ジュン 佐々木進社長
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多くのファンに惜しまれながら、2022年3月にその20年間の歴史に幕を下ろした原宿のカフェ・ラウンジ「モントーク(montoak)」。アーティストやクリエイター、芸能人からも愛されてきたコミュニティの場は、2年9ヶ月間の時を経て生まれ変わった。
12月15日に、モントーク跡地に誕生したジュンの新たなコンセプトストア「ヴイエー(V.A.)」は、物販とカフェ、ベーカリーを備える複合施設。ストアディレクションは、ジュンとこれまでに「ザ・プール青山(the POOL aoyama)」や「ザ・パーキング銀座(THE PARK・ING GINZA)」「ザ・コンビニ(THE CONVENI)」といったコンセプトストアを展開してきた藤原ヒロシが担当し、カフェスペースは同社とともにモントークを運営してきた山本宇一と再びタッグを組んだ。
1972年に開業した伝説のカフェ「カフェ ド ロペ(Café de Ropé)」に始まり、モントーク、そして現在まで。表参道の一等地で半世紀に亘り、カフェを通じたカルチャースポットを展開し続けるジュンの次なる狙いとは? 佐々木進社長に聞いた。
■佐々木進(ジュン代表取締役社長)
東京都出身。米国留学後、エスモードジャポン修了。イベントプロデュース会社のサル・インターナショナルで国内外のショーの演出や音響などに携わる。1989年にジュンに入社。常務を経て、2000年から現職。
目次
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モントークから変わらない外観 目指すはオープンソースなランドマーク
⎯⎯ モントーク閉店前に実施したインタビューでは「閉店後はジュンの店舗を作り直すのではなく、賃貸に出そうと考えている」とおっしゃっていましたね。
そうですね。他社さんに貸し出すことも視野に入れて色々な可能性を探っていました。多くの企業からお声掛けもいただきましたし、進んでいた交渉もあったのですが、両社でWin-Winになるディールに至らない状況が続き…。コロナがひと段落したタイミングも重なって、「やはりこの場所はジュンで使うべきなんじゃないか」と。2022年の年末から流れが変わっていきました。
ジュンでは、(藤原)ヒロシさんと定期的に打ち合わせや意見交換をする機会を設けているので、その場で相談をしたところ、少し悩んでもおられましたが、最終的には「真剣に考えてみようかな」と言っていただいて、ヒロシさんにストアディレクションをお願いすることになりました。
⎯⎯ 自社ビルとはいえ、表参道の一等地に2年9ヶ月間店舗が“放置”されている状態だったので、何か狙いがあるのでは?と思っていました。
貸せば家賃収入だけで数億円になるんですけどね。「あえてのんびりしていた」という感じでしょうか(笑)。
⎯⎯ 他社との交渉の中で、「絶対に譲れなかった条件」とは?
この土地に建つものは、立地的にも原宿のランドマークになるわけですから、賃料だけ払えば何でもいいという考えは絶対にないわけです。仮にグローバルブランドであったとしても、「この場所からどういった東京・原宿のカルチャーを発信していくのか」というヴィジョンをしっかりと持っていただきたいとお伝えしていました。
⎯⎯ V.A.が、モントークの頃とほぼ変わらない外観を維持されていることを受けて、SNSでも喜びの声が上がっていました。
嬉しい限りですね。僕もこの建築は気に入っていたので、残したいと思っていました。それにまだ使えるものを壊して建て替えるという考え方は、環境インパクトも非常に大きいし、コストも高いので、時代背景的にも相応しくないと思うんですよ。なので、既存の建物をうまく使いながら、新しいものにしていくという形を採用しました。
モントークの中2階(2022年撮影)
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◾️V.A.とモントーク
V.A.は、モントークの外装を活かした2階建て構造。1階に物販エリア、中2階に「バットベーカリー(VAT BAKERY)」、2階にカフェを備える。カフェスペースは白の内壁に赤いソファのレトロなデザインが特徴的。中2階の床や中2階への階段などのタイルはモントークのままの状態で残されている。
⎯⎯ では、あまり大掛かりな工事はされていない?
