「少しウフフとなる表現を心がけています」――そう謳うのは今話題のイラストレーター unpis(ウンピス)。情報量が極力削ぎ落とされたニュートラルな線とかたちが特徴的な作品は、次第に鑑賞者独自の解釈が浮かび上がってくる。IKEA渋谷のオープニングヴィジュアルや、ルミネカードの訴求イラストなど、誰しもが1度は作品を見たことがあるのではないだろうか。ウンピスは「『描いている人の名前は知らないけど、なんとなくこの絵いいな』と思って欲しい」とし「自分の名前が知られなくてもいい」と話す。そこにはデザインを学んできたイラストレーターとしての考えがあった。
unpis
福島県生まれ。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業後、都内のデザイン事務所、岐阜県のメーカー勤務を経て2020年よりフリーランスのイラストレーターとして活動。ニュートラルな線とかたち、少しウフフとなる表現を心がけている。
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作品のモチーフは日常の中で見つける「少しおかしな状況」
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ーまずは、「ウンピス(unpis)」という少し変わった名前の由来について教えてください。
由来は本当にしょうもないんですよ。カルピスのコピーライティング「カラダにピース」の語感をもじりました。何にピースをしているのかは内緒なんですけど、こっそり教えますね(笑)。
〜こっそり名前の由来を聞く〜
ー「少しウフフとなる表現」をコンセプトに制作されているとのことですが、名前の由来でも“ウフフ“となりました(笑)。
そう言ってもらえてよかったです(笑)!元々、個人活動として名乗ろうと思っていた名前では無くて。大学時代に友人と2人でゆるいユニットを組んでいた時に名乗っていた名前なんです。まさかこんなに色々な人に知っていただけるような名前になるとは思ってもなかったので、嬉しいやら恥ずかしいやらです。「少しウフフとなる表現」というのは、なんとなく引っ掛かりがあるようなことを表したいという気持ちで謳っています。
ー「なんとなく引っ掛かりがあるようなこと」とは?
「この状況なのに、なぜこんなものが此処に?」というような、少しだけおかしな状況を描くことを意識しているんです。例えば「人がパンツ姿で佇んでいる姿」は、生活をしていれば誰しもが毎日その格好になる瞬間はあります。でも冷静になって考えてみると少しだけ滑稽で、面白い姿だよな、と。そういう瞬間を切り取ることで「ウフフ」となって欲しいと思っています。
ーなるほど。「少しだけおかしな状況」は、実際に目にしたシーンを思い出して描くことが多いですか?
ベースは実際に見たものが多いです。でも描いているのは想像です。木にタオルが引っかかっている状況を見たとき「木の緑色と、タオルの白色のコントラストがおもしろいな」「というか、なんで木にタオルが絡まっているんだ」と、状況に対してツッコミを入れると思うんです。思わずツッコミを入れてしまったその状況を見たままにただ描くのではなく、木を人間に見立てて「頭にタオルが絡まっている人」を描く、というようなことをしています。
ーユニークな状況を抜き出した上で、「ウフフ」なモチーフに変換するんですね。
段差の上で人がウニョウニョになってしまっているこの作品も、階段で影がギザギザになっているのが面白く感じて描きました。階段は日陰と日向で色が異なっていて「見方によってはボーダーにみえるな」と思ったんです。そんなふうに単純な視覚情報からもヒントを得て描いていますね。
ーunpisさんが描く人物の特徴として、丸い目が特徴的だと思います。
最初は「U」みたいな目を描いていたんです。その目が笑っている感情を表現しているのか、瞳の輪郭なのかを曖昧にすることを意識していていて。その「曖昧さ」を楽しんでいたら、だんだん丸い目になってきました。
ー人物イラストを描く上で意識していることはありますか?
