FASHIONSNAPの新春恒例企画、経営展望を聞く「トップに聞く 2024」。本格的なアフターコロナを迎えた一方で、物価上昇や値上げラッシュが続き、以前にも増して企業の変革が求められている。本企画では、これまで以上に速いスピードで変化する社会の中で各企業が取り組んでいるイノベーション像を深掘りしていく。
第4回は、スタイリングライフ・ホールディングス BCLカンパニー 大村和重カンパニー エグゼクティブ プレジデント。2022年秋に企業理念を刷新し、「+1の発想で、美しさを塗り替え毎日を彩る」を推し進め、2023年はV字回復を果たした。2024年は、主力ブランドのリブランディングの発売や、海外戦略の推進、さらには食品事業など新たな業界への参入も控え、アクセルを踏む年になる。2023年のV字回復への道筋について、そして「新たな挑戦」となる2024年の展望を聞いた。
■大村 和重(おおむら かずしげ)
2007年のBCLカンパニーの前身であるB&Cラボラトリーズ入社。2018年にBCL カンパニーの国内事業部の事業部長に就任。2019年からカンパニーエグゼクティブを兼任し、2021年6月にカンパニーエグゼクティブプレジデントに昇格した。同時にスタイリングライフ・ホールディングスの執行役員も務める。
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目次
グループシナジーの発揮
ーアフターコロナが本格化した2023年を振り返って。
2023年、国内売り上げはコロナ前までに一気に回復し、2024年3月期決算は現在、売上高で前期比約20%増で推移しています。
ー一気に回復。何か施策を打ったのでしょうか?
昨年のトップインタビューでもお話ししましたが、グループのシナジーを活かす、これを実践したことがひとつの要因だと思います。TBSの朝の情報番組で、「朝用に開発してブレイクした商品たち」として「サボリーノ(Saborino)」のマスクが紹介されたのですが、そこから一気に客層が広がりました。
2015年4月の発売から10年目、これまで20〜40代の幅広い人から愛用いただいてはいたのですが、テレビ放映後は50〜60代までさらに客層が広がり、また地方のドラッグストアでの売上が拡大。シートマスク全体の売上も1段階上がった印象です。人気のある商品ではありましたが、まだまだ知らない人も多いと痛感しましたし、またメディアの力に驚かされました。
ーサボリーノ以外でもグループシナジーを発揮したことは?
実はコロナ禍でも商品開発の手を緩めず、新商品を出し続けていたのですが、その中で特に力を入れたのが、「プラザ(PLAZA)」との共同開発です。共同開発による商品を発売して、ヒットしたら拡大路線へといった戦略を推し進めました。
今期はスキンケアブランド「乾燥さん(KANSOSAN)」が大ヒット。一昨年のデビューで化粧下地が好評でしたが、2023年は医薬部外品のスキンケアを発売し人気を獲得しました。売上ではサボリーノ、洗顔シリーズの「クレンジングリサーチ(CLEANSING RESEARCH)」に迫る勢いで成長しています。
ー市場全体を見て、コロナを抜け出し活況を呈してきたと思いますか?
そうですね…。メイクアップアイテムは完全に戻っていない印象ですよね。やはり韓国ブランドの勢いがすごい。ただわれわれBCLカンパニーはスキンケアのイメージが強いと思いますが、実はメイクアップも好調です。眉メイクの「ブロウラッシュ(BROWLASH)」は30〜40代のお客さまから高い認知を得ているのですが、コロナ前から現在までずっと120%の伸びを記録しています。
新企業理念「+1の発想で、美しさを塗り替え毎日を彩る」が奏功 競合他社コラボも
ーアイブロウでは、競合他社とコラボレーションしたとか?
はい。眉メイクをキーワードに眉のアイテムが強いメーカーさんと一緒にドラッグストアで店頭販促を行いました。お互いが足の引っ張り合いをするのではなく、相乗効果で両方の売上の拡大を目指し、実績に結びつける。ドラッグストアさんも含め、ウィン・ウィン・ウィンの関係です。
ーそれはドラッグストアからの提案だったのでしょうか?
