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【インタビュー】54歳で渡米した桃井かおりの“逆上がり人生”とは?

Image by: YOSHIYUKI NAGATOMO

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【インタビュー】54歳で渡米した桃井かおりの“逆上がり人生”とは?

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 20歳で映画デビューし、独特の存在感を放つ女優としてキャリアを重ねながら、50歳を過ぎて突然渡米、64歳で幼なじみと結婚——信念を貫いた生き方で多くの人々に感動を与えた文化人・表現者を顕彰する「第6回 種田山頭火賞」を受賞したばかりの桃井かおりさん。じわりと心に響く“桃井語録”もかねてから人気だが、それらをまとめた新刊「桃井的ことば」(KADOKAWA)を11月2日にリリース。監督3作目の製作も控え、相変わらず多忙な桃井さんの“今”を聞いた。

■桃井かおり
1951年生まれ。12歳で英国ロイヤルバレエアカデミー留学。帰国後、文学座附属演劇研究所を経て、1971年に俳優として映画デビュー。現在LAを拠点に俳優、監督、プロデューサー、女子美術大学客員教授など多彩に活躍。2008年紫綬褒章、2022年旭日小綬章受賞。

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日々の悩みを消し去り、前向きな気持ちになれる“桃井節”が炸裂。力強い書、持ち味豊かなイラスト、過去のさまざまな作品を一挙掲載したアート本のような一冊。(全160ページ、2750円)

50歳を過ぎてハリウッドへ

—LAに渡ってからもう20年近くになりますね。

 50の誕生日の午前中にドラマのロケで学校の校庭にいたんだけど、鉄棒があって、横にいた中谷美紀ちゃんに「私、これがずーっとできない、泣きながらやってもできなかったのよね」って言いながら、生まれて初めて逆上がりができたのが50の誕生日の日だったのよ。それで「50歳、なんかいけるぞ!」って思い始めて。それでアメリカに来て生まれて初めてオーディションを受けたのが51か52くらいなのよ。それからこっちに来てて。それで撮影終わって54からこっちにアパート持ってるわけ。だから、まだ飛べる最後の歳が50だと思うんだよね。ものすごく変化する飛び方、それも必然的に、かつ安全に。小金もあって、自信もある。50は逆上がり時なんだよね。

 アメリカに行った当時は、ちょっと日本から逃げて、「桃井かおり」から逃げて、どうやったら落ちぶれずに上手にリタイアできるかっていうことしか考えてなかった(笑)。そのタイミングでハリウッドから映画のオファーがあったから、ナイス!って思っちゃって。 

 アメリカで成功しようなんて、54 歳で考えるわけもなく。日本語だけはすごくしゃべれるし(笑)。でも変に「ここで暮らせるな」って思っちゃったの。運よくアパートも借りられたし。ちょうど渡米した年に映画を撮って、それで映画祭に行って、そこでいろんな監督に出会って、その監督たちとインディーズで仕事して。そんなふうに過ごしてる。

「桃井的ことば」(KADOKAWA)より

映画人として、日本よりもLAのほうが生きやすい?

 日本人って人前でうなずいてばっかりいる妙な人たちって思われてたんだけど、その中で一応「大丈夫な日本人が来た」って言われてたの、YES/NOがはっきりしてたから。ちゃんと表情もあるし、嫌な顔もするし、人間じゃん、みたいな。それから、日本人って謙虚じゃん? 横暴さの中に謙虚さの尻尾みたいのが付いてたからね、まだ私にも。だから非常に好かれたのね。それで映画を作っていたことによってクリエイターとして換算されたので、結構一緒に打ち合わせして、意見をバンバン言っても大丈夫だったの。無名でなんの権力もない人が言ってるから、いいアイデアならもらうって感じ。今重宝されているのは、むしろ日本人であるということと老けてきた外見なんだよね。英語を喋ってくれる日本人の婆さんがいない、ってことで。だからそこにまたそこそこの希望を見出だしてしまうでしょ。いい作品さえ見つかれば、面白いものを落として終われるかもしれない、っていうのはあるよね。

 日本よりも海外のほうが可能性がある、私の場合はね。アメリカ人はみんなOKなのに、日本人のスタッフのほうが「桃井さんヤダ」って断ったりするから驚いた。「あの人はクリエイトするから、若い監督さんだと乗っ取られちゃいますよ」って。まあ乗っ取ったことあるんだけど(笑)。

「桃井的ことば」(KADOKAWA)より

作りたいものを作る、という境地

仕事に対するスタンスに日米の違いはありますか?

