実際の落札価格
再注目を集めているレコードについて、1999年からレコード盛衰を間近で見てきたココナッツディスク吉祥寺店(通称:ココ吉)の店長、矢島和義さんから学ぶ短期連載「“ココ吉”矢島店長に聞く、レコードの話」。
今回は番外編。ココ吉がヤフオク!に出品し、150万円で落札された“伝説のカセット”にまつわる話をお届けします。
矢島和義
1976年生まれ。東京都出身。ココナッツディスク吉祥寺店店長。学生時代にアルバイトで働いていた中古レコード盤屋「ココナッツディスク」が吉祥寺に新店をオープンした1999年から現職。中古のアナログレコードを取り扱うと同時に、国内で活動するインディーズアーティストの自主音源や新譜を取り扱った先駆けとして知られており、同時多発的に盛り上がりを見せた2010年代日本のインディーシーンやレコードブームにおける重要参考人の一人である。
公式ツイッター
ーココ吉から出品されたバンド「ロリポップ・ソニック」のカセットが150万で落札されました。改めて、どのようなカセットだったのかを教えてください。
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ロリポップ・ソニックは現在コーネリアス(Cornelius)名義で活動されている小山田圭吾さんと、小沢健二さんらによって1987年に結成されたバンドです。ロリポップ・ソニックは2年後の1989年に「フリッパーズ・ギター(Flipper's Guitar)」という名前に改名するのですが、フリッパーズ・ギターも1991年に解散。2人で活動した期間はロリポップ・ソニック名義を含めても約5年間と短いものの、日本のポップスに多大なる影響を与えたバンドとして知られています。今回出品したカセットは、ロリポップ・ソニックが唯一残したアルバムです。
ー販売はされていたのでしょうか?
はい、ライブ会場の手売りのみですが販売されていました。確証は無いのですが、数十本しか生産されてないみたいなんです。もし、値段を付けずに無料で「友達に配ったもの」だったら話が違うのですが、レコード屋としては「少ない本数しか出回っていないものの、リリースされたアルバム」という観点で査定をします。些細なことと思われるかもしれませんが、結構重要な事実だったりします。
ー生産数の少なさが事実ならかなり希少性が高いですね。
これも確証はないんですが最初に30本作り、好評だったので更に30本追加で作ったと言われています。今回僕が買い取ったものは、追加販売された30本のうちの1本です。
ー買い取ったものが本物であるという確証はある?
もちろん。確証があって買い取っています。本当にただのカセットテープなので、複製しようと思えばいくらでもできる品物だし、実際に今までも明らかなコピー品が3000円とかで落札されているのでそこには注意を払っています。
ーココ吉さんはどのように入手したんですか?
それは言えません(笑)。
ーちなみにどういった点で確証を得たのでしょうか?
詮索されるとまずいので詳しいことは言えないんですが、言える範囲の証拠を言うと「マクセル(maxell)」のUD1という種類のテープを使っていることが挙げられます。当時フリッパーズ・ギターのマネジメントをしていた牧村憲一さんも「色々偽物が出回っているが、ロリポップ・ソニックの自主制作カセットテープはUDI 30を使用している」とツイッターで公言しているし、このカセットを売ってくれた人も同じことをおっしゃっていました。それなのに、今まで、それがわかる写真で出品している人が1人もいなかったんですよ。だから、出品されているものが本物なのか否かがそもそも判断できなかった。
他にも「ラベルに手書きされているペンの色がオリジナル正規品のそれではない」という指摘もありましたが、もちろんそれも調査済みで100%オリジナル音源ですと断言することができます。僕も「変なものは出せない」というプライドがあるので。
ーオークション形式で販売されましたが最初の設定価格は?
6万円からスタートしました。おそらく「ただのテープに6万円かよ!」と思った人の方が多かったんじゃないかな。僕自身も「そうだよね」と思いながらコメントを眺めていました(笑)。でも僕としては、それくらいの価値があるものだと思ったので落札されてもされなくてもどちらでもいいやという気持ちで出品しました。
ー矢島さんが思う、このカセットの価値は?
僕は「フリッパーズ・ギターの前身バンドだから」というよりも、そもそも内容が素晴らしく、傑作だと思っています。もちろん151万円の価値が付いたのには小沢健二さんと小山田圭吾さんが現在も活躍しているからこそなんですけどね。
それでも正直なところ、151万円で落札されるとは思わなかったし、誰も想像していなかったんじゃないかな。カセットを売ってくれた人も「間違いなく本物だが、これがどれくらいの市場価値があるのかがまったく未知数だ」とおっしゃっていました。
ー希少性があるとわかっていながらも、なぜ市場価値が読めなかったのでしょうか?
大きく分けて2つあって。一つは約20年間で通算5〜6本しか出品されていないこと。つまり、値付けをする上で参考になる取引が極端に少なかったんです。どんなに調べても過去の最高落札額が6万円だったので、その値段からオークションを始めることにしました。もう一つはさっきも言った「UD1かどうか」を明示している出品者が今までにいなかったこと。それくらい、このカセットにまつわる価値を証明できる情報がなかったんですよ。
ー小沢健二さん、小山田圭吾さんもツイッターで反応していましたね。
まさか僕が撮ったロリポップ・ソニックのカセットの写真と、思い入れたっぷりの紹介文が小沢さんのストーリーズに掲載されるとは。思わずスクショしちゃいました(笑)。
ー結果として、あのカセットには151万円の価値があると認められることになりました。
おそらく、カセットテープに録音されたものでは最高額に近いんじゃないかな。でも、だからこそ声を大にして言いたいのは「儲かった」という話ではなく、151万円の価格が付くくらいの価値があるバンド、それがロリポップ・ソニックだったし、フリッパーズ・ギターだったのだ、ということ。例えば、ビートルズがデビューする前に「アセテート盤」という、自分たち作ったレコードが存在するんですが、それもやはり数百万円で取引されたんです。価格だけでみてしまえば、そういうものと同じ価値があると消費者が判断した。
僕は彼らのことが本当に大好きだったし、今、こう言う仕事をしているのも言ってみればフリッパーズ・ギターとの出会いがあったから。ちょっと言い方が大袈裟かもしれないですが「それくらいのバンドだったんだよ」ということが事実として残せたことは素直にとても嬉しかったです。
【連載:“ココ吉”矢島店長に聞く、レコードの話】
(聞き手:古堅明日香)
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