©︎はるな檸檬/文藝春秋
リアル過ぎる描写は実体験がベース
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ー第1話の冒頭シーンのセリフ「東京はもう退屈」「どのショー見ても同じ」など、業界人のリアルな声が作中に多く登場します。
親しい間柄の友人だと「もう東京はつまらないから、早くニューヨークやパリに見に行きたい」「東コレ見てもしょうがないよ」「面白い服はあるけど、ショーに行っても演出は一緒でときめきがない」なんて本音を漏らすことがあるんですよね。なので、割と現場の生の声みたいなものをセリフに反映しています。
ー東京のファッションシーンについては、そういった声も一意見としてありますよね。
気を遣って外では言わないけれど、身内だけになると話すことって結構あるじゃないですか。ファッション業界は特に気を遣う方が多いというか、いろんなパワーバランスがありますし。みんな変だと思ってるのに、誰も言わないみたいな。ダサいのになんでこの人が編集長なんだろうとか...そういう本音の方が聞いてて面白くて。
ーはるなさんは東コレは行かれたことありますか?
受付のスタッフとして手伝いに行ったほか、「ドレスキャンプ」や「ノゾミイシグロ」などを見に行ったこともあります。ショー自体は数多く行っているわけではないんですが、知り合いのデザイナーの展示会などは割と伺っています。
ーショー会場の受付はかなり忙しそうなイメージです。
そうなんです、編集者やインフルエンサーが次から次へと来るのですごい大変で。ファッショニスタがあれだけ一堂に会しているのを見て、最初は単純にびっくりしたんですが、Tシャツとか普通の格好の人も意外といて、ファッション業界にも色んな人がいるんだなと見ていて面白い場所ではありました。
ー作中で「インビテーションを忘れた招待客が受付で名乗ってくれない」といった描写がありましたが、これは実体験ですか?
はい。対応を間違えたら大変なことになるので、めちゃくちゃ気を遣いました(笑)。「顔を見れば私が誰だかわかるでしょ」というスタンスなんでしょうか、分かってもらうことがステータスみたいな文化って、端から見ると結構滑稽に感じてしまいますね。もちろん、他の業界にもルールやしきたりのようなものはあると思うんですが、ファッション業界はそういった部分が露骨に見えてしまう。実はすごく生々しくて人間味が溢れているので、漫画の題材としてはすごく面白いです。
ー会話や出来事は、いつか漫画にしようとずっと記録されていたんですか?
経験をどこかで生かしたいなと思っていたので、メモはすごい取っていましたし、バックステージの写真などは割と撮っていましたね。
新藤とジャンが出会うシーン ©︎はるな檸檬/文藝春秋
ー作中では、ショー開催に向けて奔走する駆け出しのデザイナー「ジャンくん」の怪しげな言動や表情が不穏な空気を漂わせています。かなり独特なキャラクターですが、どのように生まれたのでしょうか?
実は初期の設定として、そんなに不穏な空気も出さずにもっと穏やかなキャラクターで行くつもりだったんです。編集さんと相談しながら直していく中で、エンタメ的な要素を押し出す意図もあって「1話の最後でバーンと不穏さを出しましょう!」ということになったんです。ファッションの仕事の話をうんちく的にただ語るだけでは興味のない方は付いてきてくれない。先の展開が気になると思わせることができるほどの強烈な存在感のキャラクターは、漫画の展開としては欲しい要素だなと感じて。ジャン君は表面的に見えている性格と本当の顔との乖離があるキャラクターですが、ある意味で物語の根幹をなすテーマを体現している重要なキャラクターだと考えています。
ーここまで強烈なキャラクターを生み出したのは初めてですか?
初めてですね。普通に生きていたら知りえない、出会わないようなキャラクターなので中々思いつかなかったです。ただ、山岸凉子先生というサスペンスホラー系の作品を描かれている超大御所の先生にすごい憧れがあって、昔からいわゆるサイコパスな強烈なキャラクターをいつか振り切って描いてみたいなという思いはあったので、今回の作品で目標が一つ実現できたなという感じですね。
ーモデルとなった人物はいますか?
