第1話からつづく——
山本寛斎のファッションショーに衝撃を受けた若槻善雄。しかしまだ、演出家という仕事は知る由もなかった。放課後は、著名人が夜な夜な集っていた伝説のディスコクラブ「ツバキハウス」に通い詰め。一方で同じ東京モード学園の同級生であり友人の"ノブ"こと北村信彦(現ヒステリックグラマー デザイナー)は、人気デザイナーとして成長していく。——演出家 若槻善雄の半生を振り返る、連載「ふくびと」第2話。
・ブッ飛んだヤツらが集う「ツバキハウス」
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勉強もそこそこやりましたが、田舎から東京に出てきたなら、そりゃあ遊びたい。学校は新宿西口なので、終わったら必ずガード下を抜けて、東口の界隈で遊んでいました。
よく通ったのが新宿テアトルビルの5階にあった「ツバキハウス」。曜日ごとにフロアの音楽の趣向が変わるので、客層も変わる。「金ツバ」と呼んでいた金曜日なんかは、「文化服装学院」のブッ飛んだ学生たちが集まっていたんです。僕が通っていた「東京モード学園」は開校したばかりの後手組なので、乗り込んでいくような格好で。そこで色々な人に会いました。
ツバキハウス——1975年に新宿のテアトルビルにオープンしたディスコクラブ。ロックやヘビーメタルなど多ジャンルの音楽イベントが曜日ごとに開催され人気に。後に有名になるアーティストなど国内外の著名人も訪れていた。1987年に閉店。
「ビギ(BIGI)」や「ニコル(NICOLE)」の店員などもツバキハウスで知り合ったんですが、そのお姉さんやお兄さんに会うため、放課後に伊勢丹や丸井の店を巡ったりもしていました。なぜかというと、なんとかしてファッションショーのチケットを譲ってもらいたかったから。図々しいガキが毎日のように店に通って、「ショーがあるけど、行く?」と誘われるのを待つという。当時はショーのチケットが一般に販売されている時代でしたが、人気ブランドはかなり高くて。なのでコネもカネもない学生にとっては、「どうやったら潜り込めるか」ということが大事だったんです。
1981年に田園コロシアムで開催された「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」のショーはすごかった。どうやって入手したのか忘れてしまったけど、ブランド名が書かれたビニール合羽がチケット代わりというのも斬新で。ただ、11月に屋外のショーだったので、ものすごい寒さ。でも生で見る迫力にめちゃくちゃ感動したのを覚えています。
そんなこんなでモード学園を2年で卒業して、演出家の江橋洋さんの会社「タッチ」の門を叩きました。就職を考えた時、ショーに関わる仕事しか思いつかなかったから。一度は落ちてしまったんですが、どうしても諦めきれずに江橋さんに会いにいったほど「これしかない」と思っていて。なんとかもう一度面接をしてもらって、入れてもらえることになりました。
・同居人 北村信彦の才能
その頃僕は、ノブ(北村信彦・現「ヒステリックグラマー」デザイナー)と三軒茶屋に住んでいました。同じ東京モード学園の一期生で、彼は隣のクラスのデザイン学科だったんです。学生の頃からめちゃくちゃ絵が上手くて。よく隣のクラスから仲間の顔を描いたノブの絵が回ってきては、「あいつスゴいわ」って盛り上がるほど。周りは年上の人も多かったんですが、彼とは同い年だったので自然とつるむようになって、その頃から今までだいぶ長い付き合いが続いています。
仕事で人手が足りない時には、ノブにバイトを頼んで、ショーの裏方の仕事を何度か一緒にやったこともあります。そのうちオゾンコミュニティの営業をやっている同級生が「イラスト描ける人はいないか」と言っていたので、だったらノブがいいんじゃないかと思って紹介したんです。ノブはオゾンコミュニティでバイトを始め、そのうちにデザイン画も描くようになって、その後立ち上げたのが「ヒステリックグラマー(HYSTERIC GLAMOUR)」。
ヒステリックグラマー——1984年6月設立。デザイナーは北村信彦。アメリカンカジュアルをベースに、1960〜80年代のロックミュージックやアートといったポップカルチャーのエッセンスを注入。メンズ、ウィメンズ、キッズ、ベビーと展開を広げ、一貫したコンセプトが長く支持されている。
初期のヒスで代表的な、女性が横たわっているイラスト。あれは三茶の家から一緒に移動している車内で、ノブが「ブランドのアイコンをこういう風にしたいんだよね」と言いながらサラサラと描いていた絵が起点だった記憶があります。その時に生まれたイラストが、後にものすごく人気を集めることになりました。——第3話につづく
第3話は3月2日に公開します。
文:小湊千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP
【連載ふくびと】演出家 若槻善雄 全7話
第1話―寺に生まれ東京へ、道を開いた1本のビデオ
第2話―ブッ飛んだディスコ 金ツバ通い
第3話―憧れの師匠のもとで
第4話―来るはずの電車が...地下鉄のショー
第5話―生のギャルソンの衝撃
第6話―マルタン・マルジェラの素顔
第7話―ショーができなくなった時
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