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“富裕層と取引して成り上がる存在”をアーティストと呼べるか? クリエイターが自分らしく生きるために今必要な場所

謎多きクリエイティブスタジオ「ZOO AS ZOO」とは

Image by: FASHIONSNAP

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“富裕層と取引して成り上がる存在”をアーティストと呼べるか? クリエイターが自分らしく生きるために今必要な場所

謎多きクリエイティブスタジオ「ZOO AS ZOO」とは

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 アトランタを拠点にグローバルで活動するクリエイティブスタジオ「ZOO AS ZOO」。これまで著名アーティストや大手クライアントとともに多彩なジャンルのクリエイティブを手掛け、独自のヴィジュアル言語を形作ってきたが、創設10年目となる現在までメディア露出はほとんどなく、その内実はミステリアスなヴェールに覆われている。オープンにされている情報は、InstagramのアカウントとWebサイトのみ。ファッションとアート、テクノロジーといった複数の表現を絶妙なバランスで融合したジャンルレスなトーンが魅力だ。

 今回、ZOO AS ZOOの創設者 Amiによる個展「四十日放浪 | 40 Day Walks of Hollow」開催にあたり、国内初となるインタビューの機会を得た。どのような組織で、何をやろうとしてきた/しようとしているのか。そんなシンプルな問いを投げかけてみると、今の想いを率直な言葉で答えてくれた。

◾️ZOO AS ZOO
アート・デザイン・音楽・ファッション・テクノロジーなど マルチな分野の領域を混ぜ合わせた体験型表現にフォーカスをする学祭的スタジオ。グローバルを舞台に活動10年目を迎える。
Instagram
Webサイト

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メディア露出を避けてきた理由

⎯⎯ ZOO AS ZOO(以下、ZOO)はこれまで、“謎に包まれた存在”という印象でした。今回が国内初のインタビューとなりましたが、クローズドにしていたことには何か狙いがあったのでしょうか。

 実はいままでもインタビューの打診を受けたことはあったのですが、当時は自分が理想とするZOOと現実が乖離していて。それが発信されてしまう気恥ずかしさから、何度か取材を途中でストップさせていただいたんです。私自身SNSの個人アカウントを持たない性分で、考えを明確に表現することにも抵抗があります。また、メディアに出ること自体が“業界”に入ることの証になるような気がして、自分があまり好きではない“業界の色”に染まっていくことへの不安もありました。

⎯⎯ 現在は状況が変わってきたということでしょうか?

 そうですね。ありたい姿と実際の姿が重なってきたように感じていますし、現在取り組んでいるプロジェクトを成功させるためには、もっと広く知ってもらわなければという思いもあります。

⎯⎯ ありたい姿というのは?

 創設当初から10年後のゴールとして「場所をつくりたい」というものがあったんです。今はそのゴールがようやく形になりつつあります。

社会からズレた異種が集う「動物園」のように

⎯⎯ 具体的な「場所」のお話を伺う前に、過去に遡って、ZOOがどんな経緯で生まれたのか聞かせてください。

 ZOOのロゴは、最後のOが少し下にズレたデザインになっています。こんな風に、社会の中で自分の居場所がわからないような、ちょっとズレていて様々なバックグラウンドを持った人たちが集まる場所をイメージしていました。デザイナーだけではなく、シェフがいたりして、まさにライオンとペンギンとインコが同じ場所にいる動物園のような感じですね。自然界では一緒にいられないような動物たちが「ここだったらいいよね」と思える場所を作りたかった。私の役割はズーキーパー(飼育員)で、それぞれのメンバーの特性やニーズに合わせてケアやマネジメントをして、その人が最高のパフォーマンスを発揮できる環境を作ることだと思っています。

Image by: ZOO AS ZOO

⎯⎯ 創設当初はどのようなメンバーがいたんですか?

