ザ・ウィークエンドの押さえておくべき功績【連載:いまさら聞けないあのアーティストについて】
The Weeknd
Image by: UNIVERSAL MUSIC JAPAN
The Weeknd
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ザ・ウィークエンドの押さえておくべき功績【連載:いまさら聞けないあのアーティストについて】
The Weeknd
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全く異なるジャンルでありながら、古くから蜜月関係にあるファッションと音楽。ここ十数年でその結び付きはさらに強くなり、今やファッションメディアでなにがしのアーティスト名を見ない日は無いと言ってもいいほどである。だがアーティスト名は目にするものの、彼/彼女らがファッションシーンへと参画した経緯や与える影響力、そして何よりも楽曲に馴染みが薄く、有耶無耶の知識のまま名前だけを認知している人も少なくないだろう。
そこで本連載【いまさら聞けないあのアーティストについて】では、毎回1組のアーティストをピックアップし、押さえておくべき音楽キャリアとファッションシーンでの実績を振り返り、最後に独断と偏見で「まずは聴いておくべき10曲」を紹介。第10回は、オルタナティブR&Bを確立したアーティストと称され、地元カナダ・トロントでは2月7日が“ザ・ウィークエンドの日”に制定されているザ・ウィークエンド(The Weeknd)についてをお届けする。(文:Internet BoyFriends)
■いまさら聞けないあのアーティストについて:連載ページ
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目次
ある“週末”に家出した17歳
カナダといえば、パーティネクストドア(PARTYNEXTDOOR)やダニエル・シーザー(Daniel Caesar)、ディヴィジョン(dvsn)、シェイ・リア(Shay Lia)、ブラック・アトラス(Black Atlass)ら良質なR&Bアーティストを多数輩出する国として知られているが、その代表人物こそザ・ウィークエンドことエイベル・マッコネン・テスファイ(Abel Makkonen Tesfaye)だろう。
エイベル・マッコネン・テスファイは、エチオピア移民である両親のもと1990年2月16日にカナダ・トロントで生まれた。貧しい家庭だったため両親が共働きかつ、彼が生まれてすぐに離婚したこともあり5歳までエチオピア人の祖母に育てられ、幼い頃はエチオピアの公用語であるアムハラ語しか話せなかったという。10代の頃は本人いわく、“HIVの要素を取り除いた「キッズ(KIDS/映画)」さながらの生活”だったそうで、11歳でマリファナを吸い始めると(当時は非合法、2018年から合法)、コカインやMDMA、マジックマッシュルームなどの薬物にも手を出すだけでなく、万引きや窃盗も頻繁に繰り返したことで数度の逮捕も経験し、その荒れた生活から17歳で高校を中退している。
高校を中退した17歳のテスファイは、ある“週末”、のちに彼のクリエイティブ・ディレクターとなり共同で音楽レーベル「XO」も立ち上げる友人ラ・マー・テイラー(La Mar Taylor)らと共に1台のバンに荷物を詰め込み家出。友人2人と1部屋のアパートを借り、マリファナのプッシャー(売人)として生計を立てることを試みるも軌道には乗らず、アパートも追い出されて女性の家を転々としながら「アメリカンアパレル(American Apparel)」のアルバイトなどで日銭を稼ぐ生活を送っていたそうだ。なお、ある“週末”の家出がのちにザ・ウィークエンドとなるテスファイにとっては忘れられない経験で、既にカナダ国内に“The Weekend”というバンドが存在していたため、“e”を取り除いた現在のアーティスト名“The Weeknd”を採用している。
運命の人物との邂逅で一躍人気アーティストに
ドラッグとセックスに溺れるテスファイだったが、幼少期から大好きだった音楽への情熱は忘れることができず、2009年に匿名でYouTubeへの楽曲投稿を開始。この時点では全くの鳴かず飛ばずだったが、翌2010年に運命の人物と邂逅するーーそれが音楽プロデューサーのジェレミー・ローズ(Jeremy Rose)だ。
ジェレミーは当初、ダーク・コンテンポラリー調のR&Bのアイデアを別のカナダ人歌手に持ち込む予定だったが、ある日、テスファイがジェレミーのインストゥルメンタルに即興で歌を合わせたことに才能を感じ、このアイデアをテスファイと共に完成させることを決意。そして同年、xoxxxoooxoという名義で「What You Need」「Loft Music」「The Morning」の3曲をYouTubeに公開した(オリジナルは削除されており、下の動画は2011年に再アップロードされたもの)。この3曲は音楽ファンを中心に口コミで広がり、この成功を受けテスファイはザ・ウィークエンドとして道を歩むことを心に決め、盟友ラ・マー・テイラーと共に音楽レーベル「XO」を2011年に設立。ここから彼の快進撃が始まる。ちなみにこの時、3曲を匿名でリリースしていたため、アメリカンアパレルの同僚はテスファイの作品だと知らずに楽曲を聴いていたそうだ。
