エイベックスグループが2020年に立ち上げたアート領域における新事業「MEET YOUR ART」。そのリアルイベントの第2弾、「MEET YOUR ART FAIR 2023『RE:FACTORY』」の開催がいよいよ今週末に迫った。2回目となる今回のテーマ「RE:FACTORY」とは、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)が1960-80年代のニューヨークに構えたスタジオ「FACTORY」へのオマージュが込められているという。アート、音楽、ファッション、カルチャーなどに携わる多様な人々が集った領域横断的なそのスタジオは、まさに「RE:FACTORY」の骨子と重なっている。
「MEET YOUR ART FAIR 2023『RE:FACTORY』」の総合プロデューサーの加藤信介(エイベックス・クリエイター・エージェンシー代表取締役社長)と、メインアーティスト/アーティスティックディレクターを務める大山エンリコイサム、アートフェアオフィシャルサポーターの片寄涼太(GENERATIONS)の3名の鼎談が実現。同イベントにかける思いを語り尽くしてもらった。
ADVERTISING
目次
日本から世界へ、オリジナルな手法でアートを発信する
ーMEET YOUR ART FAIR 2023「RE:FACTORY」開催の経緯を教えてください。
加藤:2020年12月にエイベックスグループのアート事業として、YouTubeでアート専門メディア「MEET YOUR ART」を立ち上げたことがきっかけになっています。私自身、長年音楽の領域に関わるなかで、アートと音楽やファッションの領域は隣接していると感じていました。ただそれぞれの領域の違いも感じていて、音楽はSpotifyやYouTube、全国で多数行われるフェスなど若手アーティストが作品の発表に使えるメディアやイベントはたくさんあります。一方、音楽の領域からアート業界を俯瞰して見た時に、若いアーティストが使えるメディアもイベントも圧倒的に少ないと感じました。これまで音楽で培ってきたノウハウを転化してアートに対して価値貢献、そしてまずは日本から世界に発信すべき若いアーティストの支援という思いも込めて、メディアとECを中心に1年半事業推進を行い、その後昨年の5月に初のリアルイベント「MEET YOUR ART FESTIVAL2022 ‘New Soil’」を恵比寿ガーデンプレイス全域で開催しました。
ーアートと音楽、食、ファッションなど、さまざまなカルチャーを横断するフェスティバルでしたが、若手アーティストの発信という目的もあったのですね。
加藤:はい。エイベックスが開催するイベントだからといって、今までにないものや派手なものだけをやればいいとは最初から思っていませんでした。リアルイベントの2回目となる「RE:FACTORY」でも、若手アーティストはもちろん、世代もメディウムも横断しながら、今紹介すべきアートやアーティストをしっかりキュレーションする。その上で、見せ方、伝え方の部分でエイベックスならではのアプローチを行う。この両輪にこだわっています。
ーアートフェアである以上、ギャラリーやアーティストの調整や関係性など、取り組むべきことも多かったのではないでしょうか?
加藤:そうですね。オンラインとオフラインを組み合わせたアートによる事業展開は昔から考えていましたが、新興プレイヤーであることに加えて、世界的なパンデミックが起こりリアルなイベントはやりにくいという時代の変化もあり、最初の1年間はYouTube上での発信をストイックに行いました。そうした活動を続け、アート業界との繋がりや信頼が少しずつ築けてきた中で段階的に我々が目指すイベントが実施できるようになってきました。加えて、YouTubeメディアのほうもたくさんの方々に視聴頂けているので、結果的にこの歩み方は正しかったと思っています。
領域を横断することで起こるケミストリー
ー今回、大山エンリコイサムさんをアーティスティックディレクターに起用されています。大山さんを起用された経緯は?
加藤:僕は大山さんの作品が大好きなんですが、大山さんのルーツに音楽やクラブでのライブペインティングがあり、ストリートに端を発する「エアロゾルライティング」がベースにありながら、そこから独自の技法を生み出し、現代美術の中心で活躍されています。さらに、ニューヨークと東京、世界的ビッグメゾンとの協業、メディウムも表現の場所も領域を横断して活動されていて、まさに今回のイベントを通して実現したいことを体現されている存在だと考えてお声がけをしました。
大山:僕もニューヨークに行くので分かるのですが、ウォーホルのFACTORYがあったエリアを含め、当時のマンハッタンは比較的狭いエリアにアーティスト、ミュージシャン、ファッションデザイナーなど、多様なクリエイターが住んでいました。アーティストのスタジオやギャラリーはもちろん、レストランやバーでも異業種のクリエイターが自然な交流をし、そこから豊かなコミュニティが形成されました。FACTORYで起きていたケミストリーは、異業種間の創発性や、イノベーティブな視点が必要となる現代社会においても意味があります。そうした背景もあり、加藤さんからアーティスティックディレクターのお話をいただいた際、MEET YOUR ARTが目指すものに対して共感したのだと思います。
アートフェアでありながら、エキシビションである意義
ー領域横断的なMEET YOUR ARTのコンセプト、そして「RE:FACTORY」というテーマ。この二つを受けてどのように今回のアートフェアを考えていかれたのでしょうか?
