新しい生活様式はもはや日常へと移行しそれに伴い企業の舵取りも大きく変化している。ビジネスの拡大を見据えつつも、サステナブルな社会に向けた経営戦略も必須だ。FASHIONSNAPは経営展望を聞く「トップに聞く 2022」を今年も敢行。今年から加わるビューティは若い世代が関心を寄せる「サステナビリティ」をテーマにトップ及び、キーマンにインタビュー。第11回は、南フランス発のライフスタイルコスメティックブランド「ロクシタン(L'OCCITANE)」を運営するロクシタンジャポンの木島潤子代表取締役社長。南仏プロヴァンスに1976年に誕生以来、自然と人への敬愛を根底に、エシカルなモノ作りでグローバルにビジネスを拡大しながら、社会貢献を両立する。そんなロクシタンの精神に惚れ込む木島社長に、ロクシタンが考えるサステナブル経営を聞いた。
■木島潤子(ロクシタンジャポン代表取締役社長)
1977年東京都生まれ。2000年慶應義塾大学経済学部卒業後、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)マーケティング本部入社。複数の幅広いカテゴリーにおいてブランドマネージャーを歴任。2013年ロクシタンジャポン入社。オーガニックコスメブランド「メルヴィータ」のマーケティングマネージャー、事業部長を経て、 2020年に「ロクシタン」のマーケティング本部長に就任。2022年2月から現職。
ADVERTISING
DNAは「地球環境は決して汚してはならない」
ー自然由来の成分を多く配合しているブランドとして、以前からサステナビリティに注力してきた印象があります。
今でこそ世界的にサステナビリティ、SDGsの考えが浸透してきましたが、「ロクシタン」はオリビエ・ボーサン(Olivier Baussan) が創業した時から、ショッパー(袋)はビニールではなく紙で提供するなど、自然の恵みを生かした製品を作っているブランドとして、「地球環境を決して汚してはならない」という強い思いがブランドのDNAなんです。ブランドの本質的な理念として自然・人々・社会との共生を掲げ、活動してきました。
ーどういった活動を行なってきたのでしょうか?
具体的には、グローバルで6つのコミットメントを掲げており、それらを軸に社会貢献活動を行っています。
■「ロクシタンの約束」として掲げる6つのコミットメント(目標)
1. 植物の多様性を保護
2025年までに1000種の植物を保護し、大地を育む多様な植物の生態系を大切にする。現地の生産者と協力して植物の多様性を保護する活動を推進する。
2.生産者をサポート
2025年までに100の直接契約生産者とのフェアトレードを実現する。非独占的な複数年契約と適正価格に基づいたフェアトレード関係を締結。
3.地球の自然にやさしく
2025年までに全てのプラスチックボトルをリサイクル素材にし、世界中の店舗でリサイクルサービスを提供する。1992年からプラスチックの回収とリサイクルの促進、ゴミ分別の必要性の理解を目的とした「L’action mistral」プログラムを実施。特にエコレフィルや空き容器の回収など、顧客と協力・協働できるプラスチックの使用量削減に取り組む。
4.女性の自立を支援
2025年末までにブルキナファソの女性6万人以上の支援を目指す。シアバターの製造技術を受け継ぐ12人の女性と始めたパートナーシップは、現在1万人超に。2006年からはロクシタン基金を通じて、女性の起業を支援する少額融資、女子児童の教育など包括的な支援を実施する。
5.視覚障がいへの取り組み
2025年までに1500万人以上の人に視覚支援プログラムを提供する。視覚障がい支援活動を目的としたチャリティー製品を発売し資金を調達。これまでに1000万人にアイケアを提供。
6.伝統的技術の継承
2025年までに20の継承するべき技術・才能を発掘し、伝えていく。磁器や刺繍、木工、帽子などの分野で職人と独自のパートナーシップを築き、彼らと共に「ロクシタン」に関係する作品やデザインを生み出す。
ー具体的にはどういったことを行なっているのでしょうか?
例えば、日本で行なっていることの分かりやすいところでは、テラサイクル(TERRACYCLE)と協業している、空き容器を回収してのリサイクルプログラムや植樹活動ではないでしょうか。震災と豪雨の被害に遭った熊本県山都町では、NPO団体と組んで1100本の植樹活動を行いました。同じ木をひたすら植えるのではなく、現地の生物多様性を守るためにさまざまな種類の植物を植えました。実は、東日本大震災の時も本社が中心になり基金を立ち上げ、わずか2日間で2億円を集めて東北地方の復興支援に寄付しました。当時、寄付や物資支援以外にも、住民が自ら復興して互いをサポートできるように、地域のコミュニティーセンターを立て直したりしたんです。
ロクシタンの理念は、自然・人々・社会との共生
Image by: ロクシタンジャポン
ー地球環境への配慮で言えば、カーボンフットプリントのオフセットは大きな課題ですが、温室効果ガスの削減の取り組みはありますか?
