デジタル上での発表は前回の2020-21年秋冬コレクションに続き2回目。今回のコレクションはある人物との対話から構想が始まった。彼女の名はローレン・ワッサー(Lauren Wasser)。モデルとして活躍していた2012年、ローレンは生理用品が原因でトキシックショック症候群を起こし、右足の膝下、そしてその約5年後には左足を切断する。デザイナーの中里は困難な状況下にあっても、強いメンタルでモデルとして復活する姿を今の時代背景に重ね、「これからの時代を象徴するミューズ」としてプロジェクトへの参加を依頼。数回に渡るオンラインでの対話の中から得たインスピレーションを服作りのプロセスに投影させた。
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中里はまず、ローレンの採寸データをコンピューターに取り込み、数値的な情報を"布に記憶させる"という作業を行った。ローレンが愛するという自然から取り入れられた色彩を、江戸時代から伝わる着物など異なる布をつぎはぎにする手法「ボロ」のイメージで配色し、スパイバー開発の微生物発酵によって作られるタンパク質素材「ブリュード・プロテイン(Brewed Protein™)」の生地に印刷。液体に浸すと生地が縮んで形が変化し、体のラインに沿ったテキスタイルパーツが出来上がる。この最先端技術「バイオスモーキング(BioSmocking)」で制作された28枚のユニットを組み合わせ、ローレンの体型にぴったりと沿う一着のクチュールピースを完成させた。組み合わせ次第で8通りのピースに変化する構造で、完成形は、重力を感じさせない立体的なシルエットに仕上がった。これは中里が「記憶を可視化し、記憶など目に見えないものをまとう」姿を具現化したものだという。
ドレスの他に、クチュールピースとローレンのゴールドの義足に調和するシューズを制作。レースアップのシューズは、靴紐が義足と一体化している。ローレンは通常用とハイヒール用の義足をオケージョンによって履き替えるそうで、「自分の体を交換し、体自身をデザインしている」という行為に、中里は"ファッションの未来"を感じたという。
公式スケジュールに先駆けて国内メディアに向けて配信されたプレビューに参加した中里は「個と向き合うクチュールは、着る人のために仕立てられている。しかし昨今、服との関係性において距離が近いはずの"作る人"と"着る人"がかけ離れている」と話す。昨年7月、中里は前回のコレクションのテーマとなったオンラインオーダーメイドプロジェクト「Face to Face」を始動。来る2月には循環型の新オーダーサービスもスタートさせるという。既存の概念をアップデートし、1点物をもっと身近なものに一人一人に届けたいという"万人のためのオートクチュール"を目指す中里の挑戦は続く。
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