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グラニフといえば、Tシャツを連想する人が多いだろう。2000年のブランド創業から2021年に至るまで「Design Tshirts Store graniph」という屋号を掲げた同ブランドは、オリジナルキャラクターのほか、クリエイターや人気コミックなどとのコラボレーショングラフィックをあしらったTシャツをメインに展開し、コアなファンを獲得することでビジネスを拡大してきた。
コロナ禍の2021年9月、グラニフは「Tシャツストアからの脱却」を目指し、リブランディングという攻めの一手に出た。屋号を「graniph」のみのシンプルかつ広義的なものに変更して再スタートを切り、アパレルアイテムのラインナップ拡充や非アパレルアイテムの投入に取り組んだほか、2022年10月からはオリジナルキャラクター「コントロールベア」のNFTアートを展開。NFTアートは全商品が完売するなど、新ジャンルのプロダクトにも手応えを感じているという。グラニフがTシャツ以外にも注力する理由は何か。そしてリブランディングの先に描くブランドヴィジョンとは?2021年のリブランディングを前にブランドディレクターに就任し、現在もグラニフのブランディングを牽引する勝部健太郎氏に、グラニフの“これから”について訊いた。
■勝部健太郎
新生銀行、メルセデス・ベンツ、ユニクロの各社でビジネス構築やマーケティング実務経験を経て、2010年にユニット・ワンを設立。スマートフォンアプリ「MUJI Passport」(良品計画)、「Coke On」(日本コカ・コーラ)等の企画、制作、ディレクションを手掛ける。2021年よりグラニフのブランドディレクターに就任。著書に「新しい買い物 理想の社会を買い物で作る」(無印良品コミュニケーションデザインチームとの共著)がある。
「Tシャツストアからの脱却」、変化の先に見据える上場
ー勝部さんは2021年にグラニフのブランドディレクターに就任しましたが、それまでグラニフにはどんなイメージを持っていましたか?
私個人としては特にこれといったイメージは持っていなかったですが、強いて言えばTシャツを売っているスーベニアショップみたいな印象でしたね。映画コラボとか、キャラクターものがたくさん並んでいるような。
ーリブランディングの背景を教えてください。
現在、グラニフの大きな目標として上場があり、そのためにはブランドの価値観やそれに基づいたプロダクトを内外に向けて更に発信していく必要があると考えたのが一番の理由です。これまでは「Design Tshirts Store graniph」というロゴを採用していたこともありどうしても「グラニフといえばTシャツストア」といった固定概念があったように思いますが、そこを覆して「グラフィックのある豊かな暮らしを提供するブランド」になりたかった。ロゴも「graniph」のみのシンプルなものに変更し、グラフィック製品全般を取り扱うブランドとして再スタートを切りました。
ーリブランディングでTシャツ以外の領域を開拓するとのことでしたが、具体的にはTシャツのほかにどんな商材を追加、強化しましたか?
アウター、ニット、ジャケット、パンツといったアパレルアイテムを強化したほか、ルームフレグランスやラグといったライフスタイルプロダクトの展開も始めました。グラニフはららぽーとやイオンモールなど、いわゆるショッピングセンターにも多く出店しているのですが、たくさんのショップが並ぶ環境ではシーズンに捉われず幅広いジャンルの商品を揃えている方が、店舗に足を止めていただくことに繋がりやすいと感じたからです。特にライフスタイル領域に関しては、今後もさらにラインナップを拡充していこうと考えています。
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ーライフスタイル領域でおすすめしたい商材はありますか?
