Image by: FASHIONSNAP
「リトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)」、ファッションスクール「ここのがっこう」を運営する山縣良和に「あ、久しぶりに出てきたな、やっぱり日本って脈絡なく突然変異的にファッションを楽しむ人が出てくるんだな」と再認識させたのは、カオス・ゾルディックという1人の女の子だった。中野ブロードウェイでスナップ撮影をされた彼女はウサギの耳に、真っ青な髪の毛、目の周りを赤く縁取ったメイクで異様な雰囲気を漂わせていた。
彼女は、「東京サイコパス」という最“狂”パンクアイドルという顔を持つ一方、文化服装学院に通っていた刺繍作家でもあり、元々は看護師として働いていた特殊な経歴を持つ。見た目やSNSでの過激な発言からは想像がつかないほど明晰に、現在の自分と過去、ファッションを語る彼女に「正直、優しい声と喋り口で驚いています」と打ち明けたところ「よく言われます。元々看護師というのもあるし、一応長女だから。営業妨害発言だけど、根が真面目で素直なんです」と笑いながら答え、「学級委員とかをやるタイプだったし、全国2位の合唱部で副部長だったし、勉強もそれなりに出来る方だったんですよ」と教えてくれた。
■カオス・ゾルディック
1994年11月生まれ。数年勤めていた正看護師を辞め、リュック一つで家出。上京後、文化服装学院に通いながら独学の手刺繍作家として活動を始める。2022年3月に「ペイデフェ(pays des fées)」2022年秋冬コレクションでコラボ作品を発表。2022年6月には、造形作家の糖衣華とブランド「妙珍奇凛(ミョウチキリン)」を立ち上げた。
公式インスタグラム/公式ツイッター
■東京サイコパス
「令和のパンクアイコン」を作ると称して行われたオーディションで選ばれた4人による、皆殺しPプロデュースの最狂パンクアイドル。メンバーは、カオス・ゾルディック、白亜御前、女郎蜘蛛、をに@ぐんそー。全員がタトゥー入り、喫煙者、ピアス、派手髪、独自の強烈なファッションセンスの持ち主で、従来のアイドルとは一線を画すアイドルとして活動している。
公式サイト
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ーカオス・ゾルディックという名前は、自分でつけたんですか?
そうです。混沌とした日々で、1週間先の人生もどうなるかわからない。良いことも、悪いことも同時に起こるので「カオスちゃん」と自然に名乗っていた気がします。「ゾルディック」というのは、漫画「ハンター×ハンター(HUNTER×HUNTER)」から拝借しました。家出をして上京した年に、1人で年越しを迎えた時に読んでいたのがハンター×ハンターで、キルア・ゾルディック※が自分の育った環境下に似ているな、と感じたことから厨二心で勝手に一員になっています(笑)。
※キルア・ゾルデック:冨樫義博の漫画「HUNTER×HUNTER」に登場する架空のキャラクター。暗殺者一家の三男で、ゾルディック家の後継者として認められているが、キルアは家族に対し、母を鬱陶しく感じ、長男に畏怖の感情を抱き、次男を軽蔑し、妹を愛し、祖父には甘え、父を尊敬している。
ー今日は私服で来てもらいました。自分のスタイリングにこだわりは?
今は、安く、たくさんの服をどこでも買えると思うんですけど、個人的には、人がちゃんと愛を持って作っていたり、物語のある服を着たいんですよね。例えば今日着てきたアウターは、友だちが私のために選んでくれたモッズコート。帽子は作家の友人が作ってくれたものです。
ーメイクも気になります。
意外に思われるんですけど、15分くらいで終わるんです。私にとって白マスカラは必須で、人間ならざるものになる感じが好き。でも最近、巷で流行ってきている気がしていて少し気持ちが萎えています(笑)。だから、今は違うメイクを模索中。
ー自身にとってのファッションアイコンは?
「系統」で括られるのも好きじゃないし、「誰かに似ているね」と言われることも二番煎じみたいですごく嫌なんです。だから、参考にしている人はいないけど、ブライスドールやリビングデッド・ドールズなどの人形に影響は受けているかも。
ー今のスタイルが確立されたのは?