していませんね。実は細かなところを色々と変更しているんですが、変わっていないようにリファインしたくて。建築的なあしらいは荒木(信雄)さんに非常にうまく仕上げていただきました。
⎯⎯ 佐々木さんのお気に入りのポイントを教えてください。
壊してそのままにしている部分と、壊した上にちょっと新しい要素を加えた部分の対比はとても良いと思います。ヨーロッパやアメリカには、古いビルや劇場、薬局なんかをうまく活用している建物がよくあるじゃないですか。でも東京では、お風呂屋さんや古民家はあっても、商業施設などの古いビルをリファインして再利用しているものはなかなか見かけません。そういう意味でも、今までにないものを作ることが出来たなと感じています。
「服を売る隣で、パンが焼ける匂いがするのがいいんだよね」(藤原ヒロシ)
⎯⎯ 物販、カフェ、ベーカリーという3つの軸はどのように決定したのでしょうか?
カフェに関しては、ヒロシさんから「カフェをやるなら宇一さんとがいいよね」と言っていただきました。ベーカリーは、ヒロシさんから「服を売る隣で、パンが焼ける匂いがするのがいいんだよね」というアイデアをいただいて。ヒロシさんとは「ザ・プール青山(the POOL aoyama)」の頃からずっと「実験的な、これまでにない店舗の在り方」を考えてきたので、そういうイメージがあるんじゃないでしょうか。
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◾️ジュンとシナモンロール
ジュンは、1980年代に、毎朝7時15分に開店する“日本一早くオープンするパン屋”「セブンクォーター(715)」を運営。人気メニューのシナモンロールを求めて行列ができたという。店舗は恵比寿にあったが、パンを焼いていたのは表参道だったという。ならば、「ジュンのシナモンロールを、新しく表参道で焼こう」と、中2階のVAT BAKERYでもシナモンロールを取り扱う。シナモンロールはカフェ ド ロペでも取り扱っていたメニューでもある。VAT BAKERYのシナモンロールは「ロール」といえどツイストした生地をバットで焼き、焼き上げた後にカットして提供。一般的なシナモンロールよりもサクサクとした食感が特徴的。
⎯⎯ カフェスペースでは、一部の座席に今年5月に閉店した神田の老舗喫茶店「エース」から引き継いだ家具が設置され、カフェメニューではエースの名物「のりトースト」も提供されています。
ヒロシさんが以前から通っていたお店で、プロジェクトを進めている途中でご紹介いただきました。ヒロシさんが閉店前に訪れた際に交渉してくださり、家具を譲っていただくことになったんです。
リノベーションというのは、壊してみないとわからないことも色々あるので、最初から完成形を定めていたわけではなくて。都度状況を見ながら最善を考えつつ進めていきました。ちなみに、のりトーストはヒロシさんが好きなメニューだそうです。
⎯⎯ 藤原ヒロシさんが手掛けられたコンセプトストアは「プール」「パーキング」「コンビニ」とコンセプトが明確でした。「V.A.(Various Artists)」はコンピレーションアルバムなどで多くの参加アーティストを指す際に使われる言葉ですが、藤原ヒロシさんの音楽への考え方が反映されたストアなのでしょうか?
