左)川谷光平、右)加瀬透
Image by: FASHIONSNAP
ファッションに関わるクリエイター・アーティストを紹介していく連載「私が紹介したい表現者」。お互いのことをよく知る"友人"であり仕事をともにする"仲間"でもある2人が、それぞれの作品の魅力やこれからの展望について語ります。
第2回に登場するのは、フォトグラファー 川谷光平とグラフィックデザイナー 加瀬透。2021年に制作した川谷の作品集「Tofu-Knife(トーフナイフ)」のデザインを加瀬が担当する他、クライアントワークでも創作を共にする2人は、お互いの作品をどのように見ているのだろうか?
- 加瀬透が紹介する川谷光平 -
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川谷光平 / フォトグラファー
「豆腐のようなナイフのような...人」
時にはドライに見える時もあるけど、奥深いところで優しい人だと思っています。
これからの川谷くんも楽しみです!頼りにしています!
- 川谷光平が紹介する加瀬透 -
加瀬透 / グラフィックデザイナー
「シューゲイズデザイナー」
いつもインプットから大きく歪んだアウトプット、2023年も楽しみにしています。
2人の出会い
ードイツで開催されるダミーブックアワード「Kassel Dummy Award 」で、日本人初の最優秀賞を受賞した川谷さんの写真集「トーフナイフ(Tofu-Knife)」。そのデザインを加瀬さんが担当する他、クライアントワークでも制作を共にすることが多いお2人。まずは、最初の出会いについて教えて頂けますか?
加瀬:桑沢デザイン研究所に在学していた頃に、同じクラスの友達でバンドを組んでいました。その中の1人のメンバーが現在の川谷くんのパートナーで、2016年頃に紹介してもらい知り合いました。
川谷:丁度加瀬さんがフリーランスになった頃でしたよね。
加瀬:バンドのメンバーも、イラストレーターやデザイナーなどが多かったので、写真を撮っている川谷くんを紹介された時も距離感なく自然に打ち解けていきました。
『Tofu-Knife』
Image by: Kohei Kawatani
ー初めて作品を一緒に作ったのはいつですか?
川谷:2018年に、僕の個展のチラシを加瀬さんにお願いしたのが最初です。
加瀬:その時のことはすごく覚えていて。新宿の喫茶店ランブル1階の一番奥の席で、何時間も話をしたよね。今回の展示で何をやりたいのか、川谷くんの考えを色々と話してくれました。ちゃんと話したのがその時が初めてだったので、それから川谷くんの活動をより意識するようになりました。
ー完成したチラシはどのようなデザインだったんですか?
加瀬:余白の面積が大きいチラシを作りました。なんでそうなったか詳しくは覚えてないんですが、その時の展示形式に沿って作った記憶があります。おそらくホワイトスペースに対してどう作品の配置が行われるのかとか、"時空間について"みたいな話だったのかなと思います。
川谷:加瀬さんは個人的な依頼の時も、仕事を一緒にする時もすごくやりとりが多くて(笑)。自分が伝えたことに対して、加瀬さんがどの方向にアウトプットを持っていくのか、どの部分をデザインに取り入れるのかすごく興味深かったですね。
加瀬:やりとりが多いのは負荷をかけたいわけではないですよ(笑)。 何を考えていて、どういうことが良くて何が嫌なのかを知りたいんですよね。短文等でやりとりしても分からないので、聞く時はがっつり聞きます。
川谷:個展のDMはデザインを依頼したという形なので、初めての共作は2018年に制作した、加瀬さんのバンドの配信用ジャケットじゃないかなと。バンドのMV撮影に同行することがあり、ビデオの撮影をしている横でラフにパシャパシャ撮った写真を加瀬さんがデザインしたものです。
加瀬:個展の時とは違うスタイルの写真が仕上がってきて、川谷くんの新しいフェーズを感じました。「マザージュ」ではインスタレーションの関係網の中で機能を果たす"部分"として写真が扱われているように感じていましたが、ジャケットを撮ってくれた時は、"撮る"ことに立ち返っている感じがしましたね。でも「マザージュ」を通過している写真というか。
加瀬透に聞く「川谷光平の"写真"の魅力」
作品の特徴は?>>写真を写真としてだけでなく、画像という感覚でも捉えている
加瀬:川谷くんの写真の特徴として感じることは、写真を写真として捉えているだけではなく、ピクセルが並んだ画像としても認識しているようなところですかね。良い意味で厚さがない感じがする。一歩引いて見れば、写真史やイメージの流通の在り方に対しての眼差しも感じます。
ー川谷さんの作品には、人が写っているものが少ないように感じますが、何か意図はありますか?
