俳優、新垣結衣はいつだってお茶の間の人気者であり、平成を制服姿で過ごした私たちにとっては、憧れのモデルでもあった。取材前、控え室から出てきた新垣に、表紙を飾っていたニコラ(nicola)を下校途中、毎号欠かさずに買っていたことを伝えると「わー、ありがとうございます」と言った後「どうも、ガッキーです」と照れたように笑いながら会釈をされ、なぜ彼女が国民的俳優になり得たのかをありありと実感させられた。そんな彼女だから、多くのファンに大切にされてきた漫画「違国日記」の実写化にあたり、主演を演じることになったのだろう。
新垣結衣が演じる高代槙生(こうだいまきお)は、「普通」「ちゃんとした」から遠い存在として、あらすじや登場人物紹介で「大人らしくない大人」と形容されている。では一体「大人」とは? 中学生でモデルデビューし、奇しくも今年、槙生と同い年になった新垣はこの問いになんと答えるのか。
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ー前作「正欲」※から続き、“ガッキー”というパブリックイメージを覆すような作品出演が続いています。何かきっかけや心境の変化があったんでしょうか?
なにか心境の変化、というのは特にありません。私は、自分から「こういう作品に出たい」と働きかけたことはないのですが、例えばもし、ものすごく出演したい作品があったとしても、オファーをいただけたり、自分を含め作品に関わる全員のスケジュールの都合など、全ての条件が合って初めて成立するものなので、本当にご縁だなと思っています。そしてきっと、その時々に求められているものがあって、「正欲」※も「違国日記」も、それ以前の作品たちも「今、その時の自分だから求めていただけたのだろう」と。
映画やドラマなどの“作品”は、多くが今の世の中を反映しているものだと思っていて。「今、この世の中に必要とされているからこそ、映像化されたり作品として発表されている」と考えると、自ずとそういった作品とのご縁も増えていくものなのかなと感じます。私に求められるものも年齢などによっても変わるでしょうし、世の中は変化を続け、欲される作品も変わっていくものなので、これまでの出演作もその変化も、ごく自然なこととして捉えています。
※「正欲」:朝井リョウの同名ベストセラー小説を、稲垣吾郎と新垣結衣の共演で映画化された作品。新垣は特殊な性癖を持つことを隠し、広島のショッピングモールで働く契約社員の桐生夏月を演じている。
ー本作の主人公は新垣さんが演じる35歳の小説家・高代槙生と、15歳の少女・田汲朝。槙生の「やわらかな年頃、きっと私の迂闊な一言で人生が変わってしまう」というのは15歳という年齢を的確に表す名セリフだなと感じました。
そうですね。それに槙生は多分、15歳に対してだけではなく、誰に対しても「私の迂闊な一言で、相手を傷つけてしまうかも」という“かもしれない”を想像してしまう人なのではと思います。だから人と関わる時に一つ大きなハードルがあるのかなと。漫画の帯やパンフレットで彼女は一言「人見知り」と紹介されていることが多いですが、槙生の“人見知り”は「人と関わることが苦手」という単純な話でもない気がしているんですよね。
ーでは、「人見知り」という言葉をどのように解釈しましたか?
「傷つけられたり、時には傷つけたり、人と関わることで疲弊してきた過去があるけれども、それでも真正面からちゃんと向き合っちゃう人」と。だから、誰かと関わるときにこわいと感じてしまう瞬間があるし、相手との距離を保つことや一人の時間を大切にすることは、槙生にとって自分を守るために必要なことであり、相手を大事にすることにも繋がるのかなと。突き放すように聞こえる言葉も、尊重したいからこそ。
槙生ちゃんは「朝のことを育てている」という意識はないんですよね。大人として守らなければいけない存在だと思っているし、彼女を引き取ったことに責任も持っている。でも、親として「育てる」ことは「できない」と感じている。「朝の人生なんだから、あなたの好きにしたらいい」というのも、彼女に何かためになることを言ってやろうと思って語りかけているわけではなくて、1人の人間として尊重し、“本当にそう思っているから”出た言葉ではと思っています。
ー芸歴も長い新垣さんですが、現在35歳の自分が、15歳の自分に声を掛けるなら、なんと声をかけますか?
