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サイコパスなキャラクター「ジャン君」はどのようにして生まれた?リアル過ぎるファッション漫画「ファッション!!」ができるまで

©︎はるな檸檬/文藝春秋

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サイコパスなキャラクター「ジャン君」はどのようにして生まれた?リアル過ぎるファッション漫画「ファッション!!」ができるまで

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 「文春オンライン」「週刊文春WOMAN」で連載されている、漫画家 はるな檸檬の最新作「ファッション!!」。9月22日に単行本1巻が発売されたばかりの同作品は、ファッション業界を舞台に"見せかけの人たち"を描くヒューマンホラーで、フィクションながら業界のリアルな実情が赤裸々に描かれている。これまで、子育てや宝塚ファンの日常などをテーマに主にコミックエッセイを手掛けてきた同氏が、なぜ新作の題材にファッション業界を選んだのか?作品誕生の背景について聞いた。

はるな檸檬
1983年宮崎県出身。漫画家 東村アキコのアシスタントを経て、2010年に宝塚歌劇団の熱狂的なファン(=ヅカオタ)の日常を描いた「ZUCCA×ZUCA」で漫画家デビューした。主な著者は「れもん、よむもん!」「ダルちゃん」「タクマとハナコ」など。「文春オンライン」「週刊文春WOMAN」にて「ファッション‼︎」を連載中。プライベートでは2013年に結婚し、現在は2児の母。
はるな檸檬Twitter

「ファッション!!」あらすじ
服をこよなく愛し、ファッションショーの演出からセレクトショップのバイヤーまで様々な業種を経験してきた"ファッションオタク"な主人公 新道開。漫画家の妻 新道桜子や子どもと暮らしていたある日、モノづくりに真摯な若者 ジャンに出会う。使命感に駆られ自分が持っているアイデアや人脈、時間の全てを捧げ、一緒に東京コレクションに参加することを決意するが、ジャンの裏の顔が段々と明らかになっていく。

壮絶な業界の裏側をエンタメに

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ー「ファッション!!」の制作の経緯を教えてください。

 元々、ギャグやエッセイしか描いたことがなく、「ダルちゃん」という作品で初めてストーリー漫画を描いたんです。その後、ストーリー漫画をもう少しやっていきたいと思う中で、次回作について担当編集さんに相談したのがはじまりです。ちょうど「ファッション業界っておもしろいな」と感じていた時期で、この業界を舞台にした作品を描きたいという思いがあったので、担当編集さんと何回も話し合って方向性を固めていきました。

ー構想自体は以前からあったんですね。

 そうですね。5年程前から構想はありました。

ーストーリーの方向性が決まった後に、「週刊文春WOMAN」での連載が決まった?

 はい。週刊文春WOMANの編集長の井﨑彩さんと、久しぶりに食事をする機会があって。井﨑さんは彼女が「クレア(CREA)」の編集者だった頃からお世話になっている方で、食事に行った際に「うちで連載しませんか?」といったお話を頂いたんです。載せてもらえる媒体を探していたタイミングだったので、うまく話がまとまっていったという感じでしたね。

ーファッション業界に興味を持ったきっかけは?

 10年前、漫画家デビューをしてまもない時期に自分と同じく宝塚ファンだった友人と2年ほどルームシェアをしていたんです。その子はファッション誌の編集やスタイリストのような仕事をしていて、人手が足りない時には手伝うこともありました。撮影の様子など裏側を見る機会もたまにあって、次第に興味を持ち始めました。

ー服はもともと好きだったんですか?

 美大の油絵科出身だったこともあり、キレイめな服を着たいとか、服にこだわる気持ちは当初あまりなかったんですが、ルームシェアをしていた編集者の子は少ない給料で20万円の毛皮のコートを数十回ローンとかで買ってきたりするんですよ。そういうファッショニスタたちのある意味狂った感覚を間近で見ていくうちに、私自身も服の魅力に惹かれ始めて。デザイナーをはじめ業界内に知り合いが増え、職人気質なクリエイションや唯一無二なデザインに触れる機会が増えていくうちに、さらに魅力を感じるようになりました。面白いと思える服が好きなんだと思います。

ーファッション業界で働く友人の手伝いをされていたとのことですが、具体的にどういった仕事を?

 ラグジュアリーブランドの服を借りに行ったり、展示会やショーの受付をしたこともありました。

ーファッションに関わる仕事をしてみていかがでしたか?

