アーティストの片山真理
Image by: FASHIONSNAP
「BODY MAGIC」は身体表現のプロフェッショナルに、「身体と装い」について語ってもらう連載企画。今回登場してくれた片山真理は1987年生まれのアーティストだ。脛骨欠損という先天性四肢疾患のため9歳で両足を切断しており、自身の身体を素材とした作品を制作し続けている。2019年にはヴェネチア・ビエンナーレ出展作と写真集「GIFT」で、“写真界の芥川賞”とも言われる第45回木村伊兵衛写真賞を受賞。自身のクリエイションを通して見えてきたアイデンティティとは?
カニを描いた義足とヴィヴィアン
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「大人になってからハマった」という「ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)」のジャケットを羽織り、個展会場に現れた片山。義足にペイントされたカニは、自身が「蟹座」であり、蟹のハサミが自身の左手に似ていることから気に入っているモチーフだという。彼女はこのユニークな義足で国内外を飛び回っている。
この夏は、リトアニアで個展を開催。現在、イタリアのシューズブランド「セルジオ ロッシ(Sergio Rossi)」のサポートを受けた「ハイヒール・プロジェクト」も進行中だ。デザインチームや義肢装具士と相談しながら作り上げた、義足用ハイヒールを披露する日も近いという。身体と装い、そしてアートが密接に関わりあい、彼女にしか表現できない世界がさらに広がろうとしている。
匿名性を持つアイコニックな自己像
「絵を描いていた高校生の頃から、イラストの中に私に似せたキャラクターを登場させていました。何かを表現する時に等身大の自分をその中に据えると伝えやすく、自然とそういう絵になっていったんだと思います」。後に「セルフポートレイト」として評価を得た写真作品についても、元々は手縫いのオブジェを自室で撮影するために、自身の身体を「マネキン」として利用したものだったという。やがて、主役ではなかったはずの彼女のアイコニックなスタイルが世間から注目されるようになっていった。
片山のイメージといえば、黒髪ボブに切れ長のアイメイク、そして真っ赤な口紅。これは彼女が大学院生の頃、ジャズバーで歌う仕事をしていた時に「必要にかられて」作り上げたスタイルだったという。義足も隠していた当時の片山は「毎日ロングドレスを着てウィッグも被って、すごくビクビクしながら歌っていたんです。その化粧や装いは、ある意味、外に向けられた武器。自分を守る手段でもあったし、外へ出ていく手段でもありました」と振り返る。
やっと自分の体を取り戻せた
他人の目線は長い間、片山を苦しめた。学生時代にはいじめも経験。世間から「若いから」「女だから」「障がい者だから」というレッテルを貼られることも多く、だんだんと葛藤や疑問を感じるようになったという。「きっと相手に気を遣っていたんですよね。『あ、この人、足が変』とか思われないようにズボンやロングスカートを穿いていました。でも、なんでそんな関係ない人に気を遣わなきゃいけないの?って」。
そして、新型コロナウイルスの感染拡大による不自由な数年間も一つの転機になった。「誰にでも会えるわけじゃなくなって、すごく辛くて苦しくて。それで『ああもう私、好きなことしかやりたくないし、好きな人としか会いたくない』って感じたんです。やっと主体を自分に持ってこれるようになってきました。今は『自分が好きだから』という理由で服を選んでいます」。
あえて人としての「痕跡」を残す
新作「possession」では、白い衣装を纏った片山と、レースやビーズ、貝殻などで装飾された手縫いのオブジェが神秘的なムードを放つ。装飾は全て自身の手によるものだ。9歳まで内反足だった片山は、既製の子ども服が着られなかった。自分の服をリメイクして子ども服を作ってくれた母親の影響で、「針と糸」は幼い頃から身近な道具だったという。
また、オブジェの中に埋め込まれた黒い髪の毛も独特。これについては「人がそこにいた形跡とか残り香みたいなのが一番苦手。その痕跡こそ、その人の等身大以上の存在を表現してしまっていると思うんです。髪の毛1本落ちているだけでも、そこに当人がいるよりも生々しい。ゾッとするものと、愛しいって思うものは表裏一体だから」と説明する。
アートを武器にして、愛を守りたい
「possession」シリーズに登場するオブジェ「Thus I Exist」は、『日本書紀』の保食神(うけもちのかみ)から着想を得た作品だ。食べ物の神様である保食神は、美味しい料理で月夜見尊(つくよみのみこと)をもてなすが、それが自らの排泄物から作ったものだったことを理由に殺される。その彼女の遺体から、人間の生活を豊かにする五穀、牛馬、蚕が生まれたという不条理なストーリーだ。
「作品の中の自分は、自分とイコールではないって今まで思っていました。でも今作では、自分自身が保食神のストーリーをオブジェとして背負いました。これまでは、自分の中の怒りや諦めの気持ちをどうしても放置しちゃっていたんです。でも理不尽なことに対して我慢する人生はもうやめようって。もう私はアートという武器を手に入れたから、培ってきた愛を守るために、今後はそういう気持ちも背負っていこうって思ったんです」。
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