4月に新しくラインナップに登場したアウトドアグッズですね。コロナ禍が落ち着き、屋外でのアクティビティに対する興味関心は更に高まると思いますし、テントをはじめグラフィックをあしらったアウトドアグッズはあまり見られないのでチャンスはあるかなと。アウトドア領域でも、グラフィックの価値を伝えていきたいと考えています。また、6月は梅雨シーズンなので、多彩なグラフィックをあしらったレイングッズもおすすめです。雨の日でも、グラフィックをあしらった傘を持ち歩いて気分を上げてほしいですね。
全作品完売、コントロールベアのNFTアートが人気
ーグラニフでは、デジタル上の取り組みも強化していると伺いました。具体的にはどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。
ブランドの先進性やクリエイティビティを表現するため、NFTの制作・販売や関連プロジェクトとの取り組みを強化しています。直近だと、3Dスニーカーに特化したNFTエコシステムを開発している「ジョイファ(Joyfa)」との共同プロジェクトで、3DスニーカーNFTを発表しました。3DスニーカーをPCやスマホ上で鑑賞するだけでなく、バーチャル試着機能を搭載しているのが特徴で、スマートフォンをかざすことで画面の中で実際にスニーカーを履くことができるんです。デザイン的にもユニークで面白いですし、10足限定販売ということで希少性の観点でも価値あるコレクションになると期待しています。
ジョイファとの共同プロジェクトによる3DスニーカーNFT:ジョイファ代表取締役 平手宏志朗氏のコメント 「初めてデザインを見た時、デジタルスニーカーならではのデザインでオリジナルキャラクター コントロールベアを表現していて、『素晴らしいスニーカーに仕上げてくださったな』と嬉しく感じました。デジタルスニーカー市場は世界的に見てもまだまだ黎明期にあり、良い大きな価値を提供するために各企業が試行錯誤を重ねている段階です。今回のコラボを皮切りに、グラニフ様とは今後も様々な取り組みでご一緒できたら嬉しいです」
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ー首を外したクマのデザインが印象的です。
オリジナルキャラクターの「コントロールベア」ですね。グラニフを代表する人気キャラクターの1つで、頭を外している様には「他人に流されて人生を浪費せずに、自らの頭をコントロールする強い意志を持とう」というメッセージを込めています。2022年10月には、コントロールベアをNFT化するという試みをスタートしました。
ーコントロールベアをNFTアートとして打ち出した狙いは?
グローバルでの認知度を高めることですね。日本のカルチャーを打ち出したプロダクトにも力を入れているので、海外の方が「日本に行ったらグラニフで買い物をしよう」となるような状況を創出したいと考えているんです。そのために、グローバルで多くの人に興味を持っていただけるものは何かと考えた時にNFTを思い付きました。そして、特にコントロールベアが日本のポップカルチャーを体現しているデザインだと考え、コントロールベアのNFT化に踏み切った次第です。
余談になりますが、アフターコロナで海外のお客様がグラニフの店舗にご来店くださる機会が増えていて、2023年5月時点で京都新京極の店舗では売上の約5割が海外のお客様となっています。原宿の旗艦店の売上も右肩上がりで伸長しており、グラニフはグローバルで訴求力のあるブランドになりつつあると実感しています。
ーNFTの販売はどのような形式で行ったのでしょうか
販売はオークション形式で行いました。最初は1000円くらいで出品するのですが、価格が上がって数万円で落札されることもありましたね。これまでの最高落札額は5万円ほどです。3ヶ月にわたって販売したところ、全てのコントロールベアが完売となりました。
また、NFTとは異なりますがデジタルコンテンツという括りでは、先日発売したばかりのオリジナルキャラクターたちのLINEスタンプの売れ行きを確認してみたら早速数十万円の売上が立っていたり。これまでは有形プロダクトのみを販売してきましたが、無形コンテンツを売っていくという点においても非常に手応えを感じています。
ーNFT版コントロールベアは全アイテムが完売するほど人気とのことですが、好調の理由は?
NFTへの注目もあるかと思いますが、一番はコントロールベアというキャラクター自体の人気と認知度ですかね。通常NFTプロジェクトはゼロから立ち上げて、まずお客さんに知ってもらい、そこから人気を獲得していくというプロセスになりますが、コントロールベアは15年間リアルプロダクトとして展開してきた実績があったのでそこが非常に大きかったかなと。元々キャラクターのファンだった方はもちろん、存在を知っていただけの方にも興味を持ってもらうフックにはなったと思います。
ー自社でのNFT販売以外に、4月には人気NFTプロジェクト「I'm still here with you」とのコラボを発表しました。タッグを組むに至った経緯は?
「I'm still here with you」は業界内でも非常に存在感を強めていて、先行販売が1分足らずで完売するという人気NFTプロジェクトですが、今回は先方からのオファーによって、Giveaway(Twitter上でNFTをプレゼントするキャンペーン)という形でコラボレーションが実現しました。
グラニフではさまざまな作家や作品、企業とのコラボを長年に渡って行っており、お客様だけではなくコラボ先からも高い評価をいただいてきました。その結果として、「グラニフとだったらぜひご一緒したい」と声をかけていただく機会がますます増えてきたと実感しています。今後もアパレルアイテムに限らず、さまざまな形で魅力的なコラボを実現していきたいですね。
ー5月にはコントロールベアにフォーカスしたイベントを開催しました。イベントのサブタイトルは「コントロールベアの進化と拡張」でしたが、今後グラニフではコントロールベアをどのように「進化」させていこうと考えているのでしょうか。
今回のイベントでは、キャラクター15周年を記念して製作した商品をメインにアート、雑貨、NFTなど様々なコンテンツを揃えましたが、今後はこの形を更に広げてコンセプトショップのような展開を検討しても面白そうだなと考えています。プロダクトだけでなく、空間全体としてコントロールベアを打ち出すことで更にブランドへの愛着を持っていただけるのではないかと。そうすることで、いちキャラクターでしかなかったコントロールベアが、文化的側面を持つようになると思うんです。
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ーコントロールベアで得た知見を活かし、他のキャラクターでも同様の取り組みを行っていく?
