若林恵氏/「週刊だえん問答 コロナの迷宮」
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トランプ前大統領のツイッター永久停止は「真実かどうか」ではなく「リスク」の話
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― この本が発売された後に起こった大きな出来事として、トランプ前大統領のツイッターアカウントの永久停止があります。「だえん問答」の中でも「プラットフォームの中立性」に関する話がでてきましたが、あのニュースはどのように見られましたか?
これはなかなかややこしい話なんですが、まず大前提として、ツイッターもフェイスブックも私企業なので、自分たちの規約の中で誰を排除してもなんら問題はないわけです。なのに、その前提がなぜ適用されないのかというと、対象がアメリカ大統領という極めて公共性の高い人物であるということと、メディアプラットフォーム自体があまりにも巨大になってしまい、それ自体の公共性も高くなってしまっていたからなんですね。下手すると行政府をしのぐほどの影響力をもつインフラになってしまっているわけですから、もちろん、そこは民間の空間ではあるわけですが、「公共」に準ずるものとして扱う必要もあるのではないか、という点で、難しい議論になるわけですね。かつ、さらに難しいのは、そこが「言論のプラットフォーム」だというという点でして、アメリカにおいて言論・表現を規制するというのは、極めて重大な問題になります。
― 「表現の自由(freedom of speech)」という言葉は、今回のアカウント停止を巡る議論でよく耳にした言葉です。
基本、「言論・表現の自由」のもとにおいては、人は何を言ってもいいわけですし、国家がそこに介入することについては、厳しく制限されています。原則として、人には嘘をつく権利もありますし、デタラメを言う自由もあるんですよね。
― トランプ前大統領のアカウントが永久停止されたのは、単純に言っている内容が真実じゃないかもしれないから、というわけではない。
ツイッターのジャック・ドーシーとフェイスブックのマーク・ザッカーバーグがトランプさんのアカウントを凍結した際のステートメントを読んでみますと、あくまでも「リスク」という観点から凍結していまして、嘘を書き込んだから凍結したとはしていないんです。あくまでもその言説によってもたらされうる「リスクの算定」が重要だっていう判断なんです。
19世紀~20世紀初頭に活躍したオリバー・ウェンデル・ホームズ・ジュニアという有名な判事がいるんですが、表現の自由に関する彼のことばで「満員の劇場で『火事だ!』と叫ぶことは許されない」という名言があります。人には自分の言いたいことを言う権利はあるのだけれども、満員の劇場の中、嘘で火事だと叫ぶ自由はないということです。それはあくまでも、リスクの大きさに応じた話であって、嘘つくこと自体を問題にはしていないんです。あくまでもそれが引き起こすかもしれないリスクの大きさから、初めて嘘は問題にされているんです。
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