ちょっと変なもの入れたり、ちょっとグロいもの入れたりしています。ミキオさんの言う「完璧じゃない」ことを色々やっているのかもしれないなとふと思いました(笑)。
ー今後は国内フェスの出演も予定されているとのことで、またこの衣装がみられる機会はありますか?
きゃりー:今色々考えているところです。ありがたいことに、ファンの方から「展示してほしい」といったリクエストも頂いているので、どうにかしてまたお披露目できる機会が作れればと考えています。
坂部:2週目のステージを見ていて、きゃりーさんの心というか、そういう内面の部分までもが表現として現れているのがとても良かった。1人のステージで不安がある中、それでも楽しくやろうっていう思いがとても伝わってきて。
きゃりー:アメリカのお客さんはノリが良くて、声援ももらえたからこそ頑張れたステージでした。終わった後は、達成感なのか手足が震えてきちゃって。涙も出てきて、人間の限界というものを感じました(笑)。PCR検査を受けて陰性だったんですけど、実は帰国してからも1週間くらい体調崩してたんですよ。本当に極限状況だったんだなって。
坂部:心が動かされる瞬間って、そういうことなんだと思います。YouTubeでもそれを感じられたので、現場にいた人たちはものすごく感動したんじゃないですかね。可愛さだけではなく、強さみたいなものが伝わってきましたから。
きゃりー:確かに「可愛い」より「カッコ良かった」という声が多かったですね。
坂部:実際盛り上がっていましたね。拠点を移して活動した方がいいんじゃないかと思うくらい(笑)。その方が、日本人アーティストの活動としても新しいし、是非挑戦して欲しいなと思います。
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