まず、原作の朝を見ていてすごく共感したんですよ。自分のことを自分でコントロール出来なくて、気持ちも行動も突っ走ったあげく、あとで冷静になって客観的に自分を見た時にとんでもなく恥ずかしい気持ちになる、とかすごく経験がある(笑)。 あとは「自分は両親が死んでいて、こんな壮絶な人生だから、もうちょっと深みが出てもいいはずなのに、自分には何もない」とコンプレックスを感じているのも、なんとなくわかるんですよね。若い時は特に、何かしらを持っている人間でありたいと思いますよね。私もいまだに「自分には突出した特別なものがない」と感じる瞬間はあるし、朝を見ていると、そういうことを思い出します。
でも、今話したような気持ちって、その時にしかきっと感じられないことだったんですよね。今となってはいろんなことが以前より、ある程度見えているからこそ、15歳と35歳では同じ経験でも全く違うように感じられるはず。だから、今の私が当時の私に声を掛けるなら「あ、そのままで大丈夫です」かな。とはいえ、現時点で不安なこともあるだろうから、付け加えるなら「大丈夫、生きています。生きているから大丈夫なんで、そのままでどうぞ」と言いたい。別に、ああしろ、こうしろと言う気はないですかね。
ー最後に「大人になる」とは、どういうことだと思いますか?
現実的なことを言うと、成人して「責任を伴うこと」。自分が「大人になったなあ」と思ったのはビールのCMがきた時でした(笑)。もう少し考えてみると、「大人になる」と「年齢を重ねる」はきっと違いますよね。でも、じゃあ「本当の大人」ってこの世の中にいるのか、とも思いませんか?
この作品の好きなところは、年齢的な大人も子どもも、みんな完璧ではなくて、それぞれの立場で抱えているものがあり、それをどうにかすることもできず、抱えたまま生きている中で、たまに「ヒリッ」としながら日々を過ごしているところ。それがリアルだと思うんです。槙生も「どうしてこんなことができないんだろう」と自己嫌悪に陥ったりしているけど、私も思うんですよ。35年生きていても、できないことはできないし、経験しなければわからないことなんてたくさんあるし。「一生を賭けても全部のことを知るなんてできないんだな」と思うと「いつまで経っても途中なんだなあ」と。「違国日記」は、そういう人たちに寄り添ってくれる、優しい作品だなと思っています。
Model:Yui Aragaki
Styling:Yoshiaki Komatsu(nomadica)
Hair & Makeup:Asuka Fujio(kichi)
Photographer:Hikaru Nagumo(FASHIONSNAP)
Text & Edit:Asuka Furukata (FASHIONSNAP)
シャツ¥47,300/RUMCHE(BRAND NEWS/tel:03-6421-0870)、ラッププリーツ¥19,470/eunoia(Bshop/tel:03-5775-3266)、パンツpants¥47,300/TOGA PULLA、ピアス¥18,700/TOGA TOO(ともにTOGA 原宿店/tel:03-6419-8136)、ネックレス¥33,000/(MURRAL/http://murral.jp/)、リング[右手薬指]¥6,600[左手]¥4,950/(loni/mail:loni_info@auntierosa.com)、[右手人差し指]¥225,500/oeau(Harumi showroom/tel:03-6433-5395)、サンダル¥46,200/(AURALEE/tel:03-6427-7141)
■違国日記
公開日:2024年6月7日
監督:瀬田なつき
原作:ヤマシタトモコ
キャスト:新垣結衣、早瀬憩、夏帆ほか
配給:東京テアトル ショウゲート
公式サイト
あらすじ
中学3年の冬、田汲朝(早瀬憩)は両親を突然の交通事故で失う。親族からたらい回しにされそうになっていた様子を見かねた叔母で少女小説家の高代槙生(新垣結衣)が朝を引き取ることになり、同居生活が始まる。人見知りで不器用な槙生と、人懐っこく素直な性格の朝。何もかも対照的なふたりの生活は驚きの連続だった。そして朝は、まだ両親の死を悲しむ準備が整っていない中、高校へ進学する。
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