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"変える"のではなく"価値を磨き上げる"こと 「カンペール」デザイナーが語るリブランディング成功の裏側

Image by: FASHIONSNAP

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"変える"のではなく"価値を磨き上げる"こと 「カンペール」デザイナーが語るリブランディング成功の裏側

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 スペイン・マヨルカ発のシューズブランド「カンペール(CAMPER)」は1975年に創業し、今年で創立50周年を迎える。昨年度にはグローバルおよび日本で創設以来史上最高額の売り上げを記録。立役者となったのは、2019年にブランドに加入したクリエイティブディレクターのアキレス・イオン・ガブリエル(Achilles Ion Gabriel)だ。既存顧客をはじめ、10〜20代の新規若年層の取り込みに成功し、「履きやすさ」に加え大胆でファッション性のあるデザインが支持を得ている。写真で見せるクールな印象からは想像もつかない、まるで地中海の太陽を背負ってきたようなチャーミングな魅力を放つアキレスに、これまでの道のりやカンペールを人気ブランドに押し上げたサクセスストーリーについて聞いた。

⎯⎯フィンランド出身で現在はカンペールの本社があるスペインのマヨルカ島を拠点にしているとのこと。

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 フィンランド北部のラップランドにある小さな村で生まれ育ちました。サンタクロースが住んでいると言われる村が家の目の前にありました。ラップランド特有の雄大な自然や幻想的な冬の風景は、私のDNAに刻まれた故郷の風景です。現在はマヨルカを拠点にしていますが、仕事の性質上、1ヶ月のうち半分以上は他の都市や国に滞在していることもあります。温暖なマヨルカの自然や穏やかで陽気な雰囲気は、私にとって心の拠り所です。ラップランドとは全く逆ですが、どちらも好きです。ただフィンランドは寒さに加えて雨や雪も多くて、特に冬は靴のソールに雪が詰まるのが嫌でした。お気に入りの靴が台無しになってしまうので!(笑)

⎯⎯なぜシューズデザイナーになろうと思ったんですか?デザインを勉強しようと思ったきっかけは?

 実は当初、建築を学ぶ予定で、建築学校にも合格し、周りからもその道に進むことを期待されていました。ですが入学直前になぜか思い立ってしまったんです。私の周りでは誰も靴の作り方を知らなかったかったので靴作りの全工程を学びたいと。その瞬間、自分の進むべき道がシューズデザイナーなんだと確信しました。母に伝えた時、反対されたのを覚えています。彼女は墓石の彫刻師として働いていましたが、その繊細な職人技が私の進路に少なからず影響を与えたのかもしれません。今では応援してくれています。

⎯⎯フィンランドはデザイン大国としても知られ、アアルト大学など有名なデザイン大学もありますよね。

 私が通ったのはフィンランドの"ド"田舎にあるデザイン学校で、当時はヘルシンキに住んでいたので車で片道100キロの距離にありました。毎日通学するのは大変で「もう無理かも…」と何度も心が折れそうになりながらも、4年間しっかり学びなんとかやり遂げました。

⎯⎯大学ではどんなことを学んだのでしょう?

 靴のデザインはとても技術的で、単に見た目の美しさだけでなく、履き心地や人間工学にも深く関わります。自分の手で靴を作れるようになる、という目標があったので、技術の習得には全力を注ぎました。当時学校ではファッションやガラス・セラミック、テキスタイルなど、他の分野も学べるプログラムがあり、この経験が、後に靴のデザイン以外の領域にも広がる私のキャリアの基礎となった気がします。

⎯⎯大学卒業後には「マルニ(MARNI)」や「スンネイ(SUNNEI)」「マリメッコ(Marimekko)」などで経験を積み、自身の名を冠したシューズレーベルを設立。その後「カンペール」へ。どのような道のりだったのでしょう。