どうでしょう....ご想像にお任せします(笑)。
人間の「本当のかっこよさ」を問う作品に
ー連載後の反響はいかがですか?
知り合い以外からの反響はそこまで分からないんですが、全然連絡取っていなかった友人が作品を読んで突然連絡くれたことがあって、それはすごく嬉しかったです。あとは「ヨウヘイオオノ(YOHEI OHNO)」デザイナーの大野陽平さんから「楽しみにしてます」と言って頂きました。ブランドの展示会にも行くくらい、大野さんの服が好きなので、このように言ってもらえて光栄でしたね。
ー今月発売された単行本の表紙は、ファッション誌を彷彿とさせるモードなデザインですね。
そうなんです。実際に雑誌の表紙などを手掛けているデザイナーさんにやってもらって。それも宝塚友達なんですけど(笑)。「&Premiumっぽい雰囲気はどうか」「VOGUEぐらいモードな感じに振り切るのも良いんじゃないか」なんて色々話し合って、結果的にこのデザインに落ち着きました。とても気に入っています。
ーはるなさんは宝塚ファンということですが、観劇中は衣装にも注目されるんですか?
はい、宝塚の衣装は本当に素晴らしくて!以前ファッションデザイナーの方と観に行ったら、「あのスパンコールはいくらで、あの布をあれだけ使うということは相当な金額かかってますよ」と仰っていて、服の豪華さに驚かれているのが印象的でした。主役が着る衣装の中には1着1000万円以上かかっているものもあり、唯一無二の素晴らしさがありますよ。
ー観劇中は細部まで衣装をご覧になっているんですね。
特に私は女の子のドレスが好きなので、細かくて見えないところはオペラグラスでどういった作りになっているのかすごい見てしまいますね。ファッション業界の人にこそ是非、宝塚の舞台を一度見てほしいです。
ー「ファッション!!」の今後の見どころについて教えてください。
ファッション業界で地道に頑張って輝く人の姿も、逆にあまりかっこよくないんじゃないか?って思った人の姿も、業界の問題点も、良い面も悪い面も含めてあらゆるリアルな部分を見てもらいたいです。あとは、ヴィジュアル的に華やかで素敵な服も今後作中で描いていきたいですね。
ー同書は"ヒューマンホラー"を謳っていますが、今後はドロドロとした展開が待ち受けているのでしょうか?
もちろんヒューマンホラーという要素はあるにはあるんですけど、この作品にはお仕事漫画的な要素もあるので、しばらくはお仕事漫画的なノリが続くと思います。読者の方の楽しみが減っちゃうのであまり言えませんが。最後の最後でいきなりホラーになるかもしれないし、ならないかもしれません(笑)。
ー話数としてまだまだ続いていく予定ですか?
私の構想としては結構長くなるんじゃないかなと思っていて。とはいえ、商業的なものなので売れれば長く描けるし、売れなかったら打ち切られてしまうので1巻が勝負だと思っています。本当に売れてほしいなと思いますし、描けるんだったら長く描きたいですね。
ー最後に、作品を通じて読者の皆さんに伝えたいことをお聞かせください。
リアリティのあるお仕事漫画としてあまり知られていない業界の実情を知ってほしいという事に加えて、「本当のかっこよさって何?」という疑問に対するアンサーを読者の方に共有することが、この作品で目指していることです。人間の根本には「かっこよくありたい」「かっこよく思われたい」って気持ちが誰しもあると思っていて、「本当のかっこよさ」とはどういうことなんだろうなってずっと考えていたんですが、最終的に一つの答えに結実したので、それを長い時間かけて作品を通じてお伝えしていきたいですね。
(聞き手:長岡 史織)
■「ファッション!!」:第1話試し読み
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