ベイクルーズ 杉村茂社長
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ウィズコロナ時代の経営の展望を聞く連載「トップに聞く 2021」第6回は、「ジャーナル スタンダード」などを展開するベイクルーズ 杉村茂社長。2020年8月期はコロナの追い風もあり、EC売上高は500億円を突破したことが話題を集めたが、杉村社長は「ECに頼り切りのビジネスモデルは考えていない」と言い放つ。今期計画するのは地方の商業施設への大型店舗の出店。セレクトショップ"新御三家"と呼ばれるまでに成長したベイクルーズが構想するコロナ禍におけるリアル店舗の出店戦略とは。
■杉村茂
1962年生まれ。アパレルメーカーを経て1984年にベイクルーズに入社し、2003年に同社初の子会社ジョイントワークスの初代社長に就任。2012年にはルドーム社長に着任し、グループ傘下の数々のブランド事業を率いてきた。2014年9月から現職。
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―2020年はどのような1年になりましたか?
「最悪」の一言しかない。だが、40年近くこの業界にいて感じていた、モノに対するありがたみの希薄さや小売側の「とりあえず売れればいい」という風潮を見直すという意味ではポジティブに捉えている。色々な部分で再スタートを切るきっかけにはなったのではないかと思う。
―再び緊急事態宣言が出されましたが、足元の売れ行きはいかがですか?
年明けからはあまり動きが良くない。特にリアル店舗の売上高は前年比60〜70%ほどに落ち込んでいると思う。ECは2桁増で推移しているが、リアル店舗の落ち込みを補完できていない。全体では70〜80%程度になるだろう。
―コロナ禍で売上に苦戦しているブランドは?
インバウンド比率が高い「ノア(NOAH)」やフード事業は厳しい状況だ。あとは新宿や銀座・有楽町、渋谷といった首都圏の一等地にある店舗がかなり苦戦している。
―逆にダメージが少なかったブランドは?
「ジャーナルスタンダード ファニチャー(journal standard Furniture)」などのインテリア関連事業は比較的好調で、前年と同水準で推移している。
―他社では大量閉店やブランド終了が相次いでいます。ベイクルーズでもそういった計画は?
利益が絶対に望めないような条件下で出店している店舗もあり、そういうところに関しては後々撤退をしていく。ただそれによってブランドや事業を終了することはない。
―飲食事業も同様でしょうか。
縮小はすると思うし、もしかしたら休止するところもこれから先出てくるかもしれない。
―前期(2020年8月期)の売上高は1240億円でした。今期の着地見込みは?
1340億円を目指している。
―前期はECの売上高が500億円を突破し話題を集めました。EC化率はどのくらいに伸びたのでしょうか?
43.6%まで伸長している。
―かなり高い水準です。今後はECが主要のチャネルとなりそうでしょうか?
ECはもちろん重要だが、ECに頼り切りのビジネスモデルは考えていない。正直、いまのEC化率は自分でも高すぎると思っている。もう少しリアル店舗の売上高がないとバランスが悪いかなと。
―EC売上高の規模だけで見ると「ユニクロ」に次いでアパレル小売企業の上位に食い込んでいます。
とはいえ、僕らのようなセレクト業態を持つ企業はECに頼りすぎてしまうと、本当の意味でのファッションの可能性を失ってしまうと思う。店舗の売上よりも圧倒的にECの売上が高いブランドがあるが、ECの売れ筋にMDを合わせてしまうとつまらないブランドになり、売上も落ちてしまう。実際にそういった経験がこれまでに何度かあった。リアル店舗で売れないものがECでばんばん売れるケースは極稀。なのでEC化率が高レベルになることが良いとは正直全く思っていない。あくまでもリアル店舗が起点で、ECは商品購入手段の一つ。
■主要アパレル各社のEC売上高(2021年1月時点 ※各社決算資料より抜粋)
ユニクロ(2020年8月期、国内のみ)1076億円
ベイクルーズ(2020年8月期) 510億円
アダストリア(2020年2月期、国内のみ)436億円
TSIホールディングス(2020年2月期)363億円
オンワードホールディングス(2020年2月期)333億円
ユナイテッドアローズ(2020年3月期)292億円
ワールド(2020年3月期)250億円 ※ECを含むデジタル事業の売上高
三陽商会(2020年2月期)84億円
バロックジャパンリミテッド(2020年2月期、国内のみ)77億円
TOKYO BASE(2020年2月期)56億円
※ユニクロ、ベイクルーズ以外は新型コロナウイルス感染拡大前の実績
―今期のEC売上高の目標値は?
前期比30億円増の540億円を目指す。
―越境ECもスタートされていますが、海外展開には注力していく方針ですか?
あくまでも国内の市場を重視しているので、海外をバンバン攻めていく計画はない。
―前期の自社EC比率は77%でした。アマゾンへの出店も開始していますが、他社モールのポテンシャルについてはどのように感じていますか?
