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【連載ふくびと】第8話 菊池武夫——パリで前例のない挑戦 葛藤と焦り

菊池武夫

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【連載ふくびと】第8話 菊池武夫——パリで前例のない挑戦 葛藤と焦り

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第7話からつづく——

 ショーケン(萩原健一)がドラマで着用したスーツが記録的な売り上げを叩き出し、社会現象を巻き起こした「メンズビギ(MEN’SBIGI)」。成功の波に乗った菊池武夫は、海外進出を決意して渡仏する。1978年、パリでメンズビギ ヨーロップを設立し、路面店を出店。ところがその後、日本の経営が危機的状況に陥ってしまい、軌道に乗る前に無念の撤退となった。エポックメイキングなショーによって挽回するも、徐々に焦燥感を抱えるようになっていく。——「タケオキクチ」のデザイナー菊池武夫が半生を振り返る、連載「ふくびと」第8話

メンズデザイナー初のパリ進出

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 メンズビギを立ち上げて2年が経った頃。ウィメンズと比べると存在感が薄かったメンズファッションを面白くしたい一心で、フランス・パリへの出店を決めました。今考えると、メンズの海外進出としては時期尚早だったのかもしれません。紳士服で名を轟かせたジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)ですら、世間に知られる前の時代でしたから。

 パリを選んだ理由は、世界中のバイヤーやジャーナリストが集まるファッションの中心地で、前例のないことに挑戦したかったから。まずは物件探しから動き出しました。ようやく見つけた場所は「イヴ・サンローラン・リヴ・ゴーシュ(Yves Saint Laurent rive gauche、プレタポルテライン)」が全盛期だったパリ左岸。サン・シュルピス教会の向かいにあったカフェです。古びていてボロボロでしたが、ここを買い取ってリフォームすることにしました。並行してパリで初めてのショーの準備も。ファッションウィークの時期に合わせて、モンパルナスのダンスホールでメンズコレクションを発表しました。

パリ左岸にオープンした「TAKEO KIKUCHI」のブティック

パリ1号店 屋号は「TAKEO KIKUCHI」

 本当に目まぐるしかった当時のことを思い出すと、「今では絶対にできないな」とつくづく思います。1970年代後半から80年代は、業界全体がそんなエネルギーを欲していたのでしょう。パリでばったり会うこともあった賢三くん(デザイナー高田賢三)がウィメンズで最初にパリで成功を収めていたこともあって、メンズでは自分がやるんだと意気込んでいました。

 パリで2回目のショーに向けて準備を進める頃、あるフランス人との出会いがありました。「演出について考えているなら、面白い人がいるから」と、現地のアタッシュ・ド・プレスに紹介されたのです。ショーのコーディネーションを彼に一任し、「エスパス・ピエール・カルダン」(ピエール・カルダンが所有する庭園)でショーを開きました。その彼が、ルシアン・ペラフィネ(lucien pellat-finet)。当時まだ若かったけれど、はっきりとした意思を持ち、本当にセンスが良かった。後にカシミヤニットで有名なデザイナーになったことは、だいぶ後になってから知りました。

40歳を過ぎて感じ始めた焦り

 意気込みも虚しく、たった2年でパリ店を閉めることになりました。日本の方でブランドの経営が危なくなってしまったからです。メンズビギはデビューと同時に大当たりしたものの、安定とは言えない時期に僕が海外に出てしまったのもあって、どんどん負債が膨らんでしまった。しばらくはパリと東京を行ったり来たりしながら対応していましたが、いよいよ潰れかねない状況となり、志半ばで帰国したのです。経営を立て直すのに1年半ほどかかり、しばらくは苦労が続きました。

パリ店の店内

パリ店の店内

 転機となったのは、1981年に東京のモリハナエビルで発表したコレクションです。テーマはストリートファッション。ロンドンのストリートモデルを起用したランウェイショーが評判を呼び、納得のいく自分らしいコレクションで、メンズビギの再スタートを切ることができました。山本耀司くんや川久保玲さんも、会場に観にきてくれたことを覚えています。

 ビジネス的にはなんとか復活しましたが、僕自身はというと、年2回のショーを行うたびに燃え尽きたような脱力感が襲うようになってしまった。クリエイションとビジネスの両輪で満足できなければ、本当の意味での成功とは言えないという思いでずっと仕事をしてきて、デザインから製作、販売のコントロールまですべて目を通していました。その重さに、だんだんと耐えられなくなってしまったのかもしれません。自分の中で葛藤が生まれ、情熱が徐々になくなっていくのを感じていました。

 40歳を過ぎて、焦りもあったのでしょう。見えない大きな壁にぶち当たり、経営を古巣のビギの大楠祐二に任せてクリエイションに専念。それでも自分が求めているものがわからなくなり、漠然と何か違うことをやりたいという思いが強くなっていきました。——第9話に続く

TAKEO KIKUCHI アーカイヴ集

2000年代前半のニット

ソフトな着心地のダブルフェイスジャケット

様々な文化を取り入れてデザインされた服は、メンズウェアの可能性を広げる

【毎日更新】第9話「電撃移籍 『タケオキクチ』の幕開け」は3月6日に公開します。

文:一井智香子 / 編集:小湊千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP

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