ドレイクのフックアップで次期スターの最右翼に名乗り上げ
2011年3月、ザ・ウィークエンドは自らのレーベル「XO」からデビューEP「House Of Balloons」をリリースした。当時、リスナーはザ・ウィークエンドがソロなのかグループなのか、はたまた人気アーティストの匿名プロジェクトなのか知る由もなく、そのミステリアスなムードと荒れた10代の“セックス&ドラック”の思い出を落とし込んだダークな作風がブランディングに合致し、カナダ国内でスマッシュヒットを記録。同年7月には初めてステージに立ったのだが、その姿を一目見ようと会場には既に人気ラッパーだった同郷のドレイク(Drake)も駆け付けており、その場で同年11月にドレイクがリリースした2ndアルバム「Take care」に参加することが決定。プロデューサー&ソングライターとして「Shot For Me」や「The Ride」などの4曲に参加し、「Crew Love」ではフィーチャリングも果たした。
「Take care」のリリースまでザ・ウィークエンドは知る人ぞ知る存在だったが、同作が全米アルバムチャートで1位を獲得したこともあり知名度が急上昇。そして、直前の8月に2ndEP「Thursday」を、直後の12月に3rdEP「Echoes Of Silence」をリリースしたことで一気にファンを獲得し、わずか1年で次期スターの最右翼に名乗り上げたのである。
“2015年で最もストリーミング再生されたアルバム”を生み出す
2012年のザ・ウィークエンドは、デビューアルバムのリリース前にもかかわらず「コーチェラ・フェスティバル」をはじめとする世界各地の音楽フェスに引っ張りだこで、加えて初の海外ツアーとしてイギリスやスペインなどを周り、楽曲制作よりも露出に重きを置いて活動。それでも、11月には3作のEPに3つの新曲を加えたコンピレーションアルバム「Trilogy」をリリースし、見事全米アルバムチャートで4位にチャートインした。
2013年に入るとデビューアルバムの制作に着手し、あまりの難航具合から「サマーソニック(SUMMER SONIC)」などの出演をキャンセルするも、9月に待望の「Kiss Land」をリリースした。同作は、R&Bとダークウェーブを合わせた作風が話題となり、全米アルバムチャートで2位を獲得。また、人生の大半をトロントで過ごしたテスファイにとって未知の世界だった海外、特に日本をモチーフに採用しており、シングルのカバーやミュージックビデオでは日本語が散見されるのでぜひご覧になっていただきたい。
「Kiss Land」のリリース後、ビヨンセ(Beyoncé)の「Drunk in Love」のリミックスを手掛けたり、アリアナ・グランデ(Ariana Grande)の「Love Me Harder」に参加したりと、他アーティストとの協業を積極的に実施。同時に着々と次作の準備を行い、「Kiss Land」から2年が経った2015年8月に2ndアルバム「Beauty Behind the Madness」をリリースした。この直前、初の全米シングルチャート1位を獲得した先行シングル「Can't Feel My Face」と、同じく先行シングルの「The Hills」、そして映画「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ(Fifty Shades of Grey)」のサウンドトラックとして制作した「Earned It」の3曲が全米ビルボードR&Bチャートの上位3曲を独占するという史上初の快挙を成し遂げていたこともあり、「Beauty Behind the Madness」は全米アルバムチャート1位を獲得するだけにとどまらず、“2015年で最もストリーミング再生されたアルバム”となり、「第58回グラミー賞」で最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞も手にした。
ここでひとつ、「The Hills」の余談を。同曲は、ラ・マー・テイラーが携帯で録音した半分にも満たないデモ音源を「サウンドクラウド(SoundCloud)」にアップしたところ最も再生された曲となってしまい、正式にレコーディングする際には「サウンドクラウド」バージョンのノイズや不意なシャウトを再現するため、67個ものバージョンが作られたそうだ。
過去の自分と決別した3rdアルバム
「Beauty Behind the Madness」で世界的な名声を手に入れたザ・ウィークエンドだったが、間髪を入れずに約1年後の2016年11月に3rdアルバム「Starboy」をリリースした。彼が大ファンのダフト・パンク(Daft Punk)がプロデュースしたアルバムタイトルかつシングルカットもされている「Starboy」と「I Feel It Coming」をはじめ、R&Bにエレクトロポップスを巧みに融合させたサウンドは高い評価を受け、2作連続となる全米アルバムチャート1位を獲得。「第60回グラミー賞」でも最優秀アーバン・コンテンポラリー部門を連続受賞することになった。