そうですね。コントロールベアがこのまま上手くいけば、それを一つのロールモデルにして他のキャラクターの新しい可能性も模索していきたいと考えています。そういった意味でもコントロールベアの役割は大きいですね。
課題は?グラニフが目指すもの
ーブランドの課題は?
一番はブランド認知度が低いということですね。「graniph」が読めない方も多いですし、コントロールベアのキャラクター自体は見たことあってもグラニフのキャラクターだと知らない方が多かったりと、まだまだブランドが浸透していないのを感じます。ブランド認知を高める最大の窓口は実店舗だと考えているので、2023年度中には新たに旗艦店を東京・大阪にオープンするプロジェクトが進んでいます。詳細はまだお伝えできないですが、従来の店舗と比べブランドのメッセージを色濃く打ち出すほか、たくさんの方の目に留まる好立地に出店する予定です。
また、Tシャツに代表されるアパレル以外の雑貨等の売上構成比が10%程度であることも課題です。元々ほとんどゼロだったところから現在の水準まで押し上げてはきたのですが、まだまだ強化していく必要性と可能性を感じています。
ー今後の展開について教えてください。
自分たちがTシャツだけではなく、グラフィック全般を提案するブランドだということを多くの方に知っていただくための取り組みを行っていきます。具体策としては、2023年6月より「Graphic is My Life.」という新しいブランドメッセージを設定します。これにより、グラニフが特に多く出店しているショッピングモール系の商業施設において、他と同質化しないブランド発信を行いたいと考えています。
Image by: グラニフ
ー新しいブランドメッセージ「Graphic is My Life.」を設定することでモノ作りの面で変化は?
従来と比べて、よりキャラクターの個性や世界観をグラフィックによってはっきりと打ち出していきたいと考えています。リブランディング後、好評なキャラクタートップ20を絞り込んで再定義し、それらのキャラクターの世界観をグラフィックでわかりやすくキャンバスに落とし込む取り組みを行ってきました。今回のブランドメッセージで「自分たちに求められていることはインパクトの強いグラフィックなんだ」と再認識するとともに、「グラフィックこそ私の人生」というメッセージをお客様だけでなく社内に向けても発信し、意識改革を行っていきます。2023年秋冬シーズンでもさまざまな新商品が登場するので期待してほしいですね。
ーそのほかに新しい取り組みとして検討していることはありますか?
一つの可能性として思い描いている段階ではありますが、NFT以外のデジタル分野での取り組みとして、グラニフがこれまでに生み出してきた約500種類のオリジナルキャラクターをAIに学習させ、お客様の好み、要望などにあわせて最適な「推しキャラクター」を提案する仕組みが作れたら面白いのではないかと考えています。これまで蓄積された買い物傾向などの膨大なデータを使ってプロダクトを提案できたら、グラニフというブランドの可能性が更に広がってくると思いますね。
オリジナルキャラクター「ビューティフルシャドー」の絵本
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ーまさにデジタルとリアルの融合ですね。
そうですね。リアルプロダクトの取り組みとしては、絵本コンテンツの強化を考えています。現在グラニフの「スシトレイン」「ビューティフルシャドー」といったオリジナルキャラクターを主人公にした絵本を書店で展開しているんですが、絵本業界ではヒットと言える1万部の発行部数を達成するなど好調で、近々新作発売も予定しています。絵本のキャラクターを落とし込んだライセンス商品は非常に売れ行きが良いので、逆のアプローチでグラニフのキャラクターの絵本を作り、オリジナルキャラクターに絵本キャラクターの属性を付与することでプロダクト全体の売上を伸ばせないかと考えています。
また長期的に見れば、保育園などでグラニフの絵本を読んだ子どもたちが成長して大人になった時に、ブランドのファンになってくれる可能性もあると感じています。やはりブランドを長く続けていくためには若年層へのアプローチは絶対に必要になってきますから、そういった観点でも有意義な取り組みだと思いますね。
ーそうなると、いよいよ「Tシャツストア」ではなくなってきますね。グラニフは何屋さんを目指しているんでしょうか?
そこに行けば欲しいもの、必要なものが全て手に入るような「総合グラフィック百貨店」を目指しています。コラボレーション相手の作家や様々な企業の皆さん、我々グラニフのスタッフ、お客様。関わる全ての人の手で、「Graphic is My Life.」という共通の価値観のもと、グラニフというブランドをよりユニークで魅力溢れるものに育てていけたら良いですね。
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