Image by: FASHIONSNAP
「ミッドサマー」「ヘレディタリー/継承」のたった2作で“鬼才”の名を欲しいままにしたアリ・アスター監督。日本にも根強いファンがいるアリ・アスター監督作品の特徴といえば、伝承や儀式、宗教からインスピレーションを得たストーリーや、幾何学的で奥行きのない浅い空間演出によって生み出されるなんとも言えない不気味さや緊張感、不穏さが挙げられる。
独自の世界観で世界中が注目するアリ・アスター監督が、2月16日から全国上映される最新作「ボーはおそれている」の公開に先立ち3年ぶりに来日。今回、FASHIONSNAPでは「写真を撮るのが好き」と話す彼のクリエイティビティの深淵を覗くべく、日本滞在中に写真と日記を綴ることを依頼した。新作について「僕の内臓を泳ぎ回るかのような体験を楽しんでほしい」という(いつも通り)強烈なコメントを残した彼の目に映る、冬の日本とその覚書。アリ・アスター監督の頭の中を覗いたら、新作「ボーはおそれている」が更に楽しめるはず。
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Day1:2023年12月某日
滞在先のホテルからタクシーに乗っていると、富士山が目に入った。太陽の位置や、光量、手前のディテールもあいまって、この富士山はよりドラマチックで神秘的に思えた。
今回の来日で、さまざまな角度から富士山を見ることができた。どの角度からみても、この山には荘厳さが宿っている。荘厳たる富士山は日本の象徴でもあるが、大きな山は畏怖の対象でもある。圧倒的な力を前に尊びながらも、どこか恐れ慄く気持ちは拭えない。本当はこの山に登りたかったが、時間がなかった。
Day2:2023年12月某日
黙示録だ、そう思った。枯れ果てて朽ちた巨大な花たち。都会の風景を背負っているが故に、壮大で風光明媚な雰囲気を感じさせる。フレームに収めようとなると、この奇妙さ。どのように表現するかかなり悩んだ。どこにいても、良い構図をみつける訓練になり得る。
よく「どのように構図を考えているのか」と聞かれる。しかし、やはり言語化はなかなか難しい。僕にとって、写真と映画は違う作業だが「どのようにフレーミングをするか」を探していくのはどちらも同じだ。一方で、写真の場合は腹で感じながら直感で撮る側面が強く、映画の場合は構造やブロッキング、立ち位置を入念に考える。いずれにしても、人に説明するのは難しい。
Day3:2023年12月某日
京都の最終日。着物を着た子どもが父の手をひきながら、あっちこっちを走り回っていた。父は、のそのそと歩いていた。その後、これは七五三という儀式であることを知った。
哲学の道は、歩いているだけで心が躍るほど美しかった。道中、葉っぱで船を作っている男性に出会った。「葉の船を水の中に投げてみてください」と男性。そうやって、お金も取らずに葉っぱのボートを投げ入れる人々の様はなんとも美しく、感動的だった。
Day4:2023年12月某日
神社や寺の類は、テクスチャーがおもしろい。神社や寺は神様を祀るところである一方で、不気味さも感じる。実際、日本人も神社や寺の類は「死者と隣り合わせ」「八百万の神」といった感覚と密接だと聞く。この感覚はとても共感するものがある。
美しさと怖さは表裏一体だ。富士山や地蔵、寺、神社など、怖さがありながらも、美を讃えている現象をこの国でたくさん見てきた。この国のおもしろいところは、どこよりも美しい国だという点だ。何故なら、規律や秩序を重んじるから。時として、それは窒息感にも繋がるのでは、とも思う。滞在中、1日に一回は「なんなんだこのルールは」「細かすぎる」という気持ちにもなった。とにかく融通がきかない。しかし、それこそがこの国の魔法と美の源泉なのだろう。
(企画・編集:古堅明日香)
◾️ボーはおそれている
公開日:2024年2月16日(金)
監督脚本:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス、ネイサン・レイン、エイミー・ライアン他
R15+
上映時間:179分
あらすじ:些細なことでも不安になる怖がりの男ボー(ホアキン・フェニックス)。さっきまで電話していた母が突然怪死したことを知り、母の元へ駆けつけようと帰省を決めるが、玄関を出ると“いつもの日常”ではなかった。
公式サイト
公式インスタグラム
◾️編集Fの「ボーはおそれている」一言レビュー:記憶がしっかり残る状態で見るユーモラスな悪夢。アリ・アスターなりの「トゥルーマン・ショー」。
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