日々様々なコラボレーションアイテムがローンチされるファッション業界。アート作品をデザインしたコラボアイテムは人気の一つだ。特に、アール・ヌーヴォーを代表する芸術家 アルフォンス・ミュシャ(Alphonse Mucha)はコラボのニュースが出るたびに話題をさらっているが、気になるのはアート作品を取り扱う上での権利問題。コラボレーションのハードルが下がった背景とは。
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各社のコラボから見る「ミュシャ」の人気
ここ数年で数々の企業からミュシャコラボが登場し、ファッション業界からは「ジェラート ピケ(gelato pique)」などがコレクションを発表。ジェラート ピケを擁するマッシュスタイルラボは同コラボの好評を受け、ミュシャ財団とパートナーシップ契約を締結し、世界初の財団公認ブランドを立ち上げた。
幅広いジャンルのコラボコレクションを発表する「グラニフ(graniph)」では、2021年9月にミュシャの作品を用いたコラボアイテムを発売した。同社でプロダクトディヴィジョン ライセンスセクションでマネージャーを務める石川祐氏は「ミュシャは非常に人気だった」とコメント。所謂“ミュシャの有名作品”だけではなく、変則的な作品をプリントしたアイテムラインナップについても触れ「他社を含め、世の中であまり商品化されていない作品を販売することで、熱量の高いコアなファン層(スモールマス)からも反響があった」と分析した。ミュシャコラボの好評を受け、グラニフでは「継続的な取り組みを行うために、シーズンに合わせた新たなアイテム展開を企画、進行中」だという。
没後70年で著作権切れ、進むアート作品のパブリックドメイン化
文化庁による「著作物等の保護期間の延長に関するQ&A」によると「著作者等に権利を認め保護することが大切である一方、一定期間が経過した著作物等についてはその権利を消滅させることにより、社会全体の共有財産として自由に利用できるようにすべき」という理由から「原則として著作物等の保護期間(著作権)を死後70年まで」と法で定められている。
事実、国外の美術館を中心に、著作権が切れた作品の高解像データを無償で提供しており、パブリックドメイン※によるデジタルアーカイブ化が進んでいる。だが石川氏は「作品を所有する一個人や美術館によっては所有権の認識が異なる場合もある」とし、ミュシャに限らず商品化の際には各作品を所有する美術館や個人に使用許諾を取るようにしているという。
パブリックドメイン:著作権をはじめとする知的財産権(知的所有権)が発生しない状態のこと。
著作権失効後、財団が「著作物人格権」を主張する場合も
パブリックドメインによるデジタルアーカイブ化が進む一方で、作品の保護と管理を目的とした独自の財団を立ち上げている場合がある。ミュシャ作品に関しては、1992年にチェコ共和国で「ミュシャ財団」が発足した。ミュシャが亡くなったのは1939年であるため、没後70年を迎えた2009年には著作権を含む全ての知的財産権が失効したが、ミュシャ息子 ジリ・ミュシャの妻 ジュラルディン・ミュシャと、その息子 ジョン・ミュシャが財団を立ち上げたことで、現在も財団が作品の「商標」や「所有権」「著作者人格権※」などを有している。仮に、美術館などによってパブリックドメインの著作物がデジタルアーカイブ化されていたとしても、財団が「商品化が目に余る不正利用」と判断した場合は、作家や作品の保護を目的に各権利を行使し、警告を行うことがあるという。ミュシャ財団の日本総合代理店を担っているジーイーエムの内井知子代表取締役は「財団は作品を歪んだ形で商用化されるのを防ぐことができる」と説明し、「中には財団の存在を知らず、許諾なしに商用利用をし、警告文を送った事例もある」と明かした。
※著作者人格権:著作者(ミュシャ)が精神的に傷つけられないように保護する権利。
財団が商標権を有するメリット
財団が作品の商標を保持するメリットについて、内井氏は「絵画にとどまらない、人間としての魅力を含めた表現を提案できる」と説明する。
「財団にはアーキヴィストや、選任のキュレーターが所属しています。彼らによって、ミュシャが実際にどのような植物に囲まれて生活していたのか、どのような人物と交流があったのかなどを日々分析し、歴史的研究を続けています。そのような活動を礎に、展覧会やコラボアイテムの基礎となるテーマを構成したり、絵画だけでなく人間としてのミュシャにスポットを当てた形での紹介が可能となっています」(同氏)。
グラニフの石川氏も「『ある年代を境に作風が変わっているため、その前後の作品を同じコレクションとして展開するのは、作家が伝えたかったメッセージに反するので控えた方がいい』などのアドバイスをいただくことがある」とし、コラボコレクションを製作する上で、財団とのやり取りがコレクション全体の強度を高めると語った。
ミュシャコラボが増えたのは2019年から
28年間にわたってミュシャ財団の日本総合代理店として様々な企業とコンタクトを取ってきた内井氏は「2019年頃からライセンスを希望する企業が増えてきた」と回想する。
「当時、渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムを皮切りに『みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ ― 線の魔術』展が全国でも始まり、ミュシャに影響を受けた世界のグラフィックデザイナーや日本の漫画家、アーティストにもフォーカスしたことから、主にファッションを中心にミュシャのモチーフが使われ始めました。2019年から現在に至るまでの4年間で、その範疇は拡大し、衣料品だけではなく雑貨を取り扱うメーカーからの申し込みも増えてきました」(内井氏)。
ミュシャ作品を用いたコラボアイテムの発売には、商品の企画書を財団に提出し、その後サンプルチェックも実施。財団側からの許諾が出て初めて取引が成立するという。ライセンス契約は千差万別だが、一般的には販売期間と、アイテムの種類をヒアリングした上で、上代の4〜10%をライセンス料として支払う必要がある。つまり、一作品の使用料を買い取るわけではなく、印税のような仕組みを採用しているそうだ。
絵画界の巨匠では、アンリ・マティスが2024年に没後70周年を迎える。これまでに、ニューヨーク近代美術館(MoMA)やテート・モダン(TATE)でもほとんどグッズを作られてこなかったが、来年以降にコラボレーションや展覧会に合わせたグッズ展開があるのか期待が高まる。
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