 まず業界全体を理解する必要があったのでPRやマーケティングの分野でも経験を積みました。余談ですが、最近当時の上司が私のチームに加わり、今では私が彼の上司です(笑)。カンペールから初めて連絡を受けたのは数年前。私のデザインした靴のことを聞きつけたようでパリで会うことになりました。その後、マヨルカの本社に招かれた時にはコラボレーションでもしたいのかな?なんて思っていたんですが、6時間にわたるオフィスツアーの後、仕事のオファーを受けました。思いがけない提案に、内心では「イエス!」と思いましたが、その場ではクールに「少し考えさせてください」と伝えて(笑)。そして提案を受けることにしたんです。

⎯⎯まず、ファッション性の高いハイエンドライン「カンペールラボ(CAMPERLAB)」のクリエイティブディレクションを任されることになりました。

 カンペールラボは2015年にスタートしたブランドですが、既存のスタイルを全く引き継がない形で、ゼロから新しいブランドとして立ち上げました。名前の通り「ラボラトリー」という位置付けで、実験的で自由なアプローチを積極的に取り入れています。例えば、従来の定番的なデザインではなく、意外性のある素材や形状を取り入れることに挑戦したり。その結果、予想以上にうまくいきブランドとしての認知度が大きく向上しました。

⎯⎯そして1年後にメインブランド「カンペール」の全体のクリエイションを率いることに。「カンペールラボ」との違いは?

 メインブランドでは、ブランドの歴史やDNAを尊重しつつ現代的に進化させることを目指しています。カンペールをよりカンペールらしく進化させることは前提で、ルーツに忠実であるべきだと思っているので、最初の頃は本社のアーカイヴの倉庫をよく訪れていました。今ではどの列にどのモデルがあるか、ほぼ頭に入っています。

 クリエイティブの面で言うと、ゼロベースのカンペールラボでは新しいプロダクトを作るのは比較的簡単ですが、メインブランドの場合は伝統に忠実でありながら新しいものを生み出す必要があり、それが一番難しいところです。ブランディングの面ではカンペールとカンペールラボの2つのアプローチがあることで、それぞれが補完し合い、相乗効果を生み出し、カンペールブランド全体の魅力が底上げされているのだと思います。

⎯⎯当時は会社からどのようなことを期待されて、自分の元にオファーが来たと思いますか?

 具体的なことは特に伝えられませんでした。ただ、私は最初から、自分がこのブランドで何をしたいかが明確でした。カンペールラボについては完全に新しい方向にシフトする必要がありましたが、メインブランドのカンペールに関しては、ブランドを"変える"のではなく、その"価値を磨き上げる"ことが目標で自分の使命だと感じていました。

 私はデザイナーであると同時に、ビジネスや数字を見るのも好きなので、カンペールラボは若いブランドとして成長を見守る一方で、カンペールでは数字を重視しました。例えば、商品会議では、「この靴は売れる」と確信してチームと戦略的に議論することもあります。そういった感覚は、必ずしも勉強や計画から導き出されることでもなく、私の場合、直感的な部分が大きいと思います。デザイナーとして「自分の好きなことだけをやる」というスタンスではなく、数字や市場の反応も見ており、その両方を満たすことが一番やりがいを感じています。

⎯⎯ブランドは業界内をはじめ、ストリートやファッションシーンで再び注目集めるように。要因は何だと思いますか?

 はっきりとは分かりませんが、プロダクトだけでなくブランドイメージを現代的で関連性のあるものにしたことが大きいと思います。もし素晴らしいプロダクトがあっても、イメージが古臭いままだと上手くいきませんよね。また、PRチームやマーケティングチームなど、多岐にわたるチームが連携して取り組んでいることも大きな要素です。私は多くのチームに関与していますが、それはすべてのベクトルを一つの方向に向けるためです。消費者視点やキャンペーンの視覚的な変化は、私にとってとても重要なポイントでした。

⎯⎯仰るようにヴィジュアルコミュニケーションにも変化があったように思います。どのような意識でヴィジュアルを作っていますか?