 ファッション業界の表向きのイメージと実態の乖離をすごく感じましたね。ファッション業界というと華やかなイメージが先行しがちですが、作り手は地を這うような努力をして、情熱を持ってクリエイションと向き合っている。私が思っていた世界と違いましたね。また、裏側を見ていくうちに業界そのものの構造について疑問を持つ部分も出てきました。

ー疑問とは?

 若手デザイナーが業界で生き残っていくためのサポート体制が不十分なように感じています。例えば、「ファッション!!」に登場するジャンくんのようにショーを開催したいとなった際にはかなりの費用がかかりますが、金銭的に余裕がない若手にとっては中々ハードルが高く、チャンスが少ない。こうした課題を含め、漫画を通じて業界の実態を多くの人々に知ってもらって、世の中に問う価値はあるかもしれないと思ったんです。ただ、ファッションに興味ある人がどれだけいるかも分からなかったので、漫画としてどのようにエンタメ要素を盛り込むかというバランス的な部分をまず考える必要はありました。

「東京ガールズコレクション」=ビックリマンチョコ?

ブランドのレセプションパーティーに潜り込んだジャンは、PR会社の社長と接触を図る。 ©︎はるな檸檬/文藝春秋

ー作中では、デザイナーやPR、演出家など様々な業種についてわかりやすく伝えています。

 業界の役割すべてを包括して描かれた作品ってあまり無いんじゃないかと思ったんですよね。ファッション業界って実はすごく分断されているような気がしていて。例えばパタンナーの人はパタンナーの仕事しか知らないし、バイヤーの方はバイイングしか基本的に知らない。同じファッション業界にいても、実は知らない部分があるんじゃないかなと。だからこそ、描く意味があると思ったんです。

ーファッションに興味がない人にも読みやすい内容だと感じました。

 この作品に限らず漫画を描く上で根幹となっている部分なんですが、師匠の東村アキコ先生から、デビュー前からずっと「とにかく田舎の中学生にもわかるようなものを作らないとダメだ」と言われていて。生活圏も年代も違う人たちが理解できるポイントは常に意識しています。1話目のネームは、より分かりやすい内容にしようと15回ぐらいは直しましたね。

ーネームを直す際に苦労した点は?

 情報として私が伝えたいと思うところと、読み手が求めるエンタメとしての面白さとのすり合わせがすごく難しくて。どうしてもセリフが多くなってしまったり、話の起伏がなくなってしまったり。エンタメとして成り立たせるために工夫しながら描いています。

第3話「東京ガールズコレクション」と「東京ファッションウィーク」の違いを説明するシーン ©︎はるな檸檬/文藝春秋

ー第3話で「東京ガールズコレクション」と「東京ファッションウィーク」の違いを「ビックリマンチョコ」と「ジャン=ポール・エヴァン」に例えるシーンは、分かりやすいだけではなく、くすっと笑ってしまう面白さがありました。

 どう例えるか、ずっと考えてたんですよ(笑)。業界の方からしたら東コレと東京ガールズコレクションは「全くの別物」っていう常識も、一般の人にはほとんど知られていないんですよね。どこからどこまでが一般の人にも伝わるラインなのか見極める必要があるので、ファッションに詳しくない編集さんに疑問や意見をどんどん言ってもらうのが重要な工程でした。

第2話の扉絵 ©︎はるな檸檬/文藝春秋

ー作中ではラインウェイを歩くモデルやショーを訪れた業界人の装いなど、服の細かなディテールまで描かれているのが印象的でした。描く際に参考にされたものはありますか?

 色んな年代のストリートスナップは見るようにしています。それこそFASHIONSNAPの東コレスナップも参考にさせて頂いてますよ。また、各話に扉絵を入れているんですが、そこは割と登場人物たちの服をはっきりと見せるようにしているので、ルックからインスピレーションを得てコーディネートを描くことはありますね。

ー制作において大変だったことは?

 服を描く際、記憶の中には服のイメージが浮かんでいるんですが、欲しい資料の写真が思うように見つからないことは結構ありました。あとは、服の構造やショーの様子は写真を見ればディテールが分かるので割といけるんですけど、背景を描くのは苦労しましたね。

ーファッション業界を舞台にした作品は華やかな側面にフォーカスされがちですが、「ファッション!!」はそうでない部分も細かく描かれていますね。

 ファッション漫画も色々ありますが、中には上澄みのイメージだけ構築されて現実とあまりにもかけ離れているものもありますよね。全然リアルが見えてこないから、どんどん世間の誤ったイメージが強化されていってしまう。だからこそこの作品を通じて、泥臭く情熱を持ってファッションに向き合っている人がいるんだということを知ってもらいたいです。

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