新しい生活様式はもはや日常へと移行し、それに伴い企業の舵取りも大きく変化している。ビジネスの拡大を見据えつつも、サステナブルな社会に向けた経営戦略も必須だ。FASHIONSNAPは経営展望を聞く「トップに聞く 2022」を今年も敢行。今年から加わるビューティは、若い世代が関心を寄せる「サステナビリティ」をテーマに、トップ及びキーマンにインタビュー。第14回は、イスラエル発のナチュラルコスメブランド「サボン(SABON)」を展開するサボン ジャパンの畠山喜美恵代表取締役社長CEO。コロナ禍でも攻めの姿勢を崩さず、2020、2021年ともに売上高は前年を超え右肩上がりの成長を続ける。2022年、創業25周年を迎えたサボン。設立当初から続くサステナビリティの精神を加速しビジネスとの両立を図る、そのサステナブル経営とはーー。
■畠山喜美恵(サボン ジャパン代表取締役社長CEO)
ラグジュアリーコスメ 「ドゥ・ラ・メール(DE LA MER)」、「ジョー マローン ロンドン(JO MALONE LONDON)」の日本上陸とブランド成長に携わり、2018年から株式会社SABON Japan 代表取締役社長CEOを務める。
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―2018年から日本事業の指揮を執り、着任から約1年半で新型コロナウィルスが蔓延しました。その間の舵取りについて教えてください。
2018年はサボンジャパンが日本上陸10周年を迎え、本国の傘下に入った2年目のタイミングで社長に就任しました。記念すべき年ではありましたが、それまで順調だった売上に陰りが見え始めており、店舗も、そこで働くビューティーアドバイザーも活気を失っていた時期でもありました。そんな雰囲気を感じ、お客さまにもう一度来店いただけるように、「サボンを再び輝かせないといけない」と思ったのです。
2018年後半に地ならしをして種まきしながら、即座に成長路線に乗せました。2019年に本国のサポートのもと「サボン」を日本で第二次成長させるために、さらに大きく舵を切りました。2020年は就任以降の準備が花開くはずの年でした。コロナが流行する直前の1~2月は前年からの波に乗り業績が良く、さらに高いビジョンを目指していたときで、それがコロナ禍になり全店舗の長期閉店を余儀なくされ、不安とショックで、立ち止まってしまいました。
コロナで立ち止まったのは1日だけ
―当時は世の中が止まったようでした…。その中でどのように立ち向かったのでしょうか?
立ち止まったのは1日だけ。そこで決心したのが、「手を緩めずに前進する」でした。他社は新規プロジェクトや新規出店など進行を一旦ストップしたところがほとんどだったと思いますが、私は真逆で、こんなときだからこそ前に進もうと。店舗は長期閉店せざるをえなかったため、まずはECへ全てをシフトし、当時、ECの売上が前年同期比約7倍と大きく伸長しました。もちろん直営店舗の売上の100%を補填できたわけではありませんが、それでもかなりの売上を作ることができ、大切な全社員の雇用を守ることができました。
―他社ブランドもECに力を入れる中、サボンのEC戦略は?
直営店舗の閉店で、これまでのEC売上規模の約7倍もの注文が殺到し、配送が間に合わず、お客さまに約1ヶ月お待ちいただく事態にもなり、たくさんのお叱りを受けました。早期解決に向けて、ECへ全社員のリソースを即刻再配置しました。コロナ禍でリモート勤務になった社員をカスタマーサービスと連携して、お客さまからのお問い合わせに対応する人数を増やしたり、販売在庫を確保するため、一時閉店している店舗の在庫を配送センターに送るなど、お客さまに製品を届けるため社員一丸となって対応しました。コロナの影響で長期閉店を余儀なくされた店舗に代わり、ECが飛躍的な伸びを記録しましたが、この伸びしろはサボンの持つブランド力が起爆し、チャネルをまたいでお客さまのニーズが高まった証だと思います。もちろんインスタグラムやツイッター、LINEなどのSNSでは多角的にデジタル施策を実施し、多くのタッチポイントを作る施策は当たり前のように実施、強化しています。私たちは化粧品業界で、ECそしてデジタル分野におけるトップブランドになることをビジョンに掲げています。現在までECは2桁成長を続けており、ECの売上シェアは5%から20%まで上がっていますし、これからも急速な成長を遂げていきたいと考えています。
ビジネスの哲学は「人が中心」
―ECへの注力のほか、積極的に行ったことは?