 「インクルーシビティ(包括性)」は、私が手掛けるすべてのプロジェクトにおいて、常に基本的なテーマになっています。現実の世界を反映したヴィジュアルを心がけようと思っていて、全体的にはフレッシュな印象を与えたいという気持ちがありました。それは若いモデルを起用するということではなく、さまざまなバックグラウンドや年齢、性別の人々を含みます。例えば男性、女性、LGBTQの人や年齢もティーンエイジャーから高齢者まで。必ずしもファションモデルだけではなく、普通の人々をモデルに起用することもあります。なぜなら実際に多様な人たちがカンペールの靴を履いているからです。ティーンエイジャーの女の子と90歳のおじいさんが同じものを履けるような、そんな靴が作れたら素敵だと思いませんか?それが私にとって最大の目標です。

 日本で展開された22SSのローカルキャンペーンでは野菜を売る女性をモデルに起用。

⎯⎯2023年には自身のファッションブランド「アキレス イオン ガブリエル(Achilles Ion Gabriel)」を立ち上げ、「カンペールラボ」でもレディ・トゥ・ウェアを始動させました。

 服をデザインすることに興味を持ったのは、全体的なシルエットに対する関心があったからです。靴だけでなく、全体のスタイルがその人を表現するものだと思っています。母からも「服装は家族全体を代表しているのよ」と教えられました。それがきっかけで、全身のシルエットやファッション全体に興味を持つようになりました。そして、カンペールラボと自身のブランドを通じて、その興味を形にする機会を得たのです。

⎯⎯シューズデザインとファッションデザインのアプローチの違いは?

 靴のデザインは私にとって完全に慣れた分野です。目を閉じていてもできるくらい(笑)。一方で服のデザインに関しては、他の人に助言を求めることもあります。全体としてアプローチは大きく変わりませんが、服の製作には靴とは異なる技術や知識が必要だと感じています。特にテーラリングに関してはまだ学ぶべきことがたくさんありますね。でもシューズデザイナーというバックグラウンドが強みになる場合もあります。ルールに縛られることなく自由に考えられるからです。私は少し反抗的な性格なので、たとえルールがあっても、それを破ることを楽しむタイプかもしれません(笑)。

 自分のブランドでは靴だけではなく、全体のムードやシルエットを考えることに重点を置いています。一方で、カンペールラボではまだ靴が中心ですが、両者でアプローチが異なるのは取り組んでいて面白いですね。

⎯⎯日本にはよく来るそうですね。日本市場についてどう感じていますか?

 日本のカスタマーは、カンペールが持つ哲学やデザインの細部まで深く理解してくれます。それが本当に嬉しいです。また、日本の文化的な丁寧さや優雅さにはいつも感銘を受けます。街を歩いている人々のスタイルは他の国とは違い、シンプルでありながら洗練されていて、毎回来るたびにたくさんのインスピレーションを得ています。決して派手だったり高価だったりするわけではないんですが、すべてが洗練されて見えるんです。どんな職業であれ、すべての作業が優雅に行われているように見える。それが日本の文化の一部だと思います。

⎯⎯現在進行中のプロジェクトについて教えてください。

 2025年にマドリードに新しい旗艦店をオープンする予定です。これはカンペールとカンペールラボの両ブランドを統合した店舗で、私がデザインを手掛けました。また、パリにはカンペールラボの単独店がオープン予定で、こちらはデザインスタジオのクリエイティブディレクターであるHarry Nurievが担当しています。また、バルセロナにあるホテル「カーサ カンペール(Casa Camper)」が2025年に20周年を迎えるため、それに合わせた特別なプロジェクトも予定しています。

 日本のみなさんにとって2025年は無印良品と共同開発したスニーカーが発売されるほか、サプライズのコラボレーションも予定しています。詳細はまだ公開できませんが、きっと気に入ってもらえると思います。

(聞き手:今井祐衣)

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