フレッシュなファッションに触れていたい一心で立ち上げられた連載「ネクストブランド発掘」。とはいえ世にある幾千万ものブランドを独自調査して発信するのもなんだか一方的な気が(単に骨の折れる作業を避けただけ)。そんなこんなでこの連載では、ショップディレクター/バイヤーなどに協力を仰いで注目ブランドをピックしてもらうことに。今回は代官山「オー(O)」ディレクター吉田拓による、国内注目ブランド回。知っておいて損はナシ、目利きによる推しの話。
ADVERTISING
■O
国内外のファッションブランドを取り扱うショップとして2012年「オー(O)」1号店、2016年に2号店、2018年に3号店(※現在一時休止中)を代官山にオープン。固定観念を持たず、自由な視点で物事を発信している。また2022年現在、古着やヴィンテージアイテムを取り扱う新ショップ「フューチャー(future)」を同じく代官山に準備中。
1号店:東京都渋谷区猿楽町26-13 グレイス代官山202
2号店:東京都渋谷区猿楽町23-5 代官山ネクスト・ワンビル2F
公式サイト
インスタグラムアカウント:@o_official_tokyo
連載最初となる第1章は、次世代ブランド編。「ティー(TTT MSW)」「ダイリク(DAIRIKU)」「シュガーヒル(SUGARHILL)」「エムエーエスユー(M A S U)」などマーケットで高い評価を得る次世代ブランドが台頭してきた現在、吉田拓が注目するブランドは?明確な意思を表す次世代ブランドを紹介してもらった。(文・本田圭佑)
■男らしい色気。自由な服作り|ランディ(RANDY)
RANDY 2022年秋冬コレクション
Image by: RANDY
「ランディを知ったのはインスタ経由だったと思います。それからブランドに直接服を見せてほしいと連絡をしました。最初に見たのはたしか2019年秋冬シーズンだったと思いますが、色気のある服を作る人だなぁという印象を受けたのを覚えています。色気といってもいわゆるセクシー然とした洋服とは違い、男っぽさの中に色気がある洋服。デザイナー相川くんの考えがちゃんと感じられるものでした。それに加えて良い意味でどう着たらいいのかわからないような独特な服作りもとても興味深かったです」
RANDY 2022年秋冬コレクション
Image by: RANDY
RANDY 2022年秋冬コレクション
Image by: RANDY
RANDY 2022年秋冬コレクション
Image by: RANDY
RANDY 2022年秋冬コレクション
Image by: RANDY
「相川くんは中目黒のセレクトショップ ベース(VASE)にいたときにブランドをスタートしていますが、元を辿ると文化服装学院出身。同級生にはティーの玉田くんがいるそうです。裏原宿カルチャーの色を濃く持つティー、そこと異なる文脈から形成されるランディ、同世代間でもバラけるアウトプットにファッションの面白さがあるように感じます。これは勝手な推測ですが、相川くんはベースでキャリアを積む最中、クラス(CLASS)のデザイナー堀切さんによくお世話になっていたようなので、彼の根本にはクラスのような自由な服作り、という考えがあるのかもしれません」
デザイナー相川龍之介によるブランドで、2017年にスタート。アートや建築などから着想を得て作られるコレクションはシーズンごとにテーマが設けられ、デザイン、シルエット、配色などこだわりの強いアイテムを展開している。
RANDY:公式インスタグラム
O:公式オンラインストア
■日本人デュオデザイナーによる英国ブランド|オマール・アフリディ(Omar Afridi)
Omar Afridi 2022年秋冬コレクション
Image by: Omar Afridi
「ブランドを知る最初のきっかけはスタイリスト猪塚慶太さんからの紹介です。オマール・アフリディの2人との対面より先にブランドのSNSを教えてもらったのでしばらく見ていましたが、クリエイションやヴィジュアルのレベルの高さは画面越しからでも伝わってきました。それから展示会で実物を見て、さらに解像度が上がりましたね。また2人に会って話をした際、僕が知る日本人デザイナーの中でファッションに対する意識の高さや姿勢が抜きん出ている印象も受けました」
Omar Afridi 2022年秋冬コレクション
Image by: Omar Afridi
Omar Afridi 2022年秋冬コレクション
Image by: Omar Afridi
Omar Afridi 2022年秋冬コレクション
Image by: Omar Afridi
Omar Afridi 2022年秋冬コレクション
Image by: Omar Afridi
「先ほどティーの話が出ましたが、ティーも最初は猪塚さんからの紹介でした。今思えばこの世代が来るかも、面白くなるかも、と感じたのはティーと現在はフォトグラファーである池谷陸のブランド コムジュスイ(comme je suis)の合同展示会を見たあたりかもしれません。たしか2017年秋冬の展示会だったと記憶しています。実際ティーやダイリク、うちでの取り扱いはありませんがシュガーヒルやエムエーエスユーなどの次世代ブランドは今のマーケットから高く評価されています。そしてオマール・アフリディも、今はまだそれほど表立った存在ではありませんが近いうちに広く認知されるブランドのひとつだと思います」