 7人くらいからスタートして、グラフィックデザイナーやフォトグラファー、プロデューサー、ミュージシャン、 シェフ、何もしていない人たちもいましたね(笑)。

⎯⎯ Amiさん自身もユニークなバックグラウンドをお持ちなんですよね。

 私はアメリカ・テネシー州生まれ、ノースカロライナ州育ちの田舎出身で、親の実家は岡山県。友達の家に馬がいたり、学校までの道が全部畑だったりする環境で暮らしていました。ファッションも好きでしたが、もともとは理数系を学んでいて、いろいろなことに興味がありました。「Who are you?」「What do you do?」という質問にシンプルに答えられないことが苦しかったですね。

 ZOOという名前は、私の部屋を見た友人に「動物園みたいだね」と言われたことから名付けました。部屋には本当にいろいろなものがあってごちゃごちゃしていました。人もそんなふうに複雑で、1人の中でも矛盾したり、合致したりしないものがある。そういった「わからなさ」が人の良さだとも思うので、私自身のストーリーとスタジオのあり方を重ねました。

固定観念を覆す マルチジャンルなプロジェクト

⎯⎯ ZOOのプロジェクトには、近年のファッションと現代美術が近接し始めたジャンル横断的でコンセプチュアルなトーンを感じます。改めて、ZOOのアイデンティティが見えるプロジェクトをいくつか教えていただけますか?

ファッション?音楽?アート? ジャンルを定義しないことが可能性を広げた

09.07.24 | experimental jam 001 | spaRal sonic session

Image by: ZOO AS ZOO

 これはニューヨークで実施したプロジェクト。ここではZOOを「Band」と説明しているのですが、何が起こるからわからない即興セッションのマルチメディアバージョンを作ろうと思いました。デジタルアーティストでミュージシャンのデューン・カンダ(ジェシー・カンダ)とコラボレーションして、彼がパフォーマンスをしたくなるような空間を作り、空間に合わせてフィードバックループができるようなセッションをする。この空間のインスピレーション源は、「樹液」なんです。木から出る赤い樹液を見て想像できる“痛み”であったり、樹液を血液に見立てた循環性をイメージしています。結果的に9時間にわたってセッションしたのですが、「これは何?」とたくさん聞かれました。

 例えば、「ファッションショー」と言うと、ファッションの背景に音楽とステージデザインがあって、「ライブ」と言うと、音楽の背景に衣装があってステージがある。「イマーシブアート」と言うと、インスタレーションがあります。でもそれは、フォーカスしている部分が違うだけで、実際は似たようなものなんじゃないかと思うんです。「フォーカスしているのはこれです」と言うことで関心を持ってくれる層が決められてしまうなら、あえて言わなければどんな人たちが来てくれるのか、という実験でもありました。結果的に、10代から60代まで幅広い人たちが来てくれて、普段は交わることのない人たちが同じ場所に集まって長くその空間で共存しました。音楽に感動する人、空間と繋がる人、集まって会話する人、それぞれが思い思いの過ごし方をしていて、何も言わないことで可能性が広がることもあるのかなと感じました。

Video by ZOO AS ZOO

ワークスは並べない 言葉のない公式サイト

ZOO AS ZOO WEB

Video by ZOO AS ZOO

 ウェブサイト自体もZOOのプロジェクトのひとつです。ZOOは、デザインエージェンシー的な存在でもあるのですが、既存のデザインスタジオのポートフォリオはどれもほぼ一緒だと感じるんですよ。同じものを学んで、同じクライアントを追いかけて、同じようなものが生まれる。そういうのが嫌で...。私たちは何も言葉を使わずに、一見「これで繋がれる人がいるのかな」と思うようなものを作ってみました。2016年から作り始めて、当時は「Unreal Engine」や「Unity」といった3DCGの技術がまだウェブサイトには使われていない状況だったのですが、メタバース空間でのコミュニケーションが実現するよう意識しましたね。サイトデザインにはかなりこだわっていて、ロンドンのデザインスタジオ「ペンタグラム」との共同制作です。お金も時間もかかりましたが、クライアントの名前を並べて見せるよりも自分たちがやりたいことが伝わったのか、結果的に様々なクライアントからオファーが来るようになりました。エンジニア目線であったり、オーディオ目線であったり、それぞれ注目されるポイントも違っていて、様々な領域の人たちに楽しんでもらえているみたいです。

アーティストがオーナーシップを持つ「光るラーメン屋」

NAKAMURA-KE

 これは「光るラーメン」を提供するラーメン店です。“「中村家」という妖怪の家族が営んでいるラーメン屋”というストーリーを持たせてポップアップ形式で開催していて、開催される各会場で展開する物語が連動しています。「中村」は私の親の姓に由来していて、子どもの頃に祖父母の家で過ごした思い出から着想を得ています。現在はZOOをオーナーとしながら別のパートナーがプロジェクトを展開していて、去年はミラノサローネにも出展しました。このプロジェクトの重要なポイントは、アーティストがオーナーの立場になっているところです。アーティストは一般的に、一度作品を“納品”してしまうと、以降自分の作品であってもコントロールができなくなることがほとんど。だから、まずは自分たちがお金を出して立ち上げ、オーナーシップを守ることに注力しました。これを機に、トータルでクリエイティブを任せてもらえる仕事が一気に増えましたね。