大山:展覧会における作品の鑑賞と、フェアにおける売買の機能が良い形でミックスしたエキシビション型アートフェアというのが、加藤さんと共有していた「RE:FACTORY」のヴィジョンでした。展覧会のキュレーションとは、作家を選び、それを美術館、ギャラリーなどの空間にただ配置するだけではありません。作品同士の関係性や、来場者が作品を鑑賞する動線などを考え、展示を見た人がキュレーションの意図を汲み取れるように設計します。
ー一般的なアートフェアとの違いは何でしょうか?
大山:通常のアートフェアではギャラリーごとに空間が区切られて、各ブースに所属作家の作品が置かれます。そして売買することが主要な目的のひとつです。そのため通常のアートフェアでは、異なるブースに展示されている作品同士が、キュレーションされた関係性をもつことはありません。美術館やギャラリーでの展示とは、意図が異なるのです。
グローバルなアートフェアが生まれてから半世紀近くが経ちます。近年はアートフェアがギャラリー単位で販売をする場としてだけでなく、フェア側がアーティストを直接キュレーションし、特別展示やインスタレーションを実施することも増え、アーティストがきちんと作品を発表する場としても機能するようになりました。また批評家やキュレーターが最新のアートの傾向やトレンドを調査する場にもなっており、アートフェアの機能が拡張していることを肌で感じています。
アートは心を自由にさせてくれるもの
ー作家の個性を引き立たせながら、アートフェアとして、エキシビションとして成立させる上で大切なのはどのようなことですか?
加藤:「個々の作家をどうエンパワーしていくか?」がMEET YOUR ARTの大前提としてあります。その部分は音楽をしている片寄さんでしたら分かると思うのですが、音楽業界にいる僕らのスタンダードとしては、レーベルやフェス自体の魅力はもちろんですが、アーティスト個々の個性やキャラクターが立っていることが大前提であり重要なことだと思っています。アートフェアにおいて、ギャラリー単位で素晴らしい世界観を見せることもとても価値があることですが、私たちとしては音楽業界で培ってきたノウハウを活かし、音楽をはじめさまざまなカルチャーをきっかけに、MEET YOUR ARTのメディアやイベントを見に来てくださるオーディエンスの皆さんに対し、作家とその作品の魅力を直接的に伝えることを大事に考えています。
ーオフィシャルサポーターに就任された片寄さんとアートとの関わりを教えてください。
片寄:10代の頃からずっとアートは好きで、海外に行った際にも現地の美術館に足を運んできました。アーティストグループとして10年ほど活動をする中で「アーティストとは何か?」という問いをずっと持ち続けてきたのですが、アートに触れることで迷いや疑念が払拭され、救われてきた部分があって。芸能界で仕事をして年齢を重ねる中、アートに触発されることでいつしか「芸能」と「芸術」を繋げる活動をしたいという思いが湧いてきました。
ーオフィシャルサポーターに就任した経緯は?
片寄:昨年、プライベートで「MEET YOUR ART FESTIVAL 2022 ‘New Soil’」を訪問し、これからの展開にも期待を寄せていたところ、それを企画しているのがエイベックスさんだと後から知って。同じ音楽業界に身を置く人間として、ご縁を感じていました。まだまだアートに関して造詣が深いという訳ではありませんが、僕と同じようにアートへの扉を叩いてみたいと思っている皆さんに寄り添い、一人でも多くの方にアートを楽しんでもらいたいと思い、オフィシャルサポーターを引き受けさせて頂くことにしました。
ー片寄さんにとってMEET YOUR ART FAIR 2023「RE:FACTORY」の魅力とは?
片寄:MEET YOUR ART FAIR 2023「RE:FACTORY」のような集積されたイベントでしたら、普段は出会うことができない作品との出会いの幅も格段に広がるのが面白いところですよね。日頃アートに敷居の高さを感じている方には、好きな音楽がきっかけで気になるアートに出会えることもあるかもしれません。自分自身、一人のアーティスト、そしてアートファンとして、ものすごく贅沢なイベントだと感じています。アートとの出会いは自分の人生を豊かにしてくれます。オフィシャルサポーターとして、開催が待ち遠しくワクワクしています。
ー以前、アートにまつわるインタビューで片寄さんが「アートと出会うことで自由になれた」と仰っていたのが印象的でした。
片寄:自分の仕事は見てくださる方、応援してくださる方の期待に応えることだと日頃から思っています。しかも、その求められることがどんどん増えていく仕事だと思っているのですが、それに対する葛藤や自問自答する時期も正直ありました。そんな時にアートに触れたことで、心が少し自由になれた気がしたんです。そう思わせてくれることがアートにはものすごく多くて、アートに触れる時間が自分にとっての癒しでもありました。僕のような芸能の仕事に限らず、すべてのお仕事をしている方も日々同じような悩みや葛藤を抱えて生きていらっしゃると思うんです。そこから自由にさせてくれるものは、日常に溢れる音楽であったり、お芝居に触れることもそうですし、その一つにもアートがあって。アート業界がもっともっと注目されて盛り上がっていって欲しいと思います。
次のページは>>
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【インタビュー・対談】の過去記事
RELATED ARTICLE
関連記事
READ ALSO
あわせて読みたい
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境