川谷:写真にとって人の顔って特別なものだと思っています。顔が写っていると、"その人のこと"や"その人と撮影者の関係"などに引っ張られてしまい、自分が本来作品で表現したいテーマとぶつかってしまうことが多い。ちょっとアイロニカルではあるんですが、個別性よりも匿名性の高いものに興味があるので、人を撮る時も"個人"のことにならないように、物と同じ感覚でフラットに見せることを意識しながら撮っています。
加瀬:人も物もすべてが画像内では等価に扱われていている感じだなと。
好きな作品は?>>日常の中で見落としがちな物が極端に主張してくる写真
加瀬:川谷くんの写真で重要なことは"複数性"や"全体性"だと感じます。1枚というよりも2枚3枚と写真が並ぶことを想定して撮っているんじゃないのかなと。なので、1作品を選ぶのはすごく難しいです。敢えて今選ぶとすると「トーフナイフ」の中に載っている、釘と板の写真が思い浮かびました。日常の中で見落としがちな物ですが、それが極端に強く鮮やかに迫ってくる感じにハッとします。
川谷:ある種の極端さや、クローズアップ、強い意味の不在、均質性みたいなものが「トーフナイフ」の出発点になっています。すごくきめ細かく写っているけれど、1枚1枚から分かりやすい意味や動機のようなものを汲み取るのは困難になっている。
加瀬:意味を掴みにいってもそれに失敗し続けるから、結果的にツルッとした印象に見えてくるのかなと思います。ぽっかり穴があいた感覚なんだけど決してネガティブではなく、そこに独特の心地よさがあるんですよね。
挑戦して欲しいことは?>>「トーフナイフ」「ソルティヨーグルト」のその先
加瀬:川谷くんとこの前撮影した時に、1年前と比べて撮り方を意識的に変えてるなと思うことがあって。カメラを構えてシャッターを切るまでのタイミングがすごく速くなっていたんですよね。前はカメラを構えて対象物をしっかり捉えてからシャッターを押していた気がしたんだけど、最近は「ファインダー覗いたの?」っていうくらいシャッターを切るのが速い。"撮る"という行為自体は変わらないけど、撮影感覚を自ら変えることで今までと違うイメージを見出そうとしてる感じがしたんですよね。
川谷:全然意識していなかったです(笑)。
加瀬:そうなのか(笑)。最近だと、いくつかの写真を合成した「ソルティーヨーグルト(Salty Yogurt)」という作品シリーズからも、新しい挑戦を感じます。
川谷:「ソルティーヨーグルト」はインスタグラム用に作ったシリーズですね。スワイプすると画像が繋がっていて、比率もインスタに合わせています。当初、自分としては作品というつもりはなかったんですが、投稿に「Salty Yogurt」と毎回キャプションに入れたところ、見た人から作品としてどこかに掲載したい、展示したいと提案をもらって、じゃあこれも作品なのか、と。
ー「ソルティーヨーグルト」って不思議なタイトルですね。
川谷:「トーフナイフ」の写真集の打ち合わせのために、印刷所のあるトルコに行きました。滞在中の朝、アイランと呼ばれるヨーグルトに水と塩を混ぜたトルコの飲み物をずっと飲んでいたんですが、その味がすごく複雑で自分の中にはない感覚で。でも飲み続けているとだんだん好きになってくる。アイランを巡るあれこれがこの作品を要約してるような気がして、それを英語にしたものをタイトルにしました。
加瀬:「ソルティーヨーグルト」が元々作品という意識で制作されたものじゃなかったというのは初耳です(笑)。この先に何があるのかは僕も分かりませんが、何かまた新しい景色を見せてくれるんじゃないかと思っています。いちファンとして今後の活動も楽しみです。
川谷光平に聞く「加瀬透の"デザイン"の魅力」
作品の特徴は?>>人間味のあるデザイン
川谷:加瀬さんの作品を見ていると、自分のために作るものと、クライアントワークとして作るものが結構違うなと思います。ただ、話を聞いていると共通することもあり、デザインに関する常識みたいなものに毎度クエスチョンマークを付けながらデザインに向き合っているように感じます。大変な作業だと思いますが、そこの手を抜かないんですよね。
加瀬:仕事内容が様々なので、案件ごとにアイデアを考えよう切り替えようという気持ちで取り組んでいます。同時に、グラフィックデザインに対する興味も失わないという状況を作っておくことも自分にとっては必要で、仕事に直接関係ないところで少しずつ溜めていたアイデアをクライアントワークの中で試してみたりもします。
川谷:一緒に制作をするとき、自分の中で考えているアイデアを「A,B,C,D,E」と伝えると、加瀬さんの中で広がった元々の提案とはあまり関係のない「F,G,H」のアイデアを提案してくる。それから2人で「A〜E」のことを詰めて、発展させていくのかと思ったら勝手に全く違う話がはじまっているんですよね。そこが加瀬さんと一緒に何かを作る面白さで、彼のある種の"人間味のあるデザイン"に繋がっているんだと思います。