 仕事は基本的におんなじなんだよね。やっぱりインディーズは面白くて、メジャーは漫画ものかアクションものか。どこの国でもおんなじだと思う。だからマイナーなほうしか目がいかないけど、マイナーなほうの実験力はすごいよね。すっぴんは当たり前、醜いのは全然大丈夫みたいな感じで、みんなメジャーではやらない仕事をマイナーで実験してる。やっぱり最後にどのくらいの女優になれるか、力試ししてるんだと思う。そういう時期だと思うし、売れ続けてる人の不幸ってあるからね。ずっと主役やってる(スカーレット・)ヨハンソンとかさ、落ちぶれたいのよ、あの人も。そして実験的なインディーズにいっぱい出たいと思ってる。もっと生活を楽しんでみたいって引退を言ってみたり、インディーズの映画なら出ちゃうとか。お金いらないからさ、みんな。

 だからミシェル・ヨーがオスカーを獲ったのは最高に嬉しかったのね。ほんとにアジア人として一番頑張ってた女の人だから、私が知っている世界では。それより前の人は知らないからわかんないけど。いいやつ、素敵な人間だもん。媚びてなくて、見るものは見てて、金払いがよくて、品がよくて。オスカーの受賞スピーチで「盛りは過ぎたと言わせるな」って言ったけど、それって「盛りを過ぎてから力出ますよ」って言ってるのと同じだからね。素敵だな、いいな、と思って。

 そんなんで仕事っていう感覚がほんとになくなってきていて。売れるから作るっていう、そういうお茶碗は作らないから。作りたいものを作る。欲しい人がいたら売らないで、あげる。そこまでいったら趣味でしょ。だから仕事は辞めてもいいんだって、気がついちゃったんだよね。

「桃井的ことば」(KADOKAWA)より

多様化する価値観に生きる若者が頼もしい

日本の若者たちは夢や希望を持ちにくいと言われています。何かアドバイスがあれば。

 野菜を栽培している人とか職人さんに若者が増えている感じがするんだけど? かっこいい八百屋さんとか最近多くない? アメリカでもそうなんだよね。弁護士とかミュージシャンになるよりもプラマー(plumber 配管工)になれって言われてるの。水道工事とかガス管工事とか、親方について現場に行ってやり方を教えてもらって仕事覚えて。1回来てもらったら500ドル(約7万5000円)くらい払うからね。それで予約が取れないくらいなんだから。職業の価値観も違ってくるよね。

 女子美(女子美術大学)の授業で「AIは美術にどのくらい入ってきますか?」っていう質問があったんだけど、上手な絵を描いたり、だれかに似た絵を描くのはAIがやるから、平均以下か平均以上じゃないと、人間のクリエイションにはならないってことだよね。AIがキレイだと思わないものをキレイだと思えるかどうか。多数決で美しいものは美の敵なのよ。

「桃井的ことば」(KADOKAWA)より

 女子美の学長さんに「私は問題児だったと思うので、今先生なんかやってるけど、私でいいんですかね?」って最初に言ったのね、そしたら「あら、あなたのは問題じゃなくて、個性でしたよ」って言われたの。「だからあなたが女優さんをやってる時に、あなたには個性があるからなんの心配もしてませんでした」って。学生時代、黒い革靴じゃなきゃいけないって決まってたんだけど、私は中をコバルトブルーに染めてたのよ。そうするとちょっと上のところだけ縁にブルーが入るじゃない? カッコイイなあと思ってて。そしたらそれはダメって言われて。それで学長さんに「どうですかね、これ」って言ったら「いいんじゃないですか? キレイだと思うわ、私」って。のびのび育てられたのね。

 若い子ってどうしてもみんな群れて、それでも随分バラバラになってきた。個性という名の集団にはなってるけど、まずは個性的であろうとはしてるでしょ? それがとっても頼もしい気がしてるんだけど。オリジナルが強くなるだろうなあ、そう思って生きていけばと思うし、もう普通であることはすごく飽きてるみたいじゃない? それがすごくいいから、私は全然心配してない、むしろ期待してる。それでいて欲がないから、気持ちよく生きていけるんじゃないかな。

「桃井的ことば」(KADOKAWA)より

 たとえばみんなで住んでくれたら援助が出ますよ、みたいなところで農家やって、そこでとっても素敵な布を織り始めたとか、お茶碗作ってるとか。お金がないから田舎に住もうと行ったことによってそんなことが生まれる、そういうふうにチャンスっていうかさ、石ころってそういうふうに転がってくるもんだからさ。意志を持って生きてると、そこに石が転がってくるってことじゃない? だからすごく気になって、本にも石石って入れちゃったんだけど、なんかそういう感じなんだよね。

ジャケット(税込12万9800円)、ドレス(同19万8000円)、スカート(同6万8200円)、シューズ(同9万9000円)/すべてLIMI feu
ピアス(スタイリスト私物)

photo: Yoshiyuki Nagatomo
hair & make-up: Ryoji Inagaki at maroonbrand
styling: Kumiko Iijima at POTESALA
text & edit: Yumiko Kizu

ビューティ・ジャーナリスト

木津由美子

大学卒業後、航空会社、化粧品会社AD/PR勤務を経て編集者に転身。VOGUE、marie claire、Harper’s BAZAARにてビューティを担当し、2023年独立。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修了、経営管理修士(MBA)。専門職学位論文のテーマは「化粧品ビジネスにおけるラグジュアリーブランド戦略の考察—プロダクトにみるラグジュアリー構成因子—」。

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