ロンドンを拠点に2019年秋冬シーズンからブランドの前身となる「レオン・バラ(LEON BARA)」をリブランディングする形で始動。市森天颯と菊田潤2名のデザイナーの異なる視点を組み合わせて、原始的な創造性と近代の洗練された美意識をミックスした「プリミティブ・モード」の概念によってスタイルを進化させる。ブランドコンセプトは”Inspired by Human Striving and Achievements”。
Omar Afridi:公式サイト/公式インスタグラム
O:公式オンラインストア
■メンズ服にはない圧倒的クオリティ|ヨウヘイオオノ(YOHEI OHNO)
YOHEI OHNO 2022年春夏コレクション
Image by: YOHEI OHNO
「ヨウヘイオオノは知り合いのディストリビューター経由で紹介してもらったんですが、洋服を見せてもらい、すぐ好きになったブランドです。理由はメンズ服にはないクオリティの高さ。性格悪いな、と自分のことながら思いますが、僕は生地やディテール、プライスに至るまで洋服を総括的に見た上で減点方式によって判断するきらいがあって。でもヨウヘイオオノは減点箇所が見当たらなかったんです。上品さやロジカルなデザイン性、思考までもが高次元で成立しているような洋服を見ることができて癒されたほどです」
「少なくとも僕の中では、このクオリティでメンズアイテムを展開しているドメスティックブランドをあまり見たことがありませんでした。なので挨拶も早々にメンズ服は作らないのかと興奮気味にデザイナーへ尋ねましたが、今のところ予定はありませんと言われてしまって。そのときはOで取り扱うウィメンズブランドを探していたところだったためウィメンズ向けのアイテムとしてピックさせてもらいました。ただどうしてもメンズを諦めきれない僕はその後も懲りずにお願いして、エクスクルーシブでメンズも着られるヨウヘイオオノのアイテムを作ってもらいました。第1弾はデニムを作ってほぼ完売。第2弾はクラッシュベルベットのレーヨンシャツを作っていて、完成を楽しみにしているところです」
東京を拠点に活動するデザイナー大野陽平によるウィメンズファッションブランド。文化服装学院で基礎を学んだ後、渡英。2014年に自身の名を冠したブランドを設立し、翌年秋冬コレクションにてデビュー。
YOHEI OHNO:公式サイト/公式インスタグラム
O:公式オンラインストア
■鮮烈な印象。自由なスタイル|クードス(kudos)
kudos "LOST AND FOUND"
Image by: kudos
「クードスは最初の1シーズン、ブランドがまだツカサ クドウ(tsukasa kudo)名義のときにインスタで見て反応したのがきっかけでした。その後クードスに名義を変えて発表した1stシーズンの洋服をMATT.(日本のショールーム)で実際に見てオーダーしたという流れです。とにかく海外の匂いがすごかったというか、日本的ではないアプローチに強く衝撃を受けました」
kudos "LOST AND FOUND"
Image by: kudos
kudos "LOST AND FOUND"
Image by: kudos
kudos "LOST AND FOUND"
Image by: kudos
kudos "LOST AND FOUND"
Image by: kudos
「今はブランドが認知されてきたのでクードスと聞けばクリエイションのイメージが湧く人も多いと思います。ですが当時の僕は、洋服に対して工藤くんほど開放的に、自由にデザインを落としこむ若い日本人デザイナーを知りませんでした。それでいて人を圧倒するエネルギッシュなクリエイション。クードスとの出会いはなんだかビンタされた直後のような気分でした」
アントワープ王立芸術アカデミーに進学後「ジャックムス(JACQUEMUS)」「ワイプロジェクト(Y/Project)」「JW アンダーソン(JW Anderson)」でのアシスタントを経た工藤司が2017年にスタート。デザイナーである工藤はkudosのほかにウィメンズライン「スドーク(sudok)」や出版レーベルのローンチ、フォトグラファーなど多岐に渡る活動も行っている。
kudos:公式サイト/公式インスタグラム
O:公式オンラインストア
■日本特有の感性。その価値観|ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)
SOSHIOTSUKI 2022年秋冬コレクション
Image by: SOSHIOTSUKI
「ソウシオオツキを知ったきっかけはクードスをはじめて見に行ったMATT.でのことでした。この2ブランドは同じショールームに置かれていて、PRの人によかったら面白いブランドがあるので見てほしいと紹介されたんです。そこで僕はサーマルのミリタリーウェアに日本軍みたいな名札をつけたソウシオオツキの洋服を見ることになります(笑)。かなり攻めていて面白かったですね」
