この記事で使用しているヴィジュアルは、全てAIでモデルを生成しています。人間のモデルと比べても遜色ないクオリティですが、AIを生成しているのはAI model株式会社が運営するサービス「AI model」によるもの。2022年3月にサービスの本格展開を開始し、注目を集めています。そんな「AI model」の開発理由は?活用方法や現状の課題、目標などAI model株式会社CEOの谷口大季氏に話を聞きました。
—AI modelがスタートしたきっかけを教えてください。
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元々、私は三越伊勢丹や集英社、バーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK)などアパレル企業向けにECサイトの構築やクリエイティブ制作の支援をさせていただく事業を約17年やっています。そういった業務の中で、ブランドの世界観を表現する撮影において大変な部分が多く、もっと効率化できないか、クリエイティブの表現の幅が広がらないかと試行錯誤をしていく中で、AI技術に注目しました。
—具体的にどのような課題があったのでしょうか?
「アパレル企業の課題」「モデルの課題」「制作に携わるクリエイティブ周りの課題」の3つに分けられると思っています。例えば、アパレル企業はイメージに合うモデルを起用して差別化を図りたくても、競合と同じモデルを使わざるを得なかったり、専属契約まではコストがかけられないという問題があります。コロナ禍は国を跨いだ移動が制限されていたので、一時期はどこもかしこも同じ日本に住んでいる外国人モデルを使っていましたね。
モデルに関して言うと、年齢を重ねていくに連れて仕事が減っていくという課題があります。モデルをしている友人の話を聞くと、例えばメンズは30歳くらいまではカジュアル系ファッションの案件や雑誌の仕事がありますが、30歳を超えた辺りから減っていき、40歳くらいでスーツが似合うようになってきてまた新しい需要を獲得するという流れが多いそうです。どうしても30代の空白の期間に生計を立てられなくなるため、キャスティングや俳優、ヨガのインストラクターなど別の仕事を始めなければならないという課題などです。
制作会社などクリエイティブ周りの課題では、オーディションで多いところだと約50人をアサインして、クライアントへ提案するための資料を作り、最終的に1〜2人に絞っていくという業務を行っています。そもそもの運用が大変ということに加え、最終的に決めたモデルよりもオーディションで落選した人の方が購買や認知拡大に繋がるヴィジュアルを作れたのではないかといった疑惑が残ったり、検証することができないという悩みがあります。
—SNSで「AI modelが人間の仕事を奪う」といった声も散見されました。
そういったコメントはよく見かけますが、決して人間の仕事を奪って利益を得るために展開しているわけではありません。オンラインストアをはじめ、ライブコマースやメタバースなど業界全体で販売チャネルが増えているものの、現状で全網羅的に展開できているのは一部の資金力のあるブランドに限られています。AI modelsはリソース不足に頭を抱える企業がこれらの領域に挑戦する手助けができると考えています。生身のモデルに関しても同様で、年齢の問題から仕事の依頼が減ってしまう時期でもAIで顔のパーツを少し変えることで新たな需要を生み出すことができます。標準化できるところはAIに任せ、クリエイティブな部分で人間にしかできない仕事を増やすことができれば、業界の発展につながると思っています。
18世紀半ばの産業革命の時も、同じように機械が仕事を奪うとしてラッダイト運動などがありましたよね。ただ結果としては、例えば車の開発で話すと、車の組み立てなどが任せられるようになったことで、よりデザイン性に優れた車がたくさん生まれたり、よりコンフォータブルな車の開発に注力できました。豊かな未来へ向かうために、ファッション業界もAIを活用して次の発展に向けて進むべきタイミングがきているのかなと感じています。
—いつから開発を?
2018年に始めました。当初は実証実験として外部のリソースを活用しながら開発を進めていましたが、今は社内にも人材を置いて少しずつ改善を重ねている状況です。
—2020年に元々のクリエイティブ制作などを行う株式会社インターグルーブから、AI model株式会社として分社化しました。2020年時点で手応えを感じていたんでしょうか?
そうですね。兼ねてからアパレル企業とお付き合いがあったので、2020年頃から少しずつAI modelのサービスを実際に使用したヴィジュアル制作をさせていただいています。やはり最初はなかなか理解されなかったんですが、個人的には確信に近い手応えを感じました。あと、AI modelというサービス名をもっと浸透させたいですし、スタートアップ的な形でIPOや資金調達をして国内外に発信していくような方向性をイメージしていたので、分社化を決断しました。
—AI modelではどんなことができるのでしょうか?