好きな作品は?>>「TAIKO SUPER KICKS」のアートワーク
川谷:ロックバンドのタイコ・スーパー・キックス(TAIKO SUPER KICKS)のアルバム「石」「波」のアートワークが好きですね。加瀬さんのデザインは、いつもあるフォーマットへの最適解という印象ですが、この時は可変することが魅力として機能していました。
加瀬:LPだと「波」と「石」がそれぞれ別々のものとしてリリースされるけど、CDだと「波」と「石」が一緒になった状態でリリースされるなど、いくつかのフォーマットが当初から想定されていたので、それに対応できるようなアートワークを考えました。結果的には、"文字"のようなものになったのかなと思っています。表意文字的なものというか、絵文字的というか。
川谷:「波」も「石」もそれぞれLPのジャケットデザインとして完成しているんだけど、CDの「波・石」で合体されてもそれはそれとして成立しているのがすごくデザインぽくて良いなと。無意識かもしれませんが、その可変性みたいなものに独特の悪意を感じてそこが好きでした。
ーぼやけたグラデーションも印象的です。
加瀬:2019年辺りから、制作にグラデーションを取り入れるようになりました。方法が増えたのでその分できることが広がり、アイデアの選択肢が増えましたね。
川谷:今でこそグラフィックの領域でグラデーションは流行っている印象がありますけど、加瀬さんはグラデーションを取り入れるタイミングが早かった気がします。あと、他の人たちと入口が違う感じがするんですよね。
加瀬:入口と考えると、若い頃ハマっていたKevin Shields(My Bloody Valentine)の影響が意外に大きいのかも(笑)。今でも十分好きですが。それは半分冗談で現実的なことを言うと、デザインをはじめてから主にベタ面を使って制作してきたのですが、行き詰まった際に考えた方法のひとつとしてグラデーションがありました。"間"、"あわい"のようなものにも、その頃読んでいた本を通じて興味を持ち始めた時期でもあったし、日本のアンビエントやドローンミュージックをちゃんと聴いている時期とも重なるので、実際は複合的なものですね。自分の興味の矢印が多く重なったところに、今やっていることの種があったのかもしれません。
挑戦して欲しいことは?>>デザインの拡張
川谷:渋谷パルコの4階で、加瀬さんがスクワット(SKWAT)と一緒に取り組んでいた企画があったんですが、見える部分のデザインだけではなく、人と空間の関わり方など見えない部分までデザインしている。加瀬さんなりのディレクション方法でデザインの枠をどんどん広げていってほしいなと思います。
加瀬:これからも色々挑戦していきたいですね。
2人のこれから
川谷:写真集という形式で自分の名刺になるような作品が出来たので、今後はコミッションワークや作品でも他人が介在する状況でどのように自分の考えを成立させるかということに興味があります。
加瀬:自分は興味のあった美術の領域の仕事やブックデザインなど、やりたかった分野に関われるようになってきたので、このまま仕事は続けていきたいですね。ただ、2011年頃からずっと思っているんですが、個展をやりたいです。受注仕事の中ではどうしても達成できないこともあって、それを考え続けています(笑)。どういう展示にするのか少しずつアイデアはまとまってきているんですが。
川谷:10年成就しなかったんですね(笑)。今ここで言っておけば、実現するんじゃないですか(笑)。
加瀬:確かにね(笑)。あとは他業種の人とも展示をやりたいですね。川谷くんのような写真家や、他の業種の人たちと。世代や業種が入り混じっていてレイヤーが揃っていないような、でも通奏低音的に共有される"何か"がある風景があったら面白いなと。
川谷:いいですね。それも記事に書いてもらって実現させましょう(笑)。
川谷光平 / フォトグラファー
1992年生まれ。2019年にJAPAN PHOTO AWARDシャーロット・コットン賞、2020年にKassel Dummy Award First prizeを受賞。受賞作の『Tofu-Knife』を2021年に出版。
>>Instagram
加瀬透 / グラフィックデザイナー
グラフィックデザインやエディトリアルデザイン等のデザインワーク、またグラフィックの「弱さ」を巡る制作を行い、各種メディアへのコミッションワーク、展覧会等を行う。近年の展覧会に『2つの窓辺』(CAGE GALLERY_2021)等。受賞歴にJAGDA新人賞2021等。
>>Instagram
■「私が紹介したい表現者」
>>No.1 : 写真家 岡崎果歩×スタイリスト 中本ひろみ
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