目の表現で最初から意識していたのは「漫画っぽくしたくないな」ということ。漫画にしたくないというのは技術的な部分ですが、「あまり感情を表現する目にはしたくないな」という気持ちもありました。描く上での意図というよりは、自分自身の性格の問題かもしれませんね。
ーウンピスさんの作品は、情報量が少なく描かれている人の表情だけでは嬉しいのか、悲しいのかもすぐには判断できません。情報が少ない分、鑑賞者に受け止め方が委ねられているのが素敵だなと思いました。
意図的に余白を持たせているので、そう感じてもらえて嬉しいです。人の感情を表現する時に思ったのは「表情ではなく置かれている状況で表現したいな」ということ。ぱっと見笑顔だから「楽しそう」ではなく、「体を揺らしているから楽しそう」というように、表情以外で表現したい。
描く感情はポジティブなものだけではなく、どちらかというと怒りや孤独感を描くことも多いです。一見ネガティブに見えるテーマに対して、ちょっと笑えたり、ほころんだりできるようなユーモアを混ぜ込むことで、絵としてはネガティブな印象を与えないように意識しています。それを「少しウフフとなる表現」と言い換えているんですよね。
"ウニョウニョ”曲線は何を用いて描かれているのか?
ーインスタグラムを遡ると、作風の変遷が辿れて興味深いです。
最初は試行錯誤というか。画材も何が良いのかなと思いながら、片っ端から試していました。ペンも色々買いましたね。
ー試行錯誤の結果、辿り着いた画材は?
ポスカ(POSCA)です。とてもめんどくさがり屋で、細かく描くのが苦手なんです。ポスカは元々の線が太いのでどうしても描く情報を省く必要があり、性格にも合っていたし描きやすかったんですよね。
ー画材選びが作風にも繋がっていたんですね。
インクが潤沢に出るので、他のマーカーより滑らかな線が描きやすいんです。均一な線で、滲みも擦れもないというのが自分の中でしっくりきました。その流れで、デジタルで描く時もポスカみたいな中太線を用いています。
ー今もポスカを用いて制作していますか?
お仕事はデジタル制作、展示はアナログ制作をと分けていて。アナログ制作の時は、実線の部分はポスカを使って、色を塗る時にアクリル絵の具を用いています。最初の個展ではポスカと筆が混在していましたが、筆だと太さのムラが出てしまって難しかったので実線は全てポスカで描いています。
ウンピスが「生活用品」を描き続ける理由
ーイラストレーターとして活動を始めたのはいつからですか?
去年フリーランスとしての活動を始めたばかりです。都内の美大を卒業した後、東京のデザイン事務所に入社したんですが「もう少しゆるい働き方をしたいな」と思って1年程で辞めました。もっと日用品や生活用品に携わりたいということで日用品メーカーに転職し、3年半勤務したあと退職。その後イラストレーターとして活動をはじめました。
ーunpisさんは、コップなど生活用品をモチーフにした作品を数多く発表しています。なぜ「日用品」に惹かれるんでしょうか?
元々あるものの良さに気がつく、というか。普段生活している中からヒントを得て制作することが多いんです。例えば「光を受けて反射しているコップの水面」「西日で異様に長くなった影」「海のようにみえるゴミ収集用の網」とか。そういう、見慣れ過ぎてなんとも思っていないところに注目したいな、と。自分が日常の中にある綺麗なものを拾い上げて絵にすることで、絵を見た人が、見慣れたはずの生活に新しい視点を持って面白がってくれたら、こんなに嬉しいことはありません。
■ウンピスが普段から撮り溜めているという写真
今回初めて出した作品集を「DISCOVER」という名前にしたのも、知識や経験の"カバー(COVER)"を取り去ってみる事(DIS)で、そのもの自体の美しさや面白さを発見する(DISCOVER)という意味で付けました。ちょっと脱線しますが「DISCOVER」は、 覆いを取り去る、発見するというダブルミーニングに加えて、「カバーを外す」という仕掛けもあって……。表紙のカバーを外すと「COVER」の文字だけが残るんですよ(笑)。本という立体じゃないと出来ない仕掛けだな、と思っています。
ー昨今、線が印象的なイラストや、日用品をモチーフにしたイラストなどが流行っている様に感じます。ウンピスさんはその中で、自分らしい作風というのはどんなところにあると考えていますか?
それは結構難しい話ですね。ものをシンプルに描こうとすると、誰が描いても同じになりやすい。例えば、コップは楕円があってその間を線でつなぐ方法が一番シンプルです。自分は突飛な形のコップを描きたいわけではありませんが、スタンダードなコップを描くと他との差別化がどんどん難しくなる。だから造形の方法ではなく「どういう意図で描いたのか」という思考のプロセスで差をつけていくしかないのかな、と思っています。
ー「思考のプロセス」というのは具体的に?