Video by ZOO AS ZOO

アーティストが自分らしくいられる仕組みを作る

⎯⎯ Amiさんにとって日本初の個展となった『四十日放浪 | 40 Day Walks of Hollow』では、コロナ禍で撮影したヨーグルトの写真をもとに制作したアートワークを公開しています。

 妊娠と出産が続いた直後にコロナ禍になって、保育園に子どもを預けられず、仕事も減ってかなりしんどくて、“なりたくない自分”になっていました。周囲のケアに追われて自分の好きなものづくりができず、どうしても日常から抜け出せていなかったんです。でもある日ヨーグルトを食べていたら、スプーンですくったあとのくぼみがふと魅力的に見えて、自然と作品を作りはじめていました。1枚15分くらいで制作したものなのですが、それだけでもずいぶん気が楽になって、自分を取り返すような気持ちでした。

⎯⎯ パーソナルな経験から出発して、「なんだこれは?」というアウトプットまで変化させている点が、ZOOのプロジェクトに共通していると感じました。

 例えば「中村家」では、実はパーソナルな話はあとから加えた部分で、きっかけは「自分たちでプロジェクトを立ち上げたほうが良いだろう」というビジネス的な戦略からでした。

 ビジネスについて考えるとアートの側面が損なわれると思われがちですが、個人的には「誰がそんなことを決めたのか」と考えていて。アーティストもこの社会を生きていくために、どうしてもお金が必要なことは事実。それを毛嫌いせず、大きな世界の一部として捉えつつ、どう仕組みを変えたら自分の生活に寄り添う形にできるのかを考えるのも、面白いと思います。ZOOのようなインディペンデントなスタジオは、クライアントワークを取ることが難しいですし、10年続けていくのも難しい。資金繰りは真剣に考えなければならないことで、お金を目的ではなく“手段”として使って“その先に何が欲しいのか”を考えています。

⎯⎯ 実際のところ何を「欲しい」と考えているのでしょうか?

 アーティストが友達同士で売買できるようなコミュニティを作りたいと思っています。「現在スタンダードになっている“富裕層と取引をして成り上がっていく存在”をアーティストと呼ぶのだろうか」という疑問は常々持ち続けていて。友達同士で売り買いできる方がずっと健全だと考えているんです。ただ一方で買うための財力がないといった壁はあるし、かといって売値を下げるのは難しいですよね。だから私たちは、「アーティストたちがコミュニティ内で水平的な取引ができる環境を作りたい」という想いでこれまでやってきました。

⎯⎯ 冒頭で「場所をつくりたい」と話していたことが、まさに今話していることにあたるのでしょうか?

 そうです。今作ろうとしているのは、ワークプレイスやお店、スタジオが複合的に集まっている場所。どうしても、「セレブリティたちと繋がらないと成功できない」という考え方には納得できなくて。というのも、実際にデザイナーやアーティストに話を聞くと、衣装提供やスタイリングでお金が発生しなかったり、衣装が返ってこなかったりという話がよくあります。だから、ファッションデザイナーの服をうちで保管して、スタイリングで使用する場合はしっかりとフィーを取っていく。アーティストたち自身がグラフィックデザインやブランディングといった他のアーティストの能力を必要とした場合は、お互いに自分たちの提供価値を”物々交換”できるようなサービスを展開したいと考えています。

⎯⎯ あらためて、Amiさんが理想とする場所や人のあり方とは?

 私は「自分」を持って生きている人が好きです。でも今は、そうした人たちが生きやすい社会ではない。そんな中で、自分の芯を大切にして生きているのは素晴らしいこと。だからまずは自分が自分らしくいられる場所を作ろうと思っています。ZOOは、「何をしてもいい」という考え方のもと運営しているので、集まった人は何にでもなれるし、何を作ってもいい。どういう場所になるかは、集まる人が決めていく。メンバーたちと一緒に変化していけたらいいなと思います。

ライター/エディター

酒井瑛作

Eisaku Sakai

1993年、神奈川県生まれ。主に写真家へのインタビュー、展覧会レビューなど写真をはじめとした視覚文化・芸術にまつわる執筆活動を行う。近年は、エディターとして展覧会の企画・制作、アートブックの出版などに携わる。

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