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ハリー・スタイルズの押さえておくべき功績【連載:いまさら聞けないあのアーティストについて】

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ハリー・スタイルズの押さえておくべき功績【連載:いまさら聞けないあのアーティストについて】

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 全く異なるジャンルでありながら、古くから蜜月関係にあるファッションと音楽。ここ十数年でその結び付きはさらに強くなり、今やファッションメディアでなにがしのアーティスト名を見ない日は無いと言ってもいいほどである。だがアーティスト名は目にするものの、彼/彼女らがファッションシーンへと参画した経緯や与える影響力、そして何よりも楽曲に馴染みが薄く、有耶無耶の知識のまま名前だけを認知している人も少なくないだろう。

 そこで本連載【いまさら聞けないあのアーティストについて】では、毎回1組のアーティストをピックアップし、押さえておくべき音楽キャリアとファッションシーンでの実績を振り返り、最後に独断と偏見で「まずは聴いておくべき10曲」を紹介。第13回は、ボーイズグループ出身のアイドルから現代のロックシーンを代表する1人へと変貌したハリー・スタイルズ(Harry Styles)についてをお届けする。(文:Internet BoyFriends)

■いまさら聞けないあのアーティストについて:連載ページ

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ワン・ダイレクションのメンバーとして

 ハリー・スタイルズは、1994年2月1日にイングランドのウスターシャー・レディッチで生まれた。両親はハリーが7歳の時に離婚し、母親が2013年に再婚するまでは女手ひとつで育てられ、幼い頃からエルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)やビートルズ(The Beatles)を歌う音楽好きだったという。

 中学生になると友人らとバンドを結成。歌唱力に自信が無かったというが、地元のバンド大会で優勝し、アルバイト先のパン屋で鼻歌を歌っているところをスカウトされるなど、次第に自らの歌唱力が秀でた才能であることに気付き、16歳でイギリスの人気オーディション番組「Xファクター(The X Factor)」に腕試し感覚でエントリー。結果は残念ながら脱落となったが、名物審査員のサイモン・コーウェル(Simon Cowell)から同じくオーディションに出演していたナイル・ホーラン(Niall Horan)、リアム・ペイン(Liam Payne)、ルイ・トムリンソン(Louis Tomlinson)、ゼイン・マリク(Zayn Malik)と共にボーイズグループを結成することをアドバイスされ、ワン・ダイレクション(One Direction)のメンバーとしてデビューした。ちなみに、ワン・ダイレクションのグループ名はハリー考案で、「別々の場所から来た5人が、ひとつの場所(ワン・ダイレクション)に向かう」というメッセージが込められているそうだ(&単に響きが良かった)。

 その後のワン・ダイレクションでの活躍は、ご存じの通り。イギリス出身のグループとして史上初めて全米アルバムチャートで初登場1位を獲得したデビュー作「Up All Night」を含む5枚のアルバムを、2010年から無期限の活動休止を発表した2016年までにリリースし、全世界で合計7000万枚以上のセールスを記録。活動休止中の2023年現在も、「スポティファイ(Spotify)」では約4000万の月間リスナーを抱えている。

“元アイドル”のイメージを自ら払拭

 ワン・ダイレクションの活動休止前からソロ活動に意欲的だったハリーは、2016年2月にワン・ダイレクションのマネジメント会社を脱退し、6月に「コロンビア・レコード(Columbia Records)」とソロアーティスト契約を締結。1年を通して世界各国のスタジオに入り腕を磨くと、翌年4月に待望の初ソロシングル「Sign of the Times」をリリースした。同楽曲は見事全英シングルチャートで1位を獲得し、MVもUK最大の音楽の祭典「ブリット・アワード 2018(The BRIT Awards 2018)」でブリティッシュ・ビデオ・オブ・ザ・イヤー賞を受賞。さらに、米ローリングストーン誌が発表した“2017年のベストソング50”では、ケンドリック・ラマーの(Kendrick Lamar)の「Humble.」や、エド・シーラン(Ed Sheeran)の「Shape of You」を抑え、堂々の1位に選ばれたのだ。

 こうして“元アイドル”のイメージを払拭し、“ロックミュージシャン”として華々しいソロキャリアの幕を切ったハリーは、同2017年5月に自身の名前を冠したソローデビューアルバム「Harry Styles」を発表。ワン・ダイレクション時代のハリーを良い意味で裏切った古風なソフトロックを前面に押し出した結果、なんと全米と全英で1位を獲得するだけにとどまらず、55ヶ国のチャートで首位となる快挙を達成し、わずか1作で音楽的評価の確立に成功したのだ。