どういったお店にしていくかは、ヒロシさんや宇一さんと話し合いを重ねましたが、僕としては、ジュンにとっての“ソニービル”のように会社を代表するランドマークにしたいという想いがあるんです。そして、今の時代の企業を代表する場所を作るなら、自社のものだけが置かれている「ショールーム」的なものは違うのではないかと考えています。
そのため、V.A.は今後ポップアップスペースとしての貸し出しも予定していますし、色々な人が“書き込む”ことで場所の価値が上がっていくような、オープンソースプラットフォームを提供する場所でありたい、というお話はさせていただきました。物販、カフェ、ベーカリー以外にも、他社さんとのコラボも含めた色々なことができる場所を目指すのは、ある種「コンピレーション」的でもあるから。ヒロシさんの頭の中の基本構造は、やはり音楽的な要素が大きいので、ヒロシさんの中で「V.A.」というイメージが生まれることは必然だったのかもしれません。
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◾️1階 物販・ポップアップスペースエリア
1階の物販・ポップアップスペースでは、「チャンピオン(Champion)」「エンダースキーマ(Hender Scheme)」「リーバイス(Levi’s®)」「エルエルビーン(L.L.Bean)」「ニューエラ(New Era®)」などとのコラボレーションアイテム、高橋盾、西山徹がV.A.のために製作したアイテムを販売。「アニエスベー(agnès b.)」「オーデパールパリ(Au Départ Paris)」「パックマン(PAC-MAN)」と藤原ヒロシが主宰する「フラグメント(fragment Design)」が共同製作した限定アイテムを多数ラインナップする。
⎯⎯ これまでのコンセプトストアはいずれも短期間で閉鎖してきましたが、V.A.の営業期間についてもお聞かせください。
まだわからないというのが正直なところです。これまでも、入居する施設の都合などがあり、自分たちで「期間限定」と定めて始めたわけではなかったんです。面白いことをやろうと考えて計画して、その潮時がいつなのかは時代と呼吸しながら判断していくことになりますね。
⎯⎯ V.A.の運営に対して、具体的な数値や成果の目標は設定していますか?
当然、収益として成り立たせなくてはいけないのですが、立地としても影響力を持つ場所ですし、色々な人が関わって育てていく場所にしたいので、まずは「街に良い作用を及ぼすこと」が目標です。数値にとらわれず、面白いことをやっていきたいですね。
背景を掘りたくなる場が、未来のカルチャーリーダーを育てる
⎯⎯ 前回のインタビューで、モントークの役割は「東京で一番おもしろい人たちが集まれる場所を作る」ことだとおっしゃっていました。では、V.A.の役割は?
知的好奇心が高い人たちのランドマーク的なハブになること、というのは変わりません。そこにプラスして、V.A.は物販、ベーカリー、カフェでそれぞれ空間のテイストが異なるので、これまで以上に色々な層の方が来てくださるのではと思っています。いい意味で「るつぼ」のような状態になればいいですね。
⎯⎯ モントークは「先輩に連れて行ってもらわないと入りにくい」ようなクローズドな空気感も支持されていたかと思いますが、V.A.は「オープン」なイメージですか?
「色々なタイプの方に向けた」という意味では、モントーク以上に間口が広がったのではないかと思います。今は、海外からのお客様が非常に多いですから、東京を代表するような、「東京旅行するならV.A.に立ち寄りたい」と思ってもらえるような場所にしていきたいですね。
⎯⎯ モントークの内装はシックなイメージでしたが、V.A.のカフェスペースは一転かなりレトロモダンで可愛らしい印象です。
ここは宇一さんがこだわられていたポイントで、「デコラティブな純喫茶」のようなレトロ感がある内装にしました。若い女性も気に入ってくれそうな空間になったと思うので、今から色々な方に来ていただけるのではないかと楽しみにしています。
⎯⎯ ジュンのコーポレートスローガンである「YOU ARE CULTURE.」というメッセージには、消費者に対しても「カルチャーの重要性を意識し、探究する精神を持って欲しい」という願いが込められています。V.A.を訪れる様々な顧客たちに対して、期待するものを教えてください。
カルチャーやアーティスト、食べ物もそうですが、全てに好奇心を持って「掘って」いってほしいです。誰かがSNSに載せていたから、みんなが行ってる場所だから、ではなくて。その背景にはどういったものがあるから今がある、ということを知ったり、どういった時代に生まれたものがどのように形を変えて、今再提案されているのかを考えたり。V.A.は、そういったナレッジを探究していくきっかけを作る場にしていきたい。好奇心を持って掘ることを実践していくと、僕個人もカルチャーの発信者として深まっていく気がします。それを実感していただける場になれば嬉しいですね。
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