SOSHIOTSUKI 2022年秋冬コレクション
Image by: SOSHIOTSUKI
SOSHIOTSUKI 2022年秋冬コレクション
Image by: SOSHIOTSUKI
SOSHIOTSUKI 2022年秋冬コレクション
Image by: SOSHIOTSUKI
SOSHIOTSUKI 2022年秋冬コレクション
Image by: SOSHIOTSUKI
「個人的な話ですが、若いときからイースタンユース(eastern youth/日本のスリーピースオルタナティブロックバンド)が凄く好きで。あのバンドに流れている、日本の哀愁や情緒みたいなものに割と心が動かされやすいタイプで、ソウシオオツキからも同じく昭和またはそれ以前の日本男児感、忘れてはいけない感覚を訴えかけられた気がしました。決して売れやすい洋服ではありませんが、存在に価値があるブランドだと捉えています」
デザイナーの大月壮士によって2015年に立ち上げられたメンズウェアレーベル。東京を拠点に、日本人の精神性とテーラーのテクニックによって作られるダンディズムを提案。
SOSHIOTSUKI:公式サイト/公式インスタグラム
O:公式オンラインストア
■ユニークなアイテム。飛躍にも期待|ヒダカ(HIDAKA)
HIDAKA 2022年コレクション
Image by: HIDAKA
「壮士くん(ソウシオオツキ デザイナー)がO 代官山3号店のオープニングレセプションに、ヒダカのデザイナー日高くんを連れてきてくれたことがきっかけで知り合いました。そのときはお互い挨拶を交わしたくらいでしたがその後改めてヒダカを見て、とてもユニークなアイテムを作っていることを知り、そこから付き合いがはじまりました。ヒダカのプロダクトはどれもクリエイションが豊かで面白いものが多いです。ただ個人的にですが、日高くんにはまだまだ出しきれていない大きなポテンシャルが隠れていると思っていて、実はそこにかなり期待したりもしています」
HIDAKA 2022年コレクション
Image by: HIDAKA
HIDAKA 2022年コレクション
Image by: HIDAKA
HIDAKA 2022年コレクション
Image by: HIDAKA
HIDAKA 2022年コレクション
Image by: HIDAKA
「ソウシオオツキ、ヒダカは文化服装学院を出た後、ここのがっこうに行っています。僕は教育方針などを詳しく理解できているわけではありませんが、印象としてはコンセプト重視、自分にしかできないことを追求するアート寄りな思考を育てている場所のように感じています。なのでこの2ブランドはキャリア文脈はとても近いですがアウトプットは個性的。彼らのように見る側を楽しませてくれる存在はファッションにおいても重要な役割だなと実感しています」
デザイナー日高俊が手がける東京を拠点にしたファッションレーベル。2017年に設立。日常のアイテムに最小限のエッセンスを加え、ユニークで実用的なアイテムを演出している。
HIDAKA:公式サイト/公式インスタグラム
O:公式オンラインストア
_
「僕がはじめにお店を出店したのが28歳のときでした。その理由のひとつにファッション業界への物足りなさというのがあって。欲しいと思えるお店がない、それならば自分でやろう、と。今回紹介しているブランドのデザイナーたちは当時の僕とそう変わらない年齢で、多分日本のファッション業界や世の中などに対する物足りなさがきっとあるはず。自分のクリエイションを突き刺したい気持ちが最もジューシーな世代であり、退屈に対する自己提示、ハングリーさを研ぎ澄ます世代が作る服だからこそエネルギッシュで刺激的なんだと思います」
「昔、島田紳助さんに対してある質問を投げかける内容の番組を目にしました。自分は実力の人間か、運の人間か。島田さんは「運だ」と答えています。その理由は同期に明石家さんまさんとオール巨人さんがいたから。24時間明るく喋り続けられる明石家さんまさん、漫才の才能が抜群のオール巨人さんと同じことをしても勝てないことに気づき、自分は邪道キャラとして進むと決めて頑張れたから今がある、とまぁざっくり言うとこんな感じの内容です」
「タレントさんと比べることでもないですが、僕としては芸を磨くという意味において芸人もミュージシャンもデザイナーも、同じことが言えるんじゃないかと思っています。次世代デザイナーたちを見ながら、もしかしたら島田さんと同じような考えを潜在的にやっているのかも、なんて勝手な想像も広げて楽しんでいます」
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【ネクストブランド発掘】の過去記事
RELATED ARTICLE
関連記事
READ ALSO
あわせて読みたい
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境