われわれからです。常日頃から、「社内の内向きではなく、外に向かいなさい」と言っていますが、社員が他社の人たちと、例えば食事会などで、「われわれは今、こういった商品が人気がある」とか「こういうのも強い」などの会話から、「だったらこういう風にやれば面白いシナジーが生まれそうだね」といったコミュニケーションが生まれる。それを形にしたのが今回の取り組みです。
2022年の10月に策定した企業理念「+1の発想で、美しさを塗り替え毎日を彩る」も奏功していると思います。社員1人ひとりがどうすればもっとプラス1になるのだろうかと考えた時に、自社だけではできないことを他社の力を借りて実行する。そう考えて行ったことだと思います。
ー企業理念「+1の発想で、美しさを塗り替え毎日を彩る」が浸透してきたのですね。
はい。これまで「新しいことをやりなさい」と言っても、これまでの慣習や習慣を飛び越えて、新しいことはなかなかできないし、やっていいの?という疑問を持っていたと思います。また新しいチャレンジをしたいと思っていても、それは自分だけの思いで、お客さま視点ではなかったことがたくさんありました。本当に今そのニーズがあるのか、また潜在ニーズとして欲しいと思っているのか…。そのプラスワンは何かーー。
たとえばですが、先ほどの競合他社とのコラボで、眉のメイクはアイブロウペンシルだけでは完結しませんよね。眉マスカラが強いメーカーのアイテムと一緒に提案することが、お客さま視点に立っているということなのではないでしょうか。「2つ一緒に使うときれいに仕上がりますよ」という発信は、分かりやすい。やっていいの?という疑問を、やってみよう!と、一歩踏み出す後押しになったのが、この企業理念で、大きな変化ではないでしょうか。
ーとはいえ、競合他社との取り組みはハードルが高そうです。
日本国内のメーカー同士で争うのではなく、世界のメーカー、特に韓国のメーカーと戦っていくためには、国内メーカーがウィン・ウィンになれるようコラボレーションすることで、相乗効果は今後も上がっていくのではないでしょうか。
韓国や台湾ほか、欧米を拡大
ーでは海外展開について教えてください。
海外はコロナ禍でマイナス60%と落ち込みました…。今期は前年比40〜60%増で推移していますが、それでもコロナ前の水準には戻っていないのが現状です。中でもコロナが明けても、処理水問題等で中国の売上が厳しいですね。ただ逆に東アジアの香港、台湾が好調です。商品ではサボリーノ、塗る乳酸菌と桃セラミドのスキンケア「ももぷり(momopuri)」が人気です。さらにこれまで少なかった欧米への新規導入で大きな売上を作ることができました。
ーそれは何か要因があるのでしょうか?
私自身、欧米で勝負できるのか疑問を持っていたんです。高価格帯市場は日本ブランドも上陸していますが、いわゆるプチプラでどうなんだろう?と。ただ社員の中には欧米のカルチャーに魅了されているものもいますし、またその上で欧米のコスメ市場を研究し可能性を見出しチャンスがあると、戦略的に導入を始めました。
実は欧米市場もやはり韓国コスメが席巻していて、韓国コスメコーナーが立ち上がり、すでにブランドの入れ替えも始まっています。欧米で韓国コスメの市場が根付いた地域に、ジャパンコスメとしてわれわれが入っていくことで、流れがこっちにも向いた。消費者がアジアのコスメに慣れているところに入っていったので、違和感なく受け入れてもらえたと思います。ブランドとしては東南アジア同様に、サボリーノとももぷりが人気です。
感性豊かな20代社員の育成に力
ー先ほどからのお話で、やはり「人財」がカギだということがうかがえます。
そうですね。企業理念が後押しとなり、コミュニケーションを含め個々が自分だけではなく周りを巻き込みながらしっかり力を発揮していると思います。ただ課題もあるのですが…。現状、若手が育っているものの、30代後半から40代が極端に少ないのが課題です。外部から人材を確保することも視野に入れていますが、やはりマネージャー陣や中心となる人物を若手から育てていかないとと考えています。
ースピードの早い市場変化の中で、人材育成も難しさを感じますが、どういった方法を取られているのでしょうか?