 続く2ndアルバム「Fine Line」はより自由な音楽性を求めて制作され、コロナ直前の2019年12月にリリースされた。同作は、2作連続で全米初登場1位を獲得したことをはじめ、現在までに全世界の累計ストリーミング再生回数が50億回を超え、米ローリング・ストーン誌が選ぶ「歴代最高のベストアルバム500」に選出。また、シングルカットされた「Watermelon Sugar」は自身初の全米シングルチャート1位の座に輝き、第63回グラミー賞では最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス賞を受賞。デビュー13年目にして念願のグラミー賞受賞アーティストの仲間入りを果たし、長らく不在だった絶対的なメンズのポップ・アイコンおよびロックミュージシャンとしての地位を確固たるものにしたのである。

傑作とブリティッシュスターの誕生

 「Fine Line」のリリース後は、パンデミックによる予期せぬ人生初の長期休暇を手に入れ、友人たちと遊びの延長で3rdアルバム「Harry's House」の制作に着手。同時に、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)らの活躍を目の当たりにし、「もう自分はポップス界の若手有望株の座を争う立場にない」と肩の荷が降り、非常にリラックスした状態で作品に向き合えたという。

 「Harry's House」について書き進める前に、2022年4月に開催された世界最大級の音楽フェス「コーチェラ・フェスティバル(Coachella Festival)」への出演について少し触れたい。ハリーは初出演ながらも初日のヘッドライナーという大役に抜擢されると、歓迎ムード一色では無かったが、その完成されたパフォーマンスで改めて“元ワン・ダイレクションのアイドル”という枕詞を過去のものとし、出演後にはスポティファイのリスナー数を約750万人以上も増加させるという世界規模のバズを巻き起こすことに成功したのだ。なお後述するが、煌びやかなレインボーのジャンプスーツは、懇意の仲にある「グッチ(GUCCI)」が制作した特注衣装である。

 話を「Harry's House」に戻すと、随所にハリーの強烈な個性が見え隠れしながらも全体的にリラックスムードが漂う仕上がりとなり、前2作とは全く異なる作風に。チャートでは全米と全英で首位を獲得し、第65回グラミー賞では最優秀アルバム賞と最優秀ポップ・ボーカル・アルバム賞を、「ブリット・アワード」では最多4部門を受賞。また、スポティファイにおいて“2022年に世界で2番目に再生されたアルバム”となったほか、収録曲「As It Was」も“2022年に世界で最も再生された楽曲”となり、名実共にデヴィッド・ボウイ(David Bowie)やフレディ・マーキュリー(Freddie Mercury)らの流れを汲むブリティッシュスターとなった。

 なお、「Harry's House」というタイトルは、細野晴臣が1973年に発表した1stアルバム「HOSONO HOUSE」に着想したとハリーは公言しており、2023年3月の来日公演の際には細野邸に出向き対顔を果たしている。

「グッチ」との蜜月な関係

 スターというものは、そのカリスマ性から音楽面だけではなくファッション面でも世間を賑わすもの。ハリーはその点、恵まれたルックスと共にジェンダーの流動性を楽しむ姿勢でも注目が集まるようになり、現代におけるファッションアイコンとしての地位を確立してきた。

 だが、彼がファッションに目覚めたのは18歳と遅咲き。なんでも、人生初のファッションショーとなった「バーバリー(Burberry)」の2013年春夏コレクションのフロントローに招待されたことが明確な目覚めだったそうで、それ以降はファッションにどっぷり。以来、ツアー時には数十着の衣装を特注でデザインし(実際に着用するのは数着)、着用した全ての衣装を低温管理されたクローゼットに保管しているという。

 そして、ハリーのファッションおよびヴィジュアルイメージを語るうえで欠かせないブランドがグッチだ。もともとは、ワン・ダイレクション時代の2015年に参加した「アメリカン・ミュージック・アワード(American Music Awards)」で、その頃ハリーのスタイリストだったハリー・ランバート(Harry Lambert)が、同年1月にアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)がクリエイティブ・ディレクターに就任したばかりのグッチの花柄のセットアップを試験的に着せたことが始まり。この日を境にハリーはミケーレが手掛けるグッチがお気に入りとなり、2017年に行ったワールドツアーの衣装をグッチに依頼。こうして両者の結びつきは強くなり、2018年3月には、グッチのテーラーリング・キャンペーンのヴィジュアルにハリーが登場し、生粋のイングランド人らしく(ペットの鶏と犬を連れて)フィッシュ&チップスをオーダーするというストーリーが描かれた。