他社がコロナ禍で出店を控えたり、人員削減を余儀なくされる中、サボンは売上が拡大していたため、2021年も新たに4店舗出店し、人材もヘッドハンティングを含め、オフィスで10%、店頭で20%ほど増員しました。コロナ禍で社員みんなが不安を抱いていたと思いますが、成長の大きな要因は、常に会社からのポジティブなメッセージと具体的かつ視覚化できるビジョンを頻度高くコミュニケーションすることや、やる気に満ちた人材の採用などで社内を活性化させ、デジタルサポートを含めて店頭のビューティーアドバイザーが再び輝けるステージを提供しようとする会社の変化を、社員一人ひとりに理解してもらえたことが大きいですね。私のビジネス哲学は「人が中心」であることです。会社が社員を大切に思い、個々の成長を願い最大のサポートをすることが、私の哲学だと伝えることはとても大事だと思います。完全に雇用を守り切れたことも社員との信頼を築き、人という財産である組織がブランドの大きな成長に貢献してくれました。
―創業当初からサステナビリティを重視したブランドだと思います。どういったことを行なっていますか?
サボンが大切にしているサステナビリティ コミットメント
1. サボンの心と感性が、人と自然をつなぐ
1997年の創業当初から環境にも配慮した製品作りを継続。常に“ナチュラル”であることを追求し、ヴィーガン処方の製品開発や自然由来成分を使用する
2.地球の豊かな水を守るために
2021年5月から、直営店舗に設置するウォータースタンドに特別なアタッチメントを順次取り付け開始。水の使用量を従来の50%減を目指す(現状32%減)
3.地球の緑と、澄んだ空気を守るために
地球の緑と澄んだ空気を守るという観点から、「環境に配慮した製品開発と改良」「ガラス瓶で生活を豊かに」「ネイチャーマイレージクラブ」を実施
サステナビリティにおいてはコミットメントを見据え、具体的には大きく2つのミッションを掲げています。その1つにリユース(REUSE)・リニュー(RENEW)・リラブ(RELove)を宣言しました。具体例として、ガラス容器で生活を豊かにする提案があります。サボンはガラス容器の製品が70%を占め、使用後に容器をインテリアやフラワーベースとして楽しめる提案を行なっており、店内でもインテリアとしてさまざまな使用済みガラス容器を活用しています。ワークショップではそのような“体験”も提案しています。
―会員制プログラム「ネイチャーマイレージクラブ」はどういったプログラムでしょうか?
会員の皆さまには、お買い物の際に8項目からいずれかの自然に配慮したアクションにご協力いただくたびにネイチャーマイルを付与しています。3マイルが貯まると、オリジナルエコアイテムと引き換えができるというものです。ペーパーバッグの有償化やマイバッグの推奨、オリジナルトートバッグの販売によりペーパーバッグを約43%削減したほか、店内のウォータースタンド体験後のマイタオル使用の推奨や、ハンドタオルの販売でペーパータオルを約14%削減しました。さらに、ボディスクラブを購入するとウッドスプーンが付属されますが、マイスプーンの推奨や繰り返し使用できるステンレス製ハートスプーンの販売で、ウッドスプーンを約19%削減できました。※ネイチャーマイレージクラブ開始前後の半年間を比較
サボンを象徴するウォータースタンド。昨年から特別なアタッチメントの取り付けを開始し、水の使用量の50%減を目指す
ーミッションの2つ目は?
人生そのものに花を咲かせましょうという「ブルーミングライヴズ(Bloominglives)」というアイデアです。サボンは上質な自然由来成分を使用し、地球環境の恩恵を受けてブランドが成り立っています。そこからサボンらしい「花」に着目し、花から得るエネルギーや癒やしなどをみなさんの人生に広げていきたいと考えています。店舗でも花の装飾を増やしているのですが、その花はロスフラワーやドライフラワーを使用し、“花の命をできるだけ長く楽しむ”という提案をしています。
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