山﨑賢人
Image by: Koji Hirano (FASHIONSNAP)
3月5日、雨のパリ。濡れた石畳を街灯が照らす夜に、俳優 山﨑賢人の姿があった。「サンローラン(SAINT LAURENT)」のアンバサダーに就任し、昨年6月にベルリンで行われた2024年春夏ショー以来、2回目のファッションショー参加となる。この日はパワーショルダーのジャケットに細身のストライプスラックス、足元にはバーガンディのブーツを合わせ、アンドロジナスな色気を漂わせていた。
サンローランと映画と音楽と
映画制作会社「サンローラン プロダクション」を設立するなど、映画への敬意を示してきたブランドが、山﨑をアンバサダーに抜擢したのも納得がいく。『今際の国のアリス』や『ゴールデンカムイ』で主演を務め、今後『陰陽師0』や『キングダム 大将軍の帰還』の公開が予定されているなど、いまや日本を代表する若手俳優のひとりだ。
「どこを歩いていても、絵になる街ですね」と、パリの印象を語る山﨑。訪れるのは初めてで、「周りに高い建物がないからか、存在感がすごい」とエッフェル塔に感動し、日中はオルセー美術館、シャンゼリゼ通り、凱旋門などを巡ったという。
また、今年2月にオープンしたばかりの、書籍やアート、カルチャーにフォーカスしたショップ「サンローラン バビロン(SAINT LAURENT BABYLONE)」にも訪れた。そこではセルジュ・ゲンズブールにまつわる展示が開催されており、山﨑は彼の代表曲「ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」のレコードを購入。「過去に出演したドラマの中で使用された曲で、運命を感じましたね」。
大歓声を背に美術館の中へ
ショーの時間が近づき、向かった先はパリ1区にある「ブルス・ド・コメルス ピノー・コレクション」。現代アートコレクターのフランソワ・ピノーが蒐集したアート作品に出合える美術館であり、建築家の安藤忠雄がリノベーションを手がけたことでも知られる場所。サンローランは2023年ウィンターメンズコレクションを同会場で発表しており、約一年ぶりに戻ってきた形だ。
会場前で車を降りると、沿道に集まった観客の大歓声に包まれた。「Kento!」と名を呼ぶ多くの声に手を振って応えながら、荘厳な構えの建物の中へ。ランウェイとなった円形のホールは、見上げると美しい天井画に目を奪われる。床には毛足の長いカーペットが敷き詰められ、周囲をぐるりと黒いソファーが囲む。
奥にはカラユリ、アネモネ、ランといった花々がモニュメンタルなアーチを描き、1972年にホテル「インターコンチネンタル」で行われた「イヴ・サンローラン」のランウェイを彷彿とさせる。ショーが幕を開けるまでの間、山﨑はSEVENTEENのジョンハンと再会を喜び合うなど、世界各国から集ったセレブリティらと交流のひとときを過ごした。
ムッシュ イヴ・サンローランの面影
サンローラン2024年ウィンターメンズコレクションは、若き日のイヴ・サンローランを彷彿とさせるダブルブレストのスーツで始まった。前回のコレクションと地続きにあるといい、1980年代のパワーシルエットを連想させる構築的なジャケットやビッグタイは、クラシックでありながら全く古さを感じさせない。
1960年代のアーカイヴを再解釈したラバー素材のピーコートなどを挟みながら、シルエットは徐々にソフトになっていく。イヴ・サンローランの功績にオマージュを捧げつつも、クリエイティブ・ディレクターのアンソニー・ヴァカレロは、流れるようなフレアパンツ、サテンのトップス、シアーのシャツといった彼ならではのセンシュアリティを加えていく。
ミニマルなカラーパレットは、淡いヌード、グリーン、スミレなど控えめに色付き始め、ジャケットのゴージラインは低くなり、生地の流動性は美しく増してくる。後半に登場するテーラリングは、クレープジョーゼットにサテンの裏地をつけたアンコンストラクテッド仕様で、ソフトなエレガンスに着地。計40のルックで現代のダンディズムを表現した。
「この美しい場所で、生のショーを見ることができて嬉しい。内装や音楽も、空間と合っていました。特に気になったのは、レザーのコートやグレーのスーツ。僕はヴィンテージも好きなのですが、過去のアーカイブへのリスペクトを込めながら、今の時代に沿うよう丁寧にデザインされているのが伝わりました。素敵なショーでした」
Photo: SAINT LAURENT, Koji Hirano (FASHIONSNAP)
Text: Ko Ueoka
Direction & Edit & Movie:Chiemi Kominato (FASHIONSNAP)
Realization: Mizuki Okuhata (FASHIONSNAP)
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