2年前ですかね。当時はしんどいことが重なって、人格崩壊したというか「誰にもわかってたまるか、話しかけてくるな」という気持ちでした。毒蛇や毒蛙のように有害な動物って、派手じゃないですか。だから自分もその類になれば、みんな危険だと思って放っといてくれるかなと思ったんですけど、逆に放っておかれなくなっちゃって今に至ります(笑)。
ーしんどかったこと、というのを具体的に教えてもらうことはできますか?
簡単に言えば家庭崩壊ですね。妹は引きこもりになっちゃって。私も同世代のみんなより早く就職したので、友人と連絡もあんまり取れなかったし。孤独でしたね。そんな中で、大好きだったおばあちゃんを亡くしたりして。本当に“カオス”でした。
ー上京する前までは地元で看護師をやっていた?
はい。2年半くらい働いて、学費を貯めつつ勝手に自己推薦で受験をして、家出同然で文化服装学院の夜間部に入学しました。親の理想や期待を投げ捨て、友だちにも何も言わず、平成最後の冬にリュック一つで上京しました。
ーなぜ、看護師を辞めて文化服装学院に進学しようと思ったんですか?
妹のこともあったから、引きこもりの女の子が外に出たいと思えるような服を作りたいな、と。元々服飾学校や、美大には興味があったし、この際、親の理想や期待を全部投げ捨てたくなったというか。極論、人生をリセットしたくなったんだと思います。でも、意を決して上京したはずなのに罪悪感もあって。上京したてほやほやの時は、虚無感の塊で抜け殻みたいだったと思います。
ー世の中には様々なジャンルがありますが、自分のスタイリングにあえて名前をつけるとしたらどうしますか?
リビングデッド系ですかね。生きた死体というか、 一旦「看護師」という生きるべき道を外してから、このスタイルに行き着いたので。
ーインスタグラムのプロフィール欄には「毎日写実化」と書いてあります。
毎日、「自分」という存在でいたいんです。だからバービー人形のように着せ替えたとしても、それは「カオス・ゾルディック」に変わりがない。そういう意味では、実写化しているようなものかな、と思っています。
ーカオスさんにとってファッションというのはどういう役割がありますか?
呼吸するための膜。装っていることで人と対話ができるというか、自分の装いである種の選別をしているんでしょうね。「こんな見た目ですけど、関わりますか?関わりませんか?」と。基本的に世の中に対して喧嘩腰なんだと思います(笑)。
ー「誰にもわかってたまるか、話しかけてくるな」と思っていたはずなのに、常に誰かから注目をされているようにも見えます。
恥ずかしいんですけど、放っておいといて欲しい割に、見つけてもらえるとやっぱり嬉しい。話は少し脱線するんですけど、私はティックトック(TikTok)とか、所謂“バズる”ツールを使っていないんです。だから「そんな中で私を見つけてくれてありがとうございます」という気持ちになるんですよね。
ーインスタグラムアカウントの投稿もどちらかといえば日記っぽい印象を受けます。
見た目のせいで信じてもらえないかもしれないけど、別に「目立ちたい」と思って生きてないし、「見られたいから」と言う理由でオシャレをしているわけでもないんです。今のSNS時代はそれが逆転していて「バズりたいから、派手で少し変な服を着る」という風潮があるけど、私は「好きでやっているから、見たいならどうぞ」というスタンスです。多分、この考えは、私が「ジッパー(Zipper)」「フルーツ(FRUiTS)」などのストリートスナップ全盛期の高揚感を知っているから。雑誌に掲載されている人たちは、おそらく、目立ちたくてあの格好で街を歩いていたわけではなくて、偶然見つかって、写真を撮られていたと思うんですよね。
ーカオスさんには、刺繍作家としての側面もあります。
看護師の時から、言葉にできない感情や人間関係の逃げ場として刺繍をしていました。同級生よりも早く就職したし、秘匿義務があったから、仕事の話を相談できるような友人もいない。おまけに、家に帰ると自分の部屋まで家族が喧嘩している声が聞こえてくる。だから、イヤホンで好きな音楽を聞きながら、「縫う」という作業であれこれ考えてしまう気持ちを昇華させていました。
カオス・ゾルディックが看護師時代に制作していた刺繍作品
ーでは、文化服装学院の夜間部に入学する前から刺繍は経験していて、その技術は独学だった?