アマゾンさんに関してはポテンシャルを感じられるところまで成果が出ていない。どちらかというと楽天さんの方が、販売を開始してから半年でまだ売上は小さいが、成長が見込めている。今後も自社以外の販路は拡大していきたい考え。だが、セールを実施してまで他社のECで売上を作ろうとは思っていない。以前、ZOZOさんで有料会員サービス「ゾゾアリガトー」をやっていた半年間は全商品を取り下げた。セールはブランドや商品の価値毀損にもつながりかねないので、自社ECも同様に極力実施しない方針だ。
―コロナの感染拡大以降、仕入れ削減などの対応はされましたか?
当然、在庫調整はした。正確な数字はわからないが、計画値からは10%ほどだと思う。コロナの流行が始まった3月から緊急事態宣言下の5月にかけては、春夏商品でも原料が残っているものは凍結して「製品を作らず生地だけ残してほしい」とお願いできるところにはお伝えした。今秋冬も例年よりも10%ほど商品の仕入れを削減している。
―今後力を入れていくブランドや事業は?
やはり「ジャーナル スタンダード(JOURNAL STANDARD)」といった基幹ブランドと事業はしっかり守っていかないといけない。ただ、それらのブランドや事業は比較的消費が活発な30代半ばから40代のお客様が多いので、あまり心配はしていない。課題はアンダー30の顧客層が少なくなっていること。若年層のマーケットは力を入れていかなくてはならないので、「オリエンス ジャーナル スタンダード(Oriens JOURNAL STANDARD)」や「ジョイントワークス(JOINT WORKS)」といったブランドに投資し、育成していく。
―新ブランドの立ち上げやM&Aの考えはありますか?
社内で何か企画が出てくれば可能な限り実現していきたいが、M&Aは今のところ考えていない。
―今年の出店計画を教えてください。
今まではどちらかというと都心の一等地に出店させてもらっていたが、今後は地方都市などへの出店を検討する。実際に9、10月は大分へ視察に行った。
―大分とは意外です。
大分駅から博多駅までは片道2時間半かかるので、大分の方はわざわざ博多まで買いに行かないだろう。そういう意味でも大分には独立したマーケットがあり、大きい売上は作れないかもしれないが、ビジネスの可能性を実際に現地に行ってみて感じた。大分以外にも何ヶ所かそういった地域を回るなかで、地域密着型の店舗を出していきたいと思っている。
あとは今年後半に大型店舗の出店も計画しているところだ。
―具体的な計画は?
従来の店舗は40〜50坪程度だが、大型店舗はだいたい300坪、もっと広いところでは1000坪規模で賃借し、物販だけではなくショールームやポップアップスペースなども展開するなど、他社がやっていないようなブランドの見せ方ができるフレキシブルな店舗にする。
―大型店舗の出店先はやはり地方都市ですか?
地方の商業施設と話を進めている。
―コロナ禍で大型店舗の出店はリスクがありそうですが。
たしかにリスクはあるが、最近の商業施設はどこも似たりよったりになってしまっている。それってやっぱり面白くないし、売上高を伸ばすことが難しい。どうしたら"変化のあるリアル店舗"ができるかと考えたときに、このご時世ではあるが大型店舗の出店を決めた。コロナ禍の今だからこそそういった規模の大きい場所を貸し出してくれる施設もあるので、トライアルとして数店舗出店する。
―デベロッパー側の反応は?
他の商業施設と差別化できるという点に関しては賛同いただいている。
―地方の百貨店や商業施設の閉店ラッシュが続いていますが、地方に出店することに不安はないですか?
明日にでも閉店してしまいそうなところには出店しない(笑)。ただ、地方はひとつの施設に一極集中する傾向にあるので、ならばそうではない施設に出店して集客を競い合うことで相乗効果を狙うという考え方もできると思う。
実際に地域1番店にはすでに出店しているが、全ブランドがすべてを売り切れるわけでもなく、一極集中の怖さもあるので、競合同士で手を組みながら発展させて街全体を活性化できたらいいよね、とデベロッパーさんと話をしながら進めているところだ。
―2021年のアパレル業界をどのように見据えていますか?
淘汰されるところはされていくんだろうなと思う。特に僕らが運営しているセレクト業態はマーケットで言うとミドル層にあたるので、ブランド価値を出していかなければ生き残っていけないと感じている。
―杉村社長が考える「ブランド価値」とは?
ただ有名であるとか認知度が高いということではなく、お客様を裏切らないこと。例えばセールをやることはお客様を裏切ることになるが、下手するとセールの売上まで計画に組み込む企業やブランドもあると聞くので、お客様が適正価格で納得してお買い上げいただけるブランドでありたい。
―いまアパレルに求められていることは何だと考えていますか?
うちのブランドで言うなら、「ここで買っておけば間違いない」という安定感や信頼感だと感じている。例えば「イエナ(IÉNA)」が販売しているコートだったら品質もいいし、ファッション的にも今っぽい。そのブランドで選ぶものは自信を持って着られる、そういう安定感はうちの一番の武器だと思っているし、それぞれのブランドに合った価値を損ねないよう高めていかなくてはいけないと考えている。
(聞き手:伊藤真帆)
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