スタントパフォーマー・伊澤彩織
Image by: FASHIONSNAP
戦いの時でしか表現できない色気
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「アクションは総合芸術」だと伊澤は語る。基本的に現場ではアクションコーディネーターのもと、動きながら立ち回りを作っていく。現場の必須アイテムはパッド。この日の撮影でも膝や肘のパッドが活躍した。「人と接触する部分にパッドを入れて『当て感』を出したり、『壊しもの』や壁にぶつかる際には脊髄や腰に巻いて身体を守ります。万が一のために服の中に仕込むんです」。
今年は指の靭帯損傷も経験した。「スタントがうまいのは身体能力があって、コントロールが効く人。あと、けがをしない人」と伊澤は笑う。「アクションには攻め手と受け手があって、攻め手には『止める力』が必要。殴るパワーを相手にそのままぶつけてしまわないための技術が要るんです。その攻撃を受けた人のリアクションによって、ようやく一手分の会話が成立します。攻め手より、受け手の方が100倍難しいです」。
「アクションシーンをリアルに見せるのは殺気かなと思います。どれだけ技術的に動けても、そこに殺気がないと緊張感のあるものは生まれない。やっぱりかっこいい戦いの時でしか、表現できない色気みたいなものがあると思っています」
近年は女優としての活動も増えてきており、セリフでも動きでも演技力が求められるようになった。「演技はスタントの世界でもすごく大事。アクションと芝居を分離させず、感情の揺れ動きを細かく体現できるようにどちらも勉強していきたいです」。
衣装は世界に入り込むためのスイッチ
映画で「スタントダブル」を演じる時は、役者と同じ衣装や髪形にして分身を演じる。女性だけではなく、少年のスタントダブルを演じることもあるという。「男性よりもスタントを求められる機会は少ないので、スタントダブルの役をもらえた時はすごく嬉しいんです。衣装は、その世界に入り込むためのスイッチになります」。
現場では、衣装や小道具の担当者と相談して「なるべくアクションのやりやすいものに」と工夫されたものを身につけている。「地面の状態によっても靴の相性の良し悪しが出てくるので、滑らないようにしてもらったり。ヒールの高さや材質が異なるアクション用のシューズが3種類くらい用意されていることもあります」。日本のアクションチームのクオリティは世界からも注目されているが、それを支えるスタッフ陣の工夫とアイデアもどんどんアップデートされているようだ。
女性たちの心を掴んだ「ベビわる」
伊澤はスタントを続ける中で、「海外に行く」「尊敬する先輩と一緒に立ち回りをする」といった目標を立てていたという。「それを一つずつ叶えていく中で『女性が主役のアクション映画でスタントダブルをするまでスタントを続けていこう』と考えていたんです。日本ではあまり女性が主役のアクション映画がないので」。
しかしそれを実現する前に「ベイビーわるきゅーれ(以下、ベビわる)」で女優としての主演が決まった。初の主演作は異例のロングランとなり、続編も作られるほどの人気に。「『ベビわる』は自分にとって"名刺がわり"の作品になりました。金髪の深川まひろという役のイメージが、私の知らないところまでどんどん広がっていっています」。
「ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー」
「ベビわる」以前は「女子高生が戦うシーン」を求められることが多かった。制服での立ち回りはキャッチーさはあるが、どこか男性目線のセクシーな演出であることは否めない。「ベビわる」が画期的なのは、あくまでアクションに重きが置かれた作品になっていることだ。「主人公二人は『よく街で見かけるような女の子』。若い年齢層や女性層に刺さったのは、露出がなくても印象に残る衣装だったことが大きかったと思います。まひろの戦闘服であるバンドTシャツを真似してくれるお客さんもとても多かったです」。
アクションで人を感動させろ
伊澤のアクションの師匠は故・田中清一。倉田アクションクラブ出身で、香港映画にも参加したベテランだ。「先生がずっと言っていたことは『たった一手でもお金が取れるようなパンチ・蹴りを目指せ』ということ。あと『アクションで人を感動させろ』という一言は、自分がアクションを続ける指針になりました。『ベビわる』では多くの人から『アクションシーンに感動した』というお手紙をいただいて、やっと自分も何かを残せたのかな、と心が救われましたね」。
「アクションをやっていること自体がまだ冒険の途中」と伊澤は語る。「いつか演出側に回るのも楽しそうだな、と思います。今、友だちと一緒に映画のお話を書いているんです。何年かかるか分からないですけど、いつかそれを撮影できたら嬉しいです」。
伊澤彩織(Saori Izawa)
1994年生まれ、埼玉県出身。日本大学芸術学部映画学科卒。映画「RE:BORN」の研修生オーディションに合格し、アクショントレーニングをスタート。映画「キングダム」「るろうに剣心 最終章 The Final / The Beginning」「G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ」「ジョン・ウィック:コンセクエンス(2023年9月公開)」などでスタントを務めた。映画「ある用務員」で女優として注目され、第31回日本映画批評家大賞では「ベイビーわるきゅーれ」の深川まひろ役で新人女優賞を受賞。ドレスコーズ「聖者」、クリープハイプ「青梅」などミュージックビデオへの出演も多数。
<今後の出演情報>
「ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー」
U-NEXTにて独占先行配信中
主演:髙石あかり 伊澤彩織
監督・脚本:阪元裕吾
舞台「SaGa THE STAGE~再生の絆~」
2024年2月22日〜25日 東京・サンシャイン劇場
2024年2月29日~3月3日 大阪・サンケイホールブリーゼ
伊澤彩織:公式ツイッター
〈スチール〉シャツ 4万2900円(BODYSONG.)、パンツ 4万9500円(BALMUNG)、その他スタイリスト私物
〈ムービー〉トラックジャケット 2万8600円、パンツ 2万5300円(共にBODYSONG.)、スニーカー 3万1900円(HOKA®︎)
BODYSONG. info@bodysongbodysongbodysong.
ESTEEM PRESS(BALMUNG)03-5428-0928
デッカーズジャパン(HOKA®︎)0120-710-844
stunt performer: Saori Izawa
fight arranger: Yasutaka Yuki
stylist: Hiromi Nakamoto
hair & make-up: Akemi Ezashi(mod's hair)
photographer & videographer: Hiroyuki Ozawa(FASHIONSNAP)
composition & text: Fuyuko Tsuji(FASHIONSNAP)
direction: Chiemi Kominato(FASHIONSNAP)
撮影協力:N.HOOLYWOOD TPES TACTICAL GARAGE
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