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若林恵に聞く、主観から離れて社会を見ること ファッション業界から政治のイシューまで

「週刊だえん問答 コロナの迷宮」

若林恵氏/「週刊だえん問答 コロナの迷宮」

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「週刊だえん問答 コロナの迷宮」

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「週刊だえん問答 コロナの迷宮」

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「ふわっとしたもの」が載らないウェブ

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― ラジオやポッドキャストに対して、ツイッターのようなネット空間は自分のスタンスを持つことが求められる傾向があります。

 最近自分が思うのは、雑誌を作るのってやっぱり面白いなっていうことなんです。雑誌って基本的には無記名のものなんですよね。つまり責任主体がある明確な個人に還元されにくいものなんです。もちろん誌面をつくるにはカメラマンさんやライターさん、デザイナーさんがいて、それぞれのクレジットは記載されるのですが、企画全体としてみると、どこからどこまでが誰の権限になっているのかが非常に曖昧なんですね。そうやって、編集部と外部のスタッフとが一種のコレクティブになって、ブランドとして一つの声を作りあげていくというのは、逆に「自分のスタンス」をいちいち問われるネット空間では、なかなかつくりにくいもので、いま改めて、大きな価値があるように思うんです。

― ウェブメディアや個人のnoteにしても、ウェブ上のコンテンツは「誰が主張しているか」「誰の意見なのか」を明記する傾向が高まっています。

 ウェブとなると、一本一本の記事の責任主体がはっきりしますからね。それはもちろん良い所でもあるのですが、そのような構造によって、デジタル空間には「ふわっとしたもの」がなかなかうまく収まらないんです。それは逆にいえば、雑誌の強みになり得ると思うんです。

― 今は誰でも思い立ったらすぐメディアを作れる時代です。競争が激化する中で、メディア側が意識しておくべきことは何だと思いますか?

 自分たちがつくっているものが「コンテンツ」なのか「サービス」なのかをきちんと見極めておくことはとても大事なことのような気がします。世間でコンテンツと言われているものの中にも、実はサービスだというものは多くあって、どっちが良くてどっちが悪いということではもちろんなくて、サービスとコンテンツとでは、受容する側のモチベーションも作り手のモチベーションも違ったりしますので、ちゃんと分けて考えた方がいいと思うんですね。

― サービスというと?

 ある機能を持って供給されるものと言えばいいでしょうか。合目的性が高いと言いますか。ある意味線引きが微妙ではありますが、基本、料理レシピ本や自己啓発本っていうのは、限りなくサービスに近いものだと思うんですね。有用性という観点が指標になりますから。「ユニクロを着てみた」みたいな動画もおそらくサービスだと思うんですね。それが悪いということではなくて、サービスならサービス、コンテンツならコンテンツ、とちゃんとやっていることを切り分けておかないと、制作しているもののゴールを見失うことになるのではないかと感じます。

― 黒鳥社はコンテンツメーカーを標榜していますが、若林さんのコンテンツの定義とは?

 自分が考えるコンテンツというのは、それ自体が目的であるようなものだと思っています。なので、コンテンツは自腹で作るのが基本的な原則だと思っています。人のお金で人の目的のためにつくる何かは、基本サービスとして理解しておくのがいいように思います。自分たちの興味、アセット、お金を使って何かを作り出していくということがコンテンツの基礎的な条件のように思います。

黒鳥社のオフィス

黒鳥社

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 コンテンツづくりは、そういう自己目的性の高いものですから、それを制作することの意義は、まず第一につくっている本人たちに帰ってくるものだという想定があった方がいいと思うんです。つまり、コンテンツをつくることで得られるものを、ちゃんと内部に蓄積して、それを以後のアセットへと変えていくということなんですが。そうでないと、ひたすらハムスターみたいにただ情報をかき集めて出すだけになってしまうので。編集部というものにとってのお客さんって、読者じゃないと思うんです。それはライターさんやイラストレーターさんであり、コンテンツになってくれる人であって、そういう見方でいうと、編集部は基本的に仕入れや調達の部署なんです。安く、安定的にコンテンツの素材を仕入れられるネットワークを構築し、定常的に安定したクオリティのコンテンツをつくれるようになることで、営業部隊がそれを上手く換金してくれる、というような格好なんですね。ですから、編集部が読者の方を見て何かをやることは、メディアビジネスの組織図上もお金の流れ上も、実はおかしいんですよ。ウェブになってくると読者・視聴者との距離が近くなりますので、一概に言えない部分も出てきますが、原理的には同じだと思うんですよね。

― ウェブメディアでは、ユーザーファーストを掲げる編集部は実際多い気がします。

 ハフポスト日本版創刊編集長だった松浦茂樹さんとは、一瞬だけ「WIRED」日本版で一緒に働いたことがあるんですが、「ウェブ編集長の仕事は、基本的にデリバリー」と言っていて、コンテンツづくりは自分の管轄外だ、と割と明確に割り切っていたんですね。ハフポでの実際の仕事ぶりはわからないんですが、彼と「WIRED」日本版をやっていたときは、頑として記事づくりには参加しなくて、あくまでもこっちがつくったものを戦略的に「どう届けるか」ということに徹していて、それは理にかなっていたので、やりやすかったですし、お互いをリスペクトしやすかったんですよね。個人的には、ウェブはそういう格好が望ましい気がするんですけどね。

― ウェブに関しては、PVが指標の一つになっている問題もありますね。結果、ティーン向けからラグジュアリーメディアまで、「ユニクロ」の情報を速報で掲載するような事態になっています。

 大問題ですよ。ただ、問題なのは、その指標でもって「コンテンツをつくる側」が査定されちゃうところなんですよね。いまの松浦氏の話でいうと、それはデリバリーの部門の責任ということもできるわけです。旧来の出版社で言えば、販売部が弱いということもありえるわけですから、売れないからといって、すべてが「コンテンツの問題」となるのはちょっと不合理な気もします。

 以前「リファイナリー29」のスタッフにサイトのデモグラフィックについて聞いたら「ないよ」と言われたことがありまして。それはどういうことかというと、読者へのタッチポイントは結局ソーシャルメディアですから、インスタ、ツイッター、ユーチューブとプラットフォームごとにデモグラがそれぞれ違う、というわけです。つまり、もはやサイト自体のデモグラはすでに問題視していないんですね。なので、新しい記事を制作した時に、それぞれのチャネルにどう最適化してデリバリーするのかっていうのが重要になっていて、つくる戦略と届ける戦略が、完全に分離しているんですね。

― インスタ、フェイスブック、ツイッターなどプラットフォームによってかなり差がありますよね。

 そこで問題になってくるのは、それぞれのデモグラからのフィードバックを記事づくりに反映させることが難しくなってくることなんです。プラットフォームごとに読者が異なってくると、コンテンツの最適解がなくなってしまうんですね。ですから、結局のところ編集部が自分たちのメディアの理念なりミッションに合致するものをつくって、あとはデリバリーをチャンネルごとにどう最適化するか、という話になってきちゃうわけです。

 そう考えると、メディアはもはや必ずしもウェブサイトをもつ必要がないとなってきますよね。ランディングページみたいなものは必要だとはいえ、もはやそれ以上の意味を持たせることが困難になるわけですから、そこに大きなコストをかけるのは無駄なんじゃないかと思ったりします。SNSとYouTubeチャンネルとポッドキャストと、あとは年に数回プリント版を出版する、みたいな建て付けだけで、もしかしたらもう十分メディアタイトルを自立させることができるんじゃないかと思ったりしています。

― 個人でも発信できる時代に、メディアならではのアセットは何か、見つめ直す必要がありそうです。

 メディア企業の最大のアセットは、PVやリーチ力ではなく、やっぱりアクセス権なんだと思うんです。恥ずかしいくらい遅ればせながら去年からブラックピンク(BLACKPINK)にハマってしまっているのですが、彼女たちってオリジナルの1次コンテンツがかなり少ないんですよ。デビューから4年活動してやっとファーストアルバムが出たくらいで、持ち歌もせいぜい25曲ほどしかないんですね。それまでの間、ファンたちはYouTube上で二次コンテンツを供給し合うということで、コンテンツ消費欲を互いに満たしあっていまして、それはそれで面白いし全然良いのですが、ただ基本妄想ベースのコンテンツの割合が増えてしまうわけです。

― 二次コンテンツというと?

 「ジェニーとリサは付き合ってる」みたいな投稿からリアクション動画、事務所であるYGの戦略について解説したものだったりと、みなさん熱心なのでとても面白いですし、こうしたもののなかにフェイクニュースが混じっていたとしても、さほど害もないので良いのですが、とはいえ、その音楽性や、ビジネスの話については、もっと一次情報があっても良いんじゃないかと思うんですね。例えば、ファンの方は、テディ・パーク(BLACKPINKのプロデューサー)の所に行って「音楽について聞かせてくれ」と言っても、なかなか実現できないわけですよね。であれば、アクセス権を持ったメディアにはもっと出番があってしかるべきだと思うんですね。このように「メディアが提供できるコンテンツ」は、こうした閉じたニッチなサークル内でも価値を出せるはずですし、一方でそのサークルの外でも意味を持ちうるはずなんですね。特にK-POPみたいなものって、外からみているだけでは、その内情が見えにくいものですから、そのなかで起きていることを社会化していく装置はやはり必要だと思うんです。

― ちなみに若林さんの推しは?

 ジェニーに決まってるじゃないですか。

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