「撮影用モデルの顔のパーツを変える」「商品の物撮りからAIでモデルの着用イメージを作り上げていく」「衣服の3Dデータから着用イメージを生成する」という3つのパターンを用意しています。最初は顔のパーツを変えていくパターンから始まりましたが、AIのクオリティが徐々に上がってきたことで、今では費用やスケジュールの関係でモデル撮影ができない企業が物撮りからヴィジュアルを作れるようになりましたし、SDGsの観点などからサンプルによるロスを無くす3Dデータで物作りを行っている企業にも対応できるようになりました。
—物撮りや3Dデータから作るパターンでは、モデルの体型は自由にアレンジできるんですか?
そうですね。あらかじめ希望の体型を聞いてから作っています。モデルの顔のパーツを変えていくパターンでも、クライアント側でキャスティングが難しい場合はこちらで用意することも可能です。
—低身長やぽっちゃり向けのブランドも増えているので、そういったブランドにも対応できると。
はい。一般的なモデルでは難しいかと思いますし、むしろ我々が得意とする領域ですね。モデルが見つからないので、撮影が難しいといった課題の解決に繋げることができます。
—動画には対応していますか?
今、まさに開発中です。ムービーのヴィジュアルを作るブランドも増えていて、動画でも使いたいという要望は多くいただいています。2023年中には対応できるように開発を進めています。
—料金設定は?
各社で撮影方法や要望が異なるので、それぞれの内容によって変わります。お話をお伺いして都度お見積もりをさせていただいております。
—AI modelを導入した企業の一例ではECの売上が3割伸びたほか、ページ滞在時間やCTR(クリック率)が大幅に成長したそうですね。
とあるクライアント企業の事例をお話すると、店頭で40代後半から50代の人が多く購入していたことから、40代のモデルをヴィジュアルに起用していたブランドがあるんですが、AI modelを活用して20代、30代、40代のそれぞれをイメージしたモデルを生成して同じ服を着用したヴィジュアルを展開したところ、30代モデルのヴィジュアルが一番購買に繋がったというデータが取れました。そして、次のステップとして30代モデルの中でも、例えば日本人風や欧米人風といったいくつかのパターンを用意してデータ取得を繰り返します。そうすることでどんどん最適な専属モデルへと進化していくんです。他にもいくつかのデータが取得でき、実験を繰り返したことで、導入前に比べて平均的にクリック率240%などの結果に繋がり、効果が高いブランドは売上が4倍になったという記録もありました。
—生成したAI modelが実在する人物に似てしまうこともあるんでしょうか?
今のところはないですが、今後もしかしたらソックリさんが出てくる可能性は無きにしもあらずですね。ただ、生成方法として人の写真を参考に顔を作っている訳ではないので、肖像権や著作権の問題はありません。ある程度は手動でも調整ができるので、危険だと感じた場合はリスク回避が行えます。
—メイクも自由に調整できますか?
細かいメイクにはまだ対応できていませんが、髪型や簡単なメイクは調整できます。髪型はショート、ロング、ボブなどの長さをはじめ、前髪を少し梳いたり、パーマをかけるといったアレンジが可能です。
—AI業界は今後様々な企業の参入が予想されますが、AI modelの強みは?
現状は他にはないサービスなので比較が難しいですが、元々ファッション業界のクリエイティブ業界に携わっていたことでしょうか。この業界は感性や感覚的な部分を求めるケースが多いので、良い技術があるからといって良いソリューションが生まれるわけではない。クリエイティブ周りの課題を肌で感じていたからこそ提案できることがあると思います。
また独自技術として、アクセスした人の属性や好みに合わせて、最適なヴィジュアルを表示するAI技術の開発を進めています。極端な話だと、トム・クルーズ(Thomas Cruise)好きの人にはハンサムな欧米モデルが表示され、別の人が同じ商品ページに飛ぶと20代の日本人モデルのヴィジュアルが登場するといった形式なども想定していて、企業側の提案の幅を広げるのに役立てると考えています。
—現状の課題は?
先ほど話していた「AI modelが人間の仕事を奪う」といった声があるように、慎重に進めていかなければバランスが崩れるため、注意深く運営していく責任が私たちにはあると思っています。モデル事務所と提携して仕事の幅を広げる方法も試行していますし、モデルが稼げなくなるといった状況にはならないようにサービスを拡大しきたいです。
—今後の目標を教えてください。
一度の撮影で国内向けと海外向けのヴィジュアル作成が行えるため、国内のアパレル企業が海外展開をしやすくなる環境にも繋がると思っています。このように、AI modelの技術を活用して自社の売り上げをあげていくというよりも、撮影業務の課題を解決して業界の発展に貢献することが目標です。
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