グループとして、工場で発生するCO2の削減のためにもさまざまな取り組みを行なっており、2025年までに工場の、2030年までに全ての事業のカーボンニュートラル化を目指しています。
当然ですが、空輸ではなく船便を活用していますが、船便といえど、日本においては海外からの輸入品がほとんどなので、どうしても輸送に多くのエネルギーを要します。できることは製品のプロモーションや販売スケジュールなど、早めに計画することでしょうか。製品の発売が急遽前倒しになると、間に合わせるために空輸を使うことになります。そういった無駄なCO2の排出を防ぐためにも、早めのプランニングを心掛けています。また限定グッズを作る際も、コスト面では中国産が良いのですが、輸送によるCO2のリスクを考え国内生産に切り替えています。
ー究極を言えば、モノを作らないことがCO2や廃棄物の削減に繋がると思いますが、モノを作ることの考えは?
それはとても難しいと思います。化粧品は生活必需品ではなく、あくまでも嗜好品ですから。ただ、生きていく上で生活や心を満たす“彩り”は重要で、化粧品には心を満たし、生活を豊かにするパワーがあります。「ロクシタン」はそういった心を豊かにするアプローチをとても大切にしています。そのためにも、モノを作る中でプラスチックや動物由来のモノを使わないなど、小さなアクションを一つひとつ重ねることで、地球と人に配慮した製品を提供し、また製品パッケージにも記載しています。そういった製品を買っていただくことでポジティブな連鎖を繋げることができると信じています。
チャリティー活動に社内用アプリを開発、社員の意識高める
ーサステナビリティを広げる上で、社員の意識も大きな鍵になりますが、教育にも力を入れているのでしょうか?
社内のサステナビリティ活動もとても盛んです。例えば、店頭やオフィススタッフが街中のごみを拾う清掃活動「クリーンウォーク」を全国で定期的に行っています。もちろん参加は強制ではありませんが、自ら手を挙げる社員が多く、社内の意識の高さにいつも感心します。
また2016年から、視覚障がい者への支援で、毎年社員が参加するチャリティー競争「レース・フォー・ビジョン(Race for Vision)」を開催しています。グローバルのレースなのですが、このためにアプリを開発し、期間中に歩いたり、走ったり、自転車で走行したりした分を記録。そのポイントに応じて、会社が視覚障がい者を支援する団体に寄付するというものです。社員の健康管理や交流を兼ねたものですが、一人ひとりの一歩が視覚障がい者へのサポートに繋がることから、社員はかなり熱心にチャレンジしていますね。さらにこれは各国のチーム対抗戦でもあり、チームビルディングにも貢献しています。ちなみにですが、韓国がとても素晴らしい成績なんですよ。現在、グローバルではこのアプリを顧客も活用できるように改良しており、今後日本でも顧客を巻き込めたらと考えています。ほか、製品パッケージやわれわれの名刺には点字も記載しています。
ージェンダーの平等も今の社会問題の一つですが、女性支援をコミットメントにあげていますし、社内でも女性が活躍している印象です。
代表製品のシアバターの原料であるシアの生産者の女性たちを支援する活動を積極的に取り組んできました。同じ傘下のオーガニックブランド「メルヴィータ(MELVITA)」でもアルガンオイルの女性生産者を支援するなど、全社をあげて女性支援に尽力しています。
また社内においては現在のロクシタンジャポンの社員の96%が、そのうち管理職の92.3%が女性です。実は日本上陸当時は育休・産休制度がなく、管理職で子どもがいる人もいませんでした。そこから、規模が拡大するのに合わせ着々とダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを強化し、今は女性が本当に働きやすい会社になったと思っています。
地球を守るためには勇気ある決断が必要
ーこういったサステナブルな活動は、ビジネスの拡大、売上にも繋がっているのでしょうか?
コロナ禍の2020年の第3四半期(10〜12月)は日本上陸以来最高の売り上げを達成し、2021年通期もほぼ前年並みで着地する予定です。中でもフレグランスカテゴリーの売り上げは前期比10%伸長、スキンケアカテゴリーが同15%増の見込みとなっており成長をけん引しています。コロナ禍によるフレグランスやハンドケアアイテムの需要の高まりはもちろん、消費者のサステナビリティへの関心が高まる中で、「どうせだったらサステナブルなものを選びたい」という思いから「ロクシタン」の製品を選んでいただけたのではないか、と思います。
コロナ禍で売上が拡大したフレグランス。昨年は金木犀の香りが注目を集めた
Image by: ロクシタンジャポン
ただ誤解してほしくないのは、売上を優先しているわけではないということです。現在、製品の処方をよりクリーンにできるように研究開発を進めていますが、一つの製品の話をすると、以前日本で大人気だったヘアオイルにシリコーンを配合していたことから、シリコーンフリーに改良することになったんです。ただどうしても同じような効果をオイルで再現する開発が難しく、最終的には同等のクオリティーのミルクタイプに変更することになりました。日本ではベストセラー、ヘアケアカテゴリーでは売り上げナンバーワン、グローバルでも人気の製品だったため、処方をまるっと変えるのには相当な勇気がいる決断でした。しかしいざリニューアル発売すると、生まれ変わった“ファイブハーブス リペアリングヘアミルクセラム”は大成功し、1年でオイルを代替するほど成長しました。地球を守るためには、時には勇気ある決断が必要です。でもそういうアクションを取っていかないと、これからの時代、ビジネスは永続しないのではないでしょうか。サステナビリティとビジネスは両立できるはずです。
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【トップに聞く】の過去記事
RELATED ARTICLE
関連記事
READ ALSO
あわせて読みたい
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境