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トモ コイズミ「得意なものを一つ手にして」 フリルドレスが紡いだ10年

小泉智貴

Video by: FASHIONSNAP

 鮮やかな色使いと圧倒的な存在感で魅了するフリルドレスの数々——手掛けているのは「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」のデザイナー小泉智貴(こいずみ ともたか)。14歳の頃にジョン・ガリアーノ(John Galliano)が作るドレスに憧れて独学で服作りを習得し、衣装制作などの仕事を得てキャリアを積んできた。SNSを通じて著名スタイリストの目に留まり、ニューヨークコレクションの大舞台に立ったのが2019年。その1日で人生がガラリと変わったという。自らの歴史を「ラッキーだった」と穏やかな表情で振り返る、トモ コイズミの10年。

小泉智貴 / TOMO KOIZUMI デザイナー
1988年生まれ。2011年、千葉大学在学中に自身のブランドを立ち上げる。2019年、初となるファッションショーをニューヨークで開催。同年、毎日ファッション大賞 選考委員特別賞受賞、BoF500選出。2020年、LVMH プライズ優勝者の1人に選ばれる。2021年、東京オリンピック開会式にて国歌斉唱の衣装を担当。

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五輪を彩った30色のドレス

先日の東京2020オリンピック開会式、国歌斉唱をトモ コイズミのフリルドレスが飾りました。

 気付いてくれた人が多かったみたいで、MISIAさんが登場された瞬間からスマホが鳴り止まなくて(笑)。

話題になりましたね。オファーは2ヶ月ほど前だったとか。

 はい。それからご本人やスタイリストさんなどと話し合って、デザインを決めていきました。世界中の違った考えや言語の方々の目に触れるので、一目見て純粋に美しいと感じるものを作りたくて「ピュアな美しさ」を目指しました。それとフォーマルな場ということで、シルエットはクラシックに。

プリンセスラインのボリュームとグラデーションカラーが舞台に映えていました。

 フリルに使ったオーガンジーは全部で100m(2反)くらい。1着の中に30色を組み合わせていて、これまで制作したドレスの中でも色数は最多だと思います。

MISIAのドレス制作の様子。臨時スタッフを集め、急ピッチで進められた。

Image by: TOMO KOIZUMI

はじめから量産には興味がなかった

誰が作ったのか一目でわかるという強みが今のトモ コイズミにあります。立ち上げから今年で10周年になりますが、振り返ってみていかがですか?

 あまり10周年という意識は自分の中にはないですね。衣装から始めて、売るものはあまり作ってこなかったので。コレクションとして制作したものをショーで発表したのも最近ですから。

主なデザイナーズブランドは売り上げを伸ばしていくこと=成長なので、それらとは異なりますね。大学の専攻は美術教育で、服作りについては独学とか。

 はい。本で学んだり、服飾の専門学校に行っている友達やデザイナーをやっている方にわからないことを聞いたり。それから大学の時に北村道子さん(スタイリスト)の仕事を少しだけお手伝いすることがあったんですが、「これを研究したら」って、道子さんがその頃好きだったトム・フォードの「グッチ(GUCCI)」とかサンプルのドレスを譲ってくれたんです。色々な話をしたことも勉強になりましたね。

将来の道を決めたのも大学の在学中とのことですが、企業への就職などは考えませんでしたか?

 就活サイトに登録などはしていたんですが、リーマンショック後に日本の経済が影響を受けて倒産する会社が多かったり不況に陥ってるのを見ていて、安全というものはないんだなと感じて。同じリスクなら自分のやりたいことでリスクを取る方が納得できるなと考えて就活はやめて、卒業後はスタイリストアシスタントとしてやっていけたらと考えていたんです。

でも大学4年の2011年6月、自身でブランドを立ち上げることに。

 よく自分で服を作って人に見せたり、友達にその服を着せてクラブとかに行っていたんですが、ある時その友達がスナップされて雑誌に載りました。すると「ザナドゥ トウキョウ」(東京・原宿のセレクトショップ)の方が雑誌を見て連絡をくれて、作った服をお店に置いてもらえることになって。それをきっかけにブランド名やロゴを決めて、公式サイトを立ち上げて、というのが始まりですね。

その頃は主にどんなデザインでしたか?

 雑誌に載ったのはカラーブロックにパイソン柄を組み合わせた服で、割とボディコンシャスなデザインでした。

今の作風と違ってタイトなシルエットだったんですね。

 ジョン・ガリアーノが作る「ディオール(DIOR)」のクチュールドレスに憧れていたので大きなドレスが好きだったんですが、当初は作れるデザインが限られていていたので。自分の技術と予算の範囲で制作できる一番いいもの、かつアピールできるものを作っていました。

ショップでの販売は順調でしたか?

 作れる数も限られていたんですが、もう一店舗、高円寺の「ガーター(GARTER)」にも服を置かせてもらうことになって。その頃、YOON(AMBUSH®のデザイナー)さんが買ってくれたみたいなんです。最近になって「まだ持ってる」と教えてくれて、嬉しかったですね。

当時のブランドの理想像は?

 今やらせてもらっていることに近いのかなという感じはします。自分の作りたいものを作って、国内外の着たいと思ってくれる人に着てもらう。大量に生産して売る、みたいなことには当初から興味はなくて。

トモ コイズミ 初期の作品

Image by: TOMO KOIZUMI

後にレディー・ガガが着用したドレス

Image by: TOMO KOIZUMI

Image by: TOMO KOIZUMI

同じ年に東日本大震災などもありましたが、将来に対して不安に思うことはありませんでしたか?

 僕はあまりなかったですね。1ヶ月とか仕事がない時もあったり波もありましたけど、そんなには焦らず。もともと0からのスタートだったので、ダメもと的な感覚だったんだと思います。

Perfumeやドリカム...舞い込むオファー

衣装制作も並行して続けていたんでしょうか。

 現場で勉強になることが多いので呼ばれたらアシスタントとしてお手伝いすることもありましたし、徐々に自分で制作することが増えていきました。ザナドゥ トウキョウ経由でスタイリストさんから声を掛けていただいて、Perfumeのツアー衣装を作った時は、まだ大学在学中だったと思います。

黒木メイサさん、加藤ミリヤさん、YUKIさん、ドリカムの吉田美和さんといったステージ衣装も手掛けていますが、これらの仕事も人からの紹介で?

 最初はそうでしたが、だんだんとSNSを通じて直接オファーが来るようになりました。例えば好きなスタイリストさんとインスタで繋がっていて、その人が探しているイメージと自分の作っているものが一致したときに声が掛かるとか。良いものってみんな常に探しているから、それを持っていれば繋がる時代なんじゃないかなと思います。

レディー・ガガ(Lady GaGa)さんが2016年に来日した時、トモ コイズミを着用して現れましたね。

 あれはびっくり。2016年の初めにコレクション作品として作ったヌードカラーがベースのシリーズで、それらを何着かガガさんサイドに預けていたんですが、実際に着てもらえるかはわからなかったので。世界的な著名人が着用してくれたのは初めてでした。そのドレスは今も実家に置いてあります(笑)。

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