まずは小規模なプロジェクトを増やすことで、若手にもリーダーを担ってもらう土壌を作っています。会議には私も参加しますが、基本、口出しはしませんね。若手の意見はもちろん100%正しいわけではないと思いますが、ただ本当に面白いアイデアが詰まっていると思います。自ら考え、チームを引っ張っていきながら、新たな発想や商品が生まれる。そこから1つの部署を任せられる人材や、また一方で専門職に向いている人材も見極められます。もちろん全ての人を理解しきれるわけではありませんが、さまざまなプロジェクトや部署を経験してもらうことで、次のリーダー候補を早く確定したいと思っています。
2024年、アジア拠点は2ヶ国に集中へ
ーでは2024年、今期の第4四半期および、来期に向けてのイノベーションを教えてください。
グループの経営経営計画「VISION2030」で、2030年に向け「ヒット率アップ」をメインに、海外事業、そして新規事業のこの3つをターゲットに戦略を推進しています。
ヒット率アップは、一昨年にデータ分析ツールを導入し今期はそのツールを使いこなせるようになり、稼働し始めました。年間200SKUを発売して約160SKUが終売となりましたが、40SKUが販売を継続するサイクルを生み出すことができました。やっとアナログから抜け出せた思いで、今後このデータ分析の精度をアップしヒット率を高めていきたいと思います。
ー「海外事業」はいかがでしょうか?
現在世界45の国と地域にまで広がっていますが、来期はアジア市場で2ヶ国に集中して投資していきたいと考えています。ベトナムともう1ヶ国で現在調査を進めています。タイなのか、マレーシアなのか。現在、コロナでストップしていた海外営業の出張を解禁し、人を派遣して調査を進めています。その中で人の流れや消費行動を把握した上で、情報をアップデートし次の国を決定したいと思います。
ーブランドとしては、サボリーノやももぷりを継続して注力しますか?
戦略的には、現地にカスタマイズ化して販売する予定です。そのため、現地ニーズを拾うために協力企業を昨年10月に決定し、現在協議を続けているところです。
日本はリブランディングや、CMなど販促強化で認知度拡大へ
ー一方で日本国内事業の拡大策はどうでしょうか?
まずは昨年、既存ブランドのリブランディングを進め、その商品が2024年に続々と登場します。まず「ハニーロア(HONEY ROA)」をリブランディングし、名称を「ロアリブ(ROAlív)」に変更しました。実はこのリブランディングは2025年3月をメドに実施する予定でしたが、前倒した格好です。2018年にデビューしてまもなく、コロナになり、消費者の求める価値が変わった中で、ハニーロアも現在売上の3割が男性客となり、ジェンダーレスな打ち出しを強めていました。そういった中で、“ハニー”という言葉が、少しかわい過ぎではないか…という声が上がり。そこでリブランディングを早めブランド名を変更。まずはフレグランスから刷新し、今後スキンケアなども続く予定です。
3年後には、現在の8店舗から倍にまで拡大。それに伴い、ECとの連動も進めます。現在、越境ECのみですが、海外展開もさらに積極的に行いたいと思います。
ー主力のサボリーノもリニューアルしますね。
はい。ブランドロゴとメッセージを刷新し、処方をパワーアップしました。グループシナジーを活かし、TBSと連動するなどで、春に向け販促や宣伝に力を入れていきます。テレビCMも1月下旬から3月までエリア限定で打つ予定です。冒頭でお話ししましたが、朝の情報番組に取り上げていただいたことで、認知度がグッとアップしたことを考えると、まだまだリーチできるのではないでしょうか。来期に向け、サボリーノだけでなく、乾燥さんも視野に入れ、テレビやラジオと連動した販促を実施していきます。
さらに主力ブランドのクレンジングリサーチでもAHA配合のロングセラー石けん「クレンジングリサーチ ソープ」をリニューアルし2月に発売します。
新規事業で食品・美容機器市場に参入へ
ー「新規事業」は2024年、大きな発表がありそうです。
昨年からさまざまに進めていた調査のスピードが早まり、来期には新規カテゴリーから新製品を発表できる予定です。
1つは、食品。そしてもう1つは美容機器です。食品に関しては、農業関係者との連携や食材のアップサイクルを活用するなども視野に、サステナブルな動きも進め、面白くなると思います。またインナービューティアイテムを発売する予定です。専業メーカーさんがいる中で、そこで勝負しても難しいのは分かっています。だからこそ、われわれはトータルビューティとして発信、習慣を提案したいと思います。2つ目の美容機器については、これから具体的に進めていきます。
ー最後に、今期(2024年3月期)の業績予想および、意気込みをお聞かせください。
売上高で前期比20%増は最低ラインとして、この3ヶ月でリブランディングしたサボリーノやロアリブなどでさらに拡大させたいですね。また2024年は、新規事業も含め、これまで種蒔きしてきた新しい挑戦を、スタートさせる年となります。2、3年後の成功に向け、失敗を恐れず突き進み、アップデートを続けていきたいと思います。
(聞き手:福崎明子)
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