そうです。でも、現実逃避の回数=刺繍作品なのでかなりの作品数にもなっていたし、クオリティもどんどん上がって(笑)。「ネット販売してみませんか?」と声をかけていただく機会に恵まれました。今でも時々、デザイナーの朝藤りむさんが手掛ける「ペイデフェ(pays des fées)」のコレクションをお手伝いしたり、バンドの衣装を提供させていただいたり、ラフォーレ原宿で展示販売をしたりと製作活動は続けています。
ーインスタグラムのフィード投稿でピン留めされている作品は一際目を引き、額縁に模られた自分の顔は禍々しくもある一方で、祭壇のようだなとも感じます。
あれ3日で縫ったんですよ(笑)。製作背景も恥ずかしいといえば恥ずかしくて、「これからもずっと一緒かな?」と思っていた人と別れて、泣き腫らしていた時に友人が「今のその顔、模った方がいいよ」と提案してくれたことがきっかけです。数日後に自分の誕生日だったこともあり、今までの過去も全て埋葬するような気持ちでシリコンに顔を浸し、新しい自分を迎えに行く気持ちで今までに作った刺繍作品や、看護師時代の葛藤、「当時、本当はこういうことがしたかったのに我慢していたんだぞ」という気持ちや思い出を全て縫い付けたので「禍々しい祭壇」というのはあながち間違っていないです。
現に、あの作品が完成したら憑き物が落ちたと言うか、妙にスッキリした自分もいて。なぜなら、それまではどこか「自分の辛い思い出を呼び起こして縫う」「抉り出したものを縫い付ける」という作業だったんです。でも、それを一生やり続けるか、と問われたらそれは自傷行為に近いですよね。もう、そういうことはしなくてもいいくらい、この作品には全てを詰め込めました。だから、この作品を作って以来、生まれ変わったような気持ちなんです。それで「ここが人生の区切りかも。製作してスッキリもしたし、髪もいっとくか」というノリで髪の毛も剃りました。「尼さん?」「出家?」と言われましたけど、それくらい気持ちもリセットしているから、これも例えとしては間違っていないですね(笑)。
ーカオスさんは完全受注制のアクセサリーブランド「妙珍奇凛(ミョウチキリン)」も手掛けています。
糖衣華ちゃんという造形作家の友人と一緒に運営していて、本格的に活動し始めたのは1年ほど前から。奇妙で可愛い、あるようでなかった一点物にこだわってひとつひとつ手作りで作っています。華ちゃんの作る造形と、私の装飾の相性が良くて。おかしな例え話ですが「お互いの癖のぶつかり稽古」の結晶が妙珍奇凛だと思っています(笑)。
ー作品やアイテムを作る上で意識していることはありますか?
綺麗、気持ち悪い、グロい、可愛い、カッコいい、ダサいは全部紙一重だと思っているんです。それでも、見ず知らずの通行人を5秒止めることができたら一流だ、というのが持論です。それくらいインパクトのあるものってなんだろうというのは常に考えています。あとは、黒色を使わずに、絶望や苦悩を表現して、誰かの御守りになればいいなと思っています。お母さんが縫って作ってくれた、ボロボロの体育着入れやぬいぐるみを一生涯大事にしたくなる気持ちと同じ感覚です。それでしんどい日をちょっとでも乗り越えられれば、自発的に動き出す時の一押しになれるかな、と。極論をいえば「執念とも取れるような強い気持ちがアイテムに宿っているから、簡単にメルカリには出品できない/しづらいアイテム」を作りたいです。それは、別に服じゃなくてもいい。そういう新しい「何か」を世の中に生み出したいです。
看護師をしていた時、一分一秒を争う生死の世界で「生きる」というハードルが高いことを実感したんです。そんな中でコロナ禍があり、閉塞的なのにも関わらず、SNSで自分が欲していない情報まで入ってくると「自分らしさをブレずに保つというのは、肉体的な生を保つのと同じくらい難しいことだな」と感じました。だから「自分の信じる軸を、ブラさずに生き抜こうね」と、私を応援してくれてる人たちも、自分自身も鼓舞するようなものが、いつか作れたらいいな。
(聞き手:古堅明日香)
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