造形に辿り着くまでのプロセス、というよりかは「どういう状況にコップを置くのか」というのがポイントかな、と。同じスタンダードなコップを描くにしても、コップに反射している自分を描く人はあまりいないかもしれないじゃないですか。
ー逆に造形的な部分でこだわっている部分はありますか?
見ていて1番気持ちが良いバランス感と線の流れですかね。コップも、1番見ていて自然な高さや細さ、楕円の幅を意識していたりします。りんごを描くにしても「どの曲線が1番見ていて心地が良く、且つりんごとわかる曲線だろうか」と考えます。1本、1本の線に対して、突き詰めている意識はありますね。
見る人の気持ちを考える、デザイナーのようなイラストレーターとして
ーウンピスさんは、平面作品だけではなく立体作品も発表しています。
生活の中にかなり食い込むというか、立体作品は用途を持たせることができることもあって、生活に馴染みやすい気がするんです。自分の手で触ることはもちろん、自宅の棚の上に置くことだってできるし、その隣に自分の好きな何かを置くことだってできる。そこに魅力を感じます。「持った人がどういう風に使うのかな?」という意識が平面より働く気がするんですよね。
ー 一般的によく言われている「デザインの考え方:使う人のことを想像して作る」というのが、作品を制作する上でも活かされているのは、デザインの勉強をしてきたウンピスさんならではだな、と思いました。
デザイン的な考えは活きているかもしれないですね。「見る人がどう思うか」というのもあるし、自分の作品が「最終的にどういう媒体になるのか」ということにとても興味があります。自分の作品が、本になるのとポスターになるのとでは描く絵も変わります。例えば、ポスターはまじまじと見ることよりも、通り過ぎる機会の方が多いと思うので、パッと目に入る機能が必要です。本は立体物でもあるので、表・裏・側面を使った仕掛けが考えられそうですよね。そういう「この媒体にしかできない表現」と「それによって得られる体験」というのはすごく大事に考えています。
ーイラストレーターや画家、アーティストなど、肩書にはたくさんの種類がありますがウンピスさんはご自身の職業は何だと思っていますか?
あまり肩書に縛られたくないなと思いつつ、「イラストレーター」に軸足を置いておきたいという気持ちがあります。アーティストとイラストレーター、違いが明確に定義されているわけではないので個人的な意見になってしまうのですが、イラストレーションというのはクライアントがいて、見て欲しいターゲットがいる「商業のもの」だと思っています。逆にアートは作り手自身が発信していくもの。自分の絵の扱いとして、どちらかといえば大衆に向けられたものとして商業的に使ってもらって構わないという気持ちがあるんですよね。
極端にいうと、自分の名前が知られなくてもいいと思っています。「この絵を描いている人の名前は知らないけど、なんとなくこの絵いいなぁ」「癒されるなあ」「面白いなあ」と思ってもらえたら本望なんです。
ー最後にこれからの展望を教えてください。
今思えば、絵が好きならSNSに掲載してみれば?と友人に言われたことがきっかけでした。そこから数年で、ありがたいことに様々な人に知ってもらえる機会に恵まれました。ただ、ここに至るまでのスピード感が凄まじくて正直自分でも不安を感じています。知名度にそぐえるほど経験を積んでいないと思っていますし。ただ作品を良いと言ってくれる人のためにも、見る人の気持ちを考えるデザイナーのようなイラストレーターとして、今後も変わらず長く続けていけたらと考えています。
(聞き手:古堅明日香)
■「DISCOVER」出版記念展
東京会場
会場:ギャラリールモンド
住所:東京都渋谷区神宮前6丁目32−5−201
会期:2021年11月16日(火)〜11月21日(日)
営業時間:火曜日・土曜日 12:00〜20:00、日曜日 12:00〜17:00
大阪会場
会場:POL
住所:大阪府大阪市中央区谷町6-18-29 2F
第1会期:2021年12月17日(金)〜2021年12月26日(日)※ 12月22日、23日は休廊日
第2会期:2022年1月7日(金)〜2022年1月10日(月・祝0
営業時間:平日 15:00〜21:00、土日祝日 12:00〜19:00
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