"作品の度に散々走って、準備した場所。ランニングコースを走ると、色んな現場の気持ちを思い出す" ——仕事の話から、人生哲学、未来について。
思い起こせば数々の作品に入る前、それに向けた準備で散々ランニングした、クランクイン前の助走をする場所。色々なジムに行ったこともありますが、やっぱりここのジムがすごく好きで。主婦からおじいちゃん、おばあちゃん、アスリートのような人、子どもまで色々な人がいて、個々が違う目的を持って走っているのが居心地が良いんです。
用意された台本で、用意された人生を演じる時、いかに血肉を通わせて、生々しい生命力のある人間になれるか。人間って汚いもので、だから美しいよねって思うようにしていて。コンプレックスとか、痛みとか、もちろん人を傷つけることもあるけど、それでも生きていくし、それでも誰かのことを大事に思う。そういうところは常に意識していて、台本に書かれていない痛みや悲しみを想像したり、逆に痛みや悲しみが描かれているところでは、反対側を想像したり、彩りを考えますね。
15年この仕事をしていて、ふと自分の周りを見たら面白い人たちがいっぱいいて、この人たちの面白いところを掘り返さないともったいないっていう、もったいない精神ですかね。社会的に見ても、人の揚げ足を取ったり、ミスや悪いところばかりを拾い上げるムードがある中で、僕は周りにいる人の面白いところや素敵なところに焦点を合わしていきたい。ポジティブなものは意図的に自分で抽出していかないと、バランス取られへんし、そうじゃないと僕はちょっと生きていかれへんかな。
全員会ったこともないんですけど、手塚治虫さんと、岡本太郎さんと、伊丹十三さん。この3人は、自分のやりたいことを体現してくれていて、道しるべのような人。
“人間って汚いもので、
だから美しいよね”
3人それぞれ記念館があるんですが、記念館で僕が感じたことは、誰も職業に縛られていない。岡本太郎さんは自分の職業は人間だと言っていて、CMや絵、エッセイ、写真だったり、色々やっていました。伊丹十三さんも芝居や演出、本や絵を描いたり、色々やる。手塚治虫さんも、医学部で医者を志して、漫画家になったらブラックシャックで医者を、火の鳥や鉄腕アトムで未来のことを表現したり、とにかく漫画を通して色々な世界を見せた人です。
昔、手塚治虫さんが講演会で「とにかく色々なことに手を出して、興味を持って、途中でやめたっていい。ただ、途中でやめていく色々なことも、本気でやっていたらいつかそれが繋がって、あなたにしかできないことになる」ということを言っていました。僕も若い頃、自分に特筆した特技がないことがコンプレックスやったんですよ。でも、好奇心はすごくあって。その散らばったピースを集めたことで、今の自分があります。
そう、手段。何かを残していない人間がそれをやると、否定されることが多いけど、でも別に誰に何を言われてもいっか、と30歳を超えて割り切れた気がします。
めっちゃあります。自分で物も書いたりしたいし、今は興味を持ったことはとにかく自分でできるかどうか、考えてみようっていう段階ですね。俳優業に縛られてるわけじゃないですが、全ての循環の行き着く先が、俳優業にとても良い影響を与えてくれるんじゃないかと感じています。
自分のアイデンティティーを確認して、前に進める場所。ニューヨークに行った時にすごく感じるのが、ニューヨークにいることに満足している人と、ニューヨークで自分の無力さを知って必死に勉強している人、大きく2パターンいて。東京もニューヨークの縮図みたいなもの。ポジティブな意味でも、シビアな意味でも自分のアイデンティティーを確認させられてしまう場所で、でもそれが自分にとってはすごく居心地が良いんです。
credits
Photographer: Hiroyuki Ozawa
Interviewer: Riho Nishimoto
Stylist: Hironori Yagi, Hikaru Shiga (TEN10)
Hair&Make-Up: KUBOKI (Three PEACE)
Art Direction: Dennis Yung