伊藤忠 繊維カンパニーがビューティ領域を強化 これまでのブランドビジネスが通用するのか?

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伊藤忠 繊維カンパニーがビューティ領域を強化 これまでのブランドビジネスが通用するのか?

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 伊藤忠商事の繊維カンパニーがビューティビジネスを強化している。2019年、英国発ライフスタイルブランド「キャス キッドソン(Cath Kidson)」の日本におけるコスメの独占輸入販売権の取得をきっかけに、本格参入。コロナ禍を経て、2022年3月に「ジョンセンムル(JUNG SAEM MOOL)、今年2月に「トニーモリー(TONYMOLY)」と、立て続けに韓国コスメブランドの独占販売権を取得した。2020年には化粧品ECのノインに出資するなど、これまでファッションを主力としてきた繊維カンパニーが、ビューティに領域を広げて拡大路線を敷く。ファッション分野で培ったブランドマーケティングのノウハウを、どうビューティに活かし成長させるのか?繊維カンパニーブランドマーケティング部門長の福垣学氏と、トニーモリー担当の同ブランドマーケティング第一部ブランドマーケティング第五課課長補佐の森本匡史氏、ジョンセンムル担当の同ブランドマーケティング第二部ブランドマーケティング第四課の板坂未夢氏に聞いた。

ファッションもビューティもビジネス形態は変わらない

ー伊藤忠商事がビューティビジネスに参入したきっかけについて教えてください。

 福垣学繊維カンパニーブランドマーケティング部門長(以下、福垣):本格的な参入となるのは2019年の「キャス キッドソン」でしょう。ブランドマーケティング部門は、洋服を中心にカバンやアクセサリーといった服飾雑貨へと取り扱いを広げてきましたが、同様の手法でビューティも可能性があるのではということに。当時、女性の総合職が増え、その中から「やりましよう」という気運が高まり、彼女達の感性と、会社がこれまで積み上げてきたノウハウを融合させる形でスタートしました。

ー2019年当時を振り返ると、アパレルが厳しくなっている中、ビューティは右肩上がり。アパレルブランドもコスメのPBを立ち上げたり販売を始めたりなどの動きが活発でしたね。

 福垣:確かにそうでした。われわれは消費者に近い立場のビジネスなので、常に消費者が何を求めているかを探っています。その観点からもビューティ関連商材の取り扱いが始まりました。

繊維カンパニーブランドマーケティング部門長 福垣学氏

ー一方で、やはりビューティとファッションは業界が違い、なかなか大変だという話もよく聞きます。実際はどうだったのでしょうか?

福垣:もちろん、実際にやってみると、法律も取り組み先も違う難しさはありますが、ビジネスの形態自体はさほど変わりません。とくにキャス キッドソンは可能性があるブランドだと思っていた通り、弊社が初めてから4年になりますが、しっかりと成長しています。現状、日本では同ブランドの本流であるライフスタイル関連商品がない中、コスメだけを展開するのは、かなりタフな環境だったことを考えると、順調だと思います。

板坂未夢 ブランドマーケティング第二部ブランドマーケティング第四課(以下、板坂):キャス キッドソンですが、たとえば昨年末はコストコでアドベントカレンダーをかなりの量納品させて頂きましたが、すぐに完売したんです。そういった好例もあり、確実に売上を伸ばしています。

ー現在のビューティ関連ビジネスの規模はどれくらいになりますか?

福垣:全部のブランドを合わせて約30億円です。

スタート時は「伊藤忠が本当にできるの?」との声も

ーファッションが主力の繊維カンパニーの中でビューティ商材を扱うことに、可能性を感じていますか?

福垣:もちろん可能性は大きいと思います。今はKビューティ人気の時流に乗っているジョンセンムルやトニーモリーなどとの取り組みを深めています。ファッションで培ってきたブランドマーケティングのビジネスモデルと、ビューティのビジネスモデルは近いものがあります。もちろんファッションに比べ、単価は低いですが、そのぶん数量が違うので、それなりの規模感になっていると思っています。

ーでは、難しいと思ったのは、どのようなことでしょうか?