 その後も両者の関係は続き、2019年の「メット・ガラ(Met Gala)」で話題をさらった黒いレースのシアートップスとドレスパンツも、「ヴォーグ(VOGUE)」のアメリカ版創刊127年の歴史で初めて男性単独表紙を飾ったドレスも(2020年12月号)、2021年と2023年のグラミー賞授与式に出席した時のスーツも、2022年の「コーチェラ」の衣装も、アイコニックなシーンは全てと言っていいほど「グッチ」を着用。2022年11月にミケーレが「グッチ」を去る直前には、ミケーレがハリーに「一緒に夢のワードローブを作ろう」と提案したことに端を発するコラボコレクション「ハ ハ ハ(HA HA HA)」まで発表していた。なお、ミケーレ退任後も「グッチ」とは変わらず良好な関係は続いている。

 最後に、ファッションアイコンがゆえにSNSで巻き起こったバズをご紹介したい。2020年2月にハリーが某TV番組に出演した際、「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」のマルチカラーのカーディガンを着用していたのを観た1人のファンが、同様のカーディガンを自ら鍵編みで作る様子をTikTokに投稿。すると、これが「#HarryStylesCardigan」としてトレンドになり、関連動画が数百万回以上も再生されるバズ化。あまりの盛り上がりぶりにジェイ ダブリュー アンダーソンがファンの熱意に応える形でカーディガンのパターンを公開し、最終的に“DIYを重視する方向へシフトするファッション業界の一例”としてロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館に収蔵されたのであった。

まずは聴いておくべき10曲

1曲目:What Makes You Beautiful
ワン・ダイレクションの1stアルバム「Up All Night 」(2011年)収録曲。全米シングルチャートでは初登場28位を記録し、1998年以降のUKアーティストのデビューシングルとしては最高位となった。

2曲目:One Way Or Another
ワン・ダイレクションのアルバム未収録曲で、アメリカのロックバンド、ブロンディ(Blondie)の同名楽曲のカバーソング。イギリスのチャリティ団体「コミック・リリーフ(Comic Relief)」が主催するイベント「レッド・ノーズ・デイ(Red Nose Day)」のテーマソングで、MVには当時の首相デーヴィッド・キャメロン(David  Cameron)らがカメオ出演している。

3曲目:Story of My Life
ワン・ダイレクションの3rdアルバム「Midnight Memories」(2013年)収録曲。メンバー全員でリリックを書いた楽曲で、日本ではNTTドコモのCMソングに起用されたことでも話題に。

4曲目:Night Changes
ワン・ダイレクションの4thアルバム「FOUR」(2014年)収録曲。メンバー全員でリリックを書いた楽曲で、ゼイン・マリク脱退前最後のシングル。TikTokでカバーソングがバズったこともあり、Spotifyではワン・ダイレクションの中で最も再生された楽曲となっている。

5曲目:Sign of the Times
1stアルバム「Harry Styles」(2017年)収録曲。初のソロシングルで、見事全英シングルチャートで1位を獲得。

6曲目:Kiwi
1stアルバム「Harry Styles」(2017年)収録曲。ライブで披露するたびに客席から本物のキウイが投げ込まれ、ハリーが転倒しそうになっていたことも。

7曲目:Watermelon Sugar
2ndアルバム「Fine Line」(2019年)収録曲。自身初の全米シングルチャート1位を記録するだけではなく、グラミー賞の最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンスも受賞。

8曲目:Adore You
2ndアルバム「Fine Line」(2019年)収録曲。ハリー屈指のラブソングで、“Adore”のバックワードでもある架空の島“Eroda”を仕立て上げた壮大なSNSプロモーションも話題に。

9曲目:As It Was
3rdアルバム「Harry's House」(2022年)収録曲。自身2度目となる全米シングルチャート1位を獲得し、「コーチェラ・フェスティバル」ではオープニングを飾った。

10曲目:Music For a Sushi Restaurant
3rdアルバム「Harry's House」(2022年)収録曲。和訳すると「寿司屋のための音楽」だが、全く和の要素は感じさせないアルバムを象徴するレトロなメロディック・ポップに仕上がっている。

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Internet BoyFriends

東京とロンドンを拠点に活動するエディターやライター、スタイリスト、フォトグラファー、グラフィックデザイナーが所属。

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