なお、「I Feel It Coming」のMVは水原希子が出演したことで日本でも話題となっていたが、「Starboy」もザ・ウィークエンドのファンを大いに驚かせた。というのも、彼はデビューからジャン・ミシェル・バスキア(Jean-Michel Basquiat)にインスパイアされた長いドレッドヘアをトレードマークとしていたのだが、「Starboy」のアートワークとMVでバッサリと切り落とした短髪スタイルを披露したからだ。この理由について彼は、「毎晩寝返りが打てず、髪を洗うのに2時間もかかっていたから」とジョーク混じりに答えていたが、アルバムリリース日には短髪姿のポートレートと共に「r.i.p @abelxo」(過去のID)という文言をインスタグラムに投稿していたことを考えると、図らずとも過去の自分との決別も意味しているのだろう。
また、同作収録曲「False Alarm」のMVも映画さながらのストーリーと迫力満点の作品に仕上がっているので、ぜひチェックしてみてほしい。
YouTube:False Alarm ※年齢制限が設けられています。
2020年代を代表するスターとしての現在
「Starboy」の後はしばしアルバム制作を控え、ワールドツアーや2018年発表のEP「My Dear Melancholy,」、ヘッドライナーとしての「コーチェラ」出演、ファッションシーンへの本格参入(後述)などを経て、2020年3月におよそ3年半ぶりとなる4thアルバム「After Hours」を完成させた。「After Hours」はわずか7分でアメリカのiTunesチャート1位に躍り出る記録的なヒットとなり、「After Hours」が全米アルバムチャート1位を、シングル「Blinding Lights」が全米シングルチャート1位を獲得したほか、彼自身がソングライターチャートとアーティストチャートおよびプロデューサーチャートでも1位となり、史上初めて5つのチャートで同時に1位を獲得したアーティストとなった。また、「Blinding Lights」は全米シングルチャートの在位最長記録を更新して“2020年に最も売れた楽曲”にも認定されており、「After Hours」はザ・ウィークエンド史上最も商業的に成功した作品と言えるだろう。だが、白人優遇の黒人差別や女性アーティストの不遇問題などが取り沙汰されているグラミー賞からは、主要部門はおろかひとつのカテゴリーにもノミネートされないという屈辱的な仕打ちを受け、ザ・ウィークエンドは2023年現在もボイコットを表明している。
そして、実は「After Hours」はトリロジー(3部作)の1作目で、2021年に彼本人が「“After Hours(閉店後)”に“Dawn(夜明け)”が訪れる」と話していた通り、2022年1月に5thアルバム「Dawn FM」がリリースされた。残念ながら全米アルバムチャートで首位とはならなかったが、その内容はザ・ウィークエンドの最高傑作と言っても過言ではない出来栄えとなっている。また、“FM”が入ったタイトルが示す通り、FMラジオをモチーフにジム・キャリー(Jim Carrey)がパーソナリティーを務める架空のラジオ局の放送という設定で全16曲から構成されており、初のコンセプト・アルバムという点も注目すべき点だろう。
なお、「After Hours」と「Dawn FM」の間、ザ・ウィークエンドは幼い頃からの夢だったアメリカ最大のスポーツイベント「スーパーボウル(Super Bowl)」のハーフタイムショーに出演。彼は夢の舞台を理想へと近付けるため、もともとの予算10億円に加えて自身のポケットマネーから約9億円をステージ製作に充てたと言われている。ちなみに、着用している赤いジャケットは「ジバンシィ(GIVENCHY)」に特注したもので、襟以外の全てにクリスタルが施され、完成するまでに4人がかりで約250時間もかかったそうだ。また、彼の出演に敬意を表し、地元トロントのジョン・トーリー(John Tory)市長は出演日である2月7日を“ザ・ウィークエンドの日”に制定している。
YouTube:The Weeknd’s FULL Pepsi Super Bowl LV Halftime Show
根っからの洋服好きの一面も
冒頭で「アメリカンアパレル」でのアルバイト時代について触れたが、ザ・ウィークエンドは根っからの洋服好きで、自身の音楽レーベル「XO」からはアパレルアイテムを数多くリリースしている。特に「Kiss Land」で日本を取り上げていたことからも分かるように新日家で、2020年の4thアルバム「After Hours」のリリース時には、細川雄太の手掛ける「レディメイド(READYMADE)」とコラボしたマーチャンダイズを48時間限定で販売し、2021年の2ndEP「Thursday」のリリース10周年記念時には、村上隆の一番弟子として知られるミスター(MR.)とのマーチャンダイズを展開するなど、日本人アーティストとの協業も多い。
また、デビュー当初は173cmと小柄ながら特徴的なドレッドヘアーとミステリアスな雰囲気からモデルとして声を掛けられることが多く、2015年に米「GQ」に掲載されたカニエ・ウェスト(Kanye West)ことイェ(Ye)の「イージー(YEEZY) 」の記念すべきファーストシーズンのファッション・シューティングではモデルの1人として登場していた。さらに同年、人気絶頂だったアレキサンダー・ワン(Alexander Wang)とのコラボライン「WANGXO」も実現し、翌2016年には「プーマ(PUMA)」のグローバル・ブランドアンバサダー兼クリエイティブ・コラボレーターに就任。いくつかのコラボモデルを発表するだけでなく、現在までに「ア ベイシング エイプ®(A BATHING APE®)」や「H&M」などとのコラボも成功させ、2022年には山本耀司デザイナー自らがデザインした「ヨウジヤマモト プールオム(YOHJI YAMAMOTO POUR HOMME)」の特注衣装を身に纏いツアーを敢行していた。
この他にも、マーベル(MARVEL)と共同でコミックスを制作したほか、国連の世界食糧計画(WFP)の親善大使に就任したり、Black Lives Matter運動に多額の寄付をしたりと、R&Bアーティストの枠に囚われない活動を見せるザ・ウィークエンド。2023年中にも「After Hours」と「Dawn FM」に続くトリロジー(3部作)の最終作がリリースされると噂されているので、「まずは聴いておくべき10曲」で予習しておこう。
まずは聴いておくべき10曲
1曲目:The Morning
デビューEP「House Of Balloons」(2011年)収録曲で、ザ・ウィークエンドの名をカナダに轟かせた初期を代表する楽曲。セックス、ドラッグ、トリップ、ロック・スターなライフスタイルを歌い、彼のパブリックイメージを決定付けた1曲。
2曲目:King Of The Fall
アルバム未収録曲で、2014年に行われたツアーに先駆けてリリースされた楽曲。長らくデジタル配信が一時停止されていたが、ファンからのラブコールを受ける形で6年ぶりに再配信が実現。
3曲目:Drunk In Love
T.I.のミックステープ「Hustle King」(2014年)収録曲で、ザ・ウィークエンドがフィーチャリングで参加。ビヨンセの「Drunk In Love」のリミックスで、「サウンドクラウド」にはザ・ウィークエンド単体バージョンがアップされている。
4曲目:The Hills
2ndアルバム「Beauty Behind the Madness」(2015年)収録曲で、自身2度目となる全米シングルチャート1位を獲得した楽曲。デモ音源が「サウンドクラウド」で好評を博したことで、正式リリース時はザラついた音などをわざと表現した。
5曲目:Can't Feel My Face
2ndアルバム「Beauty Behind the Madness」(2015年)収録曲で、初の全米シングルチャート1位を獲得した楽曲。敬愛するマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)からの影響を色濃く感じさせるポップソング。
6曲目:I Feel It Coming
3rdアルバム「Starboy」(2016年)収録曲で、全米シングルチャート1位を獲得した3曲目。ダフト・パンクのデモ音源にザ・ウィークエンドが歌詞を乗せる形で完成し、MVには水原希子が登場する。
7曲目:Blinding Lights
4thアルバム「After Hours」(2020年)収録曲で、現時点でのザ・ウィークエンドの最高傑作と称される代表作。シンセ音とドラムがオールドファンには懐かしく、Z世代には新しい1曲。
8曲目:Sacrifice
5thアルバム「Dawn FM」(2022年)収録曲で、ザ・ウィークエンドきってのディスコナンバー。マイケル・ジャクソンとダフト・パンクのエッセンスを彼流に昇華した。
9曲目:Out of Time
5thアルバム「Dawn FM」(2022年)収録曲で、亜蘭知子の「MIDNIGHT PRETENDERS」をサンプリングした楽曲。クレジットには、作詞者の亜蘭知子と作曲者の織田哲郎がある。
10曲目:One Right Now
ポスト・マローン(Post Malone)の4thアルバム「Twelve Carat Toothache」(2022年)収録曲で、ザ・ウィークエンドがフィーチャリングで参加。2022年を代表するシンセポップ調の楽曲で、MVではポスティとザ・ウィークエンドが撃ち合っている。
■いまさら聞けないあのアーティストについて:連載ページ
■The Weeknd:公式アーティストページ(ユニバーサル ミュージック ジャパン)
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