板坂:近いビジネスモデルとはいえ、ビューティでは国内外含め取引先がゼロの状態で、ファッションのように長年先輩が築き上げてきたコネクションがなかったのが1番難しいところでした。「(経験のない)伊藤忠が本当にできるの? 化粧品の実績はあるの?」と厳しい声をかけられたこともありましたが、やはりそこはファッションで培ったさまざまな事例や、弊社が得意とするブランドマーケティングのノウハウを伝えて納得してもらいました。そういったノウハウを横展開することで乗り越え、一つの塊となる実績が作れるまでになりました。なので今は「はい、できます!なんでもやります!」と胸を張って言えます(笑)。

ブランドマーケティング第二部ブランドマーケティング第四課 板坂未夢氏

キラーコンテンツがある事が最大の強み

ーKビューティに力を注ぐに至った経緯、中でもジョンセンムルと提携した理由は?

福垣:お客さまが求めているものを紹介して、成長させていくのがブランドマーケティングの手法です。「少し芽があるところに、しっかりと水をやって肥料をやって育てていく」という意味で、Kビューティのジョンセンムルに着目しました。

板坂:どういったブランドであっても、キラーコンテンツがないと難しい中、ジョンセンムルには「クッションファンデ」という強い商品を持っていました。すでに日本でも多くのファンがいたので、ハネる可能性が大いにあると。実力はあるのに伸び悩んでいるという状況にも、取り組む意味があると判断しました。少し前までは、欧米のオーガニック・ナチュラル系のブランドが注目されていましたが、約5年前からお客さまのニーズが韓国コスメに移行したこともあります。

ー10年前とは韓国のコスメに対するイメージは大きく変わっていますね。

森本匡史 ブランドマーケティング第一部ブランドマーケティング第五課課長補佐(以下、森本):現在、日本が1番コスメを輸入している国は韓国です。以前から革新的なアイテムを提案して人気だったKビューティが、K-POPのブームも後押しとなって、さらに人気が高まっていると思います。こうしてデータとしてもはっきりと出ていますし、そのブームに乗ったブランドを弊社は今、しっかり展開できていると思います。

ブランドマーケティング第一部ブランドマーケティング第五課課長補佐 森本匡史氏

男性を起用したファンデーションのプロモーションが好評

ー2022年3月に独占輸入販売権を取得したジョンセンムルは、立ち上げの事業計画で3年後に売上高20億円を目指すとしていました。進捗状況はいかがでしょうか?

板坂:去年の7月にEC、10月にオフラインでの展開が始まりました。初年度はキーアイテムであるクッションファンデを中心にベースを着実に販売につなげ、今後はクリームやパウダー、カラーアイテムなど隠れた名品のようなアイテムへと拡充していく戦略です。販路も1年目はバラエティストアを重点的に広げたので、今後は全国各地のバラエティショップ・ドラッグストアを攻めていきたいですし、ドア数も増やしていく計画です。

ー発信の仕方はとても重要になっていくと思いますが、どのような施策を考えていますか?

板坂:そこはノインと組んでいる強みが出てくると思います。ノインは本業が広告とECなので、データの蓄積がありますし、インフルエンサーとのコネクションや信頼関係もかなり密だと思います。そういうチームが身内にいるというのは非常に強みです。最近では、男性を起用したプロモーションが好評でした。これまで、男性がファンデーションを使用するというのはニッチな話だと思っていましたが、ニーズがあると実感しています。今後も男性女性関係なくリーチさせていきたいです。

ジョンセンムルのメンバー

ー本当に時代が変わりましたよね。弊社のビューティの広告案件でも男性KOLを起用してほしいというリクエストが増えましたし、先日は20代の男性同僚から美容の相談を受けました。

森本:私自身もこれまで何もやっていませんでしたが、ビューティに携わるようになって基礎化粧品を使い始めました。化粧水から始まってステップが増えていくと、朝の時間がなくなりますが、それも楽しい(笑)。弊社の若い男性社員も韓国コスメを使っている者が多く、おすすめの商品を教えてくれます。そういう声も参考にしていきたいですね。

ー話は少し変わりますが、ノインの出資はどうして行ったのですか?

福垣:ノインは化粧品ECプラットフォームの会社で、お求めやすい価格の商品をECで買う層が一定いるということで出資しました。ノインは、ファミリーマート専売コスメ「ソポ(sopo)」を展開し、コンビニでコスメを買うという新しいマーケットを生み出したのは大きいですね。

ファッションブランドとのコラボも積極的に展開

ー今年2月に発表したトニーモリーは、3年後に100億円規模を目指していますね。

森本:トニーモリーは2006年設立の老舗韓国ブランドで、容器メーカーからスタートし、成分を開発できるようになってブランドを立ち上げたという経緯があります。2010年くらいにモモやバナナの形の容器に入ったコスメが市場でヒットしたと思いますが、あれはトニーモリーの製品です。カタツムリクリームもトニーモリーが火付け役のひとつで、第一次Kビューティブームの立役者的存在です。「ワンダーセラミドモチトナー(以下、モチトナー)」は韓国で累計2000万個販売していましたし、展開商品が1000SKU程度あるので、随時プロモーションしていくことで、100億円を目指せると判断し提携しました。歴史があるブランドなので、リブランティングということになりますが、ある程度知名度もあるのでやりやすい面もあると思っています。準備が整い、いよいよ7月からバラエティストアで取り扱いがスタートしました。

ー立ち上がりの戦略について、お聞かせください。

森本:「可愛いは、ジブンで見つける。」をキャッチコピーとし、2021年に日中韓グローバルガールズオーディション番組「Girls Planet 999:少女祭典」で注目を集めた、川口ゆりなさんをメインアンバサダーに起用しました。5月にはティザー広告がスタートしており、モチトナーを柱にリブランディングしていきます。今年後半には、ドラッグストアにも展開予定で、その時はプチプラ商品が中心となるため、韓国とも相性の良い10代の日本人アンバサダーを新たに起用する予定です。われわれは多くのファッションブランドとつながりがあるので、今後、ファッションブランドとのコラボ製品なども視野に、弊社だからこそできる仕掛けを、すでにいくつか仕込み中です。

「トニーモリー」のチーム

知られていないブランドを紹介し、選択肢を増やす

ー今は、100億円規模のブランドを大きくやるより、20億〜30億円程度のブランドをいくつか手掛ける、というビジネスモデルもあります。

福垣:確かにそうなっていますね。ファッションよりコスメのほうが商品の回転も流行の変化も早いですし、個々の趣味やし好に合わせたブランドが必要です。そういう意味では、中規模のブランドを束ねていく方が、最終的にはまとまった規模になるのではないでしょうか。

ー近々でのビューティ全体での売上目標と今後について教えてください。

福垣:100億が1つのラインかと思っていますが、トニーモリーが順調に行けば全体で150億が見えてくるのではないかと思っています。今は、Kビューティの流れがあるので韓国コスメブランドが並んでいますが、ほかにも良いブランドでチャンスがあれば挑戦したいですね。

韓国で累計2000万個以上を販売した、「ワンダーセラミドモチトナー」(右)

板坂:もし今後新たに展開するのであれば、マスカラがとっても人気がある、アイパレットが売れているなど、ヒーローアイテムがあって、弊社が取り扱う他ブランドとカニバらないブランドになるのではないでしょうか。一方で、欧州ブランドに目を向けると、商品にサステナビリティを落としこんだブランドがまだまだたくさんあると思いますし、ジェンダーレスの考え方もアジアより進んでいます。そういうブランドであれば、可能性はあると感じています。

森本:最初に言ったように、ビューティをスタートした頃は「伊藤忠が本当にできるの?」と言われましたが、最近は韓国ブランドから問い合わせがあったり、日本のお客さまからも声をかけていただくことが増えました。ファッションと同様、まだ日本で知られていないブランドを紹介することで、日本の消費者の選択肢を増やしていければと思っています。

(文:ライター 川原